オリジナル(脚本)
〇劇場の舞台
美岬「ここに、妾(わらわ)が生きた証を 残しておいてはくれぬか...?」
美岬「さすれば...この世に未練はない...」
美岬「は・・・・・・っ」
美岬「ありが...と.....ぅ...」
河井「ふああ...すげえ...」
〇大教室
俺は河合成悟、舞台を見るのが趣味で
特にドハマりしてるのは──
〇劇場の舞台
美岬 香住
演者の一人で主にヒロイン役を
多く演じている
彼女の演技に、俺は憧れを抱いてる
〇大教室
憧れはあるけど、
演者になりたいとは思わない
俺なんて教科書の一部を覚えようとしても
数時間後には忘れてるし
とても俳優業に進める器ではない
けど──
ほんとは、ものすんごく
志望してたりする!
俺の抱く彼女への憧れは、
どうやら重症化したようで
たとえカールしてても!
パーマかけてても!
結んでなけりゃ、黒髪ロングはみんな
美岬香住に見えてしゃーーーねーー!
だから共学だと、黒髪ロングの女子を
ところ構わず好きになっちまいそうで
この変態気質をおさえようと考え、
自ら男子校を志望した
けどこのクラスには、要注意人物がいる
菊地「かわいちゃ~ん」
菊地「嫌いな唐辛子、食べれるようになった?」
菊地「俺辛いの苦手だけど、間違っちってさ~」
菊地「良ければかわいちゃんにあげる~」
河井「いらねえって、返品してこい!」
それがこいつ、菊地竜之介
めっっっっっっっっさ
口が軽すぎて、こいつの耳に入ったら最後
一生分の恥さらしになる
そんなわけで、俺が美岬香住に
憧れを抱いていることは、
死んでもぜってえ菊地に
バレるわけにはいかねえ! ! !
河井(あ?)
河井(いま、長髪の人が...)
河井(き、気のせい...だよな)
河井(ここ男子校だしっ)
河井(はあ...ついに短髪までも、 ロングに見えはじめてきたのかぁ 俺の変態気質)
〇大教室
放課後━━
河井「さあ~て、帰るか」
菊地「ちょ~みんな聞いてくれや」
菊地「俺、見ちゃったんだよね~~」
菊地「この男子校に、女の子を見つけたぜ♪」
河井「・・・」
河井「はあ? ? !」
菊地「たったいま、封鎖されてる屋上に 上がってったわ、紐跨いでった」
河井「っ! !」
菊地「うおおおっと...」
菊地「かわいちゃん?」
菊地「...足はっや」
〇大きい施設の階段
河井(マンガだったら、こういう時)
河井(好きな相手が、屋上にいるってなるけど)
河井(信じてないわけじゃないっ!)
河井(リアルにあったって──)
河井(悪くねえじゃんっっっ!)
〇学校の屋上
河井「はあ....はあ...はあ...」
「・・・だれ」
河井「っ!」
河井「ま、まままマジィィィィ? ! ? !」
河井「あ、あの美岬香住が!」
河井「こっこここここにぃ? ! ? !」
河井「あっああ、ああっあ、あの! ! ! ! ! おおおおおおれぇ! ! !」
河井「その、えっと、すっっ あああこがぁっ...! ! !」
河井「憧れてましたあっっっ! ! !」
「おい;」
「ちょっくら落ち着けって」
河井(え、なんか口調が...)
河井(あれ?よく見たら、舞台衣装じゃねえ)
美岬「お前は確か...隣の隣のクラスで...」
美岬「あ~~思い出した、"かわいちゃん"だろ?」
河井「・・・え、俺のこと知って...」
美岬「だって、同級生だろ?元から」
河井「はえ? ? ?」
美岬「あーそっか、いつも髪結ってるからな 今日に限って忘れてきてさ」
美岬「俺、男だよ」
河井「・・・」
美岬「ええっ!ちょっ、おい!かわいちゃん!」
河井(やめろ...)
美岬「かわいちゃん! !」
河井(あーやめろぉ~~~~)
美岬「かわいちゃんっっ!」
河井(やめーーーーーーい! ! ! ! !)
河井(俺は、憧れの人の声色を)
河井(正真正銘の女だと思ってたのによぉ...)
河井(それが...まさか、カワボ男子の)
河井(地声だったなんて...)
河井(あー...俺のこのファン歴2ヶ月は)
河井(なんのために...)
〇学生の一人部屋
河井「すぅ・・・」
河井「・・・」
河井「うおっ!」
河井「はあ~~~夢か」
河井「よかった~~憧れの的の美岬香住が 男なわけな...」
美岬「夢をぶち壊した見てえだな」
河井「え? !なんでぇ?」
美岬「この男部屋はおめえん家じゃねえよ 俺ん家」
美岬「泣いてぶっ倒れてそのまんまだったんだぞ」
河井「あっそぉ...」
美岬「まあ、確かに、俺ヒロイン役ばっかだから 女と見間違えられるなんざ日常茶飯事よ」
美岬「なんか、ごめんな幻滅させて」
河井「いや、俺も俺だから...」
美岬「なんで俺、いや、"美岬"が好きなんだ?」
河井「・・・」
河井「俺...舞台を観に行くのが趣味で」
河井「ちょっと前までは、題材のことを重視して 演者のことは二の次だったんだ」
河井「けど、美岬の演技は白熱すぎるというか」
河井「クライマックスの場面、ほとんど 一人演技なのに、ずっと美岬、」
河井「いいや、なでしこがさ想いを叶えて 死んでいく様を見て、胸が熱くなってさ」
河井「うおこんな観客惹き付けるもんがあるんだなって、俺もいつかあの舞台の上に立って」
河井「演者たちと一緒に、盛り上げてえなって」
河井「そう思ったんだけど、俺覚え悪いし」
河井「美岬の顔だって髪結わいてなくたって 知ってたら、勘違いしなくて済んだ事」
河井「できっこねえって、あきらめたわ」
美岬「はじめてもねえのに諦めんのか?」
河井「え...」
美岬「俺、挑戦もしねえで夢諦めんのは なんも達成できねえじゃんって思ってる!」
美岬「たった1割でも、やる気あったんだろ? 舞台立ちたいって思ったんだろ?」
美岬「じゃあ無理だと思わずやってみろよ!」
美岬「挑んでくじけたなら、きっぱり諦めが 付くってもんだ」
美岬「当たってくだけろ精神でなんぼだ!」
美岬「応援するぜ!同業者兼同級生としてな」
河井「・・・」
河井「美岬が言うと、信憑性ありまくりだな」
河井「わかった、ダメ元でも受けてみるわ 舞台俳優への挑戦」
美岬「おお!」
俺のファン歴は、決して無駄ではなかった
俺が憧れた人は、どんな事実があれ、
目標にしたい人であることに
変わりなかった
美岬が男だと分かって失望しただけで終わらず、そのことをきっかけとして将来の夢に一歩踏み出せたのがよかった。熱意を持って過ごした時間は、どんな時間も無駄にはならないんですね。
憧れの美岬さんが実は男、しかも同じ男子校という展開にニヤニヤしてしまいました。美岬さんの素の口調とビジュアルとのギャップもまたイイですね!
そんな楽しい要素からの心に響くラスト、気持ちのいい読後感です!
多様性の時代ですからね、同性でも問題はないでしょう!
と冗談はさておき、夢は安直なことで諦めがちですが、1割でもやる気があったんだろー!という言葉に自分もハッとさせられました。