第一話「時山家へようこそ」(脚本)
〇シックな玄関
時山家のある日・・・
時山新一(ときやましんいち)「ただいまー!」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「あなた! 今度という今度は!」
時山禎一(ときやまさだかず)「わーっ! これは違う! ごめん!」
一件普通の夫婦喧嘩だが、龍子の雷は本物が炸裂する。
時山禎一(ときやまさだかず)「いてて・・・ 知らなかったんだ。アレが最後の一個だったなんて・・・」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「口答えしない!それに、人が取っておいたものを勝手に食べない!」
龍子は元の世界で龍神として君臨し崇拝された存在。供え物をくすねられると、どうしても許せない。
時山新一(ときやましんいち)「えーと・・・毎度のことですが家を破壊しないでくださいね」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「新一、お帰り。大丈夫、出会った頃みたいな派手なことはしないから!」
時山禎一(ときやまさだかず)「俺は今、それだけの気力はないかなぁ・・・」
父の禎一は不死の身体、強大な魔力を持っている。しかし、今では夫婦喧嘩くらいにしか用いていない。
この二人が現れた時は一触即発。そこで新一が仲裁となった経緯がある。
時山新一(ときやましんいち)「父さん、その分析は極めて正しいです」
時山禎一(ときやまさだかず)「新一・・・もう少しフォローしてくれよ・・・」
新一の正体は、生物が機械とともに進化した金属生命体。禎一が持つ現在の能力を即座に測定していた。
時山新一(ときやましんいち)「あっ、すみません。今日の錯視結界と防護もお見事!流石です!」
時山禎一(ときやまさだかず)「ちがう。そうだけど違うんだ新一・・・」
まったくの奇縁から始まった家族。それぞれが互いの本来の名を忘れる程度に、この世界に順応して過ごしていた。
〇高級一戸建て
翌日・・・
時山禎一(ときやまさだかず)「日曜に天気がいいと、気分も良いなぁー」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「あなた、いつも能天気で晴れ晴れとしてるじゃないの」
時山禎一(ときやまさだかず)「ああっ、またそんなことを・・・ それじゃ、ちょっと散歩に行ってくる」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「はいはい、行ってらっしゃい」
禎一が玄関を出るや即座に戻って来た。そして何か様子がおかしい。
時山龍子(ときやまりゅうこ)「どうしたの?」
時山禎一(ときやまさだかず)「違う!これは違うんだ!だから許して!」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「まだ何も聞いてないけれど?」
禎一と龍子が表に出てみると、そこには少女がリュックサックを抱いて座り込んで寝息を立てていた。
時山爾子(ときやまにこ)「お父さん・・・お母さん・・・」
新一の友人というには、余りにも若すぎる。寝言からも考えうることはただ一つ。
時山龍子(ときやまりゅうこ)「結論から言います。あなた、他の女性とそんな関係を?」
時山禎一(ときやまさだかず)「待て。言いたいことは察する。だが、我々は本物の夫婦では・・・」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「そこじゃないのよ。人間と必要以上の交流は危険だって、新一が何度も言ってたわね?これは、交流どころじゃ済まないわよ!?」
時山禎一(ときやまさだかず)「だから落ち着け、本当に知らないって!」
少女はあくびをして目を覚ますと、臆することなく二人に寄って来た。
時山爾子(ときやまにこ)「おはようございます」
時山禎一(ときやまさだかず)「お、おはよう」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「お嬢さん、おはよう。うちに何かご用かな?」
時山爾子(ときやまにこ)「あれ・・・ええと、何だっけ? あっ!これに書いてるよ」
少女が差し出した手紙は、彼女の母親が書いたものと思われた。
