エピソード1(脚本)
〇寂れた一室
〇寂れた一室
〇寂れた一室
私がはじめて意識をもったのは、あなたが熟睡していたとき。
気がついたら男性の体だったから、それは気味が悪いやら、怖いやらで最初はひとりで混乱していたのよ。
私には子供の頃からの記憶もあったし、自分自身の感情もあった。私、二重人格という心の病なのかしら。
それとも、私はすでに亡くなっていて、あなたに取り憑いているだけなのかしら。
とにかく、記憶のなかでの私は女性なのよ。
〇寂れた一室
〇寂れた一室
私はあなたが眠っているときにしかあなたの体を使えないから、あなたが眠るたびに部屋じゅうを見てまわったわ。
あなたって日記もつけていたし、手帳も読んだりしてあなたのことを調べたわ。
それにあなたは私のことをなにも知らないようだけど、あなたの意志で生活しているすべてを見ることができたわ。
昨夜、あなた、昔の彼女の写真を未練たらしく見ていたわね。ね、わかるでしょ、この手紙はいたずらじゃないのよ。
じつは私の意識でいられるとき、胃がきりきり痛むようになったの。
あなたは胃薬しか飲まないけど、あなたが休みの日、昼寝をしているときを狙って、病院にいったの。
診察の結果、あなたは初期の胃ガンだそうよ。はやく入院しないと手遅れになるわ。
明日にでも病院に行ってね。そうしないと私まで死んじゃうわ。
六月二日
〇寂れた一室
俺のなかの『私』へ。
いろいろとありがとう。明日入院することになったよ。
ガンも早期発見で手術をすれば大丈夫らしい。
君の手紙を読んでかなりパニクったけど、病気のことも本当だったから。
イタズラではなく、真実のことなんだと思い知ったよ。ありがとう。
六月三日
〇病室のベッド
あなたへ。よかったわ、明日、ようやく手術なのね。
しばらくは手紙を書いても読めないわね、はやくよくなるように祈っているね。
六月八日
〇病室のベッド
俺のなかの『私』へ。
病院のなかでも、手術するまでは手紙を書いてくれていたのに。
手術が終わったら、なんど手紙を書いても返事を書いてくれないな。いったいどうしたんだい?
六月十八日
〇病室のベッド
やいやいやい! てめえはいったい誰なんだい? おいらかい? うるさいよ。
おいらはおいらだ、文句があるかい。男は手紙なんてものを書くもんじゃねえや。
夜中に目が覚めりゃ病院じゃねえか、おいらはずらかるぜ。
〇寂れた一室
俺のなかの『おいら』へ。
おまえが誰だか知らないが、傷口もまだ完治していないのに無理しないでくれ。
勝手に自宅に戻っていて、昨夜も女を引っぱり込んで無茶しやがって。
酒なんか飲むなよ、胃が痛い!
六月二十一日
〇寂れた一室
うるさい! おいらの勝手だ。
俺のなかの『おいら』へ。
おまえ・・・・・・いったいなにをしたんだ。
〇モヤモヤ
俺の腹に包丁が突き刺さってるぞ、おまえがやったのか? それとも誰かに・・・。
(了)
〇宇宙空間
最初は女性の人格とのほのぼのとしたお話かと思いきや、すごい展開でびっくりしました!
3人目の人格が出てこなければ、平和に暮らしていけたんでしょうか?
心温まるお話かと思ったら、怖い展開ですね…。優しそうな人が先に登場したのですっかり油断していて、急な刀傷沙汰に驚きました。この状況をどうまとめられるのか、気になります!
多重人格、解離性同一性障害の方はこんな感じで手紙を書いたりしてコミュニケーションできるのかしら。ひとつの肉体に、たくさんの人格があることをマイナスととらえるかプラスととらえるか。この方はこの女性の人格があったからこそ胃がんに気づけたわけだし、でももうひとりの人格は体を痛めつけそうだし、、考えれば考えるほど難しいですね。