家族というか甥だけど

しょこみんと

読切(脚本)

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〇一人部屋
  はっ。遅刻?!
  私は慌てて飛び起きる。
  ついさっき目が覚めて「あと10分」と思いながら目を閉じ、気がつけば2度寝していた。
  意識を取り戻すと、10分と言わず、30分はたっている予感がした。
  時計を見ようと枕元のスマホを探すが、ない。
「さとし! 早く起きなさい」
  大きな声で、誰かが別の誰かを呼ぶ声が聞こえてくる。
さとし「さとし? えっ。誰?」
  私は1人暮らしのOLのはずだ。今日は月曜日、急いで出勤の準備をしなければならないのだが。誰か泊めたっけ?
  私は体に違和感を覚えて、体をまさぐる。
  小さい手足。
  平たい胸。
  おかしい。
  周囲を見渡すと、見知らぬ寝室。
さえ「さとし!」
  突然、寝室の扉が乱暴に開かれ、弟の嫁のさえさんが現れ、仰天する。
さとし「さえさん!」
さえ「おかしな呼び方しないの。さ、早く着替えて」
  私は状況がのみこめないまま、言われた通りに差し出された衣服に着替える。
  ひょっとして、これが噂の転生・・・。
  いや、入れ替わりか。
  鉄板すぎるネタだが、ちょっとしたアイデアを捻る程度には使えるかなと。
  何の話をしてるんだ。
  さえさんに追い立てられるように通園の準備をするさとしくん、つまり私。

〇車内
  さえさんの運転する自動車の助手席に乗って、シートベルトを締める。
さえ「今日はいい子だね。どうしたの?」
  さえさんが聞いてくる。
  そういえば、さとしくん、通園嫌がってるって言ってたっけ。
さとし「うん!」
  私は元気に適当に返事をする。
  さえさんもそれ以上は突っこんでこない。
  小さな子供の気まぐれだと思っているのだろう。
  中身が義姉だとは露ほどにも思っていない。

〇ボロい校舎
  さとしくんが幼稚園の一室に放たれると、すでにそこには先客がいて仲良く遊んでいる。
  仕方ないので、機関車のおもちゃを持って、その子たちに合流する。
  機関車のおもちゃなら男の子っぽいよね?
さとし「あそぼ!」
  先客たちは不思議そうな目でさとしくんを見るが、「うん!」と返事をして入れてくれる。
  さとしくんがよく遊ぶ子たちかどうかも分からないが、無事仲間に入れたので良しとする。
  しばらく電車を線路に走らせて眺めていると、先生が近づいてくる。
幼稚園の先生「さとしくん、みんなと遊んでていい子だね」
  また褒められた。
  これがいわゆる強くてニューゲームだ。
  ちょっと古いか。
  しかし、誰がさとしくんの仲の良い子かも分からないので、適当な子たちと遊んだだけ。
  なのに名指しで褒められるというのも解せない。
  なぜさとしくんだけ?
  ふと、さえさんの言葉を思い出す。
  さとしくんは、集団行動が苦手だと注意されたとかいってたな・・・。
  集団行動が苦手なのは個性であり、悪いことではないので、注意されることでもない。
  確かに。
  さえさんの主張はその通り。
  私は集団行動が苦手だと指摘されたことはそういえばないな。
  高校生あたりから友人が少なくなり、1人で過ごすことが多かったので、集団行動は苦手だと自負していたが。
  むしろ集団行動は得意な方だが、全力でコミットするため、エネルギーがすぐに枯渇して疲れるので、1人を好むだけなのか。
  さとしくんはまだ幼稚園生だ。
  この先果てしなく続く集団行動にいつまでついていけるのかな、と気の毒になった。
  少なくとも、私のときは果てしなく続くように感じてたし、途方に暮れもした。
  そして、私はいつまでさとしくんの代わりを務めるんだろうか・・・。
  恵まれているとはいえない30代後半独り身OLだけど、また学校生活に戻るのは嫌だ。
  結婚して子供を持つ願望がないとは言わない。
  が、魔が蔓延る学校に関わるのが嫌で、婚活の子供希望の欄にも、有りにチェックできないでいるくらいだ。
  そんなことを考えながら、私の2度目の幼稚園初日が終わり、さえさんが迎えに来るのを待つのだった。

コメント

  • さとしくんは30代OLの体に入っているのかな?自分の体が甥になっていたらまずそこが一番気になります。さえさんからしたら、自分の息子の中身が義姉!と分かったらこれ以上ないほどのホラーでしょうね。この先の展開が猛烈に気になりましたが、読切なんですね。

  • 大人が子供の姿になる探偵さんは居ましたが、実際にそうなったらと考えるとすごく辛そうです。
    とにかくレベルを合わせないといけない、と考えると頭が痛くなりそうですね…。

  • もし自分の身にこの状況がふりかかったら・・?と想像しながら読み勧めました。違う立場の人間に成り代わり、違うポジションで同じ景色をみるのもなかなか興味深いですね!

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