転生に気付いた王子の受難(脚本)
〇貴族の応接間
俺ことゴットフリート王国第一王子・ハルトがその事実に気づいたのは、十八歳の誕生日を迎えるおよそ一ヶ月前のことだった
国王「お前の婚約が決まったぞ。相手はグレース・ラグランジュ公爵令嬢だ」
国王「婚約発表はお前の誕生日の祝宴で行う予定だから、そのつもりで準備しておくようにな」
ハルト「・・・・・・えっ、グレース・ラグランジュ!? というか、それ以前に俺ってハルト・ゴットフリートじゃないか!」
ハルト「ははっ、どうして俺は今まで気付いていなかったんだろう? ここが──」
――乙女ゲームの世界だということに!!
というか、転生先がどこかということ以前に、そもそも自分自身が転生していることに今まで全く気付いていなかったのが衝撃的だ
王妃「ハルト、聞いているのですか?」
ハルト「あっ! も、申し訳ございません。いきなりの話で動揺してしまったようです」
王妃「まったく、しっかりしてちょうだいね。あなたは結婚適齢期に差し掛かった世継ぎの王子。縁談が来ることなど当たり前のことだわ」
王妃「そしてその相手が年齢的にも家格の釣り合い的にもラグランジュ公爵令嬢になりそうだと、予想できないことはなかったでしょう」
ハルト「・・・・・・そうですね。大変失礼いたしました」
ハルト「それで、あのう・・・・・・父上、母上? いったん自室に下がってもよろしいでしょうか?」
ハルト「これ以上ご迷惑をおかけすることのないよう、少々頭を冷やしてきたいと思うのですが」
国王「うむ、よかろう。ただ、たとえお前が嫌だと言ってもこれは決まった話だ。その点は心に留めておくようにな」
ハルト「承知いたしました」
俺は二人に深く頭を下げ、静かにその場を後にしたのだった
〇貴族の部屋
ハルト「やばい、ちょっと一回頭の中を整理しよう」
前世、俺はしがない日本の男子大学生、清水陽都(はると)だった
陽都としての記憶は、両親やいとこの家族と一緒に旅行に出かけて、その帰りがけにバス事故に巻き込まれたところで途切れている
だから、おそらくはそのときに死んでしまったのだと思う
ハルト「そして王子様に転生しました、ってか。こんなの、まるで物語みたいじゃないか!」
だがそれが、今の俺が置かれた紛れもない現実だ
ハルト「しかも、『ハルト王子』である俺に婚約者が出来るって・・・・・・!」
ハルト「それが『悪役令嬢グレース・ラグランジュ』とくれば、この世界は乙女ゲーム『救国の聖女レイアと五人の聖騎士』の世界で確定だな」
ちなみになぜ俺が乙女ゲームを知っているのかというと、母親が乙女ゲーム好きだったからだ
その中でも『救国の聖女レイアと五人の聖騎士』は母のお気に入りのうちの一つだったから、俺の記憶の中にも印象深く残っていた
ハルト「確か話の流れは、ヒロインであるレイアが攻略対象と協力して魔王の脅威から世界を救う、王道のラブストーリーだったはずだ」
ヒロインをいじめる悪役令嬢がグレース・ラグランジュ。そして俺ことハルト王子は他でもない、攻略対象のうちの一人である
ハルト「そっかあ。俺、可愛いヒロインちゃんに攻略されちゃうのかあ・・・・・・」
ハルト「うん。それも悪くない!!」
俺は一人でにやりと笑んだ。だが、同時に──
ハルト「とはいえ、俺個人の感想としては悪役令嬢グレースのほうが好みにドストライクだな!!」
なにせ彼女は・・・・・・メリハリボディの超絶妖艶美女なもので!!
