Hundred Notes-くちなわの島と20日間-

夜風しみる

はじまりの夜(脚本)

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〇木造校舎の廊下
  何もかもが混ざり合う、そんな夜だった。
  すっかり日が落ちた旧校舎には、話し声が満ちていた。
  いつもは静寂で満ちたこの場所が、今日は話し声で満ちている。
  夏休み初日の夜。
  私、茅野千乃(かやの ちの)は先を行く3人の背中を追いながら暗い廊下を進む。
  バレないように忍び込んでいる筈なのだが、その声は明るく そしてうるさい。
  後ろめたさを覚え少し下を向きながら進む。
  一歩踏み出すたびに埃が舞い、心臓を握る音が聞こえる。
  この場所は一体どれぐらいの間、こうして放置されてきたのだろうか?
  そんな光景に、・・・少し懐かしい気持ちを覚えてしまう。

〇島
  この島に転校してきてから今日でちょうど1ヶ月になる。
  小さいときから父の仕事の都合で引っ越す事が多かった。
  どんな場所に行ってもそれなりに上手くやれては来たが、今回ばかりは不安が大きかった。
  ─十束島(とつかしま)。
  都会から離れた、言うなれば絶海の孤島。
  人口1,000人にも満たない辺鄙な島に初めて降り立った私は、ざわめくような胸騒ぎを感じたことを覚えている。

〇木造校舎の廊下
  ・・・考えなくても良いことを考えてしまう。
  この島の田舎っぽさは今日までの1ヶ月で嫌というほど実感してきた。
  お節介な島民。
  秘密などないようなコミュニティ。
  そして時に感じる「異界に迷い込んだような疎外感」・・・・・・。
  だから今こうして、私と旧校舎に忍び込んでいる彼女たちが悪者ではないとハッキリ分かる。
  心配なのは、今からこんな場所で何が行われるのか、ということだけだった。
ピンク髪の少女「あ、着いた着いた。ここじゃない?」
青髪の青年「そうだな、・・・鍵 開いてるみたいだな」
気弱そうな青年「えぇ・・・、ほんとにはいっていいのかな?」
  三者三様の反応。それは彼女らの人柄を写している様に思える。
  私の事など伺うまでもなく、ピンク髪の少女は勢いよく扉を開く。
  ─そのとき、きっと私達の何かが始まった。
  それは20日にも及ぶ長い長い漂流のようで。
  それ以上の永い時を追いかけることになるのだった。

〇教室
ピンク髪の少女「うわ・・・、すごい埃っぽい・・・・・・ 大丈夫なの?これ」
青髪の青年「あんまり騒がなければ大丈夫じゃないか? こんな時間だし俺ら以外に人はいないだろ」
  突き当りの教室の扉を開けると冷たい空気が廊下まで流れ込んでくる。
  夏の夜のはずだが、どうしても気味の悪さを感じる。
気弱そうな青年「・・・入らないの?理沙ちゃん達もう行っちゃったよ?」
  どうやら気にしていたのは私だけだったのかも知れない。
  彼女たちはもう教室の中で何かを準備し始めている。
千乃「うん。ちょっとボーッとしてた」
  気弱そうな青年は扉越しから心配そうにこちらを伺っている。
  そんな顔をされると、なんだか悪いことをしている気分になる。
気弱そうな青年「そっか。理沙ちゃんも空人くんも今日のために一杯準備してたから張り切ってるのかもね」
気弱そうな青年「・・・それより、もしかして今日って何やるか聞いてない?」
千乃「正直何も・・・・・・ 夜8時に学校集合って言われただけ・・・・・・」
  青年があちゃーという顔になる。
  どうやら何も聞かされてないのは私だけのようだ。
  突然夜中に呼び刺されたときは喧嘩でもさせられるのかと思ったが・・・・・・。
  こんな夜中に若い男女が集まってやることといえば・・・・・・。
気弱そうな青年「うーん・・・。理沙ちゃんはサプライズ大好きだからなー」
気弱そうな青年「茅野さんには悪いんだけど、何も聞かないで入って上げてくれない?」
千乃「・・・・・・わかった」

〇教室
  青年に流されるがままに教室に足を入れる。
  床にはいくつもの蝋燭が立てられている。先に入った2人が準備したのだろうか?
千乃「あの・・・、これは?」
  思うより先に疑問が口から出ていた。
  それを聞いたピンク髪の少女が勢いよく振り向く。
ピンク髪の少女「よくぞ聞いてくれたわね!」
ピンク髪の少女「・・・・・・今から アンタの」歓迎会を始めるわ!!!」

