ほっと家族(脚本)
〇原っぱ
その場所から伝説が生まれた──。
平見豪之助「もう・・、もはやこれまでか・・」
清妻十郎兵衛「男が泣くもんじゃねぇ!」
平見豪之助「これが泣かずにいられるか?」
平見豪之助「鳥羽伏見で負け、甲州勝沼で恥をさらし 最後の五稜郭でも負けた!」
平見豪之助「もはや生きる意味をなくしてこの雪の中だ」
平見豪之助「清妻さん、もう・・この俺を・・」
清妻十郎兵衛「言うな、それ以上は卑怯者の口上ぞ!」
平見豪之助「くっ・・」
平見豪之助「そうさ、見透かされたな・・」
平見豪之助「俺はただの卑怯者だ この寒さにもう耐えられんのだ・・」
〇原っぱ
平見豪之助「風が!」
〇原っぱ
「もはやこれまで! 清妻さん今まで迷惑をかけた!」
「なに言ってる!、生きるんだ!」
〇黒背景
「生きろー! 生きるんだー!」
〇古民家の居間
平見豪之助「・・・・。」
平見豪之助「こ・・ここは?」
良兵衛「名前もない所です」
良兵衛「まあ宿のようなもの」
次郎太「わしが拾ってここに連れてきてやったんだ 感謝しろよ」
平見豪之助「・・・・。」
実也「内地のお侍さんですか? これを」
清妻十郎兵衛「おお!」
次郎太「あんたら、あったまったら酒でも飲もうや」
平見豪之助「・・・・。」
平見豪之助「・・主人、申し訳ない」
平見豪之助「我等には金がない・・のだ」
清妻十郎兵衛「・・・・。」
良兵衛「泣くほどの理由・・ いろいろあるのでしょう」
良兵衛「お金はいずれかの機会に」
良兵衛「まずは体を温めて」
平見豪之助「・・・・。」
平見豪之助「すまない主人、感謝する!」
清妻十郎兵衛「泣くな! 豪之助みっともない!」
平見豪之助「ふふ、今は清妻さんもだ お互いみっともない」
紀左衛門「じゃ、酒にしようぜ! 酒だ!、酒!」
清妻十郎兵衛「これはかたじけない」
美香「お酒の前に一つ、お二人に聞きたいことが」
平見豪之助「なにをかな?、奥方?」
美香「お二人のお召し物 いいところのものと見ております でもそんな人が雪の中を彷徨ったりはしない」
平見豪之助「・・・・。」
美香「京都にいらっしゃったかしら?」
平見豪之助「答えねばならんのか?」
美香「はい、ここはぬくもりと引きかえに 皆様の秘密をいただいております」
平見豪之助「・・・・。」
清妻十郎兵衛「・・・・。」
平見豪之助「奥方、なにを知りたい?」
平見豪之助「助けてもらった恩はあるが 心の剣は売り渡すことはない」
美香「ふふ、さすが都人、腰の入った洒落た口上」
美香「ただ秘密を知りたくなるのも人情ですよ」
〇雪山の山荘
〇黒背景
〇雪山の山荘
〇豪華な部屋
ロバート「Morning」
京子「モーニング」
ロバート「I want to go skiing today, where does the bus leave from?」
京子「It's 7:30 in the morning from the lodge next door」
ロバート「Thanks!」
エミル「Morning」
京子「モーニング」
リークリー「Good morning」
京子「朝ごはん用意しますね」
リークリー「Please」
畑中久志「美紗都ちゃんコーヒーを淹れてくれるかな?」
美紗都「はーい」
美紗都「どうぞー」
畑中久志「ありがとう」
京子「畑中さんはどこか出かけますか?」
畑中久志「出かけるって・・ 外は寒いだろ?」
京子「じゃあ なんでうちに泊まっているんですか?」
畑中久志「ははは、そうだね」
〇雪に覆われた田舎駅(看板の文字無し)
高山(とんでもない田舎だな、雪が止まない)
〇雪山
高山(こりゃどこ行っても大雪だな 早めに宿を取るか)
〇雪山の山荘
高山(あそこでいいか?)
