あの日、君と出会って

Sena

読切(脚本)

あの日、君と出会って

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〇養護施設の庭
  俺は並木 隼人。高校2年
  高校生活に憧れもクソもないし青春を謳歌したいとも思ってない
  こんなに根暗になったのは、”あの日”が境であるのはわかってる
  だが今更どうしようとも思わない
  全部、どうでもいい・・・
  今は放課後、俺は学校の裏庭に向かっている
  そこは誰も来ないし体育館から離れてるから、”あの音” も聞こえない
  一人の時間を満喫できる至福のスポットだ
隼人(見えてきた・・・)
  裏庭に着いて俺は驚嘆した。
隼人(踊っている・・・)
  飛び立ちそうなほど軽やかなジャンプ
  動くたび美しい曲線を生み出すしなやかな体
  そして何より
  あの楽しそうな笑顔
  見てるこっちまで心躍るような──
  よく見ると、その子はクラスメイトの竹内さんだった。
隼人(竹内さん、話したことないからダンス踊れるなんて知らなかった・・・)
竹内 愛「ふ~んふ~んふ~ん♪」
  何だか、いいな・・・
隼人(今日は帰ろう)

〇黒
  夜、中々寝付けなかった
  昼間の衝動が脳裏をよぎる

〇養護施設の庭

〇黒
隼人(竹内さん、ダンスが好きなんだな)
隼人(凄く楽しそうだった)
隼人(それに比べて俺は・・・)

〇大きな木のある校舎
  ──翌日放課後──
隼人(今日は憂鬱だった、昨日色々考えすぎたな)
隼人(早く帰ろう・・・)
隼人(ん?スマホがない)
隼人(教室か、チッ・・・)

〇まっすぐの廊下
隼人(なんで今日に限って・・・)
体育館の音「バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、」
  ・・・・・・
  胸が疼く”あの音”だ
  俺の教室は体育館と近いから、通りすがりよく聴こえる
体育館の音「バコンッ、ガタンッ!」
  うるせえ・・・
体育館の音「行けぇ!ドライブドライブッ!シュート!」
  ぅるせえよお!
  俺はその場を駆け出していた

〇黒
  嫌なんだ、”あの音”を聴くのは・・・
  ”あの日” の俺を嘲笑っているかのようで・・・
  わかってる、俺に才能なんてないから
  だから未練も捨てたじゃないか
  なのに、なんでこんなに苦しいんだ
  もう解放してくれよ──

〇教室
  教室に着いた。
  焦る気持ちで教室のドアを開けると、背中がゾッとした
竹内 愛「並木くん?」
  竹内さんがそこにいた
竹内 愛「どうしたの?」
隼人「スマホ、忘れた・・・」
竹内 愛「そっか、思い出して良かったね!」
  竹内さんを前にして、何故か俺は動揺してる
隼人(竹内さんが、俺が思った以上に明るいトーンで話すからびっくりしたのか・・・?)
隼人(とにかく、早く退散しよう・・・)
竹内 愛「ねえ並木くん、突然なんだけどさ、バスケに詳しかったりする?」
隼人「え・・・?」
  胸がズキッとした
  俺がバスケをやっていたことは誰にも言ってないのに・・・
竹内 愛「もし知ってるならちょっと教えてほしいことがあるんだけど・・・ダメかな?」
  嫌だ、俺がバスケを語るなんて・・・
隼人「・・・・・・」
竹内 愛「・・・並木くん?」
隼人「・・・何で聞きたいの?」
竹内 愛「ええっと、弟が最近バスケを始めたの!だから色々知っとかなきゃなって思ったから・・・」
隼人(なんか嘘っぽい感じがするけど、まあそんなに聞きたいなら仕方ない・・・)

〇黒
  彼女に色々教えてあげた
  ルールや技の名称、ゲームの流れ、スコアの付け方まで丁寧に
  ついでに俺のことまで・・・
  中学までバスケをやっていたことを話した
  誰にも言ってなかったのに・・・

〇教室
竹内 愛「並木くん、バスケが好きなんだね」
隼人「もう好きじゃない・・・」
竹内 愛「ねえ、この学校の入試の面接で君はなんて言ったか覚えてる?」
隼人(何でそんなこと、まあ嫌でも覚えてるけど)
竹内 愛「”バスケ部のエースになって、チームを勝利へと導く”」
隼人(!?、何で知ってるんだよ!?)
竹内 愛「”将来はプロの選手になる” って」
隼人(待って──)
  それ以上言うな・・・
竹内 愛「”俺は”」
  言うなっ!
竹内 愛「”バスケが大好きだ” って」
  ・・・・・・
隼人「っうあぁぁぁぁ!ぅうううあぁぁ・・・」
  俺は泣き崩れていた
  今まで閉じ込めていた思いが、涙と共に溢れ出てくる

〇黒
  そう、”あの日”スポーツ選抜で合格できなかった俺は、バスケに対する自信を無くしてしまった
  悔しくて、受け入れ難くて、そのまま挫折した
  未練も捨てたつもりでいた
  でもどこか、捨てきれずにいて・・・
  でも這い上がれなくて・・・
  矛盾した気持ちを抱えたままずっと過ごしてきた
  ・・・でも、やっぱり
  俺は、バスケが──

〇教室
竹内 愛「私、面接並木くんと同じグループだったの」
竹内 愛「君の主張はとても情熱的で、バスケに対する思いがよく伝わってきたのを覚えてる」
竹内 愛「そんな君がバスケ部に入ってないことを知って、ずっと心配してたの」
隼人(そうだったのか)
  見透かされていたんだ、初めから
  全部知ってたから
  その上で、俺を慰めるように問いかけてくれたんだ
隼人(なんて優しい人なのだろう・・・)
隼人「取り乱してごめん・・・」
竹内 愛「そんなっ、私こそ人の過去にズカズカと──」
隼人「いや、いいんだ」
隼人「少しだけ、救われた──」
竹内 愛「!」
竹内 愛「それならよかった!!」
  迷いは吹っ切れた
  バスケへの情熱は薄れてない
  それに──
  竹内さんの勇気に応えたい──
隼人「俺、バスケ部に入るよ」
竹内 愛「うん!」
隼人「竹内さんのおかげで自信がついた」
隼人「本当にありがとう」
竹内 愛「どういたしまして!」
  彼女じゃなかったらきっと耳を傾けなかっただろう
  あのダンスに惹かれていたから・・・
  ・・・なんだ、ダンスを見た時から俺の答えは決まってたじゃない
  だって俺は、あの時
  竹内さんに憧れたのだから──
隼人(馬鹿だなぁ・・・俺、)
竹内 愛「暗くなってきたね」
竹内 愛「そろそろ帰ろうっか!」
隼人「そうだな」
  俺は今、息を吹き返した
  これからもっと厳しい試練が待ってるだろう
  でも乗り越えていける気がする
  だって俺は
  ”バスケが好きだから”──

コメント

  • 「好き」の気持ちに蓋をして、生きていくのは難しいですよね。
    彼女にもらった勇気が、今後いい方向に行くといいなぁと思いました。

  • 何かを好きでいる人に対する憧れが二人の間でぐるぐる回って、お互いの情熱の支えになっているようで、感動しました。素敵な関係ですね。恋とも友情とも断言がないのがむしろよかったです。

  • 好きって気持ちをきっと忘れていたのかな?
    それとも考えないようにしてたのかなあ。
    確かに選抜に挑戦できるくらいの実力があると、井の中ではチヤホヤされてしまったんだろうなぁと、過去の風景まで妄想してしまいました笑

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