明日の朝に願いが叶うか、もしくは死んでしまう薬

木蔦木憂杞

明日の朝に願いが叶うか、もしくは死んでしまう薬(脚本)

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木蔦木憂杞

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〇中東の街
黒衣の少女「そこの方」
黒衣の少女「願いが叶うお薬はいかがですか」
中年の男「な、なんだ君は。子供がこんな深夜の路地裏で・・・」
黒衣の少女「あなたにこの薬を飲んでもらいたいのです」
黒衣の少女「あなたは人を殺すおつもりでしょう」
中年の男「! なぜ、それを」
黒衣の少女「お手持ちの物を見れば明白です」
中年の男(・・・流石に子供でも分かるか)
中年の男「ああ。それで、なぜ私がその怪しい薬を飲まねばならん?」
中年の男「返答次第では君も殺すことになる」
黒衣の少女「何か理由があってのことですよね?」
黒衣の少女「私はその助けになりたいのです」
中年の男「君に何が分かって・・・」
  その時、男は”魔女”の噂を思い出した。
  この街付近で謎の女が現れ、気まぐれに魔道具を他者へ譲っているという。
  あくまで噂だが、彼女は本物の”魔法”を行使でき、魔道具を授かった者は様々な奇跡に見舞われたと、男は聞いていた。
中年の男「君が、あの魔女なのか?」
黒衣の少女「・・・ご存知なのですね」
中年の男「ああ。君の力なら、私の復讐も遂げられるというのか?」
黒衣の少女「復讐?」
中年の男「そうだ。私を解雇した雇い主、家を差し押さえた借金取り、逃げ出した妻・・・」
中年の男「私から全てを奪ったあいつらに、一矢報いなければ気が済まないんだ・・・!」
黒衣の少女「・・・それがあなたの願いですか」
黒衣の少女「しかし、その鈍い刃一つで、あなたに人を殺せるとは思えません」
黒衣の少女「ですから、これを」
中年の男「それを飲めば願いが叶うのか?」
黒衣の少女「はい。死ななければ、どんな願いでも」
中年の男「死ぬ!?」
黒衣の少女「はい。薬の効果は二つに一つ」
黒衣の少女「飲んだ翌朝に願いが叶うか、もしくは死ぬか」
黒衣の少女「危険であることは確かです。しかし、全てを奪われたあなたに失う物はない。違いますか?」
中年の男「・・・」
中年の男(どんな願いでも叶う、か)
中年の男(もし・・・復讐ではなく、かつての不自由ない生活を望めれば、)
中年の男(それさえ取り戻せれば、どんなに良いか・・・)
中年の男「くっ」
黒衣の少女「・・・飲みましたね」
中年の男「ああ。君の言う通りだ」
中年の男「この軽い命の一つくらい、願いのためなら賭けたっていい」
黒衣の少女「・・・」
中年の男「それで? 飲んだのに何も起こらないじゃないか」
黒衣の少女「先に申した通り、効果が現れるのは翌朝です」
黒衣の少女「願いが叶うにせよ、死ぬにせよ、」
黒衣の少女「どちらにせよ、眠れば明日はすぐ訪れます」
中年の男「・・・そうだな」
中年の男「なら、この小屋で寝させてもらおうか。見たところ無人だし、朝まで誰も来ないだろう」
黒衣の少女「何かあればお守りします」
中年の男「ああ、悪いな」
  男は小屋の奥から見つけた布に包まり、横になった。
黒衣の少女「・・・おやすみなさい」

〇空
  私は眠ることができなかった。
  翌朝、何が起こるか分からないから。
  幸福を得られるか、そのまま死が訪れるか。
  期待と恐怖が目を冴えさせる。
  結果を知るのが何よりも待ち遠しく、何よりも恐ろしい。
  そんな長い、長い夜の苦しみを耐え抜いて、
  私は朝を迎えた。

