〇広い改札
二瀬野コウスケ「今日も疲れた・・・」
女の子「パパ、お帰り」
若い女性「お疲れ様」
サラリーマン「出迎えありがとう」
二瀬野コウスケ「うらやましい」
二瀬野コウスケ「僕にも待ってる人がいればな」

〇中規模マンション

〇マンションの共用廊下

〇玄関内
？？？「お帰りなさい」
二瀬野コウスケ「え!?」
二瀬野コウスケ「間違えました！」

〇マンションの共用廊下
二瀬野コウスケ「いや、僕の部屋だぞ」

〇玄関内
二瀬野コウスケ「あの──」
？？？「ご飯にする？」
？？？「お風呂にする？」
？？？「それとも──」
？？？「はい、カット！」
二瀬野コウスケ「わ！」
二瀬野コウスケ「あなた方は誰ですか!?」
？？？「私は『ヨシノ』」
ヨシノ「君に大事な話があるんだ」
二瀬野コウスケ「話？」
ヨシノ「屑石君のことは知ってるよね？」
二瀬野コウスケ「僕の親友ですけど」
ヨシノ「実は彼が失踪してね」
二瀬野コウスケ「え！」
ヨシノ「もう一カ月は経つ」
二瀬野コウスケ「一体何が・・・」
ヨシノ「私はしがない金貸し屋でね」
ヨシノ「彼は借金をしていたんだ」
二瀬野コウスケ「はあ」
ヨシノ「これがその契約書」
ヨシノ「保証人の名を見てごらん」
　　保証人：二瀬野コウスケ
二瀬野コウスケ「僕!?」
二瀬野コウスケ（そういえば──）

〇大衆居酒屋
屑石「ここにサインしてくれないか？」
二瀬野コウスケ「いいけど何の書類？」
屑石「同窓会名簿さ」

〇おしゃれなリビングダイニング
二瀬野コウスケ（あれは契約書だったのか）
二瀬野コウスケ「くそっ！」
ヨシノ「気持ちは分かる」
二瀬野コウスケ「なぜ正直に相談してくれなかったんだ！」
二瀬野コウスケ「お金なら僕が貸したのに！」
ヨシノ「とんでもない『お人好し』」
ヨシノ「聞いてた通りだ」
二瀬野コウスケ「え？」
ヨシノ「こっちの話さ」
ヨシノ「それで──」
ヨシノ「君には借金の肩代わりをしてもらう」
二瀬野コウスケ「彼はいくら借金を？」
二瀬野コウスケ「僕が親友の力に──」
ヨシノ「１億」
二瀬野コウスケ「へ」
ヨシノ「だから１億円だよ」
二瀬野コウスケ「ええ!?」
二瀬野コウスケ「一生かかっても払えませんよ!?」
ヨシノ「だろうね」
ヨシノ「こういう場合、出稼ぎに行くことが多い」
二瀬野コウスケ「出稼ぎ？」
ヨシノ「マグロ漁船さ」

〇漁船の上

〇おしゃれなリビングダイニング
二瀬野コウスケ「か」
二瀬野コウスケ「体の強さには自信があります！」
ヨシノ「心意気は買うが──」
ヨシノ「その細腕じゃ無理だな」
ヨシノ「そこで、別の返済方法を考えた」
ヨシノ「あれを見てごらん」
二瀬野コウスケ「カメラ？」
ヨシノ「これから君は──」

〇黒
ヨシノ「生配信されるんだ」

〇SNSの画面
ヨシノ「『トゥルーファミリーちゃんねる』へようこそ！」
ヨシノ「これからお見せするのは、究極のリアリティショーです」
　　リアリティだってw
　　どうせやらせだろ
ヨシノ「よくある『リアリティ風』番組とは違います！」
ヨシノ「私たちは、とある家に隠しカメラを仕掛けました」
ヨシノ「それを生配信します！」
　　ちょw
　　コンプラ違反
　　まあ、ここ闇サイトだしw
ヨシノ「では出演者を紹介しましょう」
ヨシノ「二瀬野コウスケ」
ヨシノ「とってもお人好しなサラリーマン」
ヨシノ「二瀬野リラ」
ヨシノ「コウスケの優しい人柄に惚れた新妻」
　　リラちゃん美人w
　　夫はパッとしない顔
ヨシノ「リラは結婚を機に仕事を辞め──」
ヨシノ「今日からコウスケと暮らし始めます」
ヨシノ「皆様」
ヨシノ「この家族の人生を、心ゆくまでお楽しみください！」

