エピソード1(脚本)
〇病室のベッド
リツカ「帰って!」
怒号が飛び交う。怒りに身を任せたそんな声
リツカ「こないで!どっか行ってよ」
アカリ「りっちゃん、ごめん。お姉ちゃん何かしたかな」
リツカ「顔見るだけでいやなの!もう帰って!」
アカリ「・・・」
少女に拒絶された女は、去り際、小さく頭を下げて部屋を出ていった
ぼく「・・・」
リツカ「何見てんの」
ぼく「カウンセリングを受けたいって僕を読んだのは君だろう?」
リツカ「はは、そうだっけ」
ぼく「病気のことは聞いてるよ。心臓が悪くてずっと入院してるんだって?」
リツカ「もうすぐ手術なの。どうせ死ぬけどね。だから先生を呼んだの。助けて欲しくて」
ぼく「僕は外科じゃないよ。何か悩みがあるのかい?」
リツカ「仲直りしたい。お姉ちゃんと」
意外だった。先ほど訪れていた実の姉を追い返したのはこの子だったのに
リツカ「先生、ニュース見た?クローン人間が自殺したってやつ」
ぼく「あぁ、イギリスで飛び降りた奴だろ?」
リツカ「私もね、お姉ちゃんの病気を治すために生み出されたクローン人間なの」
ぼく「・・・」
ぼく「嘘だね」
リツカ「ふふ、そう嘘。でも白血病になったお姉ちゃんのドナーとして生まれたのは本当」
リツカ「で、あの人は先に完治して、私は先に病気で死ぬんだって」
リツカ「ねぇ、おかしくない?私、何のために生まれてきたの?」
ぼく「・・・」
少女の絞り出したような言葉に僕は何も答えられなかった
リツカ「ごめん。やっぱり帰って。ごめんなさい」
〇病室の前
アカリ「あの・・・」
ぼく「あ」
アカリ「先ほどはすいませんでした」
ぼく「いえ・・・お話を少し伺いました。白血病だったって」
アカリ「・・・昔事故にあって、この病院に運び込まれたときに発覚したんです」
アカリ「私、世界に500人しかいない珍しい血液型で、その事故で死にかけたんですけどたまたま助かって」
アカリ「けど、直後に白血病って発覚してから・・・リツカが生まれました」
ぼく「ドナーとして?」
アカリ「家族としてです。けど、あの子にとっては・・・」
ぼく「まだ子供だ。どう接していいかわからないだけですよ」
アカリ「先生。あの子の事、お願いします」
ぼく「・・・」
〇病室のベッド
リツカ「なんで!?なんで私だけこんな目に遭うの!」
アカリ「りっちゃん!」
リツカ「お姉ちゃんはいいよね!病気治ったんだから!好きに生きたらいいじゃない!」
リツカ「消耗品なんかの私と違ってお姉ちゃんはパパにもママにも愛されてるんだから!」
アカリ「リツカ!!」
リツカ「出てって!出て行ってよ!」
アカリ「・・・」
リツカ「・・・」
ぼく「リツカ」
リツカ「は〜あ。ダメだ。やっぱりダメだね。あはは。無理だよもう」
リツカ「私、死ぬまでこのままなのかも・・・結局、仲直り出来ないまま」
リツカ「ホントはあんな事言いたいわけじゃないのに。ホントは、もっと言いたい事たくさんあるのに」
ぼく「・・・」
リツカ「ね、先生。ニュース見た?飛び降りたクローン。日本人だったんだって」
ぼく「あぁ、驚いたね」
リツカ「誰かの都合で勝手に生み出されて、きっと悲しんだんだろうなぁ」
リツカ「今の私より悲しかったから、飛び降りちゃったんだろうな。私も・・・もう」
ぼく「リツカ」
ぼく「人を許すってどういう事だと思う?」
リツカ「・・・実害を受けた事に対して許容する事」
ぼく「正解。じゃあ、許されない人間は?」
リツカ「・・・」
ぼく「それはね、許してくれる人間がこの世に存在しない事を指すんだ」
