読み切り(脚本)
〇黒背景
冷たい声「──次、実験体616号の経過は?」
冷静な声「身体の発育は良好。しかし能力の発現は期待していたレベルを大きく下回ります」
冷たい声「潮時だな。廃棄に回せ」
???「待ってください!アレにはまだ利用価値があるはずです!」
冷静な声「先日の研究計画書の件ですか」
冷静な声「確かにあの研究は有用ですが、実施するには一般人の協力者が必要でしょう?」
???「ええ」
???「ですが私が必ず探し出します」
冷たい声「・・・」
冷たい声「ならばひと月だけ猶予をやろう」
〇東京全景
〇コンビニ
〇店の事務室
コンビニの店長「君、明日から来なくていいから」
七海「えっ!?」
七海「そんな、急にどうしてですか!」
コンビニの店長「いやぁ、ウチも色々厳しくてねえ」
コンビニの店長「ってことで、ほら。行った行った」
〇二階建てアパート
〇古いアパートの部屋
七海「あんのクソ店長め!散々嫌がらせしてきた挙げ句にこの仕打ちか!」
七海「こっちがバイトだからって下に見て──」
七海「まあ文句言っても仕方ないか」
七海「新しいバイト探そう」
高校振りね音無七海
七海「鳴!?」
あなたに頼みたいことがあるの。幼馴染のよしみで手伝ってくれない?
七海(はあ?5年以上連絡してこなかったのに、今更何を頼むっていうんだ)
七海「「何企んでるんだ」、っと」
何も?フリーターのあなたに羽振りのいい仕事を紹介してあげようっていうだけよ
七海「何で俺がフリーターって知ってるんだよ」
七海(でも、仕事は探さないといけなかったし丁度いいかも)
七海「よし、乗ってみるか」
〇空
〇空
〇おしゃれな大学
七海「ここが鳴のいる大学か」
七海(大学に残って研究してるって噂、本当だったんだな)
???「遅いわ、1分遅刻よ」
七海「あんた、鳴か?」
〇教室
なんか、高校の頃と印象が・・・
〇おしゃれな大学
鳴「それ以外の誰に見えるっていうのよ」
鳴「相変わらずバカね、音無七海」
七海(うん、鳴だな)
七海「それで、例の研究モニターの話だけど」
七海「本当に危険はないんだろうな?」
鳴「もちろん」
鳴「安全に月100万稼げるお得なモニターよ」
鳴「まあここにきた時点で、あなたに断る選択肢はないけれど」
鳴「というわけで、はい」
???「・・・」
鳴「この子を育ててちょうだい。それがあなたに頼む内容よ」
七海「は?」
七海「待て待て待て。そんなの聞いてないぞ」
七海「それに俺、子育て経験とかないんだけど?」
鳴「それくらい、ネットにやり方いくらでも落ちてるでしょ」
鳴「私も観察のために毎日あなたの家へ行くし、必要なサポートもするつもり」
鳴「だから頼むわよ、この子のこと」
鳴「じゃ」
七海「待てって!!」
〇高級マンションの一室
七海の父「D判定?これじゃ合格できないだろう!」
七海の母「八尋は勉強できるのに、どうしてお兄ちゃんはこうなのかしら」
〇部屋の前
七海「今回はなんとかB判定とれたぞ。これなら父さんたちも──」
七海の父「七海はもうダメだな。医学部に行ける頭じゃない」
七海の母「そうね、八尋に頑張ってもらいましょう」
七海「・・・」
七海「もう、いいか」
〇二階建てアパート
七海「──嫌なこと思い出したな」
七海(家族とうまくいってない俺が、子育てなんて)
七海「でもお金のためだ。やるしかない」
〇古いアパートの部屋
七海「お前、名前は?」
???「ろっぴゃくじゅうろくごう」
七海(616号?番号じゃないか)
七海「じゃあ、あだ名は?」
???「そんなのないよ」
七海「うーん、でもそのままじゃ呼びにくいし」
七海「616、むいろ・・・六色」
七海「うん、六色がいい」
???「むいろ?」
七海「お前の呼び名。どうだ?」
六色「うん。むいろ、気に入った」
七海「よかった」
七海「っと、もうこんな時間か」
七海「・・・」
七海「いや」
〇安アパートの台所
七海「冷蔵庫の中は・・・」
七海「うん、チャーハンくらいは作れるな」
六色「チャーハンって?」
七海「具を入れて炒めたご飯だよ」
七海(料理はあんまり得意じゃないけど)
七海(まあチャーハンくらいはいけるだろ!)
