深夜、人知れぬ場所で

リュック

ステージ(脚本)

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〇ビジネス街
嘉山命地「ついた・・・・・・ここだ」
  子供が知育玩具で並べたようなビル群の一つの前で立ち止まる。
  他人にはオフィスが箱いっぱいに詰められただけの建物に見えるだろう。
  僕には違う。
  テーマパークのゲートのように見えるのだ。
嘉山命地「夢の世界へレッツゴー・・・・・・なんてね」
  寂しさを紛らわすために、お遊戯会に出てきそうなことを呟く。
  周りに人影が無いことを確認して、建築物と建築物の隙間に入り込む。

〇ビルの裏
  ざらざらした硬いものが、上着の袖越しに感じられた。
  壁に腕を擦ってしまったようだ。
  袖が汚れて無いか不安になる。
  結構いいお値段したんだけどなぁ・・・・・・この服。
  しょんぼりしながら進むと、腕を伸ばしたら届く距離に室外機が見えた。
嘉山命地「あったあった、目印」
  室外機の正面にある壁に手をついて、手の中心辺りに体の力を送り始める。
  瞬間、胸と足が何かに物凄い力で押さえられ、服が音を立てるくらい強い風が全身をなで始めた。

〇中世の街並み
  ふわふわと宙に浮いている感覚から一転、足に硬い地面が帰ってきた。
  次いで砂の香りと、木の落ち着く匂い。
  ゆっくり目を開けると、木造建築、簡素な服を纏った二足歩行を行うSF映画に出てきそうな生命体が歩いている。
  やっと到着したようだ。
  ごく一部の人間しか知らない秘密の世界。
  通称『裏』。
  ここを知れるのは宝くじの一等を引く可能性よりずっとずっと低い。
  加えてこの世界を『表』で話すのはご法度、話した相手、語った張本人も永遠に地球からお別れ。
  知られていない大きな理由もそれがあるからだろうね。
嘉山命地「ふぅ・・・・・・怖かったぁ・・・・・・」
  自然に胸を撫で下ろす。
  何度経験しても、あれには慣れない。
  スポーツカーで高速道路を走ると、こんな感じなんだろうなぁ、と思う風を全身で浴びることになるのだ。
  もうジェットコースターなんて怖くないんじゃないか、て乗った結果、号泣したのはここだけの話。
嘉山命地「さて・・・・・・この辺に居るはずなんだけどなぁ・・・・・・」
  待ち合わせしている『裏』の友だちがいるんだけど・・・・・・もしかして。
嘉山命地「やれやれ・・・・・・そっちがその気ならこっちもさせてもらうよ」
  自分の周りにある砂、木々、自然の物を胸の奥深くで感じ、音を聞く。
  徐々にそれは声に変化し始めて各々の個性を話し始めた。
  声をしっかりと聞き取り、それぞれの主張に合わせて体の力を抜き、砂ぼこり、組み立てられた木と一体化する。
  もはや僕は建物、大地の一部、周囲から見ても誰も見つけられない。
???「だぁー! 参った参った! 出てきてくれ! メイジ!」
  声と同時にナマケモノのような顔をした獣人が現れる。
  僕はそれを確認してから、『一致』を解除し
嘉山命地「マリトン! だったら最初から隠れないでくれよ!」
  『裏』での貴重な友人に返事をする。
マリトン「悪い悪い、今日こそお前さんの『一致』に勝てんじゃないか、て思って、ついな」
  後頭部を掻きながら述べ、友は空いている手で肩をすくめた。
嘉山命地「全く・・・・・・君は毎度無駄な勝負をしてくるよな」
  これまで色んな勝負をしてきた。
  かけっこにポーカー、ブラックジャック。
  上げたらキリがない。
マリトン「はは! 良い思い出だろ? にしてもお前『表』の住人とは思えないくらい『一致』とか認識阻害系の『技』上手いよな!」
  今さらだけど、『一致』て言うのはカメレオンのように周囲と一体化して周りから見えなくする事。
  ・・・・・・もしかして『表』で使えばエッチなことができると思った?
  残念、『表』じゃ山とか行かないとなかなかできない。
  都会でも街路樹とかはあるけど、大抵の物は人間が自然を真似して作ったから、声を聞くのができない。
  それで『技』は魔法、って説明すればわかりやすいかな。
  厳密には違うんだけど、概念自体は近い。
  異なる点は自分の感覚、体からでる気配、それに集中して『技』は発動する。
嘉山命地「自分を守る術を見つけないと人間はこっちじゃすぐ死んじゃうよ」
マリトン「アハ! そういやそれもそうだ!」
  人間が『裏』で生きるにはよほど腕っぷしが強いか、身を隠すのが上手い必要がある。
  いや、これに関しては日本が平和なだけかもしれない。
  『表』でも国によっては子供が下手にうろつくと誘拐して売られる、なんてこともいまだにあり得る。
  僕はひょんな事からこっちにきたけど、後者を選んだ。
  誰かを傷つけるのは苦手でね。
マリトン「んで? 今日はどうする?」
  人差し指を立てながら聞いてきた。
  羽を伸ばすために今夜、寒さに耐えてこっちにきたのだ。
  う~んと悩むふりをして
嘉山命地「そうだね、やっぱカジノ!」
マリトン「やっぱか! 良いぜ! 乗った!」
  『裏』のカジノはなかなかリスキーな物があって面白い。
  サイコロを使ったギャンブルは勿論、ルーレットも、そしてイカサマが仕込まれたカードゲーム。
  そのイカサマを相棒と暴いて一騒ぎ起こす。
  それが最高に楽しい。
マリトン「よーし! そうと決まりゃあ、あそこに行くぞ! 最近やってるんじゃないかって噂が耐えねぇ!」
嘉山命地「あ! 追いてかないでくれよ!」
  道路に飛び出した友人を走って追いかける。
  ショータイムの始まりだ。

コメント

  • 独特な世界観を楽しませてもらいました。
    きっちりと作りこんだ設定ですので、読んでいて奥行きが感じられる、続編があるのかなと気になる物語ですね。

  • マリトンの存在が物語の色を変えてくれたような気がします。社会の裏と表をこうして表現するのも興味深いですね。私も二つの世界を試してみたいです。

  • メイジさん、穏やかそうな方かと思いきや、度胸のある遊び方ですね!カジノでもいいコンビなんだろうな、と予想できる楽しい会話でした。五感に訴えてくる分かりやすい描写がよかったです。『裏』に行く瞬間の足元の説明が特に好きです。

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