紡ぐもの

九十九 零

名付け(脚本)

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〇屋敷の寝室
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
  躰に目をやると包帯が丁寧に巻かれていた。
  傍には水の張った桶と額にあった手拭いであろう布が視界に映る。
  霞の様な記憶の中でルウナと名乗る少女や村長の事を思い出す。
「どうやら、夢ではなかったみたいだ」
  額に手を置き、少し痛む躰を起こしながら辺りを見渡す。
(ここは二階・・・・・・いや、どちらかというと屋根裏か・・・)
(・・・このくらいなら、激しい動きをしなければ大丈夫そうだ)
「よっと。・・・・・・今度は踏み外さないように気を付けないとな・・・」

〇古民家の蔵
  ギシ・・・ギシ・・・
  階段を下りると村長と呼ばれていた老人と顔を合わせた。
村長「おや、もう起きても大丈夫なのかい?」
「ええ、多少出歩くくらいには」
村長「そうかい。・・・私は詳しくないから出過ぎたことを言えないけどね、あまり無理をしすぎないようにするんだよ」
「・・・勿論です。お心遣いありがとうございます・・・」
  そこまで話して村長と言われていた老人はハッと何かに気付いたのかすまなそうにしている。
村長「そういえば、まだ私の名前を言っていなかったね。私の名はモルネア、このマカラカ村の長をしている者さ」
モルネア「長・・・と言っても、名ばかりでね。ただ皆よりも多く歳を取っているからこの地位にいるだけの老いぼれさ・・・」
「・・・そんな事は、ないと思います」
  無意識にそんな言葉を口にしていた。
モルネア「・・・・・・」
  モルネアは目を見開いてこちらを不思議そうに見る。
  少しして微笑みながら口を開く。
モルネア「そうだ、もう少しでルウナが来るんだが、居間で待っていてくれるかな?」
モルネア「私は探し物があるから、どうかゆっくりと休んでね。・・・それじゃあ・・・・・・」
「・・・あの」
モルネア「その調子だと大丈夫そうだけど具合が悪くなったらすぐに休むんだよ。・・・まあ、分かっていると思うけどね」
  何か言おうにも矢継早と一言二言告げると廊下の奥へと姿を消した。
「・・・・・・行ってしまった」

〇古民家の居間
  サッ──
(・・・ここか)
  戸を開け居間に辿り着き、空けた所に胡座をかいた。
(・・・それにしても、不思議なもんだ。帰る場所も居るかも知れない家族──)
(──加え、自分が今まで何をして生きたのかすら頭からすっぽり無いんだからな・・・)
「・・・・・・どうしたもんかね、まったく」
  自身の在り方や信念。そういった人としての核の様なものが一切無いと言うよりも失ってしまったのか・・・
  ・・・何とも言えない気持ちになりモヤモヤとしてしまう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(・・・いかんな・・・深く気持ちが沈んでしまう・・・)
  気持ちを切り替えなければと思い、深呼吸をしようとした時──
  ガラッ──
ルウナ「すみません、遅くなってしまって。新しいお薬を持ってきたのと包帯の交換に・・・」
  戸を開け可愛らしい笑顔を浮かべたルウナ。
  途中でこちらに気付いたのかぎょっとしている。
ルウナ「も、もう起きて大丈夫なんですか?躰に何か違和感とかあったりしませんか?」
ルウナ「ええと・・・それから、それから・・・うーんと・・・・・・」
「・・・その、なんだ。そんなに急がなくていいんだぞー」
  さっきまでの沈んだ気持ちがルウナの登場によりまるで初めから無かったように明るくなっていた。

〇古民家の居間
ルウナ「・・・・・・ふう。すみません慌ただしくしてしまって・・・」
  少しして、落ち着きを取り戻したルウナ。
  苦笑いを浮かべ申し訳なさそうにしている。
「謝る事じゃないさ。・・・そうだ、ルウナは自分に用があってきたのか?薬だ包帯だと言っていたが・・・」
ルウナ「・・・そうでした!リーアスさんに頼まれて・・・色々持ってきました!」
「そいつは助かる。正直、包帯が緩んできてるんだ・・・巻き直そうとしても自分じゃどうも上手くできなくてな・・・」
ルウナ「なら、私に任せてください。その為に来たんですから・・・」
「そうか。それじゃ、さっそく頼めるか?」
ルウナ「はい、頼まれました!」
  そう言うと慣れた手つきで古い包帯を解き適当な長さで折りたたむ。
  ルウナはすぐに新しい包帯を巻かず何かを取り出した。
「・・・それは?」
ルウナ「これはさっき言っていた薬です。まだ傷が完治していなかったので・・・少し沁みると思いますが・・・」
「何、少し沁みるくらいなら大丈夫だろ。ささっと塗ってパパっと巻いてくれればいい」
ルウナ「そうですか・・・?なら、えい!」
  チョン──
「ツゥッ──────」
  瞬間、鋭い痛みが躰を貫いた。まるで剣山のように塗られた箇所が痛み始める。
  油断しきっていたので無意識に声を上げてしまう。
ルウナ「あ、あの~大丈夫・・・ですか?」
「・・・ああ・・・大丈夫だ・・・」
(・・・これが・・・これが少し!?・・・こんなもの傷口に塩を塗りたくられてる様なもんだろう!!)
ルウナ「そうですか?・・・我慢してくださいね。これを塗らないと良くはなりませんから・・・」
  天使のような笑みを浮かべる少女の口から地獄へ落とす宣言を耳にする。
(・・・・・・耐えて見せる・・・必ず・・・耐えてやるぞ・・・)
「・・・予想以上に冷たくてな・・・声が出ただけだ。さ、続けてくれ・・・」
ルウナ「分かりました・・・いきますよ~」
  チョン────
「グゥッ────」
  ペタッ────
「ガァッ────」
(た、頼むから・・・早く・・・早く終わってくれー!!)

