〇オフィスのフロア
近衛　信一「みつぎさん」
不破　みつぎ「はい！」
近衛　信一「好きです」
近衛　信一「僕と結婚してください！」
不破　みつぎ「嬉しい」
不破　みつぎ「私も信一さんの真面目な仕事ぶりを見ていて素敵な方だなと思っていました」
近衛　信一「そんな真面目だなんて」
不破　みつぎ「でも、ごめんなさい」
近衛　信一「この流れで、まさかの「ごめんなさい」!?」
近衛　信一「やっぱり、付き合ってもないのに、いきなり結婚なんて早すぎたよね」
不破　みつぎ「ううん、そうじゃないの」
不破　みつぎ「問題があるのは私の方、私の家族が問題なの」
近衛　信一「どういうこと？」
不破　みつぎ「私の家族は、きっと結婚を認めてくれない」
不破　みつぎ「それに、私の家族のことを知ったら、 信一さんもがっかりすると思うから」
近衛　信一「みつぎさんの家族がどんな人だろうと、僕の気持ちが変わることはない」
近衛　信一「みつぎさんを愛し続けることを誓います」
不破　みつぎ「ありがとう」
不破　みつぎ「私の家の住所を渡しておくね」
不破　みつぎ「信一さんの気持ちが変わらなければ、今週末ここに来て」
不破　みつぎ「私の家族に会ってほしいの」
近衛　信一「もちろん！絶対行くよ」

〇学校の校舎
　　約束の週末
近衛　信一「うーん」
近衛　信一「みつぎさんから教えてもらった家の場所は、この辺りのはずなんだけどな」
女子高生「お兄さん、不破みつぎさんの家探してるの？」
近衛　信一「そうだよ」
近衛　信一「キミはこの学校の子？」
近衛　信一「不破さんのお家はどこか知ってるかい？」
女子高生「私、知ってるよ」
女子高生「私にギャンブルで勝ったら教えてあげる」
近衛　信一「ギャンブル!?」
女子高生「高層ビルの間に架けられた鉄柱を、どっちが先に渡れる競おうよ」
近衛　信一「某賭博漫画みたいなデスゲーム！」
女子高生「私が勝ったら、お兄さんの弱みを一つ握らせてもらうね」
近衛　信一「普通に金銭を要求されるよりも嫌だな」
女子高生「大丈夫、大丈夫！」
女子高生「弱みって言っても、「朝方、全裸で町内のゴミ拾いしてる」とか、お兄さんの趣味の話でもいいから」
近衛　信一「僕に、そんな社会貢献なのか、迷惑なのか、判断に迷う趣味はない！」
不破　みつぎ「こら、雀子《じゃんこ》！」
不破　みつぎ「信一さんをカモにするのはやめなさい！」
女子高生「やべっ、お姉ちゃんだ」
近衛　信一「お姉ちゃん!? ってことは、この子はみつぎさんの・・・」
不破　みつぎ「妹なの」
不破　みつぎ「ギャンブルが好きで、誰かれ構わず勝負を挑んじゃうんだ」
不破　雀子「よろしくね、信一さん」
不破　雀子「お姉ちゃんと結婚できるかどうか賭けない？」
不破　みつぎ「賭けません！」
不破　翔「お姉ちゃん、はやく行こうよ」
不破　みつぎ「ごめんね、しょうちゃん」
不破　みつぎ「帰ろっか」
近衛　信一「うわぁ〜、可愛い」
近衛　信一「それじゃあ、この子はみつぎさんの弟？」
不破　みつぎ「そうなの。名前は「しょう」です」
近衛　信一「可愛いね。連れて帰りたいぐらいだよ」
近衛　信一「はじめまして、しょうくん！」
不破　翔「お兄ちゃんも行こ」
近衛　信一「しょうくん、お兄ちゃんもお家に連れて行ってくれるの？」
不破　翔「ううん」
不破　翔「お兄ちゃんは裁判所に行こ」
近衛　信一「裁判所!?」
不破　翔「さっき僕のことを連れて帰りたいって言ったよね？」
不破　翔「これは誘拐予告で、刑法第222条「脅迫罪」に該当するよ」
