アンドレジー家の手管

きせき

読切(脚本)

アンドレジー家の手管

きせき

今すぐ読む

アンドレジー家の手管
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇外国の田舎町
老婦人A「いつもありがとね」
名もなき配達員「いえ、仕事ですから」
名もなき配達員「(ふぅ、あと1軒か)」
  俺はとある配達員。
  まぁ、名前は名乗る程ではない。
  俺は太陽や風とともに町から町へ
  渡って手紙を届けるだけなのだから。
名もなき配達員「(さて、次はアンドレジー家か。ここから結構近いな)」
  俺はそう思うと、通りかかった人に
  アンドレジー家について聞いてみた。
  ちなみに、声をかけたのは
  さっき、手紙を渡した人と
  似てはいるが別の人だ。
老婦人B「アンドレジー家だって!!」
名もなき配達員「えぇ、サロメ・アンドレジーさんに」
名もなき配達員「あと、ハンターさんとダレンさんには手紙だけでなく、凄い量の小包が・・・・・・」
  何か、見えた気がしたが、
  俺は見なかったことにした。
老婦人B「さ、サロメ・アンドレジー!!」
名もなき配達員「?」
老婦人B「悪いことは言わないからあの家に行くのはやめな」
老婦人B「殺戮のサロメにハートの狩り人の家なんて近寄ったら生きて帰れたもんじゃないよ」
  おばあさんは去りながらも
  時折は振り返り、やめなと
  言い去っていく。
名もなき配達員「(でも、届けない訳にもいかないよな?)」
  俺はそう思うと、アンドレジー家に向かった。

〇荷馬車の中

〇霧の立ち込める森
名もなき配達員「(本当にこんなところに家が?)」
  先程の晴天とは打って変わり、
  辺りは鬱蒼とした森に
  霧まで立ち込めている。
名もなき配達員「(まぁ、進むしかないな。あ、誰かいる!)」
名もなき配達員「あの、すみません」
ジョゼフィーヌ「はい?」
名もなき配達員「アンドレジー家に行きたいんですけど、どっちに行ったら良いでしょうか?」
  20歳前後の少女。
  癖のある灰色の髪に、垂れた灰色の目。
  身なりは少し無頓着な感じがした。
名もなき配達員「(ちゃんとしたら美少女みたいなのに・・・・・・)」
  なんて俺は思うと、彼女の言葉を待つ。
ジョゼフィーヌ「あぁ、めんどくさ・・・・・・いや、ご苦労様です」
名もなき配達員「あ、どうも。(めんどくさがられてしまった・・・・・・)」
名もなき配達員「(でも、何とか聞かないと!)」
  俺はよし、と思うと、口を開きかけた。
ジョゼフィーヌ「あ、教えないって訳じゃないよ」
ジョゼフィーヌ「でも、嫌な予感がしたから?」
ジョゼフィーヌ「アンドレジーならこの道をまっすぐ行けば着くよ。それじゃあ」
名もなき配達員「(・・・・・・何だったんだ? まぁ、良いか。早くアンドレジー家に行こう!)」

