親を殺しに行こうか(脚本)
〇研究施設の玄関前
きょうか「親を殺しに行こうか」
あみ「ええっ」
きょうか「人間リサイクルセンターに来る人間はだいたい親を憎んでいる」
きょうか「私は人間リサイクルセンターに来るような悩める人間が好きだ」
きょうか「生き残って欲しい」
きょうか「だから君が憎む存在を殺そう」
あみ「・・・決めつけないで」
きょうか「なんだ 親じゃないのか だれだい? 君を苦しめるのは」
あみ「この世のすべてよ」
あみ「私が死ねば私はこの世を認知することもできなくなるはずよ」
きょうか「私も君のことを苦しめているだろうか」
あみ「そうね、私の決断を邪魔する存在ね」
きょうか「そうか、君を苦しめるのは本望ではない だが一言、言っておきたい」
きょうか「私が終わればこの世を認知する必要もなくなるはず、とは本当のことだろうか」
きょうか「たんに、今を惨めにするためにそんな未来を妄想しているのでは?」
あみ「・・・侮辱する気?」
きょうか「事実を言っているだけだよ」
きょうか「生きるも死ぬも妄想じゃないか? だって本当に確信して目撃したことがないんだ 生きていることも死んでいることも」
あみ「・・・あなたと話していると気が狂うわ」
きょうか「うれしいな 狂人仲間がほしくてたまらなかったんだよ」
きょうか「どうしても狂人は孤独になってしまうからね」
きょうか「孤独な人間、真実の人間は孤独でない人間にとっては脅威だからこそ」
きょうか「こんな人間リサイクルセンターを作って、自殺を装わせようとしているのさ」
あみ「装わせようとしている・・・」
きょうか「そうさ 自殺なんて存在しないからね」
あみ「・・・人間リサイクルセンターなんてぶっ壊してやりたいわ」
きょうか「いいね やろうか」
あみ「だめよ実力行使は ツイッターのハッシュタグを使うのよ」
きょうか「SNSなんて使い物になるのかい?」
あみ「なるよ スマホ見てる人ばっかりだから」
きょうか「なるほどね」
あみ「でも、人間リサイクルセンターをなくすのに意味はあるのかしら・・・」
きょうか「世論を巻き起こすのに意味がある 意識付けさせることさえできたら満点さ」
あみ「ただの流行で終わらない、深い世論を作るには?」
きょうか「あー、世論とは浅い流行のことだったね」
あみ「・・・できることなんてないのね」
きょうか「そんなことはない、実際、昔よりは寛容な意識の世の中になっているだろう」
きょうか「一気に変わることはないのさ」
あみ「そう思うと変えようとするのもアホらしいわ」
きょうか「そうだね 私たち狂人は、わざわざ大衆の泥の中に混ざりに行く必要はないさ もう泥の中のことは理解したろう?」
あみ「そうかここが蓮の上だったのね」
きょうか「そうだよ 私と一緒にいればいつでも蓮の上さ」
あみ「人間リサイクルセンターとか、あなたのこととかにフォーカスして、今気になっていることをやらないのもあほらしい気がしてきたわ」
きょうか「つれないな 私のことに常にフォーカスしてくれよ」
あみ「いやよ 私はあなたなしでも蓮の上にいれるから」
きょうか「じゃあさ 常にじゃなくていいから、時々フォーカスしてくれよ」
あみ「いいわよ 友達になりましょう」
きょうか「なんだ友達か」
あみ「何になりたかったの?」
きょうか「・・・・・・わからない」
あみ「ええ?」
きょうか「言語化不可能」
きょうか「言語化不可能な尊いつながりになりたい」
あみ「大丈夫? もしかして私よりあなたのほうが人間リサイクルセンターに惹かれるような末期人間なのかもしれないわ・・・」
きょうか「多分そうかも」
あみ「かわいそうに 抱きしめてあげる」
きょうか「イエ~イ!」
あみ「今度は人間リサイクルセンターじゃなくて、遊園地とか、楽しい場所で会いましょう」
きょうか「やったデートだ クレープだ メリーゴーランドだ」
あみ「なんだ 狂人でもそういうことに興味あるのね」
きょうか「なんにでも興味はある」
あみ「じゃあ 私でなくてもいいじゃない」
きょうか「そうかも・・・」
あみ「じゃあ 友達にもならなくていいわね」
きょうか「そうだね 友達とか恋人とかそんな枠を超えたつながりだもんね! なんか君って他人の気がしないもの」
あみ「・・・一緒にされたくないなあ」
きょうか「かなしい」
あみ「ごめんね」
あみ「まあ、同じかどうかって見た目や肩書、思想で判断できることじゃないのかもね」
きょうか「そういうこと! 拡大したら全部スカスカの粒子だよ」
あみ「じゃあ 私にこだわることもないわね」
きょうか「それはかなしい」
あみ「なんでだろう」
きょうか「みんなかけがえなくて、いなくなったらさびしいんだよ」
あみ「じゃあ、私を思い出してるときでも思い出していないときでも、私はあなたのそばに常にいるわ」
きょうか「そうそう! そんなつながりがほしかったんだよ」
きょうか「ありがとう!」
あみ「どういたしまして」
きょうか「多分、君がいなかったら私もいなかったんだよ」
あみ「あなたってふつうの寂しがりよ 私もだけど」
きょうか「そうだね 私はいつでも普通に正気だよ」
きょうか「狂気を狂気と見るには、正気が必要だもの」
拡大したら全部スカスカの粒子なのに、一人一人違うところが人間の面白さなんですよね。動かない二人を見てたら、実は一人しかいなくて、全部心の中の会話なんじゃないかって気がしました。
世論が浅い流行をもたらすというくだりにかなり共感しました。果たしてどちらが真の狂人なのか? なかなか狂人になるには一筋縄ではいかないと思いますが、彼女達はそれでも近い存在と思えます。