不破　翔「僕、すごく怖かったから慰謝料を請求します」
不破　みつぎ「ごめんなさい、信一さん」
不破　みつぎ「翔は、ありとあらゆる損害賠償事件の判例が頭に入っていて、お金が取れそうな相手にはすぐに訴訟を起こすの」
近衛　信一「恐ろしいガキだな」
不破　みつぎ「さぁ、信一さん、中に入って」
不破　みつぎ「両親にも紹介するね」

〇渡り廊下
不破　みつぎ「こっちだよ、信一さん」
近衛　信一「みつぎさん、ここって学校だよね？」
不破　雀子「そうだよ」
不破　雀子「家がないから、この学校に住みついてんだ」
近衛　信一「不法占拠じゃねぇか！」
不破　雀子「失礼だな」
不破　雀子「ちゃんと賭けで勝って、学校側から許可もらってますよ」
近衛　信一「それって合法？」
不破　雀子「お金は賭けてないから、合法、合法」
不破　雀子「この学校では、私が独自に流通させた通貨で経済が回ってるから、罪には問われないんだ」
近衛　信一「通貨を流通させるJKなんて聞いたことねぇよ」
不破　やすほ「あらあら、元気ね」
不破　やすほ「こちらが信一さん？」
不破　みつぎ「あ、お母さん」
近衛　信一「お母さん!?」
不破　やすほ「はじめまして、みつぎの母です」
不破　やすほ「健康的で素敵な人じゃない」
近衛　信一「いやいや、そんな」
不破　やすほ「あら、お世辞じゃないわよ」
不破　やすほ「身長と体重はどのぐらいかしら？」
近衛　信一「身長は170cmで、体重は65kgぐらいです」
不破　やすほ「これまでに大きな病気とかしてない？」
不破　やすほ「最近３ヵ月以内に、医師の診察・検査・治療・投薬をうけたことがありますか？」
近衛　信一「こういう質問、どっかで答えたことあるような気が・・・」
不破　やすほ「よかったら、この保険に入らない？」
近衛　信一「やっぱり保険の勧誘かよ！」
不破　みつぎ「お母さんは保険マニアで、保険や投資で元を取ることが生きがいなの」
近衛　信一「す、すごく個性的な家族だね」
不破　みつぎ「ごめんね、みんなお金に飢えてるの」
不破　みつぎ「でも、これには理由があって・・・」
不破　節夫「みつぎ、こいつが例の男か？」
不破　みつぎ「お父さん」
不破　節夫「俺は時間の無駄が嫌いだからよ」
不破　節夫「端的に言わせてもらう」
不破　節夫「みつぎとの結婚は認めん」
近衛　信一「そんな、なぜですか？」
不破　節夫「我が家は住む場所もない超貧乏家族だ」
不破　節夫「家族みんな特技を生かして、なんとか生計を立てている」
不破　節夫「それをどこの馬の骨かもわらねぇ男に、稼ぎ頭の娘をやれるか」
近衛　信一「急に結婚を認めてくれだなんて、確かに都合がいい話かもしれません」
近衛　信一「でも、僕は本気なんです」
不破　節夫「本気だぁ？」
不破　節夫「うちの借金のことは知ってんのか？」
近衛　信一「借金？」
不破　節夫「我が家には巨額の借金がある」
不破　節夫「その総額は10億円だ！」
近衛　信一「10億円!?」
近衛　信一「そんな借金一体どうやって？」
不破　産財「節夫《せつお》、この子がみつぎのお婿か？」
不破　節夫「噂をすれば、出やがったなこの貧乏神！」
近衛　信一「お、お父さんが２人!?」
不破　節夫「誰が、お父さんだ！」
不破　節夫「こいつは、不破家の先祖 「不破　産財《さんざい》」」
不破　節夫「数々の事業に失敗して、子孫に多額の借金を遺しやがった張本人だ」
不破　産財「節夫、御先祖様に向かって何だその言い方は」
