おわりのはじまり(脚本)
〇貴族の部屋
「ロンド様・・・」
「ロンド様・・・起きてください・・・」
フィーネ「ロンド様!」
ロンド「お、起きます!」
フィーネ「お目覚めですか」
ロンド「はい、ただ・・・」
フィーネ「ただ?」
ロンド「ほっぺたが痛くて まるで強くつねられたような」
フィーネ「むぎゅっとつねりましたとも」
ロンド「じんじんします・・・」
フィーネ「もう1時間ばかり お目覚めにならないので」
ロンド「なるほど むぎゅっとせざるをえない」
フィーネ「器の大きいお方です つねりがいがあるというもの」
ロンド「できればつねらないでください・・・」
フィーネ「さて、ロンド様 本日はどう過ごされるおつもりですか」
ロンド「二度寝するのもいいですね」
フィーネ「むぎゅっ」
ロンド「あいたたたっ」
フィーネ「つねりますよ」
ロンド「つねってます! 思いっきり!」
フィーネ「おふざけはほどほどに」
ロンド「はい・・・」
フィーネ「本日は最後の日です」
ロンド「ええ、ボクがボクでいられる最後の」
フィーネ「明日・・・ロンド様は・・・」
ロンド「魔王になって、世界を滅ぼす」
フィーネ「・・・その通りです」
ロンド「悲しいのですか?」
フィーネ「うれしいのですが・・・ ロンド様は・・・?」
ロンド「わからない・・・です」
ロンド「正気を失い世界をほろぼす・・・」
ロンド「何も考えずにすむのなら あんがい気楽かも」
フィーネ「・・・」
フィーネ「この世界に心残りは・・・?」
ロンド「ありますよ、もちろん」
フィーネ「それでは今日は・・・」
ロンド「ええ、見に行きましょう」
ロンド「世界を・・・」
〇結婚式場前の広場
フィーネ「スタッカートの街に着きました」
ロンド「やはりワープ魔法は 酔いますね・・・」
フィーネ「魔王になればそのようなことも・・・」
ロンド「・・・」
フィーネ「・・・申し訳ありません」
ロンド「大丈夫です」
フィーネ「この街にはエネがいます」
ロンド「またご飯を食べに?」
フィーネ「エネは人間の食事が 大好きですから」
「う、うまいーーー!」
エネ・ルジコ「うまうまうま! この店の料理さいこうだー!」
ドールチェ「だろ? 先月できたばかりなんだ」
エネ・ルジコ「肉がうまいぞ! 肉と・・・あと・・・肉だ!」
ドールチェ「そう! 肉がうまいんだ!」
エネ・ルジコ「にっくにく♪」
ドールチェ「にっくにく!」
フィーネ「なんとも中身のない・・・」
エネ・ルジコ「お? フィーネか!」
ドールチェ「フィーネさん・・・ 今日も美しい・・・」
フィーネ「ドールチェさん 今日は大事な話があるので」
ドールチェ「大事な・・・? ま、まさか告白・・・!」
フィーネ「いえ、エネとです」
ドールチェ「ですよね」
ドールチェ「では、僕は城に戻ります」
エネ・ルジコ「じゃーな! また飯たべよーな!」
ドールチェ「まったねー!」
エネ・ルジコ「ああ、うまかった」
ロンド「本当にご飯が好きなんですね」
エネ・ルジコ「ロンドも来てたか」
エネ・ルジコ「で、大事な話ってなんだ?」
フィーネ「ちゃんと聞いてたんですね」
ロンド「エネは、この街が好きですか?」
エネ・ルジコ「もちろん! うまい店がたくさんあるからな!」
ロンド「この街の人たちは?」
エネ・ルジコ「好きだぞ! うまい飯を作るからな!」
エネ・ルジコ「ドールチェのことはもっと好きだ! 飯をおごってくれるから!」
フィーネ「ご飯のことばっかり・・・」
ロンド「いいんですよ エネの気持ちは伝わりました」
エネ・ルジコ「用事はすんだのか?」
ロンド「はい、ありがとうございました」
エネ・ルジコ「ふーん・・・」
ロンド「フィーネ、次の街へ行きましょう」
フィーネ「わかりました」
エネ・ルジコ「ロンド!」
エネ・ルジコ「元気になりたかったら飯だぞ! また来いよ!」
ロンド「・・・ありがとうございます」
〇英国風の図書館
フィーネ「スラーの街に着きました」
ロンド「ここには・・・」
フィーネ「ペザンテがいます」
