家族の時間(脚本)
〇実家の居間
良夫「やっぱりお袋の筑前煮は旨いなぁ」
涼子「ほんとに! 私も作ろうとしたけどなかなかお義母さんの味が真似できなくて・・・」
ヨシおばあちゃん「ありがとねぇ。おかわりもいっぱいあるよ」
ヨシおばあちゃん「ほれ、美月ちゃんもいっぱい食べなさい」
美月「うん!」
美月「でも、これ以上食べたら太っちゃうよ」
ヨシおばあちゃん「美月ちゃんは細くておばあちゃん心配になっちゃうよ」
良夫「あははは・・・」
涼子「うふふ・・・」
良夫「お時間です」
ヨシおばあちゃん「えっ・・・」
良夫「終了のお時間になりました。家族レンタルサービスをご利用いただきありがとうございました」
ヨシおばあちゃん「折角だから最後にお茶でも・・・」
涼子「時間外になりますと、追加料金を払っていただく必要があります」
ヨシおばあちゃん「・・・美月ちゃんも、まだお腹空いてないかい?漬け物もあるのよ」
美月「おばあちゃん・・・」
涼子「ご希望であれば、また家族レンタルを申し込みください」
良夫「申し込みは電話とインターネットから簡単にできますので。 わたしたちはこれで失礼させて頂きます」
ヨシおばあちゃん「・・・」
美月「・・・」
涼子「美月、帰るわよ。早くしなさい」
美月「う、うん・・・」
ヨシおばあちゃん「はぁ・・・」
〇黒
〇美しい草原
これはCMです
ハッピーファミリー社長「みなさま、周りに相談できない家族のお悩みはございませんか?」
ハッピーファミリー社長「そんな時は、わたしたち「ハッピーファミリー」におまかせください!」
ハッピーファミリー社長「当社の優秀な役者を派遣し、お客様のご要望に合わせた代行作業させていただきます」
ハッピーファミリー社長「例えば・・・」
ハッピーファミリー社長「または─」
ハッピーファミリー社長「もちろんお客様の秘密は厳守させて頂きます」
ハッピーファミリー社長「お気軽にご相談ください」
〇ファミリーレストランの店内
良夫「なんでだ!」
良夫「なんであのばあさん追加で申し込んでこない?俺たちの演技は完璧だったろ!」
涼子「私と美月の演技は完璧。 あんたの演技が悪かったんじゃないの?」
良夫「そんなことない!」
涼子「奥さんと娘に捨てられたあんたなら、ひとりぼっちな老人の気持ちわかるはずでしょ?」
涼子「それなのにわからないなんて・・・」
涼子「前、あんたがやった爽やかパパ役とかも嘘臭くて笑っちゃう!」
良夫「枕営業して劇団から追い出されたやつが偉そうに・・・」
良夫「現妻と別れたいからって呼ばれた不倫女役だってぴったりだったじゃないか!」
涼子「はあん?」
良夫「ああん?」
美月「良夫さんも、涼子さんも喧嘩やめてよ!」
美月「二人とも単独の仕事依頼来てるんでしょ?」
美月「別に三人でやる家族レンタルにこだわらなくても・・・」
美月「私はまた彼女代行の仕事でも受けるし・・・」
「それは、やめなさい!」
美月「えっ!」
涼子「また変なやつに絡まれたら危険だわ・・・」
涼子「それに、彼女役より家族役の方があんたの親が見つかる可能性が高いでしょ?」
美月「それは、そうだけど・・・」
美月(良夫さんや涼子さんはちゃんと役になりきってるのに・・・)
美月(私が良夫さんと涼子さんの足引っ張ってるみたいで、やだな・・・)
涼子「それからもうひとつ!」
美月「なに?」
涼子「あの婆さんのところに一人で行っちゃダメだからね・・・」
涼子「ボランティアじゃないの! ちゃんとお金を払ってもらわなきゃ」
美月「そ、そんなことしないよ・・・!」
良夫「まあたしかに家族レンタルの方が儲かるもんな・・・」
涼子「がめついわねぇ・・・」
良夫「それはお前だろ!」
美月「まあまあ・・・」
〇ボロい家の玄関
数日後──
美月「気になって、また来ちゃった・・・」
美月(良夫さんと涼子さんには話していない・・・)
美月(とりあえず元気か確認するだけ・・・ ヨシさんの顔を見れたらすぐに帰ろう)
良夫「やっぱりな・・・」
涼子「ほら言った通りでしょ! 美月は老人に甘いって・・・」
美月「良夫さん!涼子さん!」
美月「ごめんなさい・・・」
涼子「もうあんたっていう子は!優しすぎ!」
涼子「顔を見たらすぐ帰るわよ。 わたしはサービス残業はしない主義なの」
美月「涼子さん、ありがとう!大好き!」
涼子「もう!ちょっと大袈裟じゃない?」
良夫(なんだこの親子の仲睦まじい雰囲気・・・)
良夫(えっ?俺は・・・?)