時山龍子(ときやまりゅうこ)「「善良な人よ、爾子をお願いいたします」これって・・・」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「よし、ありがとう爾子ちゃん、こちらにどうぞ。このオジサンが遊んでてくれるからね」
時山禎一(ときやまさだかず)「うん、そうオジサンが・・・ えっ?」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「おねえさんは龍子、オジサンは禎一。よろしくね」
時山禎一(ときやまさだかず)「ん?待って。おねえさん?」
時山爾子(ときやまにこ)「よろしくね。龍子おねえさん!」
時山禎一(ときやまさだかず)「ん?待って、待って。なんかおかしくないか?おかしくないか?」
〇高級マンションの一室
時山新一(ときやましんいち)「さて」
新一はこの来訪者の姿を探るべく、電脳世界でデータを探索していた。
時山新一(ときやましんいち)「この世界の人間であることは、確かなんだけど・・・」
時山新一(ときやましんいち)「それなのに、医療機関の受診記録はおろか、戸籍データすらない・・・」
時山新一(ときやましんいち)「あり得ない。だとすれば・・・?」
時山禎一(ときやまさだかず)「うう、流石子どもの体力・・・」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「子どものすることは大目に見なさいよ・・・新一、そちらも難儀しているようだけど?」
もみくちゃになった禎一を一応いたわりつつ、龍子はもう一つの頼みごとを気に掛けた。
時山新一(ときやましんいち)「その通りです。彼女はこの世界にあって、この世界にはない存在です」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「な、何それ・・・?」
時山禎一(ときやまさだかず)「新一、これはひょっとしたらの話なんだが・・・」
時山禎一(ときやまさだかず)「俺たちも各々の異なる世界から来た。なら、この世界と極めて近いが少し違うような「そんな世界」があるとすれば・・・」
時山新一(ときやましんいち)「酷似した並行同位世界、十分にあり得ます」
時山新一(ときやましんいち)「リュックに書いてあった住所は集合住宅ですが、爾子と言う名前の住居者はいません」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「そんな・・・だとしたらこの子が帰るところは本当に・・・」
時山禎一(ときやまさだかず)「うーむ・・・ 暫く我々で様子を見よう」
うっすらと目を覚ました爾子が聞き耳を立てていた・・・
時山爾子(ときやまにこ)「わたしのおうちが、ない・・・? お父さんとお母さんは・・・!?」
〇高級一戸建て
月曜日、到来
時山龍子(ときやまりゅうこ)「爾子ちゃん!? どこ!? どこなの!?」
禎一と新一が出かけるのを見送ってから、爾子も居なくなっていることに気づいた。
時山龍子(ときやまりゅうこ)「もしかして、昨日のこと・・・」
龍子の思いを察するように、スマホへ新一から連絡が来た。彼の能力をすれば、動向を辿るのは容易な事だった。
時山新一(ときやましんいち)「やはりあの住所に向かっています」
時山龍子(本来の姿)「わかった。必ず連れて帰る・・・!」
龍子は躊躇うことなく元の姿へ変身し飛翔した。
〇屋上の隅
時山爾子(ときやまにこ)「お父さん・・・お母さん・・・どこにいるの?」
爾子は微かに聞こえる声に誘われ、フロアを上がっていくうちに屋上に至った。
時山龍子(本来の姿)「まさかあんなところに・・・あっ、危ない!」
言うが早いか、鉄柵の隙間から落ちるのが見えた。
急降下して爾子に触れたと思ったが、一秒遅かった。
時山龍子(本来の姿)「そんな・・・!?」
諦めかけた瞬間、目の前で見知った顔があり中空で爾子を抱えていた。
時山禎一(ときやまさだかず)「はぁ・・・間に合ったかな?」
時山龍子(本来の姿)「あなた・・・時間の停止まで出来るなんて知らなかった・・・」
時山禎一(ときやまさだかず)「特に言ってないからな・・・後は頼むぞ。今の俺はこれくらいが限度だ」
再び時間が動き出すと禎一は姿を消し、同時に龍子は爾子を抱えて飛び去った。
時山爾子(ときやまにこ)「あれ・・・?おねえさん、どうして・・・?」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「もう大丈夫、おうちに帰りましょう」