〇教室
  少女の声とは対象的に、教室は静まり返っている。
青髪の青年「え?そうなの?俺てっきり ひゃく・・・」
ピンク髪の少女「わー!空人は黙ってて! 歓迎会なの!それ以外の何でもないから!」
青髪の青年「ありゃ、またサプライズ?飽きないねぇ」
気弱そうな青年「理沙ちゃんはサプライズ好きだからね・・・」
  盛り上がる3人。日頃教室でよく見かける光景だ。
  彼女たちが私のために歓迎会を開いてくれたのは素直に嬉しい。
  しかし・・・、先程から気になるものが床にチラついている。
千乃「歓迎会は嬉しいです」
千乃「でも・・・、この蝋燭は何なんでしょう? 転校してまだ1ヶ月ですし・・・、それに誕生日だってまだ先です・・・」
青髪の青年「確かに!こんなに蝋燭を用意するなんて100歳のおばあちゃんでも祝うのかもな」
  ケラケラと笑う青年とは対象的に、ピンク髪の少女は苦い顔をしている。
ピンク髪の少女「・・・・・・あぁもう、うまく行かないわね・・・」
ピンク髪の少女「コレはあとで話すから!そんなことよりまずは、自己紹介からでしょ?」
ピンク髪の少女「夜は長いんだから、順序よく行かないとね」

〇教室
  少女に言われるがまま、私達は机と椅子を並べる。
  蝋燭の置かれた机を中心に、4つの椅子を円のように。
  持ち込まれたであろう缶ジュースを手に取り、席に座る。
  そして全員が腰掛けたことを確認すると、ピンク髪の少女が口を開いた。
ピンク髪の少女「準備はいいかしら?」
ピンク髪の少女「それじゃあ転校生の歓迎会を始めるわ!」
  乾杯の合図を皮切りに、私達は盃(缶ジュース)を交わす。
  肌寒い教室に乾いた音がこだました。
ピンク髪の少女「それじゃあさっそく 私は崎島理沙(さきしま りさ)」
  少女はジュースを口に運びながら自己紹介を続ける。
理沙「十束島生まれの中学2年、まぁ知ってると思うけどアンタと同い年よ」
千乃「うん。今日はありがとう」
理沙「気にしなくてもいいわ クラスの中を深めるのは時期生徒会長の役目だからね!」
青髪の青年「クラスっていっても全校生徒合わせて1クラスの小さい学校だけどな?」
理沙「うるさい、大事なのは量より質だから」
  自己紹介に若干自虐が混ざっていた気がするが気のせいだろうか?
  しかし、話にあった通りこの島には小さな学校が1つあるだけだ。
  小中合わせて約20名が、1クラスで集まり授業を受けている。
  皆の団結力は強く、転校初日は馴染めるかかなり不安だった。
理沙「はいじゃあ次、誰か自己紹介しなさいよ」
空人「じゃあ俺で 名前は羽生空人(はぶ からと)」
空人「みんなと同じ中2の14歳で、サッカー部のキャプテンやってます」
空人「よろしくな」
  羽生君がにやりとコチラに笑う。
  彼は教室だといつも下級生の男子に囲まれている。
  休み時間などは引っ切り無しに彼らに追いかけ回されているところを見ると、頼れるお兄ちゃんのような存在なのだろうか。
  私は よろしく、とペコリと頭を下げる。
空人「じゃあ次は辰巳だな」
辰巳「次はボクだね・・・・・・。緊張するなぁ」
辰巳「那賀辰巳(なが たつみ)です。自己紹介かあ・・・ 将来の夢は医者になることです。茅野さん、よろしくね」
  羽生君とは対象的な、穏やかな笑み。
  いかにも柔和そうな微笑みはどうもこの教室とはアンマッチだが悪くない。
  ・・・しかし、彼のような人が崎島さんや羽生君と親しげなのは少し驚いた。
  都会の学校でならまず混じらない、彼からはどちらかといえば私と同じ雰囲気を感じる。
  ・・・それもこの島特有の出来事なのだろうか。
理沙「じゃあ最後、主役なんだからしっかりしてよね?」
  崎島さんの一言で皆の視線が私に集まる。
  ・・・・・・面白いことなど言える自信はないが。
千乃「えと・・・、茅野千乃です」
千乃「趣味は本を読んだり・・・自分で書いたり・・・とかです ・・・今日は、歓迎会ありがとう」
空人「おー、よろしくな。 茅野は都会から来たんでしょ? 俺めっちゃ興味あってさ・・・」
辰巳「ボクも本好きなんだー 何かおすすめとか・・・」
  終わるやいなや方方から声が掛かる。
  こういうのは慣れない。どうすればよいかあたふたしてしまう。
理沙「はぁ・・・、何というか、もう少し自分に自身を持てばいいと思うんだけど?」
千乃「えぇ・・・? 面白いことも言えなかったし、なんかごめんなさい・・・・・・」
理沙「違う違う!そうじゃなくて・・・・・・」
  なぜか崎島さんまであたふたし始める。
  それを見て羽生くんが口を開いた。
空人「いやー、もう良いんじゃない? 本題入っても」
千乃「本題?」
辰巳「うんうん。ね、理沙ちゃん」
  2人に声を掛けられ崎島さんが決心したような顔になった。
  ・・・・・・一体何が始まるのだろうか?
理沙「そうね・・・、じゃあやるわよ・・・・・・」
理沙「百物語を・・・、はじめるわ・・・・・・!」

