〇海沿いの街
影力　響(えいりき　ひびき)「・・・」
影力　響(えいりき　ひびき)「この辺でいいかしらね」
影力　響(えいりき　ひびき)「よし」
影力　響(えいりき　ひびき)「で、早速アップ・・・と」
影力　響(えいりき　ひびき)「今度こそバズるはず・・・」
影力　響(えいりき　ひびき)「そろそろ帰りのバスの時間だわ」
影力　響(えいりき　ひびき)「行かないと」
　　・・・
　　なっちゃいねぇな
　　地撮り地蔵

〇マンション前の大通り

〇綺麗な部屋
影力　響(えいりき　ひびき)「今日の写真の投稿伸びてるかなぁ」
影力　響(えいりき　ひびき)「わざわざ高知県まで行って来たんだからね」
影力　響(えいりき　ひびき)「めっちゃバズってたらどうしよう」
　　インプレッション　325
影力　響(えいりき　ひびき)「ぜ・・・」
影力　響(えいりき　ひびき)「全然ダメ・・・」
影力　響(えいりき　ひびき)「こんなんじゃ・・・」
影力　響(えいりき　ひびき)「インフルエンサーなんて夢のまた夢だよ・・・」
　　ああ、あんたの言うとおりだ
影力　響(えいりき　ひびき)「な、なに!?」
　　このまま漫然と続けていたらだけどな
　　あんた化けるよ
撮影地蔵「このオレ・・・」
撮影地蔵「”撮影地蔵”の手にかかればな」
影力　響(えいりき　ひびき)「ひっ!!地蔵!?」
影力　響(えいりき　ひびき)「なんで地蔵が家に!?」
撮影地蔵「あんた高知で写真撮ってたろ」
影力　響(えいりき　ひびき)「え、ええ」
撮影地蔵「その写真をよく見てみな」
影力　響(えいりき　ひびき)「えっ・・はぁ・・」
影力　響(えいりき　ひびき)「あっ」
影力　響(えいりき　ひびき)「こんなとこに写り込んでる」
影力　響(えいりき　ひびき)「え、あなたこの地蔵なの!?」
撮影地蔵「そうだぜ」
影力　響(えいりき　ひびき)（なんでこんなとこに地蔵が・・・）
影力　響(えいりき　ひびき)（地中海風の風光明媚さがウリなのに）
影力　響(えいりき　ひびき)（てか）
影力　響(えいりき　ひびき)「それがホントなら、あなたわざわざ高知からここまで来たってこと!?」
影力　響(えいりき　ひびき)「なんのために」
撮影地蔵「・・・勿体無いと思ってよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「勿体無い？」
撮影地蔵「アンタべっぴんさんなのに」
影力　響(えいりき　ひびき)「ちょっとべっぴんさんって・・・」
撮影地蔵「撮影センスが壊滅的に無いからよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「は!?」
撮影地蔵「だってそうだろ？ せっかく地中海風の風光明媚さがウリの観光地に来てんのに」
撮影地蔵「迂闊にも地蔵の写り込みに気付かず撮っちまう」
撮影地蔵「さらに確認せずアップしちまう」
影力　響(えいりき　ひびき)「ぐっ」
撮影地蔵「ま、お世辞にもプロとは言えねぇな」
撮影地蔵「インフルエンサーと呼ばれるやつらはそもそも地蔵なんか写さねぇし」
撮影地蔵「写ったとしても消してからアップするぜ」
影力　響(えいりき　ひびき)（それ自分で言うの!?）
撮影地蔵「だからオレが来たんだ この撮影地蔵がな」
撮影地蔵「あんたを、景色を、アングルを、」
撮影地蔵「”ベスト”で撮ってやるよ!!」
影力　響(えいりき　ひびき)「な、なにそれ」
影力　響(えいりき　ひびき)「そんなの余計なお世・・・」
影力　響(えいりき　ひびき)（でも・・・悔しいけどこの地蔵の言うとおりかも）
影力　響(えいりき　ひびき)（自撮りだけじゃ限界だし）
影力　響(えいりき　ひびき)（ちょっとまかせてみよっか）
影力　響(えいりき　ひびき)「じゃあ、とりあえず一回だけお願いしてみようかな」
撮影地蔵「おう!!まかせな!!」
撮影地蔵「じゃ、早速行くぜ」
影力　響(えいりき　ひびき)「今から!?」

