読切(脚本)
〇テレビスタジオ
「・・・さて、次のニュースです」
「未来創造特別みらい税、通称『みらい税』が来年にも国会に提出される見通しです」
「これは少子高齢化を受けてのことで、独身者に特別な税が課せられます」
「野党は『独身税』だとして反対の意思を示していますが、成立した場合独身の人が払う税金は・・・・・・」
〇雑誌編集部
常田正男「あーあーまったく、独り身は大変だねぇハルカちゃん」
築島厳太朗「・・・・・・」
常田正男「俺なんて一番目のカミさんと三度目の結婚で、二度目の新婚生活よ?」
常田正男「二度三度と結婚するやつもいれば、一度もしないやつもいる」
常田正男「したくてもできないモテねぇやつは手頃な所で妥協でもするが吉ってなぁ、ハルカちゃん」
築島厳太朗「・・・その名前で呼ばないでくださいよ編集長」
常田正男「あっはっは、あのハルカちゃんが今や厳島厳太朗大先生だもんなぁ・・・」
常田正男「数々の女を落とし利用して闇を暴いてきた潜入ルポライター、その手法は刺されても仕方ねぇクズっぷり」
常田正男「背中を狙う女は両手じゃ収まりきらねぇときた」
常田正男「それでもジャーナリズムにマジなとこ尊敬してるんだぜ?」
常田正男「俺たちはまだいけるってなぁ、ハルカちゃん」
常田正男「・・・それで、次の潜入先は結婚相談所だったか」
築島厳太朗「はい」
常田正男「結婚相談所っつーと、結婚できねぇ男女の最後の駆け込み寺ってイメージだな」
築島厳太朗「まあ、実際どこも悪どい商売ですよ」
築島厳太朗「1、自分には市場価値がない・売れ残りであると自覚させ、必要な妥協の名の下に適当な男女をくっつけ高額の成婚料で儲ける」
築島厳太朗「2、夢見がちな会員をそのままいつまでも所属させ毎月の登録料、半端な指導のセミナーやカウンセリングなどで荒稼ぎする」
築島厳太朗「そして、みらい税の成立を見越して三つ目」
常田正男「偽装結婚か?」
築島厳太朗「はい」
築島厳太朗「・・・ただ、今狙ってる所はどうも怪しい」
常田正男「というと?」
築島厳太朗「表向きはごく平凡な、小さな結婚相談所なんですがね、徹底しすぎてるんですよ」
築島厳太朗「入会希望者として面談を受けるまで数ヶ月掛かるなんて、普通じゃない」
築島厳太朗「何か裏がありそうだって、俺の勘が告げてるんですよ」
常田正男「なるほどな・・・・・・たしかに、俺が大好きなスクープのにおいだ」
常田正男「鬼が出るか蛇が出るか」
常田正男「気を付けろよ、ハルカちゃん」
築島厳太朗「だからその名前で呼ばないでくださいって何度言ったら・・・」
常田正男「まーまーまーちっちゃいことは気にすんな!」
〇応接スペース
──数日後、とあるビル
ハピネス☆小林「初めまして、坂崎さま。わたくし、ハピネス☆小林と申します」
築島厳太朗「初めまして、坂崎真(さきざきしん)です。本日はよろしくお願いします」
ハピネス☆小林「早速ですが、坂崎さんはSE・・・システムエンジニアをなさってるんですね」
築島厳太朗「ええ、繁忙期には残業も多いですが、最近はそれほどでもないです」
ハピネス☆小林「一般男性よりも高い年収、高い身長、清潔感もあり、お顔も整っていらっしゃる」
ハピネス☆小林「年齢も32歳と程良いお年頃・・・まさに市場で求められる優良物件」
ハピネス☆小林「よきです!よきです!」
ハピネス☆小林「お声が良いのもポイント高し。まるで2.5次元俳優さんのよう──推せます!」
〇応接スペース
ハピネス☆小林「・・・・・・それで、坂崎さんは何が『ワケあり』なのでしょう」
築島厳太朗「そ、それは・・・・・・」
ハピネス☆小林「分かります!分かります!こんな見ず知らずの女にご自分の後ろ暗いところを晒すのは勇気がいることですよね」
ハピネス☆小林「でも、安心してください。ここは皆さん、わたくしも含めて『そう』なんですよ」
ハピネス☆小林「それでも・・・ほら、」
ハピネス☆小林「さあ、勇気を出してください。今日は坂崎さんにとって最重要エピ、神回になること間違いなし!」
ハピネス☆小林「一緒にハピネスの扉を開きましょう!」
〇応接スペース
築島厳太朗「・・・・・・」
築島厳太朗「・・・・・・じ、実は・・・自分でもわがままだとは思うのですが、」
築島厳太朗「それなりにモテてきたせいか、条件を満たす女性にしか興味が持てないんです」
ハピネス☆小林「なるほどなるほど?」
築島厳太朗「1、僕(180cm)より5cm以上背が高くたくましい」
築島厳太朗「2、それでいて顔は瞳の奥に小動物を飼っているような可愛い系ロングヘア」
築島厳太朗「3、僕の手からはみ出るような大きな胸。──ただし天然ものに限る」
ハピネス☆小林「・・・・・・」
ハピネス☆小林「うーん・・・」
