♯3 スティンガーファミリー<終>(脚本)
〇黒
???「寝言抜かしてんじゃ ねェぞ愚弟が・・・」
???「リーニャは・・・」
〇ビルの裏
キール「”俺達の”妹だろーがァ!!」
背後から飛び込むように
現れたキールが
大男の顔面に鉄パイプの
一撃を叩き込んだ!!
用心棒B「ぐふう」
突然の乱入者に
反応できなかった大男は
変な声をあげて倒れ込んだ
キール「んッッだよ今のカッコつけ方!? リーニャをテメーだけの妹にして たまるかボケェッ!!」
勢いそのままに振り返った
キールは血まみれのまま
ビシッとシアンを指さした
その光景にしばらく
唖然としていたシアンだったが
シアン「くっ、ふふ・・・ あははははは!!」
キール「は!?え、なに!?」
その顔から溢れ出したのは
笑いであった
シアン「ふ、くくく・・・ いや、今そんなとこで キレるのか、って・・・ふふ」
普段は憎たらしいはずの
兄弟が目の前に突然現れ
自分達を助けたかと思えば──
現状とは全く無関係の部分で
ブチ切れているのが
おかしくてたまらなかったのだ
キール「なっ、「そんなとこ」ってなんだよ めちゃくちゃ大事だろが!!」
ひとしきり笑った後
シアンは真剣な表情で
兄に向き直る
シアン「兄さん・・・ごめん」
キールの深い緑の瞳が
ぱち、と見開かれる
シアン「あの時のカルーア達に何も 言い返さなかったのは・・・」
シアン「事を荒立てて リーニャを巻き込んで しまわない為だったんだよな」
シアン「でも俺は 頭に血が上ってて それに全く気づけなかった」
シアン「兄さんは俺よりもずっと 家族のことを 考えてくれていた」
シアン「守ってくれてありがとう、兄さん」
キール「んな、えぇ・・・? な、なんだよ急に ビックリした・・・」
キールは思わず後ずさった
普段は喧嘩ばかりで
謝られることにも
感謝されることにも
全く慣れていないのだ
そんな兄の反応が面白くて
シアンはまたクスクスと笑った
キール「もういいだろ さっさと立てって──ん?」
すっかり薄汚れた
弟の首根っこをひっ掴み
強引に立ち上がらせた
ところで──
ふとキールが
何かを思い出したように
周囲を見渡した
キール「そのカルーアって奴どこ行った?」
シアンもきょろきょろと見回して
次にお互い顔を見合わせ──
「リーニャも いない!! いねェ!!」
〇港の倉庫
カルーア「はあ、はあ、はぁ」
カルーア「はあ、ひぃ、はぁ」
キールが乱入してきたその
少し後から一目散に逃げ出していた
カルーアは──
倉庫街で電話ボックスを見つけ
転がるように駆け込んだ
どうやら増援を呼ぶようだ
カルーア「あ、もしもしボス へっへっへ・・・」
カルーア「新しいシノギの 拠点の事なんですが」
カルーア「ちょおっとばかし 問題が・・・」
カルーアのボス「バカヤロぉぉお──ッ!!」
カルーア「ひぃっ」
カルーアのボス「さっきてめぇの子分が 満身創痍で知らせに来たんだ!!」
カルーアのボス「テメーよりにもよってあの 『スティンガーファミリー』に 手ェ出しやがったらしいな!?」
〇ゴシック
カルーアのボス「犯罪者天国だった この下層街を三日で纏めあげた 最強マフィアだぞ!?」
カルーアのボス「最近護衛役に やたら強ぇ二人組が ついたって噂聞いてねぇのか!?」
カルーアのボス「そんな連中のボスの娘に 手ェ出したと分かりゃ 命が幾つあったって足んねぇよ!!」
カルーアのボス「全員今すぐ街を出るぞ!! 荷物は最小限でいい、急げ!!」
カルーアのボス「・・・ん?」
カルーアのボス「おいこらカルーア?」
カルーアのボス「おい!!」
〇港の倉庫
「聞いてんのかハゲ──ッ!!」
カルーアはボスの声量と
衝撃の事実に
腰を抜かしながらも──
どうにか逃げようと
電話ボックスから這い出した
そこへ──
???「待ちなさぁ──いッ!!」
可愛らしく、だが鋭い声に
カルーアは飛び上がった
そこにはリーニャが立っていた
怒り心頭の面持ちで──
身の丈を超える程の
巨大な荷物を持ち上げていた
リーニャ「私の大好きなお兄ちゃん達に あんな酷いことするなんて・・・」
リーニャ「絶っっっ対に 許さないッ!!!」
「ぎぃやあああああああ!!!」
物凄い破壊音と
