向日葵を目じるしに

jloo(ジロー)

向日葵をめじるしに(脚本)

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〇草原
  向日葵の咲く丘で、強い日差しに当てられながら私はぐいっと水を飲んだ。
  まさに夏真っ盛りといった気候の中、遊び回る少年たちを微笑ましく眺める。
  私たちは、この向日葵の丘で偶然出会った。
  高校生にもなって小学生と遊ぶのもどうかと思うが、私の頭脳レベルでは彼らぐらいが丁度良い。
向田茉莉「こら。少年たち! 水分補給しないと、また昨日みたいに倒れるよ!」
風原仁一朗「はーい。全く、茉莉姉ちゃんは心配性だな」
  そう返事をした少年たちが、ごくごくと喉を鳴らして水を飲む。
  この暑い中、よくもまあ元気に走り回れるものだ。
風原仁一朗「あのさ、茉莉姉ちゃんは進路どうするの?」
  私たちの昨今の話題は、夢という言葉に集約されていた。
  高校卒業を間近に控えた私も、いよいよ進路について真剣に考えなければならない時期に差し掛かっていたのだ。
向田茉莉「聞いて驚くなよ。少年諸君、私は天文学者となるのだ!」
道岡俊「はぁ? 何それ?」
向田茉莉「あれ、意外だった? ほら、空って色んなものを隠しているでしょ」
向田茉莉「大気圏を抜けた先の、そのまた向こう。宇宙にはまだまだ知らないことがたくさんあるんだよ」
風原仁一朗「茉莉姉ちゃんは、地上でも知らないことだらけだろう。頭、悪いんだから」
向田茉莉「こらっ、少年。私の夢を馬鹿にするんじゃないぞ! じゃあ、お前らは何になりたいんだ?」
風原仁一朗「俺は、警察官。正義のために戦うぜ」
向田茉莉「へぇー。ヒーロー好きだもんね、あんた。じゃあ、俊は?」
道岡俊「僕は・・・・・・科学者かな」
向田茉莉「科学者って、具体的には?」
道岡俊「まだ分からないけど。何か大きな発見をして、世の中のためになるようなことをしたいんだ」
向田茉莉「ふーん。大きく出たわねぇ・・・・・・ふむふむ」
風原仁一朗「でも、俊らしい気がする。よし、俺が応援してやるぜ」
向田茉莉「応援って、何する気よ?」
風原仁一朗「ファイト~ファイト~俊! 俺たち頭悪いけど、頑張れ!」
  不思議な踊りを始めた仁一朗の姿を見て、思わず吹き出してしまう。
風原仁一朗「な、笑うなよ。こっちは、真剣なんだぞ!」
向田茉莉「悪い、悪い。でも、何だかんだみんな夢があるんだなぁ・・・・・・何にも、考えていないのかと思ってた」
風原仁一朗「へ、男に二言はねぇ。言ったからには、必ず叶えるぜ」
道岡俊「僕も、叶えてみせるよ」
向田茉莉「言ったな。じゃあ、針千本の約束も出来るな?」
風原仁一朗「げ、俺あれ苦手なんだよ。針千本も飲んだら、死んじまうよ」
向田茉莉「夢を叶えれば、問題ないのさ。それとも、自信が無いの?」
風原仁一朗「んな、わけねぇだろ。ささっと指切りするぞ。俊も、こっち来い」
道岡俊「うん」
  三人で輪になり、小指を出す。
  こうして、指きりげんまんをするのも久しぶりかもしれない。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」

〇化学研究室
  あれから私はそれなりに勉強して、大学へと進学した。
  天文学者になるためには専門的な知識を学ぶ必要があると思い、理学部を選んだのだ。
  そして要領だけは良い私は、無事希望通りの研究室に入ることが出来た。
  だけど。まさか、こんなことになるなんて。
「電波望遠鏡で宇宙からの信号を多数、確認しました」
「緊急連絡です。謎の飛行物体が日本上空に現れました。繰り返します」
  どうしてこうなった。
  遊びのつもりで、宇宙に送ってみた電波信号。その返信が、まさか返って来るなんて。

〇荒廃した街
  施設から出た私の目に映ったのは、想像以上の惨劇だった。
  上空には、UFOらしきものが多数飛んでいる。
  そこから、宇宙人と思われる生命体が次々と降りてきて街を破壊し始めたのだ。
  非現実的な光景に、私はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
風原仁一朗「茉莉姉さんじゃねぇか。まだ、避難していなかったのか」
向田茉莉「君は、仁一朗じゃないか。何しているの?」
風原仁一朗「住民の、避難誘導だ。俺は、警察官だからな」
向田茉莉「そっか、確かにそうだ」
風原仁一朗「それより茉莉姉さん、さっき俊から連絡があった」
風原仁一朗「姉さんを見かけたら、自分のところまで連れてくるようにって言われたんだ」
向田茉莉「こんな時に、一体何の用だろうね」
風原仁一朗「あの、俊のことだ。こんな時だからこそ、話したいことがあるんじゃねぇか?」
風原仁一朗「とりあえず俺が護衛するから、俊の研究所に向かおうぜ」
  そう言うと、仁一朗は無線機で他の警官隊に連絡を入れた。
  それから私を守るようにして、前を歩き始める。

