サブスクファミリー

nagi

Case.1(脚本)

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〇事務所
青山「お電話ありがとうございます。 家族代行サービスです」
依頼人「あの、佐々木と申します。父親代行の予約をしたいのですが」
青山「佐々木様ですね。 いつのご予約をご希望でしょうか?」
佐々木「明後日の朝から丸一貸し切りをお願いできますでしょか?」
佐々木「場所は結婚式場なんですけど、結婚に反対している父親がこないので、その代わりをお願いしたいんです」
青山「かしこまりました。 結婚式となりますと、披露宴会場ですのでスーツ等準備にオプション料金が発生しますが大丈夫でしょうか?」
佐々木「大丈夫です。 よろしくお願いします。会場の場所は・・・」

〇オフィスの廊下
青山「畑中さん、新しい依頼が入ったのでシフト確認しておいてください」
畑中「おう、わかったよ」
高野「畑中さん最近大忙しですね」
三浦「ほんと。羨ましいです」
畑中「6月だからなぁ。ほら、あれだよ。あれ」
高野「あれってなんすか?」
畑中「あれだよ。 ジ、ジェーンブライドってやつだよ」
三浦「ジューンブライドですよ。 畑中さん、無理して横文字使わなくてもいいですよ」
畑中「俺を年より扱いするんじゃねえっての」
畑中「ほら、このシーズンは父親役を頼まれるのが恒例業務になるくらい多いんだよ」
畑中「お前らも予約待ちできるくらい最近は忙しいんだろ?」
高野「まぁ、家族代行サービスで呼んでおいて、大体は披露宴の席に友人として出るくらいですけど」
三浦「でも見ず知らずの他人に、わざわざ金払って祝ってもらって・・・本当に嬉しいんですかね」
畑中「披露宴の場だろう? 親の目も気になるから俺たちみたいな奴がかり出されるんだよ」
三浦「見栄ってワケね」
畑中「まぁ・・・人望があるって思わせたいんだろうな。子供なりの親への気遣いだろうよ」
畑中「俺だって、もし息子に友達がいないと分かれば心配するかもしれんな」
高野「子供からすれば余計なお世話ですよ。 親に心配かけたくないし、自分の人生に干渉されたくないですよ」
高野「・・・というか畑中さんお子さんいたんですね」
三浦「ほんと初耳!」
畑中「言ってなかったっけか? いつまでもくそ生意気な反抗期の息子だけどな!」
高野「息子さんとは仲はいいんですか?」
畑中「いやいや、ろくに会話もしてもくれないさ。 家族なのに、プライベートのことなんざなんもわからねぇ」
畑中「身内だからこそ自分のことを話しにくいとか、気恥ずかしさもあるんだろうけど」
畑中「親にしてみれば寂しいもんよ」
高野「そうなんですね。俺も最近は実家に帰ってないなぁ・・・」
畑中「たまには顔出してやれよ?」
畑中「俺もいつかは息子と酒でもかわせるようになりてえんだがなぁ」
高野「そんな日が早くくるといいですね」
畑中「さぁ・・・いつになるかねぇ」
三浦「後悔しないうちに、色々と話しておいた方がいいですよ?いつ何がおこるかわかりせんからね」
畑中「おっ、そろそろ仕事か?」
高野「いやっ、今日はまだ依頼された時間じゃないはずですけど・・・」
高野「はい、お電話ありがとうございます。 家族代行サービス、担当の高野です」
???「もしもし、予約した松下ですが日程の繰り上げをお願いできますでしょうか」
高野「かしこまりました。日程変更ですね? 繰り上げというのは・・・いつ頃をご所望でしょうか」
松下「今からです!××総合病院までお願いきてください。おねがいします!」

〇病院の廊下
依頼人「この度はよろしくお願いします」
高野「依頼は確か、息子さんの代わりのお見舞いでしたよね?」
依頼人「急な申し立てになってしまいすみません。時間があまり残っていないので、今すぐこちらに」

