死んだら秘密は隠せません!(脚本)
〇本棚のある部屋
???「・・・おい、起きろ!」
誰かが俺を呼んでいる。誰だ、こんな朝早くから・・・
ヒロト「・・・んだよ、まだアラーム鳴ってねぇだろ?」
???「起きろ!頼むから起きてくれって!ヒロト!」
ヒロト「ん?その声は・・・タクミ?」
タクミ「気付くのがおせぇよ!」
目の前にいたのは、俺の幼馴染であり友人のタクミだった。
しかし。
ヒロト「いや、お前死んだんじゃ・・・?」
タクミは数日前、交通事故で死んだと聞かされたはずだ。
タクミ「おう!死んだぞ!俺は幽霊だ!」
何故か誇らしげに言うタクミ。
ヒロト「あっそう・・・じゃ、俺寝るから」
タクミ「いやいや待てよ!」
タクミ「死んだ友人が幽霊になって現れたのに、そんな反応薄いことあるか!?」
ヒロト「だって俺が霊感あるの、お前も知ってんだろ」
ヒロト「いつも幽霊見てるし驚くことねぇよ・・・じゃ、おやすみ」
そう言って寝ようとする俺を、慌ててタクミが揺り起こした。
タクミ「寝るな寝るな!お前にしか頼めないことがあるんだ!」
ヒロト「はぁ・・・何の用だよ?」
仕方なくそう聞くと、タクミはがっしりと俺の肩を掴んで言う。
タクミ「俺、重大な秘密を残して死んじまったんだよ!!」
〇本棚のある部屋
ヒロト「重大な秘密?」
ヒロト「なんだ、エロ本の処分か?」
そう言うとタクミは憤慨し始めた。
タクミ「んなわけないだろ!もっと重大なことだ!」
タクミ「それに俺は動画派だ!!」
ヒロト「お前が何派でもどうでも良いんだが」
ヒロト「じゃあ、重大な秘密って何だよ?」
そう聞くと、タクミはごくりと唾を飲み込んだ。
タクミ「わ、笑うなよ」
いつになく真剣な表情のタクミ。
俺もつられてごくりと唾を飲み込んだ。
タクミ「・・・俺の部屋にある、恋のおまじないに使ったぬいぐるみを何とかして欲しいんだ!」
ヒロト「・・・は?」
〇本棚のある部屋
タクミの話はこうだ。
タクミはクラスメイトのマユが好きだった。
おそらくマユもタクミのことが好きで、もう一押しすれば付き合えるのではないか!?と思っていた。
タクミ「でも告白する勇気が出なくて・・・」
ヒロト「で、おまじないに頼ったと」
タクミ「そういうことだ!」
また何故か誇らしげに言う。
おまじないに頼っている時点で、誇れることではないと思うのだが。
ヒロト「で、どういうおまじないなのさ?」
タクミ「赤いリボンを用意して、好きな人の名前をリボンの裏に書いて」
タクミ「それをクマのぬいぐるみの首に巻きつけて、満月の光に当てるんだ」
どう考えても高校生男子向けのおまじないではないと思うのだが。
タクミ「そうすると、好きな人が告白してくれるらしい!」
ヒロト「いや告白の勇気が出るおまじないじゃなかったのかよ!!」
タクミ「妹のおまじないの本には載ってなかったんだよ・・・」
ヒロト「そんなものに頼るなよ・・・」
タクミ「そのぬいぐるみが他の人に見られたら俺、恥ずかしくて死んじまう!」
ヒロト「いやもう死んでるけど」
タクミ「とにかく!ヒロトにそのぬいぐるみを何とかして欲しいんだ!」
幽霊になって物に触れないタクミに頼まれて、仕方なく俺は彼の手伝いをすることにした。
〇男の子の一人部屋
俺はタクミと共に彼の家へ向かい、部屋に上がった。
ヒロト「で、ぬいぐるみって・・・これか」
ヒロト「これは・・・クマなのか・・・?」
タクミ「耳の垂れたクマだ!」
あまりにも自信満々に言うので、俺はそれ以上何も言わないことにした。
どう見ても犬だと思うのだが。
ヒロト「これをどうすれば良いんだ?」
タクミ「お前が持っててくれ!」
ヒロト「嫌だわ!俺がマユのこと好きみたいになるじゃねぇか!」
タクミ「それもそうか・・・」
タクミ「じゃあ、今度マユに渡してくれないか?」
ヒロト「まあ、それなら・・・わかった」
タクミ「助かるよ!やっぱり持つべきものは友人だな!」
ヒロト「俺は利用されてる気しかしないけどな」
ぬいぐるみを回収した俺たちは、タクミの家を出た。
〇土手
タクミの家から俺の家へ戻る帰り道。
通学路でもある河川敷を2人で歩いた。
タクミが生きている頃は、2人でよく歩いた道だ。
タクミ「でも本当に助かったよ」
タクミ「生きてる時からお前には世話になりっぱなしだな」
ヒロト「宿題見せたりとか、勉強教えたりとかな」
タクミ「俺は頭悪いから、本当に助かったんだぜ?」
タクミ「死んだらもう伝えられないと思ってたから、言えて良かったよ」
タクミ「ありがとな」
ヒロト「タクミ・・・」
しんみりとした空気が流れる。
タクミ「じゃ、俺そろそろ成仏しねぇと! 心残りもなくなったしな!」
ヒロト「・・・おうよ」
そう言うと、タクミの体がぱぁっと輝いて薄くなっていく。
タクミ「じゃあな!ヒロト!ありがとよ!」
ヒロト「・・・おう」
ヒロト「こっちこそ、ありがとう・・・」
俺の最後の言葉が、届いたのかどうかはわからない。
ヒロト「ったく、自分だけ言いたいこと言って消えやがって・・・」
俺は目をごしごし擦って、溢れそうになる涙を拭った。
見上げると、冬のよく晴れた空が広がっている。
すうっと一筋、飛行機雲が横切っていった。
まるで、タクミが空に昇っていくかのようだった。
〇本棚のある部屋
そしてその夜。
俺が寝ていると、
???「起きろ!起きてくれ!!」
聞き慣れた声がまた俺を起こす。
ヒロト「今度は何だよ!?」
タクミ「すまん、重大な秘密がまだ残ってた!!」
ヒロト「はぁ?次は何のぬいぐるみだ?」
タクミ「ぬいぐるみじゃない!」
ヒロト「何だよ?」
タクミ「俺のパソコンにエッチな動画フォルダを残したままだった!!」
ヒロト「・・・」
タクミ「・・・」
ヒロト「知るかーッ!!!」
タクミ「いやごめんって!!!」
タクミ「ヒロトにしか頼めなくてさぁ・・・」
ヒロト「やれやれ・・・」
どうやら俺はまだ、この幼馴染の秘密の隠蔽に付き合わされるようだ・・・。
でも、タクミにまた会えて少し嬉しかったのは、ここだけの秘密な。
霊感があるという自覚からか、幽霊となって現れる友人の事を普通に受け入れ淡々と彼のお願いを聞いてあげる所が、おかしくも愛おしい感じでした。亡くなって少ししか経っていないとしたら、こうして接することは喜びでしかないのかもしれないですね。
成仏を妨げるような心残りが、クマ(?)のぬいぐるみでの恋愛のおまじないって可愛すぎますね。楽しくも胸にくる作品にときめいていたのですが、オチがアレですか。。。やっぱりお約束すぎて笑いました。
いやぁ、死んだ後もこんなに友人と楽しく話せるのもいいなぁ笑
クマのぬいぐるみがその後どうなったのか知りたいです!
普通に受け取ってくれたのかなぁ…。