不破　産財「子孫のことが心配で化けて出てやってるっていうのに」
不破　節夫「それが迷惑なんだよ！」
不破　産財「まぁまぁ、今日はめでたい日なんだからパーッと祝おうじゃねぇか」
不破　産財「寿司とピザと高級シャンパン、節夫のカードでネット注文しといたぜ」
不破　節夫「ネットショッピングなんて覚えてんじゃねぇ」
不破　節夫「逃げんな、ジジイ！」
不破　みつぎ「ごめんね、信一さん」
不破　みつぎ「お祖父ちゃんは、お金があるとすぐに使っちゃうんだ」
不破　みつぎ「節約家のお父さんとは、いつも喧嘩ばっかりしてるの」
近衛　信一「お父さんは節約家なんだね」
不破　みつぎ「そうなの」
不破　みつぎ「それも「タダ」って言葉には目がない極度の節約家なんだ」
近衛　信一「家族のために、お金を大切にしてるなんて、いいお父さんじゃないか」
近衛　信一「タダって言葉に目がない、節約家か・・・」
近衛　信一「任せて！ それを聞いて、いいアイデアが思いついたよ」
近衛　信一「僕たちの結婚をお父さんに認めてもらおう」

〇田舎の学校
不破　節夫「くそっ、あのジジィ、都合が悪くなるとすぐ消えやがって」
近衛　信一「お父さん、結婚を認めてください！」
不破　節夫「お前も分からないやつだな！」
不破　節夫「みつぎと結婚するってことは10億円の借金も一緒に背負うってことだぞ」
不破　節夫「てめぇにその覚悟があるのか？」
近衛　信一「借金がどれだけあろうが、関係ありません」
近衛　信一「僕が必ず、みつぎさんを幸せにしてみせます」
不破　節夫「へっ、生意気言いやがって」
不破　節夫「だが、娘はやらん！」
近衛　信一「みつぎさんを頂くつもりはありません！」
不破　節夫「なに!?」
近衛　信一「代わりに、僕をもらってください！」
不破　節夫「なんだと!?」
近衛　信一「僕が不破家の婿養子になれば、みつぎさんが不破家を出ていく必要がない」
近衛　信一「お父さんも稼ぎ頭を失うことはありませんよ」
近衛　信一「しかも、僕という新たな労働力が「タダ」で手に入るんですよ」
不破　節夫「タダで手に入る!?」
近衛　信一「こんなお得なチャンス今しかありませんよ」
近衛　信一「さぁ、みつぎさんとの結婚を認めてください」
不破　節夫「タダと言われちゃあ、節約家としてもらわない訳にはいかねぇ」
不破　節夫「いいだろう」
不破　節夫「みつぎとの結婚を認める！」
不破　節夫「今日からお前も不破家の人間だ」
近衛　信一「ありがとうございます」
不破　節夫「おっ、花火が上がってやがる」
不破　節夫「どっかで祭りでもやってんのか？」
不破　節夫「まぁ、結婚祝いに縁起がいいじゃねぇか」
不破　産財「あれ、打ち上げたのワシじゃよ」
不破　節夫「ジジィ!?」
不破　産財「若い二人の新たな門出を祝おうと思って」
不破　節夫「それで、何円かかったんだ？」
不破　産財「一発50万円」
不破　節夫「てめぇ、今すぐ成仏させてやる！」
不破　産財「ははは、子孫たちが借金を返し終わるまで、ワシは絶対に成仏せんぞ」
不破　節夫「待てこら、ジジィ！」
不破　雀子「信一さん」
不破　雀子「また、借金が増えちゃったね」
不破　雀子「全部返済できるかどうか、賭けない？」
不破　翔「婚約破棄したら、慰謝料請求するからね」
不破　やすほ「もしもの時のために、この保険も加入したらどうかしら？」
不破　みつぎ「信一さん、一緒に頑張って返済していこうね」
近衛　信一「は、はは」
近衛　信一「えらい家族に婿入りしちまったー！」