ずっと一緒に(脚本)
先日、私は大切な家族を喪った。
ユキ
子供の頃に両親は離婚して、
父からも母からも要らない子として施設で育った私の・・・
私の唯一の家族。
〇オフィスのフロア
ここ最近、仕事が忙しくて
あまり構ってあげられなかった。
〇コンビニのレジ
ようやく落ち着いてきたので、
これまでのお詫びを兼ねてちょっと高めのおやつを買って帰ってきた。
でも・・・
〇綺麗な一人部屋
その日自宅に帰った時、
ユキは冷たくなっていた。
〇モヤモヤ
なぜ?どうして?
病気だったの?
そんな風には見えなかった。
今朝だって、元気にご飯を食べてたのに。
私は何も気付いてあげられなかった。
唯一の、大切な家族だったはずなのに。
〇綺麗な一人部屋
あれから何日が経っただろうか。
私は生きる意味を失った。
仕事に行く意味も、もう無い。
何もしたくない。
何もできない。
私は、ユキの形見の首輪を握り締めて眠り続けることにした。
〇綺麗な一人部屋
私「え?」
そんなある日、
目覚めると見知らぬ女の子が隣に居た。
私「何で?どうして? いつの間に? どこから入ってきたの?」
???「何じゃ何じゃ、騒がしいのう」
私「あの、あなた誰? 何でここに居るの?」
???「何でって、ここが我の居場所だからじゃ」
私「家出? だったら警察に保護してもらわないと」
???「我を保護してくれたのはカナじゃろう」
カナ「え?どうして私の名前を?」
???「何年もずっと一緒に暮らしてきたではないか」
カナ「え?え?」
???「この耳を見てもまだ分からんのか?」
カナ「猫耳・・・飾り物じゃないの?これ」
???「イタタタ、これ、引っ張るでない!!」
カナ「ええ・・・」
???「カナよ、 お主がいつまでもメソメソしておるから、 たまらず戻ってきてしまったのじゃ」
カナ「まさか」
カナ「ユキちゃん?」
ユキちゃん「ようやく分かったか」
カナ「でも、まさかそんな」
ユキちゃん「まあ、前の体はもう無いからな。 管理者に適当なものを見繕ってもらったのじゃ」
カナ「管理者?」
ユキちゃん「それより腹が減ったのう。例のものをくれ」
カナ「例のもの?」
ユキちゃん「食い損なったちゅ〜るん(猫用おやつ)があったじゃろ。あれをくれ」
カナ「ええ・・・」
〇綺麗な一人部屋
カナ(どうしよう。すごく美味しそうに食べてる)
カナ(けど、人の姿だからすっごいシュール)
ユキちゃん「うむ。やはり美味いな。戻ってきて良かった」
カナ「ねえ、貴女は本当にユキちゃんなの?」
ユキちゃん「何じゃ、まだ信じられぬのか?」
カナ「うーん」
ユキちゃん「まあ仕方ないかの。 これから暫し、再び共に過ごすのじゃ。 少しずつ慣れていけば良い」
カナ「うーん」
ユキちゃん「それはそうと、カナよ」
カナ「はい?」
ユキちゃん「久々に遊ぼうぞ」
彼女は部屋の隅にあった小さなボールを手に取った。
そう。ユキちゃんはこのボールを転がして遊ぶのが好きだった。
カナ「・・・・・・」
カナ「ユキちゃんだ」
ユキちゃん「カナ?」
カナ「本当にユキちゃんが帰ってきたんだ」
不思議な現実を受け入れて、私は大泣きした。
〇綺麗な一人部屋
ユキちゃん「ほう、ちゅ〜るんこそ至高と思っていたが、 この唐揚げもなかなか美味いな」
カナ「でしょ? あ、でも念の為タマネギは食べないでね」
ユキちゃん「なぜじゃ?」
カナ「ユキちゃんは元々は猫だから」
ユキちゃん「うん?」
〇綺麗な一人部屋
ユキちゃん「さて、トイレに行くかの」
カナ「待って。まだ砂を入れてないから」