〇黒
〇安アパートの台所
六色「これがチャーハン?」
七海「うん、ちょっと違うかな」
七海(仕方ない。今日はカップ麺で我慢してもらうか)
七海「客?はーい──」
七海「って、うわっ!?」
七海「あっ、ポットが──!!」
〇アパートの玄関前
鳴「急いでて大事なこと言うの忘れてたわ」
鳴「何も起きてないといいけど」
七海「うわあああああああ!?」
鳴「な、何!?」
〇安アパートの台所
鳴「ちょっと、何があったの!?」
七海「ポ、ポットが・・・」
七海「宙に浮いてる!!」
鳴「遅かったか・・・」
〇古いアパートの部屋
七海「つまり六色は研究のために作り出された超能力者で」
七海「この研究は超能力者が普通の人と一緒に暮らせるか試すものってこと?」
鳴「概ね合っているわ」
鳴「ちなみにその、「むいろ」っていうのは?」
六色「むいろの名前。ななみにつけてもらったんだ!」
鳴「そう。良かったわね」
七海「人間に番号をつけるなんて、と思ってたけど、やっぱりヤバい研究じゃないか」
七海「本当に安全なんだろうな?」
鳴「大丈夫、あなたは子育てするだけだから」
鳴「ところでこの部屋、妙に焦げ臭いけど」
鳴「何かあったの?」
七海「あっ」
〇安アパートの台所
鳴「何これ」
七海「チャーハン」
七海「のなれの果てです・・・」
鳴「っはぁ~~~」
〇黒
〇古いアパートの部屋
六色「わあ!これがチャーハン?」
六色「良い匂い!」
七海「そういえば鳴、家庭科10だったな」
鳴「あなたは1だったわよね」
六色「あーん──」
七海「あっ、こらこら六色」
七海「先に「いただきます」だろ?」
六色「いただきます?」
鳴「食べる前には手を合わせてそう言うのよ」
七海「それじゃみんなで──」
「いただきます!」
〇空
〇空
〇古いアパートの部屋
〇安アパートの台所
〇スーパーの店内
〇空
〇空
〇空
〇開けた交差点
七海(なんだかんだで上手くいってるな、この生活)
七海(ん?あれは・・・)
〇コンビニ
〇開けた交差点
七海「・・・」
六色「ななみ、あの人と知り合いなの?」
七海「俺をクビにした前のバイトの店長だよ。」
七海「あんなやつ、消えれば良いのに」
六色「ふーん、そっか」
〇コンビニ
コンビニの店長「え?車が宙に浮いて・・・」
コンビニの店長「うわあああ!?!?」
〇開けた交差点
七海「六色、何してるんだ!?」
〇コンビニ
コンビニの店長「と、止まった?」
コンビニの店長「助かった・・・」
〇開けた交差点
六色「なんで止めるの?」
七海「なんでって、死んじゃうだろ?」
六色「死んじゃう・・・」
六色「それが、どうしたの?」
七海「え──」
六色「だってななみが言ったんだよ。あんなやつ消えればいいのにって」
七海(──ああ、だめだ)
七海(根本的に、通じてない。どんなに大人しくても、この子は「普通じゃない」んだ)
七海(そんな子を育てるなんて)
六色「ななみ?どうしたの?」
〇黒
七海(やっぱり、無理だ)
〇アパートの玄関前
鳴「何よ、突然呼び出して」
七海「モニターは、辞める」
鳴「は?」
七海「金はいらない。だから別の人を探してくれ」
「・・・」
〇黒
──数週間後
〇コンビニ
〇コンビニの店内
アルバイト仲間「音無くん、陳列お願いね」
七海「はいよ」
七海(あ・・・)
〇古いアパートの部屋
〇コンビニの店内
七海(あの子、どうなったかな)
七海(考えてみれば俺、同じことしたんじゃないか?)