〇おしゃれなリビングダイニング
二瀬野リラ「一緒に暮らせるなんて夢みたい」
二瀬野コウスケ「そ、そうだね」
二瀬野コウスケ（もう配信されてるんだよな）

〇おしゃれなリビングダイニング
ヨシノ「私は闇サイトも経営していてね」
ヨシノ「今の時代、視聴者が求めるモノは何だと思う？」
二瀬野コウスケ「さあ」
ヨシノ「究極のリアルさ」

〇コンサート会場
　　オーディション

〇クルーザーのデッキ
　　恋愛

〇おしゃれなリビングダイニング
ヨシノ「他人の人生を覗き見したい欲望は、誰しも持っている」
二瀬野コウスケ「応援するため？」
ヨシノ「あるいは、誹謗中傷するため」
二瀬野コウスケ「・・・」
ヨシノ「君には彼女と偽の家族になり──」
ヨシノ「生活を生配信してもらう」
ヨシノ「そこで得られた収入で返済するわけさ」
二瀬野コウスケ「収入？」
ヨシノ「闇サイトにも広告収入があってね」
ヨシノ「バズれば一攫千金のチャンス！」
二瀬野コウスケ「本当ですか!?」
ヨシノ「ああ」
ヨシノ「１年で１億円を稼いだ人もいる」
二瀬野コウスケ「すごい」
二瀬野コウスケ「──ぜひ」
ヨシノ「ん？」
二瀬野コウスケ「ぜひやらせてください！」
ヨシノ「もちろん」
ヨシノ「ではここにサインを──」

〇おしゃれなリビングダイニング
二瀬野コウスケ（緊張するけど──）
二瀬野コウスケ（借金返済のために頑張ろう！）
二瀬野リラ「コウスケさん」
二瀬野リラ「今日は同居開始記念だから──」
二瀬野リラ「腕によりをかけました！」
二瀬野コウスケ「す、すごい！」
二瀬野リラ「どうぞ召し上がれ」
二瀬野コウスケ「いただきまーす」
　　リラちゃん有能w
　　シェフじゃんw
二瀬野コウスケ「すっごく美味しい！」
二瀬野リラ「えへへ」
二瀬野コウスケ（リラさん、いい人そうで良かった）

〇部屋の扉
二瀬野リラ「それじゃあ寝ましょうか」
二瀬野コウスケ「は、はいっ！」
　　おい、カメラが切り替わらないぞ
　　この先はNGだろw
　　闇サイトなのに健全で草

〇ホテルの部屋
ヨシノ「お疲れ様」
二瀬野コウスケ「わ！」
二瀬野コウスケ「ヨシノさん」
ヨシノ「ここにカメラはないから、リラックスしてくれ」
二瀬野コウスケ「は、はい」
ヨシノ「視聴者の反応は見たかい？」
二瀬野コウスケ「いえ、そんな余裕は・・・」
ヨシノ「なかなかの評価だったよ」
二瀬野コウスケ「良かったあ」
ヨシノ「コメントはよく見ておくといい」
ヨシノ「バズらせるヒントになるからね」
二瀬野コウスケ「なるほど・・・」
ヨシノ「では今日の成果を発表しよう」
ヨシノ「借金の残高は──」
ヨシノ「１億10万円!!」
二瀬野コウスケ「へ」
二瀬野コウスケ「増えてるっ!?」
ヨシノ「理由は君の『妻』に聞くといい」
二瀬野コウスケ「え？」
ヨシノ「それじゃあ明日もよろしく」
二瀬野コウスケ「リラさん、何か知ってるんですか？」
二瀬野リラ「あー」
二瀬野リラ「私の生活費もあんたが支払う契約だからね」
二瀬野コウスケ「え？」
二瀬野リラ「契約書に書いてるでしょ」
二瀬野コウスケ「・・・本当だ」
二瀬野コウスケ「でも、１日で10万円なんて！」
二瀬野リラ「きっと料理のせいね」

