不器用な告白(脚本)
〇黒
「おい、起きるんだ」
「起きるんだ、川嶋瑠衣!」
川嶋瑠衣「え!」
黄泉の案内人「やっと気づいたようだな」
川嶋瑠衣「え? え? お、おじさん誰? どうして私の名前を知っているの?」
黄泉の案内人「私は黄泉の案内人。死んだ人間を導く役割を担っている」
川嶋瑠衣「死んだ? 私死んだの?」
川嶋瑠衣「嫌だよ。私、まだ17だよ。やりたいこといっぱいあるし。嫌だ、嫌だ」
黄泉の案内人「そういう人間が多いから神は人間に機会を与えている」
川嶋瑠衣「もしかして生き返らせてくれるとか?」
黄泉の案内人「すぐそれだ。最近の人間は命をゲーム感覚でとらえる。命のやり直しなど無い」
川嶋瑠衣「こんな時にお説教しないでよ。生き返るんじゃないなら何?」
黄泉の案内人「夢枕だ」
川嶋瑠衣「夢枕?」
黄泉の案内人「大切な人の夢に現れて自分の想いを伝える機会を与える」
川嶋瑠衣「大切な人に自分の想いを?」
黄泉の案内人「そうだ」
川嶋瑠衣「親、弟、おばあちゃん。あと親友のあっちゃんと、あと・・・」
黄泉の案内人「一人だけだ」
川嶋瑠衣「一人だけ選ぶなんて無理!」
黄泉の案内人「多くの人間がそう言う。それでもあれこれ悩んで一人を選んでいるんだ」
川嶋瑠衣「一人だけなんて無理・・・」
川嶋瑠衣「そうだ、あいつに謝らなきゃいけないことがあったんだった」
黄泉の案内人「あいつとは?」
川嶋瑠衣「き、北原翔馬・・・」
黄泉の案内人「ほう」
川嶋瑠衣「な、何よ。どうして笑うのよ」
黄泉の案内人「では、そこの扉を開けなさい」
川嶋瑠衣「扉?」
〇謎の扉
川嶋瑠衣「この扉を開ければいいのね」
〇黒
〇ゆめかわ
北原翔馬「・・・」
川嶋瑠衣「翔馬君?」
北原翔馬「川嶋?」
川嶋瑠衣「本当に会えた!」
北原翔馬「マジかよ」
川嶋瑠衣「私の顔見て嫌がらないでよ!」
北原翔馬「驚いてたんだよ、こんなことあるんだなって」
川嶋瑠衣「こんなこと?」
北原翔馬「川嶋に話すことがあったから」
川嶋瑠衣「えっ? 実は私もなんだ」
北原翔馬「え? そうなのか? 何だよ」
川嶋瑠衣「翔馬君に謝らなきゃいけないことがあったから」
北原翔馬「俺に謝る? 何のことだよ?」
川嶋瑠衣「それが・・・思い出せないんだ。でもすごく大事なことだって気がしてて」
北原翔馬「気にするな」
川嶋瑠衣「でも」
北原翔馬「思い出せないことなら大事なことじゃないだろ?」
川嶋瑠衣「でも」
北原翔馬「川嶋って勝気で怒りっぽいけど、案外気が弱くて失敗を引きずるタイプだよな」
川嶋瑠衣「そんなことない!」
北原翔馬「ほら、すぐ怒る」
川嶋瑠衣「・・・」
北原翔馬「俺は気にしてないからさ。引きずるなよ」
川嶋瑠衣「う、うん」
北原翔馬「俺はちょっとドジだけど、明るく笑っている川嶋が好きだから」
川嶋瑠衣「えっ。今なんて言ったの?」
北原翔馬「ちょっとドジだけど」
川嶋瑠衣「その後!」
北原翔馬「そ、そういうことは何度も言わせるなよ」
川嶋瑠衣「言ってよ。もう聞くことできないんだから」
北原翔馬「え?」
川嶋瑠衣「これが最後なんだから」
北原翔馬「これが最後・・・」
川嶋瑠衣「最後・・・なんだよね」
川嶋瑠衣「私ずっと翔馬君のこと好きだったから!」
北原翔馬「・・・」
北原翔馬「俺も川嶋のこと、ずっと好きだったんだ」
川嶋瑠衣「本当に? ねえもう一度言って」
北原翔馬「いいだろ、2回も言ったんだから」
川嶋瑠衣「もっと聞きたいの!」
北原翔馬「俺、お前のことが好きだ」
川嶋瑠衣「私も翔馬君が好き」
北原翔馬「あ~あ」
川嶋瑠衣「どうしたの?」
北原翔馬「あんな小細工するんじゃなかったな」
川嶋瑠衣「小細工?」
北原翔馬「もっと正々堂々と今みたいに告白すればよかった」
川嶋瑠衣「な、何のこと?」
北原翔馬「何でもない。俺、そろそろ行くから」