美月「ヨシさん!美月です!」
美月(反応がない・・・)
美月「あれ、玄関開いてる・・・」
良夫「悪いやつが入ってきたらどうするんだ?」
涼子「それ私たちが言う?」
美月「お邪魔します!」
〇実家の居間
美月「ヨシさん!」
ヨシおばあちゃん「・・・」
良夫「し、死んでる?」
涼子「な、わけないでしょうが!寝てるだけ!」
良夫「電話!婆さんが起きるぞ!」
涼子「はい、梶原です」
良夫「すごい婆さんの声だ!」
涼子「あとでしばく」
【電話の声】
母さん、俺!俺だよ!
涼子「良夫かい?」
良夫「えっ!」
【電話の声】
そうだよ。おれ良夫だよ
【電話の声】
会社の金が入った鞄を電車に置いてきちゃって・・・いますぐ100万必要なんだよ!
涼子(なんて雑な設定)
涼子(もっとましな演技できないのかしら?)
【電話の声】
会社の人が家までお金を取りに行くからその人に渡してくれる?
お金はあとでちゃんと返すから!
涼子「わかったわ。用意して待ってるわね」
良夫「おい!どうするんだ?」
涼子「悪い奴にはおしおきしなきゃね」
美月「でもわたしたちも変わらないよね・・・」
美月「おばあちゃんからお金もらってるわけだし」
良夫「違うぞ美月! 俺たちは困った人たちを助けているんだ!」
良夫「そして、夢や希望を与えている!」
良夫「金だけを巻き上げている詐欺師とは違う!」
涼子「さらに胡散臭くなってきたわね」
美月「うん・・・」
良夫「えぇー」
〇広い玄関(絵画無し)
数時間後──
受け子「お邪魔します!梶原さん! 良夫さんの同僚の者です」
良夫「一体なんの用だ?」
受け子(え、誰だこいつ?)
受け子「良夫さんの同僚の藤川です。 良夫さんにお金を預かるように、頼まれて来たんですよ」
良夫「良夫は俺だ!」
受け子「はっ?」
受け子(婆さんは一人暮らししていたはず・・・)
受け子「・・・いや、私は良夫さんに頼まれて来たんですよ!」
良夫「俺が息子の良夫に決まってるだろ!」
良夫「警察に通報するぞ」
受け子(おかしい・・・)
受け子「・・・誰だか知りませんが、通報されて困るのはそっちでは?」
良夫「・・・」
美月「お、お父さん!」
涼子「あなたどうしたの?そんな大きい声だして」
受け子「え、家族?なんで?」
良夫「涼子、早く警察を呼んでくれ」
受け子「マジかよ・・・」
〇実家の居間
良夫「ほんと助かった・・・」
良夫「ありがとうな、涼子も美月も」
ヨシおばあちゃん「良夫さんもありがとうね」
良夫「びっくりした!」
美月「ヨシさんいつから起きてたの?」
ヨシおばあちゃん「電話がなった時くらいかね・・・」
ヨシおばあちゃん「・・・これをもらっていってちょうだい」
お札が入った封筒を差し出した
ヨシおばあちゃん「変な電話を撃退してくれたのよね?」
ヨシおばあちゃん「そのお礼よ。大した金額ではないけれど・・・」
良夫「いや・・・今日はハッピーファミリーにの新しい案内のチラシをもってきただけですから・・・」
美月(えっ!)
良夫「料金はいただきません!」
良夫「どうしてもというなら、ヨシさんの漬け物だけいただけないでしょうか?」
ヨシおばあちゃん「漬け物なんかでいいのかい?」
良夫「もちろんです!」
美月「良夫さん・・・」
ヨシおばあちゃん「いま準備するからね」
美月「ありがとう」
良夫「ほら!詐欺師とは違うだろ!」
涼子「もう!かっこつけちゃって!」
涼子(うちの家族は見栄っ張り旦那と、あまちゃんの娘しかいないのか・・・)
〇安アパートの台所
ヨシおばあちゃん「美月ちゃん待っててね。 いま漬け物の準備するから」
美月「ヨシさん、私も手伝います!」
ヨシおばあちゃん「助かるねぇ・・・」
ヨシおばあちゃん「美月ちゃんは、どうしてこの仕事をしてるんだい?」
美月「えっ?」
ヨシおばあちゃん「悪いことだって言ってるわけじゃない」
ヨシおばあちゃん「だいぶ息子家族とは疎遠だったから、久しぶりに楽しい時間を過ごすことができた」
ヨシおばあちゃん「本当の家族じゃなくても楽しかったよ」
ヨシおばあちゃん「でも美月ちゃんは優しい子だから・・・」
美月「この仕事をしているのは、行方がわからない私の両親を見つけるためです・・・」
美月「この仕事を続けていけばいつか会えると思って・・・」
ヨシおばあちゃん「そうだったの・・・」
ヨシおばあちゃん「早く親御さんに会えるといいねぇ」
美月「ありがとうございます!」
美月(もし両親に会えたら・・・?)
美月「私が味わった苦しみをあのクソ両親に味あわせてやる!!」
なんだかんだいい人たちで心温まる展開にほっこりしてたらラストの美月のセリフが…。本当の家族であればこそ生まれる憎しみもあるわけで。やっぱり家族のあり方って難しいですね。
冒頭のビジネスライクな様子からの、詐欺受け子の撃退展開、とても胸アツでした!3人ともなかなか不器用な人柄で好感が持てます。
全員がレンタル家族、新しいと思いました。
家族の振りをして受け子を追い払うシーンは爽快でした。