カルーアの悲鳴が
響き渡る現場で──
路地の隙間から顔を出した
兄二人だけが
ホンワカ顔で見ていた
キール「さっすがリーニャ 兄弟一の力持ち」
シアン「だが、そこがイイ」
キール「知ってるか? こういうの「ギャップ萌え」って いうらしいぜ」
シアン「そういう言葉は よく分からんが・・・」
「うちの妹 かわいいなぁ・・・」
カルーア「許して下さい!! もうなんにもしませんから!!」
カルーア「スティンガーファミリーの皆様に 二度と手出ししませんから!!」
カルーア「シノギも全部やめて 田舎帰りますからぁぁあ──!!」
リーニャ「そぉりゃああ──ッ!!」
「お慈悲を──────ッ!!!!!!」
しばらくの間
べそかいたカルーアの
悲痛な叫びがこだましたのだった
〇入り組んだ路地裏
キール「っい”!!痛ってェ〜・・・」
右手の手枷を外そうと
いじっていたキールが
痛みに思わず声を上げる
シアン「店に戻って父さんに 頼んだ方が良くないか?」
シアン「無理に外そうとしても 痛いだけだろ」
キール「おー、そうする・・・」
シアンは改めて
兄の姿を見やる
肩の傷は決して浅くはなく
出血も相当量だったようで
少し顔色が悪い
なんとか抜け出そうと
藻掻いたせいか──
手枷で抉れた手首は
誰もが目を背けるような
有様になっていた
シアン「酷い傷だな・・・ やっぱり兄さんの方にも 刺客が来ていたのか」
シアン「大丈夫だったか?」
キール「愚問だぜ! 死なねェ程度にボコしてきた!」
シアン「そ、そうか・・・ ならいいんだが」
笑顔で言うことでもないだろう
とは思ったシアンだったが
苦笑いに留めることにした
キール「お前も随分色男に なっちまって・・・ 明日腫れるぞォそれ」
シアン「うわっ、やめろ 顔をつつくな!!」
いつものやりとりが
繰り広げられそうだった
その時──
「痛・・・っ」
背後から聞こえた
小さな声に、二人は同時に
勢いよく振り返る
そこにはカルーアへの
お仕置が終了した
リーニャが立っていた
”声に出してしまった”と
言わんばかりに
口に手を当てている
リーニャ「あ・・・え、えと なんでもないの!」
顔の前でパタパタと手を振り
”なんでもない”と主張するリーニャ
だがその細く小さな膝小僧に
擦り傷が出来ていた──
兄二人はぎこちない動きで
顔を見合わせる
キール「シアン・・・ リーニャのこれ、いつの怪我?」
シアン「最初に刺客に襲われて・・・ 逃げようとしていた時に一度転んだ 多分・・・その時に」
リーニャ「わ、わたしは大丈夫だから 早く帰ろっ、ね?」
固まったままの兄二人に
元気に声をかける
リーニャだったが──
二人の顔色は、真っ青だった
〇怪しげな酒場
「親父ぃぃい──ッ 急患んんんんんん!!!」
読み損ねていた夕刊を広げつつ
晩酌を楽しもうとしていた
アドニスだったが──
バカ息子の大声に
グラスを持つ手が思わず固まる
間もなく店の扉が開き
帰ったはずの子供達が
駆け込んできた
アドニス「うるさいぞお前ら 一体何時だと・・・」
子供達の姿を見て
アドニスは再び固まった
キール「親父助けて──ッ!! リーニャが膝擦りむいたァ!!」
シアン「父さん早く!! 早く手当てを!!」
右半身を真っ赤に染めた
顔面蒼白の長兄と──
顔じゅう打ち身だらけで
鼻血まで垂らした次兄──
その間に丁寧に抱きかかえられた
末妹の膝には小さな擦過傷
リーニャ「パパ──!! お願いこの二人止めて!!」
混沌とした状況を前に
アドニスは数秒頭を抱え──
アドニス「うるせぇってんだろ」
一番うるさい兄二人の
頭にチョップした
なんとか鎮圧したものの
ここは病院ではないし
馴染みの医者も営業時間外
しかたなく自己流で
治療する羽目になった
アドニスであった
キール「痛ってぇよ親父ィ!! もうちょい優しく!!」
アドニス「俺は医者じゃねぇんだ 我慢しろバカ!!」
リーニャ「もう! キールお兄ちゃんも シアンお兄ちゃんも!」
リーニャ「二度とこんな無茶しちゃ ダメだからね!」
シアン「はい・・・ごめんなさい」
結局傷が治るまでの間
二人は絶対安静となり──
キールは傷の発熱
シアンは骨折による嘔吐で
数週間寝込んでしまうのだが
それはまた
別のお話