〇教室
  崎島さんの一言を機に部屋に得も知れぬ空気が流れる。
  先程までは無音だったのに、時折風が窓を打つ。
  ・・・なかなかの雰囲気と言えるだろう。
  しかしいきなり百物語をやると言われても何の準備もない。
千乃「崎島さん・・・」
理沙「ん?なに・・・どうしたのそんな顔して」
理沙「どうせアンタのことだし、何の準備もしてませんとかだろうけど」
  ・・・顔に出ていたのだろうか。
  しかしその疑問は正解だ。こっちは何の話も聞いていない。
  私自身霊感などがあるわけでもないし、身も竦むような恐怖体験などにも覚えがない。
空人「まぁ、そこらへんなら心配しなくていいんじゃないか?」
空人「テレビで見るようなプロの話をしてください、って頼みでもないんだし」
辰巳「そうそう、ボクらだってそんなに自信あるわけじゃないしね・・・」
理沙「2人の言う通り、って感じね」
理沙「親交を深めるだけなんだから、あんまり考えすぎなくていいんじゃない?」
  3人から次々に言葉が飛ぶ。
  どれも流れに身を任せれば大丈夫、というような内容だ。
  ・・・たしかにいろんなことを深く考えてしまうのは私の悪い癖だ。
千乃「・・・わかりました。参加します・・・」
空人「なんかあんまり乗り気じゃないみたいだけど・・・、まぁ始めようや」
理沙「そうね。じゃあその前にルール説明からね」
千乃「ルール?そんなものがあるんですか?」
辰巳「あるみたいなんだよね・・・、なんでもルール通りにやらないと・・・」
理沙「そうよ。百物語はれっきとした降霊術よ」
理沙「ちゃんとルールを守らないと、何が起きるかわからない」
空人「そんな恐ろしいものを歓迎会でやるなよ・・・」
  たしかに羽生くんの言うとおりだ。
  正直オカルトのたぐいはあまり信じていないが、学生が面白半分でやっていいものなのだろうか?
  ・・・そしてどうやら私の懸念はまた顔に出ていたようだった。
理沙「だいじょうぶよ そのあたりはちゃんと改良してあるわ」
理沙「──まず、今回の百物語は「10回」に分けて行うわ」
理沙「本来は1日でまとめてやるんだけど、今回は人数も時間も足りないからね」
理沙「だから1日10話 これなら少ない人数でもなんとかなりそうでしょ?」
理沙「さらに・・・、中1日の準備期間もとる つまり・・・・・・」
千乃「「話す日」と「準備の日」をそれぞれ繰り返す・・・ってことですか?」
理沙「正解。これなら話の種が少ない子も安心できるでしょ」
  ということは・・・、合計で20日間毎日百物語に参加するようなことだろうか。
千乃「ながい夏休みになりそうですね・・・」
理沙「毎日一緒にいれば嫌でも仲良くなるでしょ」
理沙「島は狭いんだから、今から慣れといたほうがいいわよ?」
千乃「・・・はい」
理沙「さ、じゃあ説明も終わり!さっそく始めましょうか」
  そういうと3人は机の上の蝋燭をきれいに並べていく。
  今日の分の10本を並べ、そこに丁寧に火を付ける。
  蝋燭の炎はゆらゆらと不気味に揺らめく。
理沙「じゃあ1番は私から・・・」

コメント

  • 彼女の戸惑いを感じますが、仕方ないですよね。
    いきなり怖い話とか用意できませんから。笑
    田舎独特の閉鎖感があるこの島で、何が起きるのか…想像するとちょっと怖いです。

  • 舞台になっている島がとても謎めいている様子が伝わり、より一層ストーリーに神秘さを感じました。この4人の学生がどんな20日間を過ごすのか楽しみです。

  • いやいや!シチュエーションがめちゃ怖いんですけど!
    こんなところでそんなことしたら何か間違いなく起きるー!
    怖いもの見たさなのか…他の何かなのか…?!

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