〇古民家の居間
ルウナ「・・・これでよし、と・・・・・・」
「・・・・・・お・・・終わった・・・のか・・・?」
ルウナ「はい。塗り終えましたし、包帯も新しく巻き直しました」
(・・・た、助かった・・・・・・)
  ふとルウナの方を見ると籠に先程まで使っていた薬入れと古い包帯を入れていた。
ルウナ「そういえば・・・村長は?」
「・・モルネアさんなら探し物があるみたいで奥の方に今もいると思うが・・・」
ルウナ「そうですか・・・ちょっと様子を見てきます。それに、手伝える事があるかも知れませんので・・・」
  そう言うとルウナは立ち上がり戸を開ける。閉めようとした所で彼女は振り返り─
ルウナ「・・・無理はしないでくださいね?」
  にっこりと微笑むルウナに何故か背筋が凍るような錯覚を覚えた。
「は、はい・・・」
(・・・絶対にルウナを怒らせないようにしよう・・・・・・)

〇古民家の居間
  暫く待っていると戸が開き、ルウナとモルネアが布のような物を手に持っている。
ルウナ「お待たせしました・・・」
「・・・それは?」
モルネア「息子の服だった物さ・・・今日から君の服になる・・・まあ、君の躰に合っていればの問題だけどね・・・」
「・・・服?」
  疑問を口にするとモルネアは指を差した。
  指を差された方を見ると包帯が巻かれただけの上半身が視界に入る。
モルネア「君を保護した時は目を覆いたくなるほど悲惨だったんだ・・・」
モルネア「・・・君の着ていた物の殆んどが原型を留めていない程に細切れに裂かれていたから申し訳ないけど捨ててしまったんだ」
モルネア「代わりと言っては何だけどね・・・いいかな?」
「ええ、自分は構いませんが・・・」
モルネア「なら良かった」
(・・・・・・・・・・・・・・・)
(・・・ここまでしてくれるのは本当にありがたい事だが・・・・・・)
  ホッと息を吐き微笑むモルネア。
  話はとんとん拍子で進んでいくがここで疑問を口にした。
「それより・・・許可とかって取ってあるんですか・・・?」
モルネア「・・・許可?」
「・・・ええ、何も伝えないんじゃその息子さんに悪いでしょう・・・」
  疑問を口にした時、モルネアとルウナの顔が強張った。
ルウナ「・・・・・・ッ」
モルネア「息子は・・・早くに失くしてね・・・」
  モルネアは目を伏せ悲しげに言った。

〇古民家の居間
モルネア「・・・もう随分と昔の事なんだけどね・・・今よりもこの村は貧しくて・・・皆、生きる事に必死になっていたんだ・・・」
モルネア「・・・ある日村中に流行病が蔓延したんだ・・・最初の内はまだ何とかなっていたんだが・・・」
モルネア「・・・それも時間の問題でね。日が経つにつれ病にかかる者は多くなり、遂には薬が底を尽きてしまったんだ・・・」
モルネア「薬の材料を採ろうにもそれは山の奥にあるものでね。当時の村の状態では誰も行けなったんだ・・・」
モルネア「・・・それに山はどんな危険が潜んでいるか分からない。オマケに悪天候が数日間続いたんだ・・・」
モルネア「・・・だが、とある子供が薬の材料を採る為に村を出たんだ・・・・・・誰に告げるわけもなくね・・・」
モルネア「・・・暫くして気付いた時、村中は大騒ぎさ。動ける者は限られて、その過半数は患者を診ることに手一杯だった・・・」
モルネア「・・・そんな時だった。息子が探しに行くと言い出したんだ・・・多くは反対したが・・・私は、どちらとも言えなかった・・・」
モルネア「・・・どちらも大切な子達だからどちらに優劣をつけるような真似はしたくはなかったんだ・・・」
モルネア「だから探しに行く息子に何も言ってやれなかった・・・・・・」
  モルネアはひと息ついた後話を続ける。

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