ハピネス☆小林「うーーーん・・・・・・」
ハピネス☆小林「そうきますか・・・・・・」
ハピネス☆小林「坂崎さん、古のライトノベルから言われているこんな言葉をご存知ですか?」
ハピネス☆小林「──『すべて嘘よりも、いくらか真実をまぜた方が説得力が増す』」
築島厳太朗「・・・どういうことですか?」
ハピネス☆小林「少し頼りないイケメンというのもなかなか母性をくすぐられて非常によきですが、もう演技は結構ですよということです」
築島厳太朗「本当に何を言っているのか俺には・・・」
ハピネス☆小林「なるほどなるほど、まだ粘るおつもりですか」
ハピネス☆小林「で、あれば、わたくしハピネス☆小林の華麗なる指摘パートスタートです!」
〇応接スペース
ハピネス☆小林「ヒント。条件、仕事内容、名前。この3つから導き出されることはなんでしょう」
ハピネス☆小林「さあ、ここで気付けたら超優秀さんですよ!」
ハピネス☆小林「──分かりませんか。でも諦めないでください、次で分かれば優秀さんです!」
ハピネス☆小林「1、普通の女性ではなかなかなかなか満たせないような条件ですよね」
ハピネス☆小林「2、女性への扱いはいかがでしょう」
ハピネス☆小林「3、名前はそれである必要がありますか?」
築島厳太朗「・・・何が言いたいんですか?」
ハピネス☆小林「わたくしは、坂崎さんが自ら気付き成長するのを待つとともに、みなさんの考察時間を稼いでいるのです!」
ハピネス☆小林「お待たせしました。3つのことから導き出されること・・・・・・そうそれは、」
ハピネス☆小林「ズバリ、ターゲットを女性から男性に変えましょう!」
築島厳太朗「は?」
ハピネス☆小林「あなたは自らを偽って生きているのではないですか?」
ハピネス☆小林「1、『筋肉質な男性』と考えればしっくりきます」
ハピネス☆小林「2、女性に対する必要以上の非道な扱いは嫌悪からですか?羨望からですか?」
ハピネス☆小林「3、坂崎真(さきざきしん)さん──いえ、詐欺師さん。いえ、厳島厳太朗さんとお呼びした方がよろしいでしょうか」
ハピネス☆小林「本名に相対するように『俺はいかつい男だ』とアピールするようなペンネーム」
ハピネス☆小林「あなたが一番『男であること』にこだわり、縛られているということです」
築島厳太朗「・・・・・・」
築島厳太朗「あらかじめ対象者を調査済みというわけか」
築島厳太朗「それにしたってばかばかしい言い掛かりはやめてくれ」
築島厳太朗「取材が出来ないなら意味がない、帰らせてもらう」
ハピネス☆小林「──お待ちください」
築島厳太朗「なんだ?口封じでもするつもりか?」
ハピネス☆小林「いいえ、そんな暴力的なことはいたしません」
ハピネス☆小林「──ただ、アドバイザーたるもの、時に厳しいことも言わなければなりません」
ハピネス☆小林「これはそう──愛の鞭なのです!」
ハピネス☆小林「もし、あなたが本当に望むものをわたくしが『手配』出来るとしたら?」
ハピネス☆小林「あなたには、」
ハピネス☆小林「本当に覚悟があるんですか?」
ハピネス☆小林「この先の人生を死ぬまで偽る覚悟が」
ハピネス☆小林「覚悟はあるんかって聞いてるんですよ!」
〇黒
〇雑踏
小林えり「ちょっと編集長、飲み過ぎですって〜」
常田正男「いいんだよ止めるな小林!」
小林えり「そう言われても奥さんから怒られるの私なんすけど?!」
小林えり「それにしても厳島先生、どこに行っちゃったんすかね・・・」
常田正男「聞くな小林!そんなの俺が一番知りてぇからなぁ〜!!」
小林えり「ちょ、声でか・・・・・・って編集長!」
小林えり「大丈夫ですか?立てます?」
小林えり「さすがに小林も担げないっすからね」
小林えり(なんかあの人、似てるような・・・・・・)
早く引っ張れ小林ぃ〜!
小林えり「う〜編集長重すぎっす!」
小林えり「よっこいしょ!──ほら、編集長行きますよ」
常田正男「うい〜」
小林えり「編集長マジ重いっす!」
小林えり「・・・・・・」
小林えり(・・・・・・まさか、ね)
最後、ハルカは自分に正直になって理想のマッチョとお付き合いすることになったんだ。怪しい相談所どころか正真正銘の縁結びハピネスだったわけですね。それにしてもデリカシーの欠如した編集長の描き方が上手すぎて笑ってしまいました。
結婚相談所の勝手なイメージですが、この作品のように自分の考え方を正してくれるようなイメージがあります。
同性をお薦めするとは思いませんでしたが笑
結婚相談所の担当の女性が、主人公の思惑とは反対にしっかりしてて言われて図星なことばかりのようで面白かったです。ここ最近、実際にマッチングが流行り出してるので、こういう結果になることもあるのかもしれないなぁと考えさせられました。