〇豪華な部屋
高山「こんにちは」
京子「こんにちはー」
高山「数日泊まりたいのだけどね」
京子「ありがとうございます」
高山「一泊はいくらかな?」
京子「3600円です、1000円は暖房代です」
高山「いいね、食事は込みで?」
京子「食事はなしです 食事をつけると13600円です」
高山(食事付きで突然10000円も?)
高山「豪華な料理なの?」
京子「いえ、質素な家庭料理です 今日は味噌汁とハムカツとコロッケです」
高山「ちょっと考えるね」
〇雪山
高山(実は調べているのだよ 宿は3軒あるって)
〇旅館の受付
旅館の女将「うちは一泊5000円 食事付きで8000円ですよ」
〇怪しいロッジ
小屋の主「うちは食事付きで7000円だけだよ」
〇ボロい山小屋
高山(・・?)
ロッジの経営者「いらっしゃいませ」
〇島国の部屋
高山(おっ!)
ロッジの経営者「ここがみんなで過ごすリビングです 寝室は2段ベッドですが食事付き5000円です」
高山「いいね、数日泊まりたいね」
ロッジの経営者「ありがとうございます」
ロッジの経営者「ただ今日は満室なので 本日は他の宿にお泊りいただけますか?」
ロッジの経営者「すみません・・」
〇雪山の森の中
高山(仕方ない、最初の宿に泊まるか 食事はどこかで買っていけばいい)
〇小さいコンビニ(軽トラあり)
高山「まっ、こんなもんさ」
〇原っぱ
高山(えーと あの最初のロッジはこっちだっけ?)
高山「なんだこれは!️?」
高山「手が凍っている!️!️」
高山「このまま・・ スマホを持っているだけで手が凍って・・」
高山「凍傷で指がちぎれる!?」
〇大きな一軒家
〇車内
お婆さん「実はね・・」
〇原っぱ
高山「なんだこの雪は!️?」
高山「さ・・寒い!」
高山「まじか!️? このまま凍えて死ぬのか・・?」
〇豪華な部屋
京子「ふー、凄い雪ねー」
アダン「hé la fête!」
お婆さん「忙しい時に来てしまったようね」
京子「すぐお料理用意しますよ」
お婆さん「すまないねえ」
「誰かここを開けてくれーー!」
〇雪山の山荘
高山「開けてくれ! ここに入れてくれ! 頼むよーー!!️」
高山「お・・お願いだ・・ 頼むよ・・」
〇豪華な部屋
高山「た・・助かった・・」
高山「なにか・・温かいものを・・」
京子「今、お茶を用意します」
高山「あ・・ありがとう・・」
〇黒背景
「電気が消えた!!️」
「What's this!」
「What do you mean!」
〇ビスケット
京子「大丈夫ですか? 皆さん?」
高山「大丈夫だけど・・寒い・・」
京子「電気ヒーターが使えなくなったので 灯油ストーブを使いますね」
高山「寒い! 寒いよ!」
アダン「・・・・。」
ミア「I'm scared」
京士郎「毛布と布団を持って来た 私たちのストーブも持ってくる」
京子「わかった、ここでみんなで温まるのね」
京士郎「一晩はそうやって過ごそう」
〇ベージュ
高山「さ、寒い・・」
京子「エミルさん」
京子「May I have the stew that you just made?」
エミル「··Right on」
京子「お客様、こちらをどうぞ」
京子「こちら、他のお客様の余り物ですが」
高山「あ・・ありがとう!」
高山「う・・うまい!」
京子「皆さん、お茶をどうぞ」
〇雪山の山荘
〇アイボリー
京子「皆さん、毛布や布団を被ったら身を寄せてください、寒かったら言ってください」
京子「コーヒーとお茶はあります、あとお菓子も」
エミル「I'm uneasy」
京子「朝まで我慢してください」
京子「No problem」
お婆さん「頑張りましょうね」
高山「ああ!?」
〇黒背景
高山「電気が!」
京子「わたしのスマホの電池が切れただけですよ」
美紗都「今、お父さんがランプの用意をしています」
美紗都「ちょっと待ってくださいね」