〇中東の街
黒衣の少女「・・・」
黒衣の少女「死んだ、わね」
黒衣の少女「安らかな死に顔・・・」
黒衣の少女「魔女様の仰った通りだわ」
黒衣の少女「この薬を飲んで死ぬ時は、それを自覚できないほど苦痛なく逝ける」
黒衣の少女「寝ているこの人をずっと見ていたけれど、ただ目を閉じているだけで、しばらくすると寝息を立てて、」
黒衣の少女「そのまま、ぴたりと息の根を止めた・・・」
黒衣の少女「薬を試させた相手がこの人でよかった」
黒衣の少女「この人を生かしていたら、より多くの人達が殺されていた」
黒衣の少女「でも私がそうさせなかった。この人自身も穏やかに終われた」
黒衣の少女「みんな幸せになれた」
黒衣の少女「私は人を幸せにする良い子になれた」
黒衣の少女「・・・だから、天国にいるパパとママも、」
黒衣の少女「きっと私を許してくれる」

〇簡素な部屋
弟「ごほっ、ごほっ・・・」
黒衣の少女「大丈夫?」
弟「姉さん・・・大丈夫だよ」
弟「それより昨晩はずっといなかったけど、何してたの?」
黒衣の少女「ごめんなさい。あなたの体を治す、新しい薬を貰いに行ってたの」
弟「え。そんな、いいって言ったのに」
弟「僕の病気はもう治らないんだから」
黒衣の少女「いいえ。これは今度こそ、治せる薬なの」
黒衣の少女「これ以上家族が苦しんで死ぬのは見たくない」
黒衣の少女「だから、お願い」
  魔女様は弟と私の分の、二つの薬瓶をくださった。
  けれど私は飲まずに、薬の効果を確かめるために使った。
  家族をも殺してしまう私に、楽な思いをする資格はないから。
弟「・・・分かった。飲むよ」
黒衣の少女「ありがとう」
黒衣の少女「ねえ、病気が治ったら何をしたい?」
弟「うーん、もし治ったら・・・」
弟「姉さんと一緒に、色んな場所を旅したいな」
黒衣の少女「そう」
黒衣の少女「きっとどこへでも行けるわ。だから元気出して」
弟「うん。頑張ってみるよ」
黒衣の少女(飲んでくれた・・・)
弟「もう寝るよ。おやすみ」
黒衣の少女「・・・おやすみなさい」

〇簡素な部屋
黒衣の少女(・・・眠っている)
黒衣の少女(朝になれば全てが終わる。あなたの苦しみも)
黒衣の少女(もう、頑張る必要はないの)
黒衣の少女「・・・そろそろ」
黒衣の少女「旅の支度をしなくちゃ」
黒衣の少女「それじゃあ、」
黒衣の少女「私は先に行って、」
黒衣の少女「家族みんなで、あなたを待つわ」

〇簡素な部屋
弟「ん・・・」
弟「あれ?」
弟「体が、軽い。全然つらくない・・・」
弟「うそ・・・」
弟「本当に治ったんだ! 姉さんがくれた薬のおかげで!」
弟「姉さん、ありが・・・」
弟「・・・姉さん? どこにいるの?」
弟「あれ、床に何か・・・」
弟「!?」
弟「姉さん!?」
黒衣の少女「・・・う」
弟「!」
黒衣の少女「ここは・・・」
黒衣の少女「私、なんともない・・・?」
弟「姉さん、大丈夫!?」
黒衣の少女「え・・・」
黒衣の少女「あなた、生きてるの?」
弟「薬が効いたんだ。僕は生きてるよ!」
弟「僕も、姉さんも・・・」
弟「良かった・・・」
黒衣の少女(薬が効いた? 願いが叶ったの?)
黒衣の少女(でも、私は確かに死んだはず)
  ”姉さんと一緒に”、色んな場所を旅したいな
黒衣の少女「・・・!」
弟「ありがとう、姉さん」
弟「僕ずっと諦めてた。でも、姉さんが諦めないでいてくれたから」
弟「これからは僕達、二人で生きられるよね」
弟「旅にだって一緒に行けるよね?」
黒衣の少女「・・・」
黒衣の少女「ええ」
黒衣の少女「私達二人なら、どこへだって行けるわ」

コメント

  • 妻や元雇い主を殺そうとした男にとってはある意味特効薬だったのかもしれませんが、弟に差し出したときは一瞬戸惑いました。きっと魔女がその効能を決めているのでしょうね。

  • 二択のうちどちらかで、お姉さんは絶望の中あの薬を弟さんに飲ませたのでしょう。
    弟さんの見た希望が全てに打ち勝ったのだと思いました。

  • お姉さんのこれ以上弟が苦しんで欲しくないという優しい気持ちと弟くんの純粋な想いが薬に届き良い方へ転んだのでしょうか、素敵なお話でした

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