「ペ、ペザンテさんっ・・・これはっ!」
ペザンテ「静かにしろ」
アマービレ「お、思わず興奮しちゃって」
ペザンテ「まだ声が大きい」
アマービレ「こしょこしょ・・・」
ペザンテ「小さすぎるっ!」
アマービレ「ペザンテさんこそ」
ペザンテ「むう・・・」
ロンド「何があったんですか?」
ペザンテ「ロンドか この小娘がな・・・」
アマービレ「小娘じゃなくって アマービレですっ!」
ペザンテ「だから声が・・・!」
ロンド「まあまあ」
アマービレ「貴重な本を見つけたんです!」
ロンド「どんな本ですか?」
アマービレ「永久機関の研究書です!」
ペザンテ「バカ、周りにバレたら・・・!」
ロンド「それはすごいですね」
ペザンテ「人間も中々やる 永久機関とはな」
ロンド「どういう方法なんですか?」
アマービレ「かくかくしかじか・・・」
ロンド「・・・」
ペザンテ「すごいだろ」
ロンド「・・・それだと矛盾が」
ペザンテ「む、矛盾だと!」
ロンド「残念ながら成立しないかと・・・」
ペザンテ「ショーック!」
アマービレ「うるさいですよペザンテさん」
ペザンテ「俺の永久機関が・・・」
ペザンテ「ショーック!」
アマービレ「おだまりペザンテさん♪」
ペザンテ「とほほ・・・」
アマービレ「それでは私は用事があるので・・・」
ペザンテ「おう、またクイズ勝負をしよう」
アマービレ「はい、ばいばいです!」
フィーネ「暇なんですか?」
ペザンテ「知的探求だ」
ペザンテ「例の件か?」
ロンド「ええ、明日ですからね」
ペザンテ「ふん・・・何もかも滅びる定めか」
ロンド「ペザンテは人間が好きですか?」
ペザンテ「嫌いだ」
ペザンテ「奴らは常に争っている・・・ 死ぬために生きるようなものだ」
フィーネ「では・・・滅びてもいいと・・・?」
ペザンテ「愚かだが・・・」
ペザンテ「愚かなところがいい 我々の想像を超える」
ペザンテ「この書物の山を見ろ 無駄な知的探求の積み重ねだ」
ペザンテ「真実に至らずとも・・・ 生きることを楽しんでいる」
ペザンテ「そこは好きだ」
ロンド「・・・わかりました」
ロンド「行きましょう」
フィーネ「はい、魔王城へ」
ペザンテ「・・・言っておくことがある」
ロンド「なんでしょう」
ペザンテ「人間に限らず・・・ 誰しも愚かでもいいと思うんだ」
ペザンテ「自由に生きろ 俺はお前の決断に従う」
ロンド「ありがとうございます」
〇貴族の部屋
フィーネ「もうじき今日が終わります」
フィーネ「ロンド様・・・」
ロンド「ボクは決めました」
フィーネ「・・・」
ロンド「フィーネはボクよりも 強いですか?」
フィーネ「お聞きにならないでください・・・」
ロンド「フィーネ」
フィーネ「今日の時点では・・・」
ロンド「では、ボクを殺してください」
フィーネ「いや・・・いやです・・・」
ロンド「ボクが死ねば・・・」
ロンド「ボクと同じように 魔族も正気を失うことはなく・・・」
ロンド「・・・人間を滅ぼすこともない」
ロンド「みんなが幸せになれるんです」
フィーネ「その世界にロンド様はいませんっ!」
フィーネ「ロンド様のいない世界なんて・・・!」
フィーネ「ううっ・・・うわーん・・・」
ボクはフィーネを抱きしめた
フィーネはボクを見つめると
寂しそうに微笑んだ
そうだ、フィーネ
それが正解だよ
ボクを・・・殺して
フィーネの手がボクの心臓を突き刺す
ありがとうフィーネ・・・
ごめんねフィーネ・・・
さよなら、セカイ
自身の死をもってこの世界を救うことを決断したロンド様の生き様がすばらしいです。悲しいかな、彼のように民衆に語りかけ意見を聞き取り入れる英雄は存在しませんね。彼から見習うべき点が沢山ありました。
切ないですが、芯の強い少年の素敵なお話でした。
魔王となって国を滅ぼすより、自分の命を終わらせることを選んだ、心優しい少年ですね。
こういうお話好きです。
明日魔王になるとしたらいい事があるのかな?しかし、彼は魔王を選ばす死を選んだ。まだ若いのに。愚かであっても人間の事を好きなんでしょうか?