〇マンションの共用廊下
二瀬野リラ「はーい」
デリデリ配達員「デリシャスデリバリーです」
二瀬野リラ（あ、前の家でも配達してくれてた人だ）
二瀬野リラ「いつもありがとうございます」
デリデリ配達員「いつもより豪勢な料理ですね」
二瀬野リラ「ええ」
二瀬野リラ「結婚初日なんです」

〇ホテルの部屋
二瀬野リラ「高級料理店のデリバリーを頼んだの」
二瀬野コウスケ「手料理じゃなかったんだ」
二瀬野リラ「私料理下手だし」
二瀬野リラ「それに、普通の料理では『いいね』がもらえない」
二瀬野コウスケ「え？」
二瀬野リラ「私はね」
二瀬野リラ「『いいね』のために生きてるの」

〇教室
　　昔──
　　友達に無視されるイジメにあってね
　　でも、SNSだけは違った

〇SNSの画面
二瀬野リラ「有名カフェのデリバリーでランチ中♥」
　　美味しそう！
　　私も頼んでみようかな
　　面白い投稿をすれば『いいね』がもらえる
　　みんなの反応が快感になっていったわ
　　ねえねえ
　　次は僕と一緒に食べようよ♥
　　まあ
　　キモいコメントする奴もいたけどね

〇黒
　　もっともっと『いいね』がほしい
　　そう考えていた時──
　　この配信の仕事を持ちかけられたの

〇ホテルの部屋
二瀬野リラ「私が返済に協力する義理は──」
二瀬野コウスケ「う・・・」
二瀬野リラ「え」
二瀬野コウスケ「無視なんてひどすぎる！」
二瀬野リラ（なんか感情移入してる）
二瀬野コウスケ「分かりました！」
二瀬野コウスケ「リラさんの心が癒されるように──」
二瀬野コウスケ「僕も『いいね』獲得を手伝います！」
二瀬野リラ「はあ」
二瀬野コウスケ「とりあえず、今日は疲れたので寝ます」
二瀬野リラ「変な奴・・・」

〇中規模マンション

〇マンションの共用廊下
二瀬野リラ「いってらっしゃい」
二瀬野コウスケ「いってきます」
二瀬野コウスケ（本当に家族ができたみたいだ）
二瀬野コウスケ「今日も頑張るぞ！」

〇中規模マンション

〇おしゃれなリビングダイニング
二瀬野リラ「そろそろアイツが帰ってくる時間か」
二瀬野リラ「今日も視聴者にバレないように、こっそりデリバリーを──」

〇マンションの共用廊下
デリデリ配達員「デリシャスデリバリーです」
二瀬野リラ（またこの人か・・・）
二瀬野リラ「まだ頼んでないですけど？」
デリデリ配達員「はい、知ってますよ」
二瀬野リラ「え？」
デリデリ配達員「僕に無断で結婚するなんて許せないな」
デリデリ配達員「SNSで『一緒にご飯を食べよう』と約束してたのに」
二瀬野リラ（まさか・・・）
二瀬野リラ（いつもキモいコメントしてた奴!?）

〇マンションの共用廊下
二瀬野コウスケ「ふう、今日も疲れた」
二瀬野コウスケ「この声、リラさん!?」

〇おしゃれなリビングダイニング
二瀬野コウスケ「誰だ!!」
デリデリ配達員「邪魔が入ったか」
　　お、なんか修羅場ってる
　　昔の男とか？
二瀬野リラ「助けて！」
二瀬野リラ「この人、ストーカーなの!!」
デリデリ配達員「えー？」
デリデリ配達員「僕たちは愛し合ってるのに」
二瀬野リラ「ひっ」
　　きめえええ！
　　これやらせ？
　　警察に通報はよw
二瀬野コウスケ「リラさん、僕に任せて！」
二瀬野リラ「え」
二瀬野リラ（実は喧嘩は強──）
デリデリ配達員「オラッ！」
二瀬野コウスケ「ぐ・・・！」
二瀬野リラ（よ）
二瀬野リラ（弱過ぎ）
二瀬野コウスケ「まだまだぁ！」