時山爾子(ときやまにこ)「おうち・・・」
龍子が手を引くと、爾子は足を止めてうつむいた。
時山爾子(ときやまにこ)「声が聞こえたのに、誰も、どこにも居なかった・・・」
帰るべき場所、迎えてくれる家族も記憶にしかないと実感したとき、涙は止まらなかった。
時山龍子(ときやまりゅうこ)「泣かなくていいわ。爾子、まだ貴女には難しいかもしれないけどね・・・」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「貴女は私たちと同じなの」
時山爾子(ときやまにこ)「同じ・・・?」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「そう、私たちはこの世界の住人じゃないの・・・」
時山爾子(ときやまにこ)「・・・!?」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「でもね。帰る場所を覚えているなら帰れると信じて、その日までは家族だって約束して生活してるのよ」
時山爾子(ときやまにこ)「帰る場所、覚えてる・・・ うん、絶対に忘れない・・・!」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「なら、その日が来るまでおねえさんと・・・母さんと約束しない?」
時山爾子(ときやまにこ)「・・・する。約束する・・・!」
〇高級マンションの一室
その日の夜・・・
時山新一(ときやましんいち)「父さん、お疲れさまでした」
時山禎一(ときやまさだかず)「錯視結界、瞬間移動からの時間停止・・・ 月曜日から張り切り過ぎたかな」
全身の筋肉痛に悶える父の姿に、あの窮地を救ったヒーローの面影はない。
時山新一(ときやましんいち)「娘の危機に同時に駆け付ける・・・本当はどこかで結婚してませんでした?」
時山禎一(ときやまさだかず)「新一、その冗談は今一番キツイぞ」
この一言を龍子が見過ごすことなく、極小の雷撃が放たれた。
時山禎一(ときやまさだかず)「痛っ!何だよ!俺、結構頑張ったぞ!?」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「あら、それはゴメンナサイ」
時山爾子(ときやまにこ)「あはは、すごい! もっかいやって!」
時山禎一(ときやまさだかず)「おいおい、爾子の前でそういうことはやめてくれよなぁ・・・」
(禎一のスマートフォンに着信)
時山禎一(ときやまさだかず)「ごめん。会社から・・・はい、時山です」
時山新一(ときやましんいち)「電話・・・?爾子ちゃん、ちょっと向こうに行こうか?」
時山爾子(ときやまにこ)「うん、新一兄ちゃん」
これから起こる全てを察知した新一は、爾子を抱えて退散した。
時山龍子(ときやまりゅうこ)「どうしたの?」
時山禎一(ときやまさだかず)「なんというか、先に謝る。何なら、もう一回謝る。ごめん」
時山龍子(ときやまりゅうこ)「何それ?」
時山禎一(ときやまさだかず)「ほ、ほら。爾子を助けようとした時・・・」
時山禎一(ときやまさだかず)「まぁ・・・あの時、勝手に会社飛び出したもんだから、げ、減給・・・」
時山龍子(本来の姿)「な、なんていうこと・・・家族が増えた時に、よりにもよって・・・」
時山禎一(ときやまさだかず)「待て!落ち着け!爾子も見てる!け、結界・・・ま、間に合わない!」
地を揺るがす雷鳴に空を裂かんばかりの稲光。これは近隣どころかインターネット上でも拡散された。
時山家の物語は、新たな家族とともにつづく。
普通の人のふりをしているけれど、この一家が本気を出したら和製アベンジャーズができそう。なにげに禎一の能力がエグいですね。爾子ちゃんの存在がまだ謎だらけだけど、どんな能力や秘密があるのか楽しみです。
それぞれが傑出した能力と事情を抱えたまま「家族」として暮らす時山家、絶妙なバランスの上で成り立っている感じが楽しいですね!この面々でどのような日常を送るのか、そしてどこに向かっていくのか、その先が気になります。
にこちゃんが落下しそうになった時は本当に危機一髪で読んでいてとてもヒヤヒヤしました!無事で良かったです。
本物の雷を落としちゃうのは怖いけれど、突然現れたにこちゃんに本当のお母さんのように接したり、普通の家族のようにしているこの3人は温かいなあと思いました。