  案内された場所は一室貸し切りされた病室だった。

〇田舎の病院の病室
依頼人「お母さん、幸助がきてくれたよ!」
幸「幸助が・・・?」
幸「今さら何しにきたんだい。会う必要なんてないわよ」
依頼人「そんな強がり言わないで会ってあげてよ。 最後に母さんに謝りにきたんだよ」
幸「今さら話すことなんてないよ。帰してやっとくれ」
依頼人「ちょっと、母さん!」
高野「あ、あの、僕は何をすれば・・・?」
依頼人「私の兄は家出したっきり戻ってきていないんです」
依頼人「母は容態的にそう長くありません。だから、兄の代わりに話してあげてほしいんです。お願いします・・・」
高野(そんな無茶な・・・)
高野(・・・いやっ、こういう時こそアドリブ力が試される本業を発揮する時じゃないか)
高野「ひ、久しぶり・・・」
幸「・・・!!」
幸「い・・・今さら何のようだい」
高野「母さんの体が悪いって聞いたから・・・ここまできたんじゃないか」
高野「せっかく見舞いに来てやったのに、なんだよその態度」
幸「頼んだ覚えはないよ。娘が勝手に呼んだんだ」
高野「わかったよ・・・だったらもう帰るよ」
幸「・・・幸助!」
高野「な、なんだよ突然・・・大きな声だして」
高野「俺が来たって迷惑だったんだろ? どうせ俺は家族の厄介者だよ。だからあの時出てったんだ」
幸「そんな物言いするんじゃないよ!」
高野「こんな所で説教始める気かよ?」
幸「・・・幸助」
幸「・・・」
幸「あんたを心配しない日なんて一日たりともなかった」
幸「ちゃんとご飯は食べてるのかい」
高野「・・・あ、ああ。食べてるよ」
幸「そうかぃ・・・あんた昔っから偏食ばかりなんだから、早く良い奥さんもらいなさいよ」
高野「・・・余計なお世話だ。ちゃんと一人生活できてる」
幸「そうかぃ。・・・頑張ってるんだね」
幸「母さんねぇ、白内障が進んじまったからもうあんた顔は見られないけど、あんた・・・随分と声が老けたね」
高野「・・・母さんもな」
幸「・・・余計なこと言うんじゃないよ」
高野「・・・・・・」
高野「母さん・・・俺が出てったのは、母さんでも家族の誰のせいでもないから」
高野「勝手に出てったのは、悪かったと・・・思ってる」
幸「謝るくらいなら家出なんてするんじゃないよ」
幸「あんたがいなくなってから、色々と大変だったんだ。ストレスで老けるのも早くなっちまったんだよ」
高野「俺のせいかよ」
幸「ふふっ・・・」
高野「何がおかしいんだよ」
幸「いいや、なんでもないよ」

〇空
幸「でも、最後の最後にあんたと話せたんだ。 もう思い残すことはないさね」
高野「縁起でもないこと言うのやめろって」
幸「・・・幸助」
幸「来てくれて、ありがとうね」

〇病院の入口
高野「あの、本当に俺でよかったんですか?」
依頼人「これでいいんです」
依頼人「今さら余計な心配かけたくないと・・・家族だからこそ今の自分を知らずにいてくれた方が幸せだと本人が言っていたんですけど」
依頼人「やっぱり会わしてあげたかったんです」
依頼人「喧嘩別れして、お互い意地を張り続けていたんですけど母にだけは後悔させたくなくて・・・」
高野「あの、今は息子さんは・・・?」
依頼人「未だに音信不通が続いてます。 せめて最期だけは会ってあげた方がいいと思っていたんですけどね」
高野「そうなんですか・・・踏みいった話をさせてしまってすみません」
依頼人「いえっ、依頼する以上はお話しする覚悟はありましたので!」
依頼人「それにしても名演技でした! 同じことを話す兄の姿が目に浮かびましたよ」
高野「あぁ、あれはー・・・」
高野「実家の父親を思い浮かべて話していただけですよ」
依頼人「なるほど。だからリアリティがあったんですね」
高野「えぇ、まぁ・・・ うちの父親は松下さんのお母様のような返答はしないと思いますけどね」
依頼人「・・・ありがとうございます。兄の代わりになって頂けて。本当に助かりました」
依頼人「それと、急な申し出でご迷惑をかけてすみませんでした」
依頼人「母に嘘でも兄を会わしてあげられてよかったです。最後に笑顔もみられたし」
依頼人「母も最期は繋がりを感じられて、きっと・・・寂しくなかったと思います」

〇事務所
高野「戻りました~」
畑中「ごくろうさん」
高野「畑中さんも丁度仕事終わりですか?」
畑中「おうよ。そっちは随分と疲れてるなぁ?」
高野「畑中さん、本当の家族ってなんなんでしょうね」
畑中「うーん・・・」
畑中「それがわかっていれば、俺だってこんな場所で働いちゃいねぇよ」
高野「たしかに。それも言えてますね」
畑中「急にどうしたんだ?」
高野「畑中さんも、息子さんと元気なうちにいっぱい話しておいた方がいいですよ」
???「本当の家族ですか・・・この業種にとっては深い質問ですね」
高野「青山さん、お疲れさまです!」
青山「松下さんから先程お礼のご連絡がありました。それと、伝言を預かりましたよ」
青山「高野さんも、家族を大切にしてあげてください。とのことです」
畑中「依頼人に心配されてどうするよ」
高野「参ったな・・・」

〇空
高野「実家・・・」
高野「いつ帰ってやれるかなぁ・・・」
  【完】

コメント

  • いい嘘と悪い嘘があると言いますが、この物語は前者ですね。お母さんはもしかして自分の息子ではないと気づいていたけれど、最後に息子に会わせてあげたいという娘さんの優しい気持ちに応えて騙されたふりをしたのかも。代行サービスへの依頼を通して現代社会における家族関係や問題点が垣間見えるようです。

  • 便利なサービスもその主旨が誰かの為というものであれば、大いに活用するべきだなあと思いました。ついてはいけない嘘と、嘘によって誰かが救われることは、大きく違いますね。

  • とても偏見なのですが、〇〇代行っていうサービスは見栄を張るためのものなのだと今までずっと思っていました。
    でもこの作品を読んで、代行サービスで心を救われる人もたくさんいるんだなあと思いました😌
    心が温まりました。

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