何度でも(脚本)
〇荒廃した教会
人形「私の犬になって」
〇荒廃した教会
人間「・・・いいだろう」
〇荒廃した教会
人形「うれしい」
人間「・・・君は”羊”、私は”犬”──」
人間「犬は羊を”狼”から守ればいいのだろう?」
人形「・・・うん」
人間「任せたまえ」
人形「・・・それじゃあ」
人形「これからずっと、一緒にいて」
人間「ずっと、というのは──」
人形「・・・」
〇黒
人形「死ぬまで」
〇暖炉のある小屋
人形「・・・」
人間「・・・」
人形「・・・食べないの?」
人間「・・・これ──」
人間「花だろう?」
人形「人間は、花を食べない?」
人間「あまり、食わんな・・・」
人間「君はいつも花を食べているのか?」
人形「ううん、初めて」
人形「こうするって、知ってたから」
人間「知ってた?」
人形「はじめから知ってた」
人形「人間も、なにか食べなきゃ」
人間「私は後でいい・・・」
人間「それより、呼び名を変えてくれないか」
人間「私の名はソレイユだ」
人形「名前・・・人間、じゃなかった?」
人間「人間、だが・・・ 人間の、ソレイユだ」
人間「君の名はなんという?」
人形「私は・・・名前、ない」
人間「・・・ないのか」
人形「私も・・・名前、ほしい」
人間「では、私が名を与えよう」
人形「うれしい」
人間「少し、考えてからな」
人形「すぐはもらえない?」
人間「名は、よく考えて付けるものだ」
人形「・・・夜まで」
人形「夜、私が眠るまでに」
人形「名前、ほしい」
人間「任せたまえ」
〇睡蓮の花園
ソレイユ「晴れたな」
ソレイユ「虹が出てる」
人形「あれは、虹っていうの?」
ソレイユ「そうか、知らないのか」
ソレイユ「今朝は、雨が降ってただろう」
人形「私が──ソレイユを助けたとき?」
ソレイユ「・・・ああ、そうだ」
ソレイユ「私が君に・・・助けられた、とき── 雨が降っていたな」
ソレイユ「雨が降って、やんで、太陽が出ると──」
ソレイユ「空には虹が架かるんだ・・・稀にな」
人形「ソレイユは、物知り」
人形「虹、きれい」
ソレイユ「今の私の視界は、きっと世界一美しいな」
ソレイユ「虹に湖に花、それに──君がいる」
人形「・・・」
ソレイユ「・・・もっと早く、君に会いたかったよ」
人形「・・・」
人形「・・・」
〇赤い花のある草原
人形「ここの花は、赤くてきれい」
人形「ソレイユみたい」
ソレイユ「・・・私は、美しくなんてないさ」
ソレイユ「君は、花が好きなんだな」
人形「好き」
人形「花は枯れて、それから、また咲く」
ソレイユ「・・・」
ソレイユ「君は、あの花の名を知っているか?」
人形「ううん」
ソレイユ「あっちのは?」
人形「知らない」
ソレイユ「それなら、私が教えよう」
ソレイユ「これからすべて、知ればいい」
ソレイユ「私たちは死ぬまで一緒にいるのだろう?」
人形「うん・・・」
人形「そう」
人形「ありがとう、ソレイユ」
〇赤い花のある草原
人形「空、赤い・・・」
ソレイユ「夕焼けだ」
ソレイユ「・・・私が産まれたのは、朝だった」
ソレイユ「空には 美しい朝焼けが浮かんでいたそうだ」
ソレイユ「ソレイユは、朝焼けという意味だ」
人形「すてきな、名前」
人形「朝焼けも、見てみたい・・・」
ソレイユ「朝になったら見られるかもな」
人形「朝に、なったら・・・」
人形「・・・」
ソレイユ「おい、どうした?」
人形「もっと、早く・・・」
人形「もっと早く ソレイユと出会いたかった」
人形「私が目を開けたその瞬間から ソレイユに傍にいてほしかった」
人形「もっとずっと前から 一緒にいたかった」
ソレイユ「・・・」
人形「・・・」
人形「帰って」
ソレイユ「何を言うんだ、突然」
人形「もう、犬はやめていい」
人形「狼が来たら、ソレイユも危険」
人形「ソレイユは、帰る場所がある」
