キョウコ(脚本)
〇団地
深夜、2時──
〇女の子の一人部屋
この時間、誰もが寝静まっている。
・・・わけではなかった。
弦巻 京子「ねぇ、起きてる?」
弦巻 京子(ツルマキ キョウコ)は隣にささやきかけた。
同じベッドにはクラスメイトの仲野陽太(ナカノ ヨウタ)がいた。
仲野 陽太「うぅ・・・ッ」
弦巻 京子「ねむれなくなっちゃった」
仲野 陽太「・・・」
仲野 陽太「・・・Zzz」
陽太は起きてはくれなかった。
弦巻 京子「も〜」
さみしい。
横に置いていたスマホを京子は手に取る。
弦巻 京子(TapNovelでも読もう)
作品を何か探す。
変わったものが読みたくて奥の奥まで見て回った。
『2−A』
弦巻 京子「変なタイトル」
弦巻 京子「学校のクラス?」
京子は学校のクラスを連想した。
2−Aは自分のクラスなのだ。
弦巻 京子「これにしよ」
紹介文のイントロダクション欄にはこう書いてあった。
“人を異世界に転生させる秘密のタップノベル”
エピソードの欄にはキャラの名前なのか。
“アヤネ”
とあった。
Let's Tap
タップして読み始める京子。
作品への期待はすぐ裏切られた。
それは非常に読みづらかった。
弦巻 京子(きっと素人の作品だ)
読んでいて、だんだん眠くなってしまう。
だが物語はまだ全然途中だ。
主人公のアヤネはまだ異世界に転生していなかった・・・
弦巻 京子「・・・」
弦巻 京子「・・・Zzz・・・Zzz」
〇団地
翌朝──
陽太はいつのまにか帰っていた。
〇川に架かる橋
京子は高校へ登校途中、
いつものように友達をこの橋の上で待っていた。
名前は伊藤 絢音(イトウ アヤネ)。
昨夜の小説の主人公と同じ、
“アヤネ”だった。
弦巻 京子「待っている間にあのアヤネの話の続き、読んじゃおッ」
物語の続きを読み始める。
弦巻 京子「・・・」
弦巻 京子「あんまり面白くない」
ため息を吐く京子。
油断すると陽太のことを考えてしまう。
彼とは一緒に登校できない理由があった。
弦巻 京子「早織と早く別れればいいのに」
つい呟いていた。
そんな時、横断歩道の向こうから絢音の声が聞こえてくる。
伊藤 絢音「京子!」
京子は小説を読み下を向いていた顔を上げる。
ちょうど小説の方も区切りが良かった。
絢音は早く友達である京子のところに行きたくて、
赤信号を無視した。
伊藤 絢音「おはよう〜!」
それで車と追突。
〇川に架かる橋
道路に転がった絢音はピクリとも動いていない。
弦巻 京子「絢音〜」
京子はさっき読んでいた小説のことを思い出す。
タップした最後の場面。
それが車に轢かれて異世界転生した場面だったからだ。
小説の主人公、アヤネという女子高生が・・・
今、目の前の絢音のように。
〇葬儀場
絢音の葬儀──
彼女の遺影の前でクラスで一番美人、
冬馬早織(トウマ サオリ)が手を合わせていた。
悲しみに耐えきれず泣き崩れる彼女。
それをある男子が支える。
当然、カレシである陽太だ。
弦巻 京子(早織は知らない)
弦巻 京子(私と陽太の秘密の関係を)
陽太が浮気相手の方を見る。
仲野 陽太(仕方ないだろ。カレシなんだから)
表情で弁解していた。
弦巻 京子(それより今は)
あの小説のことだ。
弦巻 京子(“絢音とアヤネ” 偶然の一致?)
京子は我慢できず、
不謹慎だけどスマホを見てしまう。
弦巻 京子(35!)