カナ「──て、人の姿をしてるから、 人間用のトイレを使って!!」
ユキちゃん「どうやるのじゃ?」
カナ「教えるから!!」
〇公園通り
ユキちゃん「ほお。人間の目の高さだと街はこんな風に見えておるのか」
〇小さいコンビニ
ユキちゃん「あ、あれはカナと出会ったコンビニじゃな」
ユキちゃん「雪の降る寒い日のことじゃったな。 懐かしいのう」
カナ「覚えてるの?」
ユキちゃん「当然じゃ。 あの日を境に、我は良い住処を得たのじゃからな」
カナ「私で良かったのかな」
ユキちゃん「もちろんじゃ。 お主は本当に良くしてくれたぞ」
〇綺麗な一人部屋
カナ「じゃあ、おやすみ」
ユキちゃん「うむ」
カナ「ちょっ!脚の間に入らないで!!」
ユキちゃん「我はいつもここで寝てたじゃろ」
カナ「猫だったからね。 でも今は人間の姿だから」
ユキちゃん「仕方ないの。じゃあ、隣で寝るか」
カナ「うん。そうして」
〇黒背景
ユキちゃんと過ごす時間は、
不思議だけど楽しかった。
嬉しくて心が満たされる思いだった。
〇綺麗な一人部屋
カナ「・・・・・・」
目が覚めると、ユキちゃんは消えていた。
形見の首輪が私の手の中にあるだけだった。
カナ「え・・・」
カナ「夢、だったの? 全部・・・」
楽しかった時間、温かい体、笑顔・・・
〇綺麗な一人部屋
カナ「はは。そりゃそうよね。現実のはずがない」
あれは、寂しさで作られた私の幻想だったんだ。
そう思った時、心が砕ける音が聞こえた。
カナ「はは・・・ははは・・・」
乾いた笑い声の上に、止めどない涙が流れる。
〇綺麗な一人部屋
ユキちゃん「おい、泣くのか笑うのかどっちかにせい」
カナ「え?」
振り返ると、さっきまで何も無かったはずのベッドにユキちゃんが居た。
カナ「ユキちゃん、どうして?」
ユキちゃん「カナの心が寂しいと叫ぶから」
カナ「え?」
ユキちゃん「管理者との契約でな」
ユキちゃん「我がここに居るのは、 カナの心が満たされて寂しくなくなるまで、 なのじゃ」
カナ「それって」
ユキちゃん「だから、また呼び戻されてしまったようじゃ」
カナ「ということは、私たち、これからずっと一緒に居れるってこと?」
ユキちゃん「そうじゃ。カナが私を必要としなくなるまで、ずっとじゃ」
それを聞いて、私は思わずユキちゃんを抱きしめた。
カナ「嬉しい・・・ 私たち、一生一緒に生きていける!!」
〇スーパーマーケット
カナ「ユキちゃん、何か食べたいものある?」
ユキちゃん「うむ。鶏の唐揚げじゃな」
カナ「良いよ。材料買って帰ろうね」
ユキちゃん「ちゅ〜るんも頼む」
カナ「はいはい」
〇見晴らしのいい公園
カナ「ユキちゃん、ボールで遊ぼう」
ユキちゃん「ふふ、我のスピードに付いてこれるかな」
〇綺麗な一人部屋
ユキちゃん「カナよ、ちゅ〜るんをくれ」
カナ「今日はもうダメ。既に2本食べたでしょ」
ユキちゃん「お願いじゃあ」
カナ「うう・・・じゃあ、1本だけね」
ユキちゃん「やった!!カナ、大好きじゃ!!」
カナ「えへへ」
〇空
私たちは、今日も幸せに暮らしています。
猫の時と人間の女の子になった時と、できることやできないことに少しずつ違いが出てくる描写も面白かったです。どんな姿でもカナにとっては最高に愛おしいユキちゃんですね。
ユキちゃんが可愛すぎてたまりません!ちゅ~るんと唐揚げをおねだりする様子ったら!
カナさんに感情移入していたら、落胆からの高揚というジェットコースター状態で大変でしたw
亡くなった猫が再び帰ってくる心温まるストーリー。
ユキちゃん、唐揚げの食い過ぎには気を付けてね。(笑)