第一話「緘口令を守って(前編)」(脚本)
〇黒背景
この物語の主人公は、
72時間後、必ず地獄に行きます
どうかあなたは、
その見届け人になってください
〇オフィスのフロア
社員たちが働いているところへ、
辻堂登(つじどうのぼる)が入って来る。
辻堂登「みんなー。働いてる? 給料払ってんだから、 最低その分だけは働いてよぉ。私語厳禁~」
俯いて仕事をしている
小湊正文(こみなとまさふみ)。
辻堂登「ほら、係長。もっとシャキッとしてよ。 そんなんだから万年係長なんだよ」
小湊正文「申し訳ありません・・・」
窓口にいる田口紗季(たぐちさき)。
辻堂登「どう? 仕事慣れた?」
田口紗季「は、はい! 支店長のご指導のおかげです」
辻堂登「またまた~、支店長じゃなくて 名前でいいよ。辻堂さんとか?」
田口紗季「わ、わかりました」
辻堂登「ここだけの話だけどね、 仕事なんて適当でいいからね。 紗季ちゃんだけは」
田口紗季「そういうわけにはいきません」
辻堂登「かわいいんだから。ここにちょこんと 座っているだけでいいの。俺のために」
そう言って、紗季の手を握る。
紗季は手をほどこうとするが、
辻堂がきつく握りしめる。
田口紗季「だ、誰か──」
助けを求めようとするが、
誰も紗季に顔を合わせてくれない。
辻堂登「前に言ったでしょ? みんな俺の味方だって」
辻堂登「俺が会長の息子だから、 誰も逆らえないの。わかる?」
田口紗季「は、離してください!」
辻堂登「俺が君をここで犯したって止めに来ないと 思うよ。人間なんて薄情だよね」
正面窓ガラスの向こう側に、
大きな物体が落ちて来た。
辻堂登「なんだぁ?」
銀行の前にワラワラと人が集まって来る。
通行人「じ、自殺だ! 飛び降りだ!」
辻堂登「自殺・・・?」
辻堂登の地獄行きまで、残り72時間
〇手
『地獄行きまでの72時間』
〇オフィスのフロア
辻堂登の地獄行きまで、残り67時間
シャッターが下ろされたフロア。
小湊正文「支店長。け、警察のほうはどのように 対応すればいいでしょうか・・・?」
辻堂登「あー、大丈夫。全部俺が答えておいたから」
小湊正文「あ、ありがとうございます」
辻堂登「ていうか、みんな。わかっていると 思うけど、がっつり緘口令を敷くからね」
小湊正文「と言いますと?」
辻堂登「はあ? バカなの? 変な噂が立ったり、 うちのイメージ崩れたりしたら大変でしょ」
辻堂登「店の前で派手に自殺した バカ女のことは他言無用で」
小湊正文「筒井香苗の・・・ことですか?」
辻堂登「他にいませーん」
辻堂登「今後、警察やマスコミに何を聞かれても、 知らぬ存ぜぬで通すこと。 いいね? ワンチームで行こう、ね」
田口紗季「お、お言葉ですが──」
辻堂登「何? 紗季ちゃん、まさか みんなの前でデート誘ってくれるの?」
田口紗季「香苗ちゃんは支店長のことで ずっと悩んでいました!」
小湊正文「田口くん、やめなさい!」
田口紗季「私たちが知らないと思ってるんですか!? 支店長が散々セクハラしてたじゃ ないですか!」
辻堂登「うーん・・・君、クビね」
小湊正文「支店長待ってください!」
辻堂登「はい。解散~。みんな、 明日からまた通常営業ね、よろしく」
〇個別オフィス
木原万里江(きはらまりえ)が
部屋に入って来る。
木原万里江「今よろしいですか?」
辻堂登「よろしくない~。 紗季ちゃん、お気に入りだったのに。 今からでもクビ取り消そうかなぁ」
木原万里江「荷物をまとめてたので、 私が止めておきました」
辻堂登「マジ? さすが万里江さん」
辻堂登「木原万里江・・・親父の秘書兼愛人で、 昔から俺のお世話役だ」
辻堂登「俺が火遊びをしても、 こうして上手く火消しをしてくれる」
木原万里江「今後のことを考えると、 今はあの子を外に出すべきではありません」
木原万里江「警察やマスコミに 何を言われるかわからないので」
辻堂登「ちょっと。万里江さんもあいつの自殺が 俺のせいだと思ってるの?」
木原万里江「今のところ遺書などは 出て来ていませんが・・・」
木原万里江「どこからほころびが出るか わかりませんので」
辻堂登「色々めんどくせーな・・・」
木原万里江「坊ちゃんのことは私が守ります。 ご安心ください」
辻堂登「はいはい。どうせ親父の命令だろ」
〇大きい交差点
信号待ちをしている辻堂。
辻堂登「はぁ・・・だりぃな。 キャバクラでも行って、 パァーっとやるかなぁ」
誰かが辻堂の背中を押し、
その弾みで道路に飛び出す。
辻堂登「!!!」
車が目の前に飛び込んでくるが、
運転手が急ハンドルで辻堂を躱す。
辻堂登「し、死ぬかと思った・・・!」
立っていた場所を振り返るが、
そこには誰もいない。
辻堂登の地獄行きまで、残り61時間
〇シックなリビング
辻堂登「さっき・・・ 確かに誰かが俺の背中を押しやがった。 俺のことを殺そうと──」
携帯は非通知。
辻堂登「もしもし?」
電話の相手「・・・・・・」
辻堂登「おい? 誰だ?」
電話の相手「・・・・・・」
辻堂登「・・・もしかしてさっき 俺のことを押したのはお前か? 店の連中か?」
電話の相手「・・・・・・」
辻堂登「やり方が姑息だな。 小湊だろ・・・? 違うか?」
電話の相手「・・・机の中を見てみろ」
辻堂登「机?」
机の引き出しを引っ張る。
中には腐ったねずみの死骸が
敷き詰められていた。
〇シックなリビング
木原万里江「坊ちゃん。清掃は済ませてあります。 念のため、他の場所も調べさせてもらい ましたが、異変はありませんでした」
辻堂登「この家のセキュリティは どうなってんだよ!」
木原万里江「申し訳ありません」
辻堂登「さっきは殺されかけたんだぞ!」
木原万里江「やはり警察に──」
辻堂登「警察に相談して、あのバカ女の自殺と 関連があったと思われたらどうする!?」
辻堂登「こんな嫌がらせ、あのバカ女が 自殺してから始まったんだ」
辻堂登「関係ないって言うほうが 無理に決まってる・・・」
木原万里江「しかし」
辻堂登「ダメだ! 濡れ衣を着せられるのがオチだ!」
悔しそうに爪を噛む辻堂。
木原万里江「・・・大変申し上げにくいのですが、 机の奥にはこんなものも入っていました」
封書を恐る恐る開く。
中には怪文書。
辻堂登「3日以内に・・・お前は死ぬ!?」
〇黒背景
辻堂登の地獄行きまで、残り59時間