ぼく「君は、誰を許せないんだい?」
リツカ「・・・私は」
ぼく「白血病になったお姉さん?」
リツカ「違う」
ぼく「君を産んだ両親?」
リツカ「違う!」
ぼく「君は産まれた事を後悔してるのかい?」
リツカ「・・・違う。そんな訳ない」
リツカ「私・・・私は、自分を許せないの」
リツカ「お姉ちゃんも頑張ったのに、それを知ってるのに辛く当たった自分に」
ぼく「・・・」
ぼく「本当は、何を伝えたいんだい?」
リツカ「私、は・・・お礼を言いたい」
リツカ「ありがとうって」
リツカ「ずっとそばにいようとしてくれたお姉ちゃんに」
リツカ「だから、仲直りしたい」
リツカ「酷いことしか言えなかった私を許してほしい」
リツカ「けど・・・」
ぼく「大丈夫だよ」
ぼく「君の事を家族だって、そう言ってた」
ぼく「僕とは違っているだろう?君には、赦してくれる人間が」
リツカ「・・・」
リツカ「先生だっているでしょ?」
ぼく「いないよ。飛び降りて死んだから」
リツカ「え・・・」
ぼく「ニュース、見たんだろ?あれは、僕のクローンなんだ」
リツカ「何言ってるの?」
ぼく「稀血って知ってるかい?」
ぼく「僕は誰にでも輸血ができる世界に四人しかいない貴重な血液型でね」
ぼく「でも二十年前はここに入院していた僕一人しかいなかった」
ぼく「輸血ができなかった僕は、誰からも血を貰えずに死ぬはずだったんだ」
リツカ「だから、作ったの?」
ぼく「そして死んだ。僕のエゴで、人が一人生まれて、死んだんだ」
ぼく「許されないことをしたんだよ。こんな事になるぐらいなら、」
ぼく「あの時、大人しく死んでいればよかった」
リツカ「先生・・・」
???「待って!」
アカリ「待ってください」
リツカ「お姉ちゃん」
アカリ「それは違います。だって、先生の血ですよね?」
アカリ「事故に遭った時、輸血できる血がなかった私を救ってくれたのって」
ぼく「・・・知りません」
アカリ「いえ!そうです。だって私の血液型に合う血なんて先生のしか」
ぼく「だとしても!僕のしたことに変わりは」
リツカ「ある!」
リツカ「・・・あるよ」
ぼく「・・・リツカ」
リツカ「だって先生が居なかったらお姉ちゃんは助からなかった」
リツカ「助からなかったら!」
アカリ「リツカは生まれてくる事はなかったんです」
ぼく「!」
リツカ「だから先生、」
リツカ「ありがとう」
リツカ「先生は確かに許されない事をしたのかもしれない。けど、」
リツカ「私だけは許すよ」
リツカ「先生のおかげで私は生きて、今ここにいるんだから」
ぼく「僕は、」
許されないことをした。だけど赦してくれる命もあった。
それだけで、どれだけ救われたことだろう。
ぼく「ありがとう、リツカ」
罪悪を背負いながら生きていく。僕を赦した言葉と共に、精一杯
一番赦しの言葉が欲しかったのは先生だったんですね。
クローンとして生まれても、その人格はあるわけで、死ぬことを選んだ彼の心境はどうだったんだろう?と思いました。
誰かを救うためにつくられたクローンであっても、心を持つのなら、クローン自身がいずれクローンであることの苦しみや葛藤から逃れられなくなってしまう。クローンは確かに役立つのかもしれない、でもそれを都合よく赦すとはいえても、やはり人間の都合でクローンをつくらないほうがいいのかな、なんて考えさせられる作品でした。
なんでこの世に生まれたんだろう?自分の生きる意味、価値がイトーヨーカド
意図的に作られたものだったら?悩み、苦しむことになる。一人でも、認めてくれる人がいれば