ラノベを読みたいギャル

遊佐 師門

読切(脚本)

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〇まっすぐの廊下
  高校デビューは順調だった。
  中学の反省を活かしてオタクであることを隠し、愛想良く振る舞ったら友達も増えた。
エイト(やっと俺が求めていた生活を謳歌できる・・・はずだったんだけど)
  ようやく手に入れた平和な日常は、一人の女のせいでいとも容易く崩壊しかけている。
  女の名前は、ルコ。
  このドアの先で待っているオタクの天敵、即ちギャルである。

〇教室
???「お、キタキタ! ウィーッス!」
エイト「ん(声でっか)」
ルコ「あれれ~? 元気ないなぁ!」
エイト「そりゃそうだろ・・・」
  自分の隠したい秘密を握っている相手と話そうという時に、元気など出るはずもない。当然の話だ。
  しかも相手は口の軽そうなギャル。いつ俺の秘密がばら撒かれたって不思議ではないのだから。
エイト「で、貴重な放課後の時間を使ってまで俺を呼び出して、何がしたいの?」
ルコ「エイト君とお話したいなーって」
エイト「それだけ? そんなはずないだろ」
ルコ「え?」
  そう、そんなはずはない。だって──

〇教室
  今日も弁当が美味い──
ルコ「えっと・・・」
ルコ「あ、いたいた」
ルコ「ねーねー」
ルコ「エイト君、ラノベ書いてるよね」
エイト「なっ!?」
  それは、親にも親友にも言っていない秘密。それを、どうして俺との接点がないギャルが知っているんだ?
  いや、それよりも問題なのは・・・
  オタクであることがバレたら、俺の平和な高校生活が崩れてしまいかねないことだ。
エイト「なんで? いや、それよりその話はやめ・・・」
ルコ「あー、おけおけ。人には言わない! 言わないから、その代わり・・・」
ルコ「今日の放課後。誰もいなくなった頃に2-Aの教室に来て! じゃあねー!」
エイト「──っ!」

〇教室
エイト「だって脅したじゃないか! 俺を!」
ルコ「えっ!?」
エイト「秘密を言わないことと引き換えに、パシったりいじめたりするから覚悟しろってことだろ、アレ!」
ルコ「そんなつもりないってー!」
  困ったような、少し悲しいような表情を浮かべるルコ。
エイト(そんな顔されたって、信じられないものは信じられない)
エイト「というか、なんで俺の秘密知ってるんだ? 誰にも話したことないのに」
ルコ「それは、えっと・・・えっとねー・・・」
  目をぐるぐると回すルコに構うことなく、俺はまくし立てる。
エイト「中学の頃は女子に散々な目に遭わされたんだ。ちょっとかわいい見た目だからって、騙されないからな!」
ルコ「かわっっっ!?」
  何に驚いたのか、ルコは唐突にアヒルのような声を発しながら後退した。
  そして教壇に躓いて黒板のチョーク入れに後頭部をぶつけ、そのまま崩れ落ちる。
エイト「は?」
  一瞬の逡巡の後、俺はルコに駆け寄った。
エイト「えっと。大丈夫か」
ルコ「あっはは、ありがと」
  ルコに手を差し出す。近くで見ると、彼女の頬は夕日の中でも分かるくらいに赤かった。
  彼女は思ったよりも悪い奴ではないのかもしれない。俺はそう思い始めた。
ルコ「えっと・・・なんで知ってるのって話だけど。パパがエイト君の本を読んでて──」
エイト「え?」
  それはおかしい。俺の小説は世に出ていないのだ。
エイト(いや、待てよ)
エイト「まさか、応募した・・・」
ルコ「そ、そう! それ!」
エイト(食い気味)
エイト「なるほど。ルコの家族が選考委員だったと。俺、本名で応募してるからなぁ」
エイト「──疑ってひどいこと言った。悪かったよ」
ルコ「いいっていいって」
ルコ「まあ、それでエイト君が書いてる話を読んだり、アイデアを聞いてみたいなぁって思ったってワケ!」
  そう語るルコの髪の匂いで、俺はまだ彼女の手を取ったままだったことに気付いた。
エイト「あっ、悪い。手──」
  急いで手を離そうとする。しかし、ルコがぎゅっと手を強く握ったせいで離れられなかった。
エイト「えっ」
ルコ「でも、ホントに伝えたいのはそれじゃなくて」
ルコ「エイト君に好きですって言うために、ここに呼んだの。小説を書くのも、応援したいの」
ルコ「ず、ずっと前から・・・見てたから」
エイト「・・・」
  急展開すぎる。
  沈黙。心臓の音と時計の音。チョークの匂いとルコの匂い。
エイト(これはまずい。ヤバい──)
  手を振りほどいて立ち上がる。
エイト「さっ! 流石に無理だって! 知り合って間もない相手とそんな関係になれるか!」
  ──ああ、俺は何を。多分ルコはいい人だ。
  でも、俺にはまだ心から女性を受け入れることは難しかったのだ。
ルコ「あー、ヘタレー」

〇まっすぐの廊下
  そうして俺は、ルコの言葉に背中を刺されながら俺は教室を後にしたのだった。

〇教室
ルコ「・・・」
  一人になった教室で、ルコは外の景色を眺めていた。
ルコ「あーあ、振られちゃった」
ルコ(でも満足。少しだけ、私のことを見てもらいたかった。それだけだったもん)
ルコ(エイト君はきっと私のことなんてすぐに忘れちゃうだろうなあ)
ルコ(会えるのは、『ここだけ』だもんね)
ルコ(ましてや私、存在感のないモブだし)
ルコ(でも、私は今日のこと、ずっと忘れないよ)
ルコ「カワイイって言ってくれて、嬉しかったなぁ」

〇男の子の一人部屋
  目が覚めると、目の前にパソコンがあった。
  どうやら、寝落ちしてしまったようだ。
エイト(なんか、良い夢見てたような・・・)
  パソコンの画面には、執筆前のラノベのキャラクターについてのメモが映っていた。
  『主人公』
  『ヒロイン』
  『モブ:ギャル子(仮)』
エイト「・・・」
エイト「なんだろ、いい話が書けるような気がする」
  メモを全部消して、『ヒロイン:ギャル』と書き直す。
エイト「名前は・・・ ギャル子、ギャルコ・・・ルコでいいか」
エイト「よし、書くぞ!」

コメント

  • エイトくんもルコさんもかわいいですね!
    二人の距離が少し縮まったのは、ルコさんはまだ気づいてませんよね。
    エイトくんの、次の作品を読んだ時のリアクションを考えるとキュンってします。

  • ルコちゃんが見た目と裏腹に純粋で、そのギャップもまた魅力的で、彼女の恋を応援したくなりました。エイトみたいなオタクくんが好きな女子もいますよね、、というか私は好きです、こういう男の子。なのでときめきながら読みましたよ。可愛い青春♪

  • 短編小説にぴったりのとてもまとまって、きれがあるスタイルのお話だと思いました。書く前にいい夢がみれて、きっと創作意欲を増してくれましたね。是非長編小説も頑張ってください!

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