川嶋瑠衣「待ってよ、もう少し一緒にいたい」
北原翔馬「こっちに来るな!」
川嶋瑠衣「どうしてそんなこと言うの? もう会えないんだよ?」
北原翔馬「わかってるよ」
川嶋瑠衣「だったら! 私まだ翔馬君に謝ってない。思い出すまで待って!」
北原翔馬「・・・」
川嶋瑠衣「どうして思い出せないんだろう・・・」
北原翔馬「くよくよすんな!」
川嶋瑠衣「思い出すから待ってて!」
北原翔馬「もういいよ。俺全然気にしてないから」
川嶋瑠衣「でも」
北原翔馬「言っただろ。俺は明るく笑っている川嶋が好きだって!」
川嶋瑠衣「・・・」
川嶋瑠衣「わかった・・・」
川嶋瑠衣「・・・」
北原翔馬「そうだ、川嶋は笑顔が一番だ!」
〇謎の扉
川嶋瑠衣「あれ、翔馬君?」
黄泉の案内人「終わったようだな。ご苦労さん」
川嶋瑠衣「え?」
黄泉の案内人「そろそろお別れだな」
川嶋瑠衣「待って、まだ翔馬君に謝ってないの。もう一度会わせて!」
黄泉の案内人「いずれその機会は訪れるだろう」
川嶋瑠衣「えっ」
黄泉の案内人「では、さようなら」
川嶋瑠衣「あっ!」
黄泉の案内人は瑠衣を突き落とした。
〇黒背景
〇白
「瑠衣!」
「瑠衣!」
川嶋瑠衣「えっ」
〇病室のベッド
瑠衣は目を覚ました。そこは天国でも地獄でもなく、病院のベッドの上だった。
川嶋瑠衣「私、どうしたの?」
瑠衣は自転車に乗っていた時、自動車と衝突事故を起こした。そのまま意識を失い病院に運ばれたのであった。
川嶋瑠衣「え。それじゃあれは夢?」
川嶋瑠衣「あっ」
瑠衣は全てを思い出した。
川嶋瑠衣「逆だったんだ・・・」
川嶋瑠衣「翔馬君が私の夢枕に・・・」
その日の学校の帰り道、瑠衣は翔馬を自転車の後ろに乗せて帰っていた。
川嶋瑠衣「翔馬君の自転車がパンクしたから私の自転車で二人乗りしたんだ」
その帰路で事故にあった。しかし翔馬が身を挺して瑠衣を庇ったことで瑠衣は軽傷で済んだのであった。
〇住宅地の坂道
その時瑠衣は自分の肩を掴んでいる翔馬の手の温もりが気になっていた。
それで自動車に気づけなかったのだった。
〇病室のベッド
川嶋瑠衣「私のせいで翔馬君が・・・」
川嶋瑠衣「ご、ごめんなさい・・・」
北原翔馬の声(俺全然気にしてないから)
川嶋瑠衣「翔馬君!?」
〇学校の駐輪場
その後瑠衣は退院し復学した。放課後、瑠衣は駐輪場に向かった。そこには翔馬の自転車が残されたままだった。
川嶋瑠衣「あれ? パンクしてない・・・」
北原翔馬の声(あんな小細工するんじゃなかったな)
川嶋瑠衣「あっ」
瑠衣はそれが一緒に帰るための口実だったことに気づいた。
川嶋瑠衣「そこまでして私の事を・・・」
北原翔馬の声(川嶋は笑顔が一番だ)
川嶋瑠衣「わかっているよ・・・」
川嶋瑠衣「・・・」
川嶋瑠衣「ほら」
川嶋瑠衣「・・・」
川嶋瑠衣「無理だよ・・・」
瑠衣はそれからしばらく泣いてばかりの日々が続いた。
〇ゆめかわ
時が経ち、瑠衣は立ち直った。
瑠衣は翔馬の最後の言葉を胸に刻み、いつも明るく笑顔の女の子になるのであった。
『一瞬だけの両想いでも』
END
瑠衣のイラストが表情豊かで彼女のキャラクターにぴったり。実は二人とも死んでいて天国で再会できるかと思っていたら翔馬だけとは・・・。どんでん返しの驚きと切なさが同時に襲ってくるラストでした。それにしても「夢枕」って素敵な言葉ですよね。
寧ろ本当の気持ちを知ってしまって更に別れが惜しくなるような気もしないでもありませんが、最後に話せずにお別れする方がもっと辛いか…。
小細工が無ければ結果は違ったとすれば、たらればで考えると自分だったら後悔しかない…。
瑠衣ちゃんが再び目を覚ましてから現実を把握した後受けたショックは相当なものだったでしょうね。彼からの言葉が彼女を強く素敵な女性になるように寄り添ってくれると思います。