〇研究所の中
  俊の研究所は、すぐ近くにあった。それほど歩くことも無く、辿り着く。
道岡俊「茉莉姉さん、久しぶり」
向田茉莉「おぉ、俊。本当に久しぶりだね。それより、この機械は?」
道岡俊「タイムマシン」
向田茉莉「タイムマシン!? そんなものを、作っていたのか」
道岡俊「まだ試作段階だけど。これを使えば、過去に行くことが出来る」
向田茉莉「未来には?」
道岡俊「未来は、まだ確定していないからね。でも、今は過去に行ける。それで十分だよ」
風原仁一朗「おい、俊。これを使えば、宇宙生命体が地球にやって来る前に戻ってやり直せるんじゃないか?」
道岡俊「仁一朗の言う通りだ。だが、このタイムマシンは一人用。それに、一分程度しか過去に戻ることは出来ないんだ」
風原仁一朗「それは、大変だな。よく、考えて使わないといけないってことか」
向田茉莉「あの・・・・・・ちょっと、良いかな?」
道岡俊「何、茉莉姉さん」
向田茉莉「今起こっていることって、私が宇宙に電波を送ったから始まったことなんだよね」
風原仁一朗「な、茉莉姉さんの仕業だったのか!? おい、どうしてくれるんだよ」
道岡俊「いや、それならまだ解決策はある。茉莉姉さんが電波を送ることを阻止すれば、未来を変えることが出来るということだから」
向田茉莉「それって・・・・・・」
道岡俊「天文学者になろうと、決めた時。向日葵の丘での約束だ」
道岡俊「どうせ茉莉姉さんのことだから、あの時思いつきで夢を決めたんだろう?」
向田茉莉「う、ばれてる・・・・・・」
道岡俊「それなら、その夢を変えれば良い。あの瞬間に戻って、別の夢を語れば良いんだ」
風原仁一朗「それで、全部上手くいくんだな。それじゃあ、早くやろうぜ!」
道岡俊「茉莉姉さんも、それで良い?」
向田茉莉「うん、良いよ」
  私の返事を聞いた俊は、早速準備を始める。仁一朗は、外で警戒に当たってくれるようだ。
道岡俊「さあ、この機械に乗って」
向田茉莉「分かった」

〇黒背景
  私は、タイムマシンに乗り込んだ。いざとなって、少し緊張してくる。
「じゃあ、行くよ」

〇草原
  視界が暗転し、次の瞬間には見覚えのある場所にいた。
  向日葵の丘。あの日に、戻ってきたのだ。
風原仁一朗「あのさ、茉莉姉ちゃんは進路どうするの?」
  聞いたことのある質問。私は、この後天文学者になる夢を語るのだ。
  だけど、今回は違う。別の夢を考えて、二人に語る。
向田茉莉「普通に、OLとかで良いかな~。やっぱり安定した職業が良いよねぇ」
風原仁一朗「えぇー! 茉莉姉ちゃん、つまらないぜ。もっと、何か面白い夢はないのか?」
向田茉莉「無い!」
風原仁一朗「そうなんだ。じゃあ、俺もOLで良いかな・・・・・・」
向田茉莉「仁一朗。OLって言うのは、女性の仕事であって男性には無理なのだぞ」
風原仁一朗「え、そうなの?」
向田茉莉「そうだよ。だから諦めて、警察官を目指しなさい」
風原仁一朗「え! 茉莉姉ちゃん、何で俺の夢を知っているの!?」
向田茉莉「俊は、科学者かな。何か、それっぽいし」
道岡俊「そうだね、それが良いかもしれない」
  二人は、納得がいったように頷き合う。これで、良い。
  私が過去で成すべきことは、全部終わったはずだ。
向田茉莉「ぐっ・・・・・・」
風原仁一朗「茉莉姉ちゃん、突然どうしたの!?」
  頭が、痛みだす。そうか。これがタイムリミットか。
  私は、これからどこに行くんだろうか。また、宇宙生命体のいる未来に戻されるのだろうか。それとも・・・・・・。
  視界が暗くなり、意識が遠退く。私は、そのまま気を失ってしまった。

〇事務所
向田茉莉「おはようございます!」
  私は、都内のオカルト情報誌の編集者として働いている。
  何気ない日常が、愛おしい。
  宇宙生命体が襲来してくるとか、大怪獣が押し寄せてくるだとか。
  そんな非日常的なことが起こらない、平和な世界。私は、この世界が好きだ。
向田茉莉「でも、ちょっとくらい刺激があっても良いのにな」
  そんなことを考えながら仕事をしていると、後ろから上司の怒鳴り声が響いてくる。
「こら。茉莉君、この書類は何だ!」
「大怪獣発見プロジェクト・・・・・・? 聞いていないぞ、こんなものは!」
向田茉莉「ははは、すみません」
  何気ない日常が、過ぎていく。それが一番幸せなことなのかもしれない。
  今日も私は、元気に生きています。

コメント

  • Jilooさんは本作品やロストメモリーズなど、SFとヒューマニティを結びつけて描く作風がお得意だなと思います。過去に戻って自分の夢を修正するという行為は切なかった。最後に編集者になった茉莉が平穏な日常が一番いいと呟くシーンは説得力がありますね。

  • まさかの宇宙人襲来とは、驚きでした。これぞSFという展開に引き込まれてしまいました。ラストは……大怪獣襲来フラグですか?笑

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