〇川沿いの公園
影力　響(えいりき　ひびき)「こんなただの公園で撮ってもバズるわけないじゃん」
撮影地蔵「ま、騙されたと思ってあんたは最高の笑顔を作ることだけに集中しな」
影力　響(えいりき　ひびき)「・・・わかったわよ」
撮影地蔵「よし、いい表情だ」
影力　響(えいりき　ひびき)「ちょっと写真見せて」
影力　響(えいりき　ひびき)（たしかにすごくよく撮れてて自撮りでは出来ない構図だけど）
影力　響(えいりき　ひびき)（これがそんなに伸びるの・・・？）
影力　響(えいりき　ひびき)「ま、とりあえずアップして」
撮影地蔵「明日が楽しみだな」
影力　響(えいりき　ひびき)「ところであなた今後どこで過ごすつもりなの？」
撮影地蔵「オレは地蔵だからな このへんで突っ立ってるぜ」
影力　響(えいりき　ひびき)「やめてよ目立つから」
影力　響(えいりき　ひびき)「家においでよ」
撮影地蔵「いいのか？」
影力　響(えいりき　ひびき)「お風呂とか覗かなければね」
撮影地蔵「オレが覗くのはファインダーだけさ」

〇マンション前の大通り

〇綺麗な部屋
影力　響(えいりき　ひびき)「なにぃ、もう、うるさいなぁ」
　　インプレッション　７,528,859
影力　響(えいりき　ひびき)「めっちゃバズってんじゃん」
影力　響(えいりき　ひびき)「コメントとか来てるし!!こんなの初めて!!」
　　すっごい美人!!いい栄養もらいました!!
　　笑顔の下に憂いを隠し、弱みを見せず強く生きる覚悟を感じました。
　　エロい
影力　響(えいりき　ひびき)「なんか好き勝手言ってるし」
撮影地蔵「バズるってのはそういうもんだ」
影力　響(えいりき　ひびき)「撮影地蔵!?」
撮影地蔵「いい被写体、いいロケーションで、いい写真さえ撮っちまえば」
撮影地蔵「見るやつらは勝手に解釈して拡散するってもんよ」
影力　響(えいりき　ひびき)（す、すごい これが撮影地蔵の力）
影力　響(えいりき　ひびき)（私の”自撮り”とは全然違う）
撮影地蔵「とりあえず一回って話だったが、どうだ？」
撮影地蔵「あんたさえ良ければオレは撮影に付き合うぜ」
撮影地蔵「撮影がオレの存在意義だからよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「も、もちろん」
影力　響(えいりき　ひびき)「もちろんお願いするわ」
影力　響(えいりき　ひびき)「人に撮ってもらえるってだけでこんなに変わるなんて!!」
撮影地蔵「オレは地蔵だがな」
影力　響(えいりき　ひびき)「そうね、よろしく」
影力　響(えいりき　ひびき)「期待してるわ、撮影地蔵の”地撮り”に」
撮影地蔵「はっ、地蔵の撮影だから”地撮り”ってか」
撮影地蔵「おもしれぇ女」
影力　響(えいりき　ひびき)「絶対なってやるんだから」
影力　響(えいりき　ひびき)「インフルエンサーに!!」

〇山中の川
　　それから私と撮影地蔵は
　　２人でいろんなところで撮影した
撮影地蔵「雪解け後すぐは川の水が濁っているから」
撮影地蔵「初夏を待って正解だったな」
影力　響(えいりき　ひびき)（す、すごいこだわり）

〇洋館の廊下
　　撮影地蔵のおかげでフォロワーも増えて
撮影地蔵「雰囲気に合う衣装選びも重要だ」
撮影地蔵「似合ってるぜ」
影力　響(えいりき　ひびき)「やめてよ、恥ずかしい」
撮影地蔵「おい、顔を赤らめるのやめろ 澄まし顔でって言ったろ」
影力　響(えいりき　ひびき)（じゃあそんなこと言うなよ）
撮影地蔵「いい表情だ!!」

