例え姿かたちが変わっても・・・私を見つけてくれますか?

あざみりか

例え姿かたちが変わっても・・・私を見つけてくれますか?(脚本)

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〇山の展望台(鍵無し)
森永カオル「例え姿かたちが変わっても・・・私を見つけてくれますか?」
マネージャー「カオルさん、そろそろ出番ですよ」
森永カオル「あ、ごめんね、今行く」
マネージャー「何読んでたんですか?」
森永カオル「次のドラマの台本よ」
マネージャー「ブツブツ何か言ってるからどうしたのかと思いましたよ」
マネージャー「次のドラマもいいですけど、今日の撮影も大事ですから・・・」
森永カオル「わかってるわ、でも安心して」
森永カオル「今日の脚本は全部頭に入ってるから」
マネージャー「さすがカオルさんです」
森永カオル「ふふ、ありがとう」
森永カオル「これぐらいできないと、役者やっていけないから」
森永カオル「じゃあ、ラストシーン撮りに行きましょうか」

〇美しい草原
監督「カーット!」
監督「いい演技でした!」
  私は主演映画のラストシーンを撮り終えると深々と頭を下げた。
森永カオル「ありがとうございました」
監督「またお仕事しましょうね」
森永カオル「はい、是非」
マネージャー「カオルさん、次の現場に・・・」
森永カオル「すみません、次の現場に行かないといけないので」
監督「売れっ子は大変ですね」
森永カオル「では、失礼します」

〇車内
マネージャー「次の現場なんですけど」
マネージャー「共演の方は大体知ってる方ばかりですので」
マネージャー「あまり気を遣わなくてすむかと思います」
森永カオル「そう」
マネージャー「ただ・・・」
森永カオル「なに?」
マネージャー「カオルさんの恋人役の古田ハルアキって人は初顔合わせですね」
森永カオル「・・・初じゃないわ」
マネージャー「はい?」
森永カオル「高校の同級生で同じ演劇部だったのよ」
マネージャー「えっ!?」
森永カオル「部活の中で同じ苗字の子がいたから・・・ハル君って呼んでたな」
森永カオル「そっか・・・ハル君も役者になってたんだ」
マネージャー「古田さんはカオルさんのこと覚えてるんですか?」
森永カオル「覚えてはいると思う。仲良くしてたからね」
森永カオル「でも、整形して顔と名前変えて女優やってるなんて知らないわよ」
森永カオル「「今川シホ」って本名知ってる人も・・・アナタと社長だけだしね」
マネージャー「それならよかった・・・」
マネージャー「今のご時世、整形してたなんてバレたら何言われるかわかりませんから」
森永カオル「私も今の地位を追われたくないし」
森永カオル「身バレしないように接するから安心して」
マネージャー「カオルさんは名女優ですから、心配なんてしませんよ」
森永カオル「着くまで少し寝てていい?」
マネージャー「どうぞ」
  私は目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。

〇学校の部室
  夢の世界で私は、過去に戻っていた。
  懐かしい演劇部の部室、そして隣にはハルアキ君がいた。
森永カオル(高校生)「ねえ、ハル君」
古川ハルアキ「なに?」
森永カオル(高校生)「私さあ、女優になりたいんだけど、どう思う?」
古川ハルアキ「いけると思うよ」
森永カオル(高校生)「おせじ?」
古川ハルアキ「違うよ、オレはお前の演技すごくいいと思ってる」
森永カオル(高校生)「でもさ、私キレイじゃないし」
古川ハルアキ「そんなの関係ないよ」
森永カオル(高校生)「演技だけでも絶対に認められるって」
森永カオル(高校生)「そんな自信ないなあ・・・」

〇車内
マネージャー「カオルさん、着きましたよ」
森永カオル「あ、うん・・・ありがと」
マネージャー「なんかすごく楽しそうな顔してましたけど」
森永カオル「・・・昔好きだった子が出てきたのよ」
マネージャー「へえ、それは確かにうれしいかもしれませんね」
森永カオル「そうね・・・さ、現場行こうか」