〇玄関内
デリデリ配達員「ハァハァ」
デリデリ配達員「なんてタフな野郎だ」
二瀬野コウスケ「体の強さには自信があるんだ」
デリデリ配達員「だが、コレなら──」
二瀬野コウスケ「なっ！」
デリデリ配達員「死ねえ！」
デリデリ配達員「何っ！」
？？？「警察だ！」
？？？「大人しくしろ!!」
二瀬野コウスケ「た、助かった・・・」
？？？「大丈夫ですか？」
二瀬野コウスケ「はい」
二瀬野コウスケ「大した怪我じゃないので」
二瀬野コウスケ「それより、妻を」
二瀬野リラ「私も平気です」
　　コウスケの体は金属製かw
　　やらせ確定
　　どっちにしろ面白いw

〇タクシーの後部座席
デリデリ配達員「ちくしょう！」
デリデリ配達員「俺が逮捕される理由なんてない！」
？？？「うん、逮捕はしないよ」
？？？「私は警察じゃないからね」
デリデリ配達員「へ」
ヨシノ「私はしがない金貸し屋さ」
ヨシノ「君のおかげで配信は盛り上がったが──」
ヨシノ「また邪魔されても困る」
ヨシノ「矯正が必要のようだね」
ヨシノ「君はなかなかの体格だ」
ヨシノ「なので──」

〇黒
ヨシノ「マグロ漁船行き決定♥」

〇おしゃれなリビングダイニング
二瀬野リラ「なんで助けてくれたの？」
二瀬野コウスケ「困ってる人は助ける」
二瀬野コウスケ「当たり前のことだよ」
二瀬野リラ「あんたのお人好し加減にはあきれたわ」
二瀬野コウスケ「ん？」
二瀬野リラ「この先『いいね』獲得に協力してくれるなら──」
二瀬野リラ「返済を手伝ってもいいわよ」
二瀬野コウスケ「本当に!?」
二瀬野リラ「うん」
二瀬野リラ「料理もたまには作るけど──」
二瀬野リラ「まずくても知らないわよ」
二瀬野コウスケ「ありがとう！」

〇おしゃれなリビングダイニング
二瀬野リラ「今日の晩ご飯はカレーにしました」
二瀬野リラ「どうぞ召し上がれ」
　　あれ？
　　昨日と違って普通
　　二日目にして手抜きw
二瀬野リラ（私の手作りだし──）
二瀬野リラ（これでは『いいね』もらえないか）
二瀬野コウスケ「今日もご飯ありがとう！」
二瀬野リラ「うん」
二瀬野コウスケ「すっごく美味しい！」
二瀬野リラ（まじ？）
二瀬野リラ（──って別に美味しくないじゃん）
二瀬野コウスケ「リラさん、おかわり！」
二瀬野リラ（けど・・・）
二瀬野リラ（なんだか悪くない気分）

〇中規模マンション
二瀬野リラ「温め直すから待ってて」
ヨシノ「借金の残高は──」
ヨシノ「9990万円!!」

〇中規模マンション

〇おしゃれなリビングダイニング
二瀬野コウスケ（こんな朝早くに誰だ？）

〇マンションの共用廊下
？？？「・・・」
二瀬野コウスケ「知ってる子？」
二瀬野リラ「ううん」
？？？「パ」
二瀬野コウスケ「パ？」
？？？「パパー！」
「え」

〇空
「ええええ!!」

〇SNSの画面
ヨシノ「『トゥルーファミリーちゃんねる』へようこそ！」
ヨシノ「今日は新しい出演者を紹介します」
ヨシノ「二瀬野エイサイ」
ヨシノ「なんと、コウスケと元カノの子供！」
「という設定」

〇おしゃれなリビングダイニング
二瀬野コウスケ「今日学校じゃないの？」
二瀬野エイサイ「行く意味ないでしょ」
二瀬野エイサイ「僕は楽して稼いで、FIREするのが夢なのさ」
二瀬野コウスケ「はあ!?」

〇SNSの画面
ヨシノ「さらに！」
ヨシノ「この先も色んなトラブルが目白押し！」

〇おしゃれなリビングダイニング
？？？「コウスケ〜」
？？？「父さんが久々に会いに来たぞ」
二瀬野リラ「あんた誰？」
？？？「お前こそ？」

〇汚い一人部屋
？？？「これが闇サイトか」
？？？「・・・」
？？？「これ、隣の二瀬野家じゃん!?」

〇SNSの画面
ヨシノ「皆様」
ヨシノ「この家族の人生を、心ゆくまでお楽しみください！」