〇電器街
　　案件の依頼も来るようになった
撮影地蔵「うーん、雲の位置がなぁ」
影力　響(えいりき　ひびき)「ちょっと、早めに済ませてよ」
撮影地蔵「金をもらっている以上、ハンパな事は出来ない」
影力　響(えいりき　ひびき)（そのプロ根性は素晴らしいけど）
影力　響(えいりき　ひびき)（さすがに地蔵が撮影してたら変でしょ）
　　カメラマンもコスプレしてるなんて気合い入ってんなぁ
影力　響(えいりき　ひびき)（大丈夫そうだわ）
　　私は念願のインフルエンサーになって
　　順調そのものだった
　　でも・・・

〇高級マンションの一室
影力　響(えいりき　ひびき)「・・・」
撮影地蔵「どうした？」
影力　響(えいりき　ひびき)「伸びない」
影力　響(えいりき　ひびき)「伸びない伸びない伸びない伸びない伸びない」
影力　響(えいりき　ひびき)「この前の写真が伸びないのよ」
撮影地蔵「伸びないって・・・十分インプレッションも・・・」
影力　響(えいりき　ひびき)「十分じゃダメなのよ!!もっと上を目指さないと!!」
撮影地蔵「でも、よく撮れてるぜ」
影力　響(えいりき　ひびき)「バズらなきゃ意味ないのよ」
撮影地蔵「・・・」
影力　響(えいりき　ひびき)「このままじゃダメ、もっともっとみんなが興味を持つ写真を撮らないと」
影力　響(えいりき　ひびき)「撮影地蔵!!この前候補に選んでたあの崖!! 行くよ!!」
撮影地蔵「おいおい、あそこは岩盤が脆いから立ち入り禁止になったばかりでやめたとこだろ」
影力　響(えいりき　ひびき)「だからよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「だから”価値”が出るのよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「それに正義ヅラしたやつらが勝手に炎上させてくれるかもしれないしね」
撮影地蔵「まぁ、オレはいい写真を撮るだけだがよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「今から行くよ」
撮影地蔵「・・・」

〇断崖絶壁
影力　響(えいりき　ひびき)「いい、いいわ!! ココなら絶対いい写真が撮れる」
撮影地蔵「おいおい、結構風が強いぜ あぶねーよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「これくらいなら大丈夫よ」
影力　響(えいりき　ひびき)「でも、もっと崖の先に行かないと」
影力　響(えいりき　ひびき)「ヒキの強い写真は撮れないわ」
撮影地蔵「ば、ばか、よせよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「きゃっ」
撮影地蔵「あぶねー!!」
撮影地蔵「おりゃ」
影力　響(えいりき　ひびき)「ハァ・・・ハァ・・・ありがと」
撮影地蔵「なぁ、なんでそんな必死なんだよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「・・・地蔵には分からないわよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「誰からも認識されない」
影力　響(えいりき　ひびき)「選ばれない」
影力　響(えいりき　ひびき)「その孤独感と無力感は」
撮影地蔵「でも今は人気者じやねぇか」
影力　響(えいりき　ひびき)「現状に満足したら終わりなのよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「そんなんじゃすぐに飽きられる」
影力　響(えいりき　ひびき)「”上”を目指し続けないと」
影力　響(えいりき　ひびき)「すぐに落ちていくのよ」
影力　響(えいりき　ひびき)「だから撮影地蔵」
影力　響(えいりき　ひびき)「１番バズる写真をここで撮るのよ」
撮影地蔵「・・・」
撮影地蔵「本当に」
撮影地蔵「１番バズる写真でいいんだな」
影力　響(えいりき　ひびき)「ええ、なんでも言って!!」
撮影地蔵「・・・」
影力　響(えいりき　ひびき)「撮影地蔵？」
影力　響(えいりき　ひびき)「えっ・・・!?」
　　キャーーーーーーー!!!!
撮影地蔵「今この状況で１番バズるのは」
撮影地蔵「愚かなインフルエンサーが立ち入り禁止地区で落ちる瞬間の写真だ」
撮影地蔵「いや、”自殺”の写真に見えるか これも受け取り手が勝手に想像するだろう」
撮影地蔵「よく撮れたよ バズる事間違いなしだ」
撮影地蔵「しかし皮肉なもんだ」
　　”自撮り”で伸び悩んでいたあんたが
　　”自殺”の”撮影”、”自撮り”で最後にバズるんだからよ
　　なんてな