〇黒
  俺は謎の少女に言われるまま、
  アンドレジー家に向かった。
名もなき配達員「ここがアンドレジー家!!」

〇闇の要塞
  あまりに魔王の城みたいな佇まいに
  俺は足が竦む。
名もなき配達員「(しっかりしろ、俺は太陽や風とともに手紙を運ぶだけだ)」
  俺が気合いを入れると、
  背後から声がした。
「おや、客人かな?」
名もなき配達員「うっ!」
  うわー、と悲鳴を上げなかった
  だけでも褒めて欲しい。
  俺はそう思うと、
  声のした方へ振り向いた。
ハンター「ようこそ、アンドレジー家へ」
名もなき配達員「あ、アンドレジーさんですか?」
ハンター「いかにも。私はハンター・アンドレジー。君は?」
  あまりにも爽やかに名乗られてしまい、
  俺は赤面する。
名もなき配達員「あ、僕は郵便屋です。手紙とか届けに来ました」
ハンター「そうだったのか。ご苦労様。しかし、妻にも手紙とは?」
ハンター「うーん・・・・・・」
  ハンターさんは何かを考え込むと、
  また俺の背後から声がした。
「あら、貴方。何をなさってるの?」
  綺麗だけど、隙がなく、
  整いすぎてこわいというのだろうか。
  俺はゾクっとした。
ハンター「ああ、愛しのサロメ。君こそどうしたんだい?」
サロメ「そろそろ、あの子達から手紙が来ないかと思いましたの」
ハンター「あぁ、愛しのチャーリーと愛しのダレンかな? 2人とも誰に似たのか筆不精だからね」
サロメ「本当ですわね。貴方もわたくしも手紙はよく送ったものだけど」
ハンター「そうだったね。君が私の生命を奪おうとする刹那、私は心臓が震えた」
ハンター「ああ、こんなにも美しい人の手にかかって生を終えるなんて・・・・・・って」
サロメ「それを申すのならわたくしの方よ。震えた唇は精々、命を乞うものだったけど、」
サロメ「貴方はわたくしを美しいと言ってくださったわ」
  俺はすっかりアンドレジー夫妻の世界に
  置いて行きぼりされる。
  すると、さっき、森で会った少女が
  声をかけてきた。
ジョゼフィーヌ「なかなか面倒くさいでしょ。この人達」
名もなき配達員「あ、君は・・・・・・」
ジョゼフィーヌ「あんまり外が騒がしいから気になって出てきちゃった」
ジョゼフィーヌ「荷物、運ぶなら家の中に運んで」
ジョゼフィーヌ「まぁ、あと短くて1時間くらいはあのままだから待てるなら待っても良いけど?」
名もなき配達員「1時間?」
ジョゼフィーヌ「うん、酷い時は24時間はあのまま」
名もなき配達員「(1時間どころか、1日だった)」
  俺は彼女の勧めに従い、
  荷物を各部屋に置いていった。

〇古書店
  当主・ハンター氏の部屋。
名もなき配達員「ふぅー」

〇城の客室
  次男・ダレンの部屋。
名もなき配達員「あ、これ、ダレンさんのじゃないや・・・・・・」
ジョゼフィーヌ「何か、あった?」
名もなき配達員「あ、これ、チャールズさんのみたいで・・・・・・」
ジョゼフィーヌ「ああ、リーの方か。部屋に入ると怒られるかも知れないからここで良いよ」
名もなき配達員「は、はぁ・・・・・・」

〇宮殿の部屋
  夫人・サロメの部屋。
名もなき配達員「さて、僕は帰りますね」
ジョゼフィーヌ「えぇ、ご苦労様」
ジョゼフィーヌ「あらら・・・・・・さて、私も部屋に帰るか」
名もなき配達員「す、すみません。貴方にも手紙が届いていたんで、戻ってきました」
ジョゼフィーヌ「・・・・・・」
名もなき配達員「あの・・・・・・」
ジョゼフィーヌ「どういうつもり? ダレン」
名もなき配達員「・・・・・・」
名もなき配達員「流石、ジョゼ姉だな」
ジョゼフィーヌ「リーの方は?」
ダレン「それが困ったことになってさ」
ダレン「屋敷から黄金のガネーシャ像を攫ったところまでは良かったんだけど」
ダレン「ちょっとミスっちゃって、代わりに捕まってもらったんだ」
ジョゼフィーヌ「もらったって・・・・・・貴方が仕組んだんでしょ?」
ダレン「まぁ、ある意味では?」
ダレン「多分、あいつ、今、キレまくってるよ」

〇牢獄
???「ふふふ!! ついにダレン・アンドレジーも檻の中だな」
チャーリー「だ、か、ら!! 何度も言わせるな。私はチャールズ・アンドレジー。あのバカとは違う!!」
???「チャールズ・アンドレジー? ハっハハハ。あの偉大なるハッカーだって?」
???「ふっ、いくら苗字が一緒だからって。犯罪者は皆、愚かだ」
???「まぁ、明日は有罪判決をプレゼントするよ」
「ハっ、ハハハ!!」
チャーリー「・・・・・・あのバカダレンの他にもバカがいるなんてな」
チャーリー「大丈夫か。この国」
チャーリー「(って、そんなこと、言ってる場合じゃないか)」
チャーリー「(早くここから出ないと。特に母上に知られたらヤバいし・・・・・・)」