小説のエピソードの数は京子のクラス『2−A』の生徒数とちょうど同じだった。
そして、エピソードのタイトルはやはり生徒の下の名前になっている。
〇団地
担任は京子を叱って自宅に帰した。
〇女の子の一人部屋
弦巻 京子「紹介文にはこう書いてある」
“人を異世界に転生させる秘密のタップノベル”
弦巻 京子「主人公は転生する前に現実でどうなるのが普通だっけ?」
京子はこの『2-A』以外のTapNovel作品を読んでいく。
弦巻 京子「・・・」
弦巻 京子「みんな、この世界から死んで転生している」
〇黒
弦巻 京子「この小説『2-A』のエピソードを誰かがタップして読んでいくと、」
弦巻 京子「そのエピソードのタイトル名であり、主人公の生徒は異世界に行かされる・・・」
弦巻 京子「そこに書いてある通りの死に方で」
弦巻 京子「フフッ」
弦巻 京子「そんなわけあるはずないよね」
苦笑する京子。
「試せばいいじゃん」
誰かにそう言われた気がした。
でも、京子はわかっていた。
自分の心の声だと。
弦巻 京子「そんなこと、しないよ!」
弦巻 京子「私がタップして誰かが死ぬのはもうイヤ」
弦巻 京子「でも・・・」
弦巻 京子「フフッ」
〇教室
次の日──
弦巻 京子「早織」
冬馬 早織「なに、どうしたの?」
弦巻 京子「面白そうなTapNovel」
弦巻 京子「・・・見つけたの」
弦巻 京子「読んでもらいたくて」
冬馬 早織「どんなの?」
弦巻 京子「これなんだけど」
弦巻 京子「主人公の名前があなたと同じなの」
冬馬 早織「え?」
弦巻 京子「ほら、エピソードにサオリって名前が・・・」
冬馬 早織「ホントだ〜」
冬馬 早織「さっそく読んでみるね」
弦巻 京子「うん」
自分の席に戻る京子。
弦巻 京子(私は小説を教えただけ)
弦巻 京子(本当に死ぬか、わからないし 死んだって異世界では生きてんだから)
仲野 陽太「早織と何話したんだ?」
浮気がバレるのを心配して陽太が京子の元にやってくる。
弦巻 京子「何でも」
弦巻 京子「ただの小説の話よ」
仲野 陽太「そっか」
安堵した陽太は京子の耳元でささやく。
仲野 陽太「あのさ今日、」
仲野 陽太「京子んち、行っていい?」
弦巻 京子「いいけど・・・」
仲野 陽太「どうした・・・?」
弦巻 京子(何で早織と別れてくれないの?)
仲野 陽太「う゛ッ」
突然、陽太はうめき声を上げた。
〇魔法陣2
仲野 陽太「うわぁ〜〜ッ!!」
魔法らしきもので陽太は消滅した。
〇教室
教室は騒然となった。
同級生たち「今のは何だ!? 魔法か??」
京子は真っ先に早織の反応を伺う。
早織も驚いていた。
弦巻 京子(もしかして早織、)
弦巻 京子(ヨウタのエピソードを読んだんじゃ?)
弦巻 京子(それか、まさか・・・)
〇黒
弦巻 京子「私と早織の他に、 この小説を読んでる人がいるのかも・・・」
弦巻 京子「もうすでに私のエピソード、 キョウコの話が読まれていたら」
弦巻 京子「次のタップで殺される!」
弦巻 京子「かも!」
Let's Tap
今、私
誰かにタップされた気がする
なるほど、それぞれのエピソードがあるんですね。
まるで人生のような、でもそれを誰かが選んでしまうと現世は死になってしまったり、突然転生させられてしまったりする…。
転生させられる側としてはたまったものじゃないですね!
確かに、異世界転生は主人公の死からスタートするものが主ですね。作品舞台が淡々と描かれている分、ノベルのホラー要素が際立って恐ろしさを感じます。
こわ〜〜〜!!と叫びそうになりました。確かに彼氏さんの名前のエピソードがあったら読んでしまいそうですね…。最後のタップの罪悪感がリアルです。陽太くんが居なくなって不安が一気に増える終盤や、フッと終わるラストなど、スリルを楽しませていただきました。弦巻さんという苗字も雰囲気があって素敵です。