読切(脚本)
〇渋谷駅前
・・・あのう、すみません。神様って、
通行人1「え? いや、興味ないんで」
すみません。神様って信じていますか?
通行人2「いそがしいのよ。どいて頂戴」
・・・・・・。
あのう、
マリア「アンタね、話しかけかた下手すぎ」
マリア「世界の終わりみたいな顔をしてるんじゃ誰も聞いてくれないんじゃない?」
マリア「もっとハキハキ喋んなさいよ。表情も明るく、あと姿勢!」
マリア「こんにちは! 友達にドタキャンされちゃって、サロンのチケットが一枚余ってるんです。無料なので一緒に行きませんか?」
マリア「・・・みたいな感じで。私も田舎でやってたから」
マリア「あんたの神様と同じかどうかは知らないけど、神様は信じてるし──」
マリア「って、ここで食いつくな! そういうときは長居できそうな喫茶店に行く!」
マリア「ああもう、見てらんないからとにかく来なさい」
〇シックなカフェ
「ここならまあまあかな」
カウンターだとやりにくいから、と言いながら店の奥の席に陣取ると一番安いコーヒーを注文した。
……「あの、それであなたは神様を」
信じているって言っているでしょ、と言いながら目の前の青年を眺める。信心する者同士のよしみだ。
「あんたと同じ神様かどうかは知らないけど、多少は教えられることもあるから」
そこから彼の質問攻めが始まった。信仰している神様はどういう性質のもので、どういう教条があり、誰がそれを信仰し、
何故それを信仰しているのか、どうして信じようと思ったのか、どうして信じ続けているのかとひたすら熱心に聞き続けた。
「故郷で会っていたら、とっくに信徒集会に連れて行っていたよ」
そういうのが嫌だったから、いまはあんまり活動していないけど────と言って目の前の青年を眺める。
……「でも、あなたは神様を信じていないわけではないんでしょう?」
この青年が何を信じているのか聞き出そうと試みたものの、返ってくる答えは一向に要領を得なかった。
具体的に神様が存在するわけでもないし、またその言葉を伝える伝道者がいるわけでもない。教義もなければ教条もない。
……「多分僕は、あなたが信じているような神様を信じているわけではないのだと思う」
……「ただ僕は、僕の身に降りかかった理由のつかない出来事について、仮に神様と呼んでいるにすぎないんだ」
でもその方がわかりやすいから、と青年が言って運ばれてきたコーヒーに手を伸ばした。
……「僕は明日から来た」
……「明日から来て、明日僕は死んだ」
……「この駅前が一面火の海になって、沢山の人が死んだ筈だ。僕も死んだからそれ以上は判らない」
代わりに今日の記憶はないんだと言うとコーヒーカップの中を眺める。
つまり明日の幽霊なんだ、と青年は言って顔を上げた。
……「今日をとばして明日に行ってしまったことと、死んだ僕が今日にとらわれてさ迷い続けていることを神様のせいにしている」
……「だから明日この駅前には来ないでほしい。 僕はそれを伝えることしかできないから」
明日の幽霊を自称する青年は笑ってお会計──と店員に伝えた。
〇渋谷駅前
駅前の雑踏で彼を見失う。
〇マンション群
その後、いくら探しても彼は見つからなかった。
彼の神様が真実ならば、明日の彼は今日のことを知らずにあの駅前へ行き、そうして死ぬのだろう。
とらわれていると彼が呟いたことを聞き逃してはいない。
明日死んでしまった彼はすでに何度も今日を繰り返している。もしかしたら永遠に今日を出ることができないのかもしれない。
そうすると明日あの駅前にいるのは、少なくとも彼の言葉を信じなかった不信心者か、今日彼に巡り合わなかった不運な人間だ。
明日、彼は不信心者と不運な者に囲まれたまま死ぬ。
マリア「主よ、どちらへ行かれるのですか」
明日、またあの駅前に行こうと思った。
彼の神様はまだ現れてはいない。
世界の終わりみたいな顔は終わりに遭ったからだったとは。明日の前日は今日、たしかにそうです。
1回目読んだ時は読解力が低くて視点がわからなくなってしまったんですが、なるほど、ラストで明日彼に会うために駅まで行くという決意で終わるから、視点変更する必要があったんですね。僕は誰かが誰かにパンを与える手と手の間に神様はいるかもしれないと思っています。そういう意味ではマリアの選択が神に近く見えました。
皆それぞれに信じるものがあって、考え方や思考があっていいですよね。短いストーリーの中での時間の感覚がうまく表現されていて楽しく拝見させて頂きました。
信じるものは救われるですね。私は自分だけの神様の存在を信じています。それは誰かの言葉だったり、起きた現象だったり。意識することで自身の未来を変えたりできるものだと思ってます。