〇宮殿の部屋
ダレン「頼むよ。母さんに知られるとさ?」
ジョゼフィーヌ「確かにそれヤバいね。留置所流血事件発生決定って感じ」
ダレン「だろだろ!」
ジョゼフィーヌ「でもな、仕事の依頼は「封書」のみ受けつけるって決めてるしなー」
ダレン「だから、郵便屋に扮して、手紙を渡そうとしたのにジョゼ姉が見破るから」
ジョゼフィーヌ「それ、私、悪くないよね?」
「なら、これならどうかな?」
「父様!/親父!」
ハンター「さっき、突然、愛しい娘に向けて愛を綴りたくなってね」
ハンター「彼に私の思いを託したんだ」
名もなき配達員「ジョゼフィーヌ・アンドレジーさんに手紙をお届けに上がりました」
  そこにはいつ書いたのか、
  数十枚に渡る便箋に愛が綴られていて、
  最後に彼女に仕事を依頼する
  文面で締め括られていた。
ハンター「引き受けてくれるかい? 私の愛しのジョゼ」
ジョゼフィーヌ「・・・・・・」
ジョゼフィーヌ「めんどくさいけど、確かに封書で受け取ったし・・・・・・良いよ」
ジョゼフィーヌ「引き受けなかったらもっと面倒そうだし」
ハンター「ありがとう!」
ハンター「いやー、私が動こうかと思ったんだけど、愛しのチャーリーが囚われているからね」
ハンター「できれば万全を期したいんだ」
サロメ「ジョゼに任せるまでもなく、わたくしが終わらせることもできますのに」
ハンター「まぁまぁ、ジョゼまで危険な目に合わせたくない君の気持ちは分かるけど、」
ハンター「信じようじゃないか。私達の娘、愛しのジョゼを」
サロメ「貴方・・・・・・」
ハンター「愛しのサロメ・・・・・・」
ジョゼフィーヌ「はぁー」

〇法廷
チャーリー「・・・・・・」
ジャスティス「・・・・・・」
クノー「・・・・・・」
カランブー「・・・・・・」

〇傍聴席
「幻の義賊は我々の味方!! 有罪反対!!」

〇法廷
カランブー「静粛に、静粛に」
カランブー「これから幻の義賊・ダレン・アンドレジーの判決を始めます」
カランブー「弁護人」
ジャスティス「はい」
カランブー「検察官」
クノー「はい」

〇黒
  それから30分後。
  ダレン・アンドレジー・・・・・・
  もとい、チャールズ・アンドレジーは
  無罪になった。

〇法廷
クノー「ば、バカな・・・・・・証拠は確かにあったのに」

〇要塞の廊下
ジャスティス「・・・・・・」

〇闇の要塞
  アンドレジー家。
  依頼すれば、モノだけでなく、
  データでも
  心でも
  命でも
  盗んでくれるらしい。
  そして、ジョゼフィーヌ・アンドレジー。
  彼女が盗むのは「真実」。

〇黒
  完

コメント

  • ルパンやモンモランシーなどヨーロッパの雰囲気漂う怪盗モノが好きなので、趣のある森やお城といった背景も含めて楽しく読みました。今回はダレンの変装とジョゼフィーヌの活躍がメインでしたが、サロメやハンターの変装や手口も見てみたいです。 

  • 真実を盗むという言葉が凄くかっこいいなぁと感じました!
    物やお金、というのはよくあるとは思いますが(フィクションの中では)!

  • 物だけじゃなくて、心・命を盗むってところで、おおっとなり、さらに真実まで盗むってところで、なるほど!!って感心してしまいました。これは再度読み返したくなる構成で、次回作が楽しみになりました。

成分キーワード

ページTOPへ