VS女神VS踊り子VS歌姫(1)(脚本)
〇荒廃した教会
トラ「姫!」
ヒナ「黙って見てろ。桜子さんの命令だぜ」
ヒナ「大体なにが・・・」
ヒナ「姫!」
ヒナ「だよ鼻の下伸ばしやがって馬鹿じゃねえのこのエロガッパ」
トラ「俺達は同志なんだ。妙な勘ぐりしてんじゃねえ」
デンキ「もう。痴話喧嘩なら外でやんなよ」
「痴話喧嘩じゃねーよバ―――――――カ!」
デンキ(そういうポイントは息が合うんだよな)
桜子「貴族当主としての裁定ならば、まず前当主を騙る不届きな道化を抹殺しましょうか?」
義孝「そ、それについては思い直す。些か冷静さを欠いていた」
桜子「私が命を狙ったと?」
ヒナ「ま、まあまあ。男爵サンもショックで気が動転してたんだよ」
ヒナ「わりと蚤の心臓的一面もあるみたいだぜ」
桜子「随分この人を理解してらっしゃるのですね」
ヒナ(あー。なんか面倒臭いことになりそうだ)
ヒナ「じゃあ後は親子水入らずで」
ヒナ「じゃあ席外すぞ。トラ。デブ」
デンキ「続くね~。暴言が続くね~」
トラ「・・・」
義孝「失念していた。芳野が誰を介して雇われに来たか」
〇華やかな裏庭
〇荒廃した教会
桜子「先日暇乞いを出してきて、そのまま行方をくらましました」
義孝「だろうな」
桜子「来栖川家の運営は財閥総会によって行われています。実朝叔父様の言いなりにはなりません」
義孝「総会など俺の言いなりだったではないか」
桜子「では近く私の言いなりにしてみせます」
義孝「ならば斯様な場所で油を売っている場合ではない」
桜子「革命です」
義孝「妻のいる男と戯れ姫だ姫だと持て囃されることが革命か」
桜子「堂々巡りの議論には飽きました」
義孝「議論とはすべからく堂々巡りである」
桜子「然り」
桜子「だから貴方はこれに頼った」
桜子「堂々巡りでは時は動きませんから。でも、私は別の道を征く」
桜子「演説です」
義孝「洗脳ではないのか?」
桜子「貴方と同じ、道化となりましょう」
義孝「道化を侮るな」
義孝「人は用があって道を歩んでおる」
義孝「その歩みを止めさせ己に目を向けさせるは達人の為せる技。我らごときが付け焼刃で真似られるものではない」
桜子「その台詞も付け焼刃でしょう?」
桜子「ヒナさんの言葉ですか?それとも、バロン吉宗?」
義孝「・・・」
桜子「そちら様が命を賭して守ったほどの大切なお人の言葉?」
義孝「だが、お前と比べられはしない」
桜子「安い!」
桜子「そんな安い言葉で父と認めると思うな!」
桜子「・・・最早父を求めると思うな」
義孝「・・・」
〇空
『聞かせてくれ』
『自由とはなんだ?』
『何故そんなものを欲しがるのだ?』
『俺にはさっぱり分からんのだ』
〇荒廃した教会
桜子「何不自由なく育ってきた者には分からないでしょう」
桜子「分からないまま、人生を終えるといい」
義孝「そうだな」
義孝「ただひとつだけ、思う所はある」
義孝「今のお前も、あまり幸せそうではない」
桜子「え?」
義孝「せっかく愚かな父の呪縛を解き放ち、志を同じくする友を見つけ、誰かを愛し、心の赴くままに己が道を歩んでいるお前が」
義孝「俺には少しも幸福そうに見えんのだ」
桜子「・・・」
義孝「龍子もそうだった」
〇川沿いの原っぱ
『思えば身分の差を越え、まわりの反対を押し切ってあれと一緒になったのは、その無邪気な笑顔に魅かれたからだ』
『お前の母の不貞を半ば黙殺していたは、己が奪ってしまった笑顔を、もう一度見たかったからやも知れん』
『たとえそれが俺に向けられたものでなくても』
『いつの日か。ほとぼりが冷めれば』
『共に年を取って全てが過去となれば』
『だが龍子がこの世で見せた最後の顔は』
〇荒廃した教会
義孝「あれが自由を選んだ者の最後の顔ならば」
義孝「俺は自由など」
義孝「断じて自由など・・・」
桜子「なんという身勝手か!追い込んだのは」
義孝「そうだ。俺だ」
義孝「自由という地獄に追い込んだのは俺だ」
桜子「自由という・・・地獄」
義孝「あるいは、呪い」
義孝「自由こそ救い。自由こそ幸福。自由こそが正義。自由こそが絶対」
義孝「それは呪いなのだ。桜子」
桜子「・・・」
義孝「だが、その自由な生と死を笑って受け入れた者達もいる」
〇川沿いの原っぱ
『ヒナはバロンの死に納得していた』
『強がりやも知れん。自分に言い聞かせているだけやも知れん』
『だが確かに今、あの娘は過去に囚われず前に進んでいる』
〇荒廃した教会
義孝「俺はヒナを通して、バロン吉宗という男を知りたいのだ」
義孝「あの男が見ていた自由は、新たなる時代は根室や天粕や実朝叔父が見ているものとは明らかに違う」
義孝「それを知れば、きっとお前を助けてやれる」
義孝「だから少し時間をくれ。俺自身の新時代を見つけ出す時間を・・・」
義孝「なるべく早急にとりかかる」
桜子「ふふっ」
桜子「私を救うですって?」
桜子「思い上がるな!」
桜子「貴方はもう、父でもなければ陸軍少将でもない!」
桜子「何者でもない浮浪者が、この来栖川家当主桜子を救うなどとは片腹痛い!」
桜子「議論は終わりました。革命に賛同し、共に世を正してくれると期待したのは浅はかでした」
桜子「私を救いたいならば、私の覚悟も見て頂きます」
烏弟「だとさ」
烏兄「痛めつけるだけでいい。やり過ぎるなよ」
烏弟「そいつは約束できねえな」
烏兄「だ、そうだ」
義孝「やれやれ、親子水入らずの時間も傍観者にとっては退屈な話の連続であったか」
義孝「いいだろう。ここからは楽しませてやる」
つづく