お正月と姫始め

市丸あや

お正月と姫始め(脚本)

お正月と姫始め

市丸あや

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〇本棚のある部屋
棗藤次「んー・・・」
  ・・・窓から溢れる陽の光と、仄かな出汁の匂いで、藤次は目覚める。
棗藤次「うわっ・・・ もう11時やん。 年末ハードやったし、久しぶりにこんなにぐっすり寝たな」
  ボリボリと頭を掻き、盛大に欠伸をしながら階下に降りて居間へ行くと・・・

〇狭い畳部屋
棗絢音「あら、あけましておめでとう! 藤次さん!! 昨夜沢山呑んでたけど、大丈夫?」
棗藤次「!」
棗絢音「ん? なに? 酔い覚ましに朝風呂でも入る? 冬至の柚子が余ってたから柚子湯にしてるから、気持ちいいわよ?」
棗藤次「あ、や、 う、うん。 あけまして、おめでとう。 風呂・・・入って来よ、かな」
棗絢音「じゃあこれ、新しい部屋着ね! はい!」
棗藤次「ああ・・・うん」
  ふえっ・・・あーん!!
棗絢音「あ! 藤太起きちゃった!! ミルクかな? じゃあ藤次さん、ごゆっくり」
棗藤次「お、おう・・・」

〇白いバスルーム
棗藤次「あー・・・ 温い・・・」
  爽やかな柚子の香りのする湯船に肩まで浸かり、藤次は白んだ天井を見つめる。
棗藤次「・・・ワシホンマに、結婚して、家族持ったんやな・・・」
  ・・・華やかな着物姿の愛する妻。
  食卓には豪華なお節に、ボーナスで買ったとっておきの日本酒。
  そして、居間に新しく置かれたベビーベッドには、初めて授かった、目に入れても痛くない、可愛い我が子。
  ちょっと前なら、こんな時間に起きたら、そのまま二度寝の寝正月か昼間から独り酒の、孤独な年始だったが、今年は違う。
  パァッと花の咲いたような元旦に、藤次の頬は緩む。
棗藤次「幸せ・・・やな」

〇狭い畳部屋
棗藤次「あー! ええ湯やった! 冷で一杯やりたいのぉ〜」
棗絢音「ふふっ そう言うと思って冷やしておいたわよ? ハイ」
棗藤次「おおきに!」
  絢音に酌をしてもらい冷酒をクッと呷ると、空きっ腹にアルコールが染み、自然と何かつまみたくなる。
棗藤次「お節うまそうやな〜 どこの店の頼んだんや? やっぱり巽屋か?」
  その問いに、絢音は頬を染めて照れ臭そうに口を開く。
棗絢音「恥ずかしいけど、今年は手作りしてみた。 料理教室で習ったのと、本見ながら。 お口に合えば良いけど・・・」
棗藤次「ええっ!? こ、これがっ、手作り?!!!」
  綺麗に盛られた、プロ顔負けの豪華なお節に瞬きながら、藤次は好物の黒豆を口に運ぶ。
棗藤次「うわっ・・・美味い・・・」
  味付けや食感が、自分のツボにピタリとハマる美味さに、藤次は次から次へと重箱に箸を伸ばす。
棗藤次「あかん・・・ 田作りも伊達巻もなますも最高!! 参ったな!酒も進んでまう!!」
棗絢音「良かった。 お口に合って・・・」
  あーあー
棗絢音「あら、藤太どうしたの? 寂しくなっちゃった?」
  優しくベビーベッドから息子を抱き上げてあやす絢音を見つめながら、藤次は口を開く。
棗藤次「なんや・・・ すっかり母親が板についてきたな」
棗絢音「えっ?! そ、そんな事ないわよ〜 まだまだ勉強中!」
棗藤次「いや、ホンマ・・・ せや! 折角おめかししとんや。 初詣行こ!」
棗絢音「えっ!? いいわよ! 年末忙しかったでしょ?休んで。 藤太もいるし」
棗藤次「ええてええて! ワシも久しぶりに着物着よかな? 藤太も初めての正月、楽しみたいよなぁ〜?」
  うー!うー!
棗藤次「ははっ! 分かるんか? はしゃぎよって。 よし、着替えくるよし、待っててや!!」

〇神社の本殿
棗藤次「ほらな? ワシの勘当たりや! ここなら人少ないから、藤太おっても静かにお詣りできるやろ?」
  ・・・藤次に連れられやってきたのは、地元民しか知らない穴場中の穴場、「花藤神社」
  家内安全や身体健全、厄除け等一通りのご利益が詰まった御社を3人で潜り、藤次は本殿脇の祈祷受付所へ行く。
棗藤次「とりあえず、家内安全と、藤太とお前の健康祈願! お姉ちゃん、よろしゅう!」
巫女「はい。 承りました。 どうぞこちらへ・・・」
棗絢音「じゃあ、私も藤次さんの健康運! 最近お酒の量増えてきたし、お腹も出て来たし・・・節制してネ❤︎」
棗藤次「ははっ! そら無理や! お前の飯も肴も極上やもん! 太って欲しくないなら手抜きせい!」
棗絢音「もー! そうやってすぐはぐらかす! バカ!」
棗藤次「ははっ! こない幸せな時間過ごせるなら、バカで結構! なあ、藤太〜」
  あう〜
  きゃー!!
棗藤次「よしよし、可愛い可愛い。 神さんにしっかりお願いしとくよし、元気に大きく育てやー」
棗絢音「ふふっ 藤次さんも、いいお父さんが板について来たわね」
棗藤次「そ、そうか? な、なんか照れ臭いわ。 この歳でお父ちゃん名乗るのも、なんかこそばゆいし・・・」
棗絢音「私もよ。 こんなおばさんになってママになるなんて、思っても見なかったし・・・」
棗藤次「そんなことない!! どんなに歳取っても、お前はワシの・・・女神や・・・」
棗絢音「藤次さん・・・」
巫女「すみません・・・ 神事中はお静かに・・・」
「あ、はい・・・ すみません・・・」
  きゃはは!!

〇本棚のある部屋
棗絢音「・・・よし。 ミルクで寝てくれた。 おやすみ、藤太・・・」

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コメント

  • 子供が生まれるとお父さんらしくなる人と、かまってほしくて子供返りする人がいるようですが、藤次さんは後者ですかね。絢音さんからしたら大きいけど可愛い長男みたいなものかもしれませんね。

  • 私も既婚者でわりと幸せに過ごしていますが、この夫婦のお話はどの回も共感しながらも改めて学べる点が多々あります。絢音さん目指したいです!

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