〇高級マンションの一室
七海(俺をダメだと言った、あの親と──)
〇二階建てアパート
七海(でも、あれだけの金額が貰えるんだ)
七海(新しい人は見つかってるだろ)
七海(今頃、いい生活してたりして──)
七海「ん、鳴?」
鳴「助けて音無!616号が──」
鳴「六色が廃棄処分される!」
〇二階建てアパート
七海「廃棄、処分?」
鳴「あの子は他の実験体より超能力の発現が遅かったの」
鳴「だから本来なら既に処分されてるところだった」
鳴「でも私はそれを許せなくて」
鳴「廃棄を回避するためにある研究計画を立てたの」
七海「それが、俺がモニターになった研究?」
鳴「ええ。でも、実行へ移すに当たって、上は条件を出した」
鳴「「ひと月以内にモニターを見つけて研究を軌道に乗せること」ってね」
七海「じゃあ、電話をかけてきてるのは」
鳴「そう、見つからなかった」
鳴「あなたの後にも何人かお願いしたけれど、全員すぐに辞めてしまったわ」
七海「・・・」
鳴「このままじゃあの子は殺されちゃう」
鳴「だからお願い、もう一度あの子を引き取って!」
〇コンビニ
〇開けた交差点
〇二階建てアパート
七海「何で俺なんだ」
七海「他にもモニターはいたんだろ。なのに、どうして俺なんだよ」
鳴「──あの子はあなたといる時が」
鳴「一番幸せそうだったのよ」
〇開けた交差点
〇古いアパートの部屋
〇二階建てアパート
七海(そうだ。あの子は・・・)
〇研究所の中枢
鳴「・・・」
七海「鳴」
音無「どこへ行けば良い?」
〇魔法陣のある研究室
研究員「ほら、さっさと歩け」
616号「・・・うん」
研究員「誰だお前は!」
研究員「ここは部外者立ち入り禁止だぞ!」
???「離せって!」
七海「六色!」
616号「ななみ?」
616号「僕のこと嫌いになったんじゃなかったの?」
七海「ごめんな、勝手に放り出したりして」
七海「お前はあの時、俺のためにやってくれたのに」
七海「こんな俺を許してくれるなら──」
七海「もう一度「六色」になってくれないか?」
616号「いいの?僕、普通の人間じゃないんだよ」
七海「もう、気にしない」
616号「またななみに嫌われるようなことしちゃうかも」
七海「その時は、ちゃんと止めるよ」
七海「それで教える。していいことと、だめなこと」
七海「一緒に勉強しよう。普通の家族になるために」
六色「うん!」
研究員「何なんだこの茶番は」
鳴「これが茶番に見えるなんて、感性が足りないのでは?」
鳴「そういうことなので、616号の処分は取り消しでお願いしますね」
鳴(よかった)
〇空
〇空
〇古いアパートの部屋
七海「お帰り、六色」
六色「ありがとう、ななみ」
七海「こちらこそ、な」
七海「さて、夕飯にするか。」
七海「何か食べるものは──」
〇安アパートの台所
七海「うん、チャーハンだな」
六色「ななみのチャーハンはチャーハンじゃない」
七海「お前、言うようになったな?」
鳴「はー、疲れた。やっと後処理が終わったわ」
六色「めいちゃん!」
七海「疲れてるなら何で来たんだよ」
鳴「そんなこと言っていいの?」
〇古いアパートの部屋
六色「わぁ、良い匂い!」
七海「くそ、美味そうだ」
鳴「ふふん、ありがたく食べなさい」
七海「六色、食べる前にすること、覚えてるか?」
六色「うん!手を合わせて──」
「いただきます!」
〇空
七海「六色。改めて、これからよろしくな」
家族になったのは七海とむいろだけじゃなくて、鳴も加わって3人家族のように見えました。もしかしてwith youの「you」や「君と家族に」の「君」には鳴も含まれていたりして。だったらいいな〜と思いました。
このまま大事件が起きることなく、ほのぼのライフを送ってほしい!日常系4コマなどで、続きが読みたくなりました。超能力少年との生活で、月100万は美味しいなぁと思ってしまいました!そんなモニターがあるならぜひやりたい(笑)
ですよねー。かつてのアノベ感漂ってました。タグがついていないのを確認して読み進めて、作者コメントで納得した感じです。
いい話でした。僕の好きな少年誌風雰囲気が作品にあってスイスイ読めました。
こういう雰囲気の長編が読みたいです。