高山「すまねえな、いい大人がうろたえて」
京子「寒さが強い夜ですからね」
高山「俺がさっきもらったシチューも ほしかった人もいるんだろ?」
京子「お客様が一番凍えていましたから お気になさらず」
高山「まったく・・ 俺はなんてみっともないんだ・・」
高山「なにもかもダメになってさ・・ 人様に迷惑もかけて・・」
高山「なんだよ俺はよー!」
高山「くそーー! くっそーー!」
京子「大丈夫です、困った時は助け合わないと」
高山「なんだよそれ! 俺は貧乏神みたいで! 俺は俺が嫌なんだよ!!」
高山「くっそー! くそっ!️!️」
〇雪山の山荘
「電気が点いた・・」
〇豪華な部屋
エミル「Thank you」
ミア「It's okay now」
高山「・・・・。」
京香「どうされました?」
高山「いや、いい大人が泣き喚いてみっともなくて 恥ずかしいんだよ」
京香「寒い夜でしたからね、お気になさらず」
高山「ありがとう でもなおさら死にたくなったよ」
京香「それなら死ぬ前にお客様の秘密を教えてもらいましょうか?」
高山「秘密?」
京香「いえ、 どこの家にも秘密の味ってありますよね? それを教えて頂きたいのですよ」
高山「はは・・」
京香「どうしました?」
高山「俺の家にはそんな物すらないんだなって・・」
〇綺麗なキッチン
京香「豚肉と味噌 あとは牛蒡と人参と玉葱ですか?」
高山「いや、牛蒡、玉葱は使わない 安いエノキダケ、ちくわ、油揚げを使う」
高山「味噌も豚肉はなんでもいい 安物でもさ」
高山「あ、じゃがいもは薄く」
京香「わかりました」
〇豪華な部屋
「皆さーん 宿からのサービスでーす」
エミル「Thanks!」
お婆さん「美味しい!」
ロバート「Very fruity!」
畑中久志「普通の豚汁だが・・」
畑中久志「ジャガイモと大根がごろごろと」
畑中久志「美味い!」
畑中久志「ジャガイモはカレーやシチュー 大根はおでん・・」
畑中久志「じゃがいもは煮込まれるとすぐ崩れる 飲食店で出すことは難しい」
畑中久志「シンプルな組み合わせ 豚肉はその味付けにか・・」
高山「・・・・。」
京香「皆さん大喜びです 素敵なお家のレシピです」
京香「ありがとうございました」
高山「そ・・そうかな?」
京香「お母様は安く作っても 最高の味を作っていたのでしょうね」
京士郎「皆さん喜んでいらっしゃる」
京士郎「ありがとうございます」
〇雪山の山荘
「母さん・・」
〇豪華な部屋
京子「お帰りですか?」
高山「ああ、会計を」
京子「はい!」
〇雪山の山荘
「お客様!」
「ありがとうございました! またお越しください!」
美紗都「またお越しください!」
〇雪山
〇雪に覆われた田舎駅(看板の文字無し)
〇空港ターミナルビル
高山「またくるぜ!」
外国人旅行者「Now it's Japan!, where are you staying tonight?」
外国人旅行者「Already decided」
外国人旅行者「The Last Samurai 新撰組-related Kyoto Cuisine Lodge」
外国人旅行者「HOT FAMILY!️」
〇雪山の山荘
〇豪華な部屋
〇雪山の山荘
〇豪華な部屋
終わり
今も昔も宿の女主人がお客さんに「秘密」を聞くという習わしが雰囲気があっていいですね。食事付きになると宿代が1万円も高くなるのは「秘密」と関係あるのかな。それにしてもインバウンドというか海外旅行客の多い宿だなあ。パンフレットの英語、じっくり読んじゃいました。
多くの人が行き交う宿らしく様々な人達が現れるも、ハプニングとは!それでも、宿泊客を笑顔にするというのは、ひとえに宿の素晴らしさによるものなのでしょうね。
まだまだ寒さを感じるこの季節、読みながら心も体も温かくなるストーリーでした・・。人の心情に優しく踏み入ってくれる宿主、旅の1ページを刻む主人公のようですね。