〇明るいリビング
森永カオル「おはようございま~す」
タマキ「カオルさん、お久しぶりです~!」
森永カオル「タマキちゃん、久しぶり~!」
  共演者のみんなと言葉を交わす。
古川ハルアキ「はじめまして、森永カオルさん」
  ハルアキ君は変わっていなかった。
森永カオル「・・・はじめまして」
古川ハルアキ「今回共演出来てうれしいです」
古川ハルアキ「未熟者ですが、よろしくお願いします」
森永カオル「いえ、こちらこそ」
  初めてのふりをすることに、胸が痛んだ。
  「今川シホだよ」
  そう言いそうになるのをグッと堪えて、他人を装った。
  ──4か月後
森永カオル「もう古川君たら」
古川ハルアキ「あはは、カオルさんこそ」
  私とハルアキ君は仲良くなっていた。
  当たり前の話だ、前からの知り合いなのだから。
  でも、彼は私が今川シホだと気づいてない。
古川ハルアキ「もう今日で撮影終わりかー」
森永カオル「さみしくなるねー・・・」
古川ハルアキ「そうですか?」
森永カオル「古川君はさみしくない?」
古川ハルアキ「カオルさんとはまた会える気がするので」
森永カオル「ポジティブシンキングなのね」
古川ハルアキ「それしか取り柄がないんで」
森永カオル「ふふっ」
  不思議な沈黙が流れた。
  その時、ふと、女優ではない私が現れた。
森永カオル「ねえ、ハル君」
古川ハルアキ「・・・え?」
古川ハルアキ「なんで僕のあだ名を?」
森永カオル「いや、あの・・・」
  ここで言ってしまえばいいと思った。
  全てを告白して、2人で秘密にすればいい。
  そうやって生きていければ・・・
古川ハルアキ「ふふ」
森永カオル「なんで笑うの?」
古川ハルアキ「僕のことをそう呼んでくれた高校の同級生、思い出しちゃって」
古川ハルアキ「同じ演劇部の子で・・・」
古川ハルアキ「その子のこと・・・好きでした」
古川ハルアキ「でも、何も言えなかったなあ」
森永カオル「・・・今も好きなの?」
古川ハルアキ「・・・ええ」
古川ハルアキ「・・・あの子、演技がうまかったから」
古川ハルアキ「役者やってれば会えると思うんです」
古川ハルアキ「そこで会った時に言えたらな、って思うんですけどね」
  今川シホを好きでいてくれたハルアキ君の言葉がうれしかった。
  けれど、今の私は森永カオルだ。
  だから私は必死に泣くのをこらえた。
スタッフ「すみません、ではラストシーンの撮影お願いします」
「はーい」

〇山の展望台(鍵無し)
森永カオル「例え姿かたちが変わっても・・・」
森永カオル「私を見つけてくれますか?」
  私はまっすぐにハルアキ君を見た。
古川ハルアキ「当たり前じゃないか」
古川ハルアキ「どんな姿になっても僕は君をみつけだして・・・」
古川ハルアキ「愛すよ」
監督「カーット!」
  監督の声が響き、場が拍手の音に包まれる。
  ハルアキ君はホッとした顔をし、私は彼をまだ見つめていた。
マネージャー「カオルさん、次の撮影に」
森永カオル「・・・わかったわ」
森永カオル「じゃあ、お先です」
森永カオル「ハル君、またね」
  去り際、ハルアキ君とすれ違う時にそっとそうつぶやいた。
古川ハルアキ「ええ、また・・・カオルさん」
  私の本当の名前を呼んでくれない彼に顔を向けず、足早に歩く。
  あふれる涙は、いつもならすぐに止められるはずだ。
  私は役者だから。
  だけど、この涙は止められなかった。
  だって、私の素顔が流してる涙だから。

コメント

  • 自分で決めたこととはいえ、なんだか切なくて…。
    でも、彼は本当の彼女を見つけ出すような気がするんです。
    好きな人だから、きっと。

  • 切ないお話でした。
    多くの人に見つめられても、一人の想い人には、共演者としての顔しか見せられない。
    泣いた後は、笑顔に戻りファイト!

  • 何だか切ないお話しでした、そのままの自分で十分なはずだけど、人は他を他をみてもっともっとと欲が出てしまうんですね。いい、きっかけになって羽ばたけるといいですね。

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