サンタは廃ビルでクリスマスを祝う(脚本)
〇教会の中
カツン
ミラ「素敵・・・思ったとおり、夜の教会は昼間よりももっとずっとミステリアスでセクシーだわ・・・」
ロブ「な、なぁミラ? セクシーなのは大変結構なんだが、神の家へこっそり忍び込むのはやはり感心できないなぁ・・・」
ロブ「明日では駄目なのかい? どうせ僕らは明日、この美しい教会で式を挙げるんだぜ?」
ロブ「しかも、この空模様では確実にホワイトクリスマスになる! 素晴らしいじゃないか!」
ミラ「そうね・・・あなたと出会ってからクリスマスまでの日々が私にはとても永く感じられた・・・とても、とても辛かったわ・・・」
ロブ「そ、そうなの? そりゃあ僕だって君とはもっと早く結ばれたかったさ!」
ロブ「さ、とりあえずその話はここを出てから──」
ロブ「わ・・・わわ・・・ひゃあっ!?」
〇教会の中
ミラ「あっはっは!! 何て愚かな男!! ロブ・ファーマーのおバカさん!!」
ミラ「これからは得体も素性も知れない女をミステリアスと都合良く解釈して、手軽にプロポーズしないことを強くオススメするわ!」
ロブ「ひっ・・・ひいぃぃ・・・腰抜けたぁ」
ミラ「さぁ、あなたもクリスマスの殺人鬼の誕生を祝って!」
ミラ「私はこれから年に一度、この日だけは思う存分殺しを楽しむつもりなのだから!」
ミラ「そら、あと5分で25日になる」
ミラ「ああ、その瞬間に愛すべきおバカさんを切り刻めるのが待ち遠しくてたまらないわ!」
ミラ「それまで退屈でしょうから、貴方がしつこく知りたがっていたお話でもしてあげようかしら?」
ミラ「私の過去。──勿論興味あるでしょう?」
ロブ「ひゃっ、ひゃいっ!! ありますっ、とてもありますぅ!!」
〇雪山
──私はね、都会暮らしの貴方なんかには想像もつかないような雪深い山岳地帯の出身よ。
物心つく頃には、とある山頂にポツンと建つ山小屋で奇妙な共同生活を営んでいたわ。
〇雪山の山荘
幼い子供たちばかりが10名。その中に私もいた。
皆の世話をしてくれているのはグレンという名の温厚な老人だった。
〇雪山の山荘
いいえ! 温厚なのはタダの仮面に過ぎず、奴の本性は稀代の殺人鬼だったの・・・!!
人生の大半を服役に費やしたらしいけど、またぞろ悪い癖が出てきたのね。近隣の村の子供らをさらってきては監禁して──
〇流れる血
──年に一度、ひとりを選んで別室で虐殺するのが奴の趣味だった。
そして、残りの皆をわざとドアの前に立たせて事の一部始終を聴かせるの。──最初の年はおぞましさで気が狂いそうだった。
血で汚れても平気なように真っ赤な服を着たグレンが、白い大きな袋を肩に担いで出てきたらそれが終了の合図。
中には殺された子の首が入っているの。
〇雪山の山荘
ラストひとりになってしまった年、私はどうにか逃げ出すことに成功した。
〇高層ビル群
大都会へ逃げ込み、大勢の他人に混じって生活している内にようやく気付いたのよ。
〇血しぶき
ああ──私は流血に飢えているのだなと。
あの雪山での9年間は何よりも甘美な思い出だったのだとね!
〇教会の中
ミラ「どう、私のすべてを知って満足した? あら、もう時間じゃないの」
ミラ「いよいよパーティタイムの始まりよ! 思いっきり楽しみましょうねダーリン──」
〇黒
そこまでだ!!
ミラ・バースト! 手を挙げろ! お前は完全に包囲されている!
ミラ「う、うぅ・・・な、なぜっ・・・!?」
〇廃ビル
”血塗れサンタ”のグレン。いるか?
刑事「今回の密告、感謝する」
グレン「・・・礼には及ばんよ。通報は善良なる市民の義務だ」
刑事「十数年前の出所を機に、貴様の消息がぷっつりと途絶えたのを不思議に思っていたんだぜ?」
グレン「罪滅ぼしなぞ柄じゃないが、儂に何ができるかを考えてみたんだ。そして思いついた」
グレン「儂から見て素質のありそうな子供をさらい、罠に掛からなかった子だけをしっかりと口止めしてこっそり解放する──」
グレン「犯罪は起きてしまってからではもはや手遅れ、芽生える前に摘み取っておくのが正解なのだ」
グレン「殺しの音源は動画からいくらでも録ってこられるし、儂もプロだ、再現度や臨場感の演出ならお手のもんさ」
刑事「おい、殺人劇はなぜ年イチだったんだ?」
グレン「殺人者は大概、例えば月イチだけ殺る、決まった場所で殺るなどの縛りが大好きだからな」
グレン「それに、それまで殺人衝動を抑制できるかのテストにもなる」
刑事「・・・なーるほどなぁ」
グレン「いわば、殺人鬼候補たちの矯正施設だな。このやり方で殆どは更生に成功していたんだが──」
刑事「・・・ミラ・バーストは違ったと」
グレン「さよう。・・・残念ながらアレは本物だった」
グレン「自分の番がくるまで毎年、目を輝かせながらマネキンの頭入りの袋を触りたがり、しまいには助手役を申し出てきたくらいだからな」
グレン「ラストの年に儂自ら引導を渡すつもりだったのだが──すまん。油断して逃げられた」
刑事「なに、構わんよ。貴様のお蔭で殺人を未然に防ぐことができた」
グレン「追跡に5年ほどかかってしまったがな。何にせよ、彼女が完全に目覚める前で良かった」
刑事「新郎になる予定だったロブ・ファーマー氏にとっちゃ最悪のクリスマスになっちまったがな!」
グレン「はっは、違いない! まぁ、気の毒なロブ君には血塗れサンタから何よりも大切な生命をプレゼントということで!」
刑事「おっ、窓の外を見てみろよ」
グレン「ほほぅ、とうとう降り出してきおったか」
「まぁ、何はともあれ──」
〇幻想
メリークリスマス!!
恐ろしい、、、怖いですね。殺人鬼、何をどう思ってそんな風に成長していくのでしょうか。怖いお話しでしたが、楽しく読ませて頂きました。
快楽目的の殺人は数字にこだわることが多いと聞きます。
最初はミラさんは山小屋での体験から殺人鬼になったのかと思っていたら、元々の素質があったとは思いませんでした。
たしかに先に芽を摘むのが一番なのかもしれません。
将来殺人鬼になりそうな子供をテストして探しているようですが、このやり方だと逆に殺人鬼を育ててるんじゃないかという恐ろしさにかられました。
とはいえ、サンタの服が赤い理由を描いたホラーだと思っていましたが、予想外の結末で楽しめました。