メビウスの廻り人(脚本)
〇屋上の端
しがない会社員のカイトはフェンスに肘をつき、昼食をとっていた。
カイト(疲れたなあ)
フェンスに身を任せ、もさもさと食事しながら、ただぼんやりと流れゆく雲を眺めていた
バリッ
突然、嫌な音が響いた
カイト「なん──」
老朽化していたフェンスはカイトの体重に耐えきれず、あっけなく崩れ落ちた
カイトもフェンスの残骸と共に真っ逆さまに落ちてゆき、やがて地面に叩きつけられた
〇クリスマスツリーのある広場
ユキ「ぼーっとして大丈夫?疲れてる?」
カイト「えっああ──ごめん、ユキ」
ユキ「明日仕事だし、そろそろ帰る?」
カイト「いや大丈夫!もう少し一緒にいたい」
ユキ「そう?よかった。せっかくのクリスマスだものね」
カイト「年始はユキのご家族に挨拶に行くんだよな。今から緊張してるよ」
ユキ「ふふ、大丈夫よ」
ユキ「私たち、もうすぐ家族になるのね──」
カイト「そ、そうだな」
カイト(さっきのはなんだ?幸せボケがみせた幻覚?)
カイト(まあ、いいか。今はユキとの時間を楽しもう)
ユキ「そうだわ、新幹線のチケットとっておいてくれる?」
カイト「ああ、ユキの実家仙台だもんな。明日やるよ」
〇駅のホーム
翌日、カイトは帰宅ラッシュ時の駅のホームにいた
カイト(つっかれたあ)
5番線を電車が通過いたします
カイト(そうだ。昨日ユキに言われた新幹線のチケット買っとかないと)
カイトはスマホを操作しながら、ホームの端を歩いていた
カイト「うわっ」
不意に、混雑から押し出された人と盛大にぶつかった
カイト「あっ、ちょっ──」
手からすべり落ちていくスマホを捕まえようとしたカイトはバランスを崩し、ホームから投げ出された
ものすごい勢いでこちらへと迫り来る巨大な箱が目に映り、人々とその箱の悲鳴が最後に聞こえた
〇ホテルのレストラン
カイト「──うわっ!」
ユキ「え?何?どうしたの?」
カイト(今、俺確かに──)
カイト「ごめん、何でもない」
ユキ「大丈夫?疲れてる?」
カイト「ほんとに何でもないんだ。気にしないで」
ユキ「そう?──これ美味しいわね」
カイト「ああ、すごく美味しい」
ユキ「そうそう、年始の新幹線のチケットとらないと。お願いしてもいい?」
カイト「ああ、それなら仕事帰りに──」
カイト(そうだ、仕事帰りにチケットを買おうと歩きスマホをしていて、それで俺は──)
カイト(どういうことだ?俺はあの時確かに死んだはず。あれはいつのことだったんだ?)
カイト(新幹線のチケット──クリスマスにユキに言われて次の日取ったんだよな)
カイト「ユキ、今日ってクリスマスだよな?」
ユキ「え?うん、どうしたの急に」
カイト「いや、そうだよな」
ユキ「ふふ、変なカイト」
ユキの幸せそうな笑顔に、カイトの口元も少し緩んだ
〇渋谷のスクランブル交差点
翌日、カイトは外回りに出ていた
カイト(次のアポはニ時か、場所は・・・)
カイト(歩きスマホはやめておこう)
カイトは一度立ち止まり、目的地を確認してから顔を上げて歩き出した
女性「キャー!!」
悲鳴と共に、周囲の人々が脱兎の如く散り散りの方向へ駆け出した
カイト「な、何だ!?」
悲鳴の出どころへ目をやると、ナイフのようなものを持った男が虚ろな目で立っていた
そしてその男はこちらに目をやり、カイトと目が合うとナイフを構えて一直線に駆け出してきた
カイト「に、逃げなきゃ・・・」
必死に男から目を逸らし、カイトが後方に目をやると、怯えきり、足がすくんだ様子の女の子が涙目で立っていた
カイトは動くことができず、車にはねられたような衝撃を受け、腹部の激痛と共に意識が遠のいていった
〇ホテルのレストラン
ユキ「とっても素敵なレストランね。予約してくれてありがとう」
カイト「ああ、喜んでくれて良かったよ」
カイト(全て思い出した)
カイト(俺はもう、何十回と死んだ)
カイト(そして同じ数だけ俺が死ぬ前日、つまりクリスマスを繰り返している)
カイト(死因は様々だった。転落死、轢死、焼死なんてのもあった)
カイト(ただ一つ共通しているのは、これまでの死因を避けて行動を変えようとも、死ぬことからは逃れられないことだ)
カイト(なぜ、何のためにこの二日を繰り返しているのだろう)
ユキ「どうしたの?疲れてる?大丈夫?」
カイト「──いや、なんでもない。大丈夫だよ」
ユキ「そう?良かった。せっかくのクリスマスだものね、楽しみましょう」
カイト「そうだな。何飲もうか」
カイト(こんな時間を、これからもずっと過ごせたら──)
カイト(ああ、俺は生きたいのか。自分の死を回避するためにこんなことを繰り返しているのか)
〇渋谷のスクランブル交差点
ユキ「あら、偶然ね。お仕事お疲れ様」
カイト「あれ?ユキ?」
ユキ「部長におつかい頼まれちゃって」
カイト(ユキに会えてラッキー・・・じゃなくて、ここは前のループで確か──)
カイト「キャー!!」
ユキ「な、何!?」
悲鳴が上がった方にはやはりあの男がいた
やがてカイトを見つけた男は、ナイフを構えて突進してきた
カイト「に、逃げないと、ユキ──」
後ろに目をやると、怯えきったユキが涙目でカイトを見ていた
心を決め犯人に向き合った直後に男の突進を受け、カイトの腹部には覚えのある激痛が走った
ユキ「──カ、カイト!」
ユキの泣き叫ぶ声と薄れゆく意識の中、カイトの脳裏にある光景が浮かんできた
〇屋上の端
闇夜に溶け込んだ真っ黒な服に身を包み、泣き腫らした目をしたユキはビルの屋上に立っていた
カイト「ユキ?あの服は──喪服?もしかしてこれは俺が死んだ次の日の光景なのか?」
ユキ「──カイト。今、いくね」
ユキは歩みを進め、闇へと消えていった
カイト「そういうことだったのか。俺が死んだことで、次の日ユキも死ぬ。じゃあ俺がこの二日を何度も繰り返しているのは──」
カイト「ユキを、救うため」
〇クリスマスツリーのある広場
ユキ「ぼーっとしてどうしたの?大丈夫?」
カイト「ああ、大丈夫だよ。次こそは──」
そう言ってカイトは微笑んだ
時間をループし続けている、二人を救うことはできるのでしょうか。
彼がそれを自覚したから、なんとなく大丈夫な気がしました。
今回は悲しい結末だったけれど、いつかハッピーエンドが必ず訪れることを信じます♪きっと彼ならやってくれるんじゃないでしょうか。愛って尊いですね。
この物語ではまだ二人は時間をループし続けていますね。
果たして主人公は彼女を助けられるのか、それともできないままループが終わるのか、無限に繰り返すのか、そもそもループすらしていない走馬灯の様なものなのか疑問は尽きませんのでぜひ決着をつけていただけたらとお思います。