ハルト「シナリオ的には、俺はグレースを嫌ってヒロインになびくべきなんだろう。でもここは俺にとっての現実だ」
ハルト「攻略対象は他に四人もいるんだし、俺一人くらいシナリオから外れたって別に良くね? よし、決めたぞ。俺は──」
ハルト「――俺は、悪役令嬢グレースをとことん愛でてやる!!」
ハルト「へへっ、あのグレースが俺の妻になるのか。めっちゃ楽しみなんだけど!?」
自室ということで気を抜いていた俺は、およそ王子らしくない下卑た笑みを浮かべた。
だが予想外なことに、それに応える声が一つ
レック「やっぱりな。転生しようがお前の好みはホント変わらねーな」
ハルト「はっ!?」
振り向いた先にいたのは、つい朝方までは自分専属の侍従・レックだったはずの男
今も見た目の上ではそれは何一つ変わらないのだけれど、でも──
ハルト「お前、明誠(あきまさ)!? 明誠だよな!?」
――どう考えても、この男は前世のいとこにして無二の親友・松原明誠に違いなかった
こいつも俺と同じ家族旅行に参加していたから、同じ時に死んだのだろう
レック「そうだよ。お前、なかなか前世のことを思い出さないもんだから、どうなることかと思ったよ」
ハルト「っていうことは、お前はとっくに思い出していたのか。なんかごめんな?」
レック「まったくだよ、オレ一人に重いもん抱え込ませやがって。待たされた分、これからは俺の話にとことん付き合ってもらうからな!」
思わず抱擁する、俺たち。だが、間の悪いことに──
侍女「きゃあ、王子殿下!? と・・・・・・レック様? えっ、お二人って、まさか・・・・・・!」
ハルト「いや、待って! 君、ちょっと・・・・・・!」
――その現場を侍女に見つかり、俺はとんでもない誤解を受けることになってしまう
〇貴族の応接間
王妃「はあ。いくら婚約に後ろ向きだったとしても、侍従と男色に走るとはね」
ハルト「いえ、だから、それは誤解でしてっ!」
こんにちは、ハルト・ゴットフリートです。俺は今、実の母にとんでもない誤解を受けて、申し開きをしている真っ最中です
って・・・・・・なんでこうなるんだよ!?
王妃「決めました」
ハルト「何をです!?」
王妃「顔合わせを早めます。実は今日、グレース嬢が登城しているのです。だから、彼女をこの場に呼びました」
ハルト「『ました』って、過去形ですか!? ということは・・・・・・」
俺、今から推しに会えるってこと!?
グレース「失礼いたします」
その瞬間のことを、俺はきっと一生忘れないだろう
ハルト「・・・・・・デジャブだ」
不思議なことに、どれだけ姿形が変わっても伝わるものはあるらしい。
間違いない。目の前に立つこの女性は──
ハルト「・・・・・・母さん」
――前世の母・清水瑠璃子に違いない!
ハルト「ってことは何? 悪役令嬢ルートを取ると、俺は母さんと結婚することになるわけ!?」
どれだけ見た目が好みでも、これは生理的に無理だ!
ハルト「も、申し訳ないが、少々所用があって・・・・・・失礼!」
王妃「!? お待ちなさい、ハルト!」
俺は急いでその場から逃げ出すと、王族のみが知る秘密通路を通ってこっそりと城下に向かった
〇ファンタジーの学園
ハルト「くっ! こうなったらとことん確認してやる!」
ハルト「記憶によると、今この時期にはヒロインはまだ男爵家に引き取られていなくて、市井にいるはず・・・・・・あっ、あの神殿だ!」
俺が向かった先、そこには確かにヒロインがいた。
だがそれは、どう考えても──
ハルト「嘘だろ? あれは父さんだ! 父さんが美少女になって男たちにちやほやされているぞ!?」
――前世の父・清水剛志に違いなくて
グレース「あら。あの子、うちのお父さんじゃないの!」
ハルト「母さん!? 母さんも全部思い出して・・・・・・!? というか、どうやってここに!?」
グレース「そんなことはどうでも良いのよ! それよりもあんた、私と結婚するなんて嫌でしょ?」
グレース「私だって嫌よ。私は今も昔もお父さん一筋なんだからね。だからさあ──」
グレース「私とお父さんがまた一緒になれるように、上手く取り計らって頂戴よ! 今のあんたは王子様なんだから何とか出来るでしょ!」
ハルト「はああっ!?」
ってことは、何だ? 俺は侍従(しんゆう)との男色疑惑を払拭し、悪役令嬢(かあさん)との婚約を回避し──
――悪役令嬢(かあさん)とヒロイン(とうさん)の百合ルートを開拓し、そして最終的に自分の恋を見つけないといけないのか!?
ハルト「ははっ、こんなの無理ゲーじゃね? 俺の異世界生活、ハードモードすぎるだろ!」
俺はもう、壊れた機械人形のようにただ笑い続けることしか出来なかった
レックの正体が分かって「だったらハルトの両親は王様と王妃か・・」と思っていたらまさかのグレースとヒロインとは!転生先の配役を考えた神様もなかなか無茶なことをなさるもんだ。って言うか完全にハルトで遊んでますよね。
あたらしい世界でも、前世での友達だったり、知ってる人がいるんだったら心強そうだなあと何となく思いました😄
でも親とそういう感じになるのは、気が引けちゃいますね🤣というか、厳しいですよね!😂
本当に、おっしゃる通り、このゲームはハードモード過ぎますね笑
自分の両親と…想像したら無理です。
人間に植え付けられている生理的に無理ですね。