第六話「明るい場所が憎らしい(後編)」(脚本)
〇商業ビル
〇オフィスのフロア
伊藤紘一「妻とやり直そうと思った矢先・・・ 離婚届けを突き付けられてしまった。 やっぱり僕なんか・・・」
伊藤紘一「って、ダメだダメだ! 会社にプライベートの悩みを 持ち込むなんて」
伊藤紘一「よし、いつものように朝の水やりを──」
伊藤紘一「あれ・・・? 植木鉢がない・・・」
木塚実「伊藤くん、そんなところに 突っ立てないでよ。邪魔」
伊藤紘一「ぶ、部長! ここにあった植木鉢は」
木塚実「あー。あれは──」
〇ビルの裏
ゴミ捨て場に、
植木鉢が無残に捨てられている。
伊藤紘一「なんでこんなことするんだよ・・・」
伊藤紘一の地獄行きまで、残り59時間
〇広い公園
小沼修吾「・・・そうかい。 奥さんにそんなこと言われたのか」
伊藤紘一「もう厳しいかもしれません」
小沼修吾「そんな簡単に諦められるもんなのか? 奥さんと、息子さんともう会えなくても いいのか?」
伊藤紘一「でも・・・」
小沼修吾「お天道様は頑張っている人を見てるさ。 簡単に諦めるんじゃない。なっ?」
伊藤紘一「はい・・・そう、ですね」
小沼修吾「そうだ。昨日飲んだおでんのつゆ、 今日ももらってくるか? ここの裏のコンビニなんだよ」
伊藤紘一「はい・・・! あ、今日は僕が取ってきます!」
小沼修吾「荷物は見ててやるから。それがあったら、 おでんの容器持てないだろ」
伊藤紘一「じゃあ、荷物お願いします!」
伊藤はベンチに荷物を置いて立ち上がる。
だが、そのまま固まってしまう。
小沼修吾「・・・どうした? 行かないのか?」
伊藤紘一「小沼さん、ありがとうございます」
小沼修吾「大げさだな。荷物見とくぐらいで」
伊藤紘一「いえ、妻のことです。 小沼さんのおかげでもう一度 連絡を取ってみようって思えました!」
伊藤は深く頭を下げると駆け出していく。
小沼修吾「全くあいつは・・・」
伊藤紘一の地獄行きまで、残り48時間
〇シックなカフェ
伊藤妙子「こんなに早く決めてくれると 思ってなかった。ありがとう」
伊藤紘一「え・・・?」
伊藤妙子「離婚届け、 サインしてきてくれたんでしょう?」
伊藤紘一「ち、違う。僕は君と離婚するつもりはない」
伊藤妙子「なら・・・裁判するしかないわね」
伊藤紘一「待って! せめて理由を教えてよ」
伊藤妙子「きちんと理由を話したら、 納得してくれるの?」
伊藤紘一「ああ・・・努力する」
伊藤妙子「約束よ」
伊藤紘一「誰に連絡取ってるんだ?」
伊藤妙子「近くの車で待っててもらってたの。 すぐに来る」
木塚実「やあ、伊藤くん。休日なのに申し訳ないね」
伊藤紘一「部長!? なんでここに──」
木塚実「妙子~、やっぱり最初から 僕がいた方が良かったろ?」
伊藤妙子「だって、木塚さんに迷惑 かけたくなかったんだもの」
伊藤紘一「い、いや・・・あの──」
木塚は馴れ馴れしい態度で、
妙子の横に座る。
伊藤妙子「私、あなたと別れて、 この人と再婚したいの」
伊藤紘一「は?」
伊藤妙子「それが理由よ。どう? 軽蔑した?」
伊藤紘一「え? あ・・・あれ?」
伊藤妙子「あなた意気地なしだもんね。 これだけはっきり見せつけても、 私のこと怒れないでしょ?」
木塚実「伊藤くん。すまんね。 どこから説明すればいいだろうね」
伊藤妙子「この人の場合、 私たちが最初に愛し合った日から 順に話さないとダメかもね」
伊藤紘一「ちょ、ちょっと待ってよ! さっきから何言ってんの? 部長も、こんなの何かの冗談ですよね?」
木塚実「仕事のできない君にも、 唯一良いところがあったね」
木塚実「こんなに素敵な女性を見つけたってことだ」
伊藤紘一「なっ・・・!」
木塚実「仕事のことは心配しなくていいよ。 長いこと上と掛け合ってね」
木塚実「ようやく君のリストラが決まった。 週明けには正式に通達が来るから」
伊藤紘一「リストラ? 通達?」
伊藤妙子「これでいいでしょ? 理由は全部話したんだから、 離婚届けはサインして送ってね。じゃあ」
伊藤紘一「待ってくれ! 陸斗は──」
伊藤妙子「大丈夫。最近は木塚さんのことを お父さんって呼んでるから」
茫然と立ち尽くす伊藤。
伊藤紘一「嘘だろ・・・こんなの、嘘だ・・・」
伊藤紘一の地獄行きまで、残り8時間
〇ダイニング(食事なし)
伊藤が放心状態で帰ってくると、
部屋中が荒らされている。
伊藤紘一「な、なんだよ・・・これ。 警察・・・警察に連絡しないと──」
大きな物音と共に、
階段から覆面を被った男が降りて来る。
伊藤紘一「・・・・・・! 誰だ! お前!?」
男は逃げようとするが、伊藤が咄嗟に
腕を掴むと、床に転げ落ちる。
男「痛っ・・・!」
伊藤紘一「? その声は──」
伊藤が男の覆面を引き剥がす。
伊藤紘一「小沼、さん・・・?」
小沼修吾「くそぉ! タイミングの悪い時に帰ってきやがって」
伊藤紘一「なんで、どうしてこんなこと・・・ どうしてここがわかったの?」
小沼修吾「あんたが、荷物を置いて立ったときだ。 色々調べたんだよ」
伊藤紘一「そんな・・・小沼さん、 あなたはいつだって僕の相談に 乗ってくれたじゃないか」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)