人形「だから、帰って」
ソレイユ「・・・」
ソレイユ「狼は、来ないよ」
ソレイユ「・・・」
ソレイユ「狼は、私だ」
人形「ソレイユが、狼・・・?」
ソレイユ「君は古代美術品── ”アンティーク”だろう?」
ソレイユ「私は”ハンター”だ」
〇歴史
ソレイユ「アンティークを探し、」
ソレイユ「アンティークを奪い、」
ソレイユ「アンティークを閉じ込める」
〇赤い花のある草原
ソレイユ「それが私たち”ハンター”の仕事だ」
人形「・・・狼だから、ここに来たの?」
ソレイユ「・・・私は、君に助けられて ここに来たんじゃないか」
〇森の中
「生きてる?」
人形「助けてあげる」
〇赤い花のある草原
ソレイユ「君に、助けられたとき・・・」
ソレイユ「本当は──助けられたくなんてなかった」
人形「・・・どうして・・・」
ソレイユ「あの時、私は死ぬはずだった」
ソレイユ「死にたかったんだ」
人形「・・・」
ソレイユ「私はね、ハンターを辞めたかった」
ソレイユ「仕事をしてるうちに、知ったんだ」
ソレイユ「君たちのような存在・・・」
ソレイユ「アンティークにも、心があるってことをね」
ソレイユ「・・・奪うのは、もう、まっぴらだ」
ソレイユ「でも、私ごときには 他のハンターを止めることなんてできない」
ソレイユ「今までのことを償う方法も 見つからない」
ソレイユ「・・・生きる意味なんて、もう、なかった」
人形「ソレイユ・・・」
ソレイユ「・・・狼はもう来ないよ」
ソレイユ「この辺りは私の縄張りだ」
ソレイユ「私は狼をやめた」
ソレイユ「君に、助けられてしまったから・・・」
ソレイユ「君に、助けられてしまったけど──」
ソレイユ「・・・いや、君が──助けてくれたから」
ソレイユ「君と一緒にいることが 私の生きる意味になるかもしれない」
ソレイユ「だから、もし君が 私を許してくれるなら──」
ソレイユ「名を、受け取ってくれないか?」
人形「・・・」
人形「・・・うん」
ソレイユ「ありがとう・・・ベロニカ」
〇赤い花のある草原
ベロニカ「ベロニカ・・・私の、名前?」
ソレイユ「君の肌に描かれた青い花・・・」
ソレイユ「よく似た花を知ってるんだ」
ソレイユ「その花の名前を借りて、ベロニカ」
ベロニカ「ベロニカ・・・」
ベロニカ「ベロニカ」
ベロニカ「・・・」
ベロニカ「・・・忘れたくない」
ソレイユ「忘れるものか」
ソレイユ「私が何度でも呼ぶさ、ベロニカ」
ベロニカ「・・・ソレイユ」
ベロニカ「それでも私は、忘れてしまう」
ベロニカ「ベロニカ、という名前も」
ベロニカ「ソレイユのことも・・・」
ベロニカ「それに 一緒に朝焼けを見ることはできない」
ソレイユ「何故だ?」
ベロニカ「私の体の青い花・・・」
ベロニカ「これは、描かれているわけじゃない」
ベロニカ「夜が更ければ、私は・・・」
ベロニカ「私は、花になるの」
ソレイユ「花、に・・・?」
ベロニカ「私は──私”たち”、羊の人形はね」
ベロニカ「朝に産まれて、夜に花になる」
ベロニカ「・・・だから私は ソレイユと一緒にはいられない」
ベロニカ「でもね」
ベロニカ「また次の朝に産まれてくるのも、私」
ベロニカ「私じゃないけど、私」
ソレイユ「・・・私の生きる意味は ベロニカと一緒にいることだ」
ソレイユ「明日になって産まれる君が ”ベロニカ”の名を忘れていても」
ソレイユ「私が、また教えるさ」
ソレイユ「明後日も、その次も」
ソレイユ「ずっとずっと、何度でも」
ソレイユ「私は君をベロニカと呼ぶよ」
ソレイユ「だから、いつか──」
ソレイユ「朝焼けの空を、一緒に見よう」
ベロニカ「・・・うん」
ベロニカ「ありがとう、ソレイユ」
ソレイユ「私たちは一緒にいるんだろう?」
ソレイユ「いつまでも、ずっと──」
〇黒
ソレイユ「死ぬまで」
〇森の中
「おはよう」
〇空
「ベロニカ」