勇者の凱旋

たぶちきき

見よ。勇者が帰ってきた。(脚本)

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〇西洋の街並み
  勇者が帰ってきた。
  村人は歓喜し、一様に皆同じ方向へ手を振る。
村人「『見ろ! 勇者が帰ってきた!』」
村人「『おお! 我らが勇者のご帰還だ!』」
  人々の目線の先には道を行く、勇者アルトリウスの姿。
村人「『おかえり! 勇者アルトリウス!』」
アルトリウス「『みんな。ありがとう!』」
  彼はこの小さな村の出身者だ。
  かつてはどこにでもいるような普通の少年だった彼だが、何の因果か聖剣に選ばれ、勇者と成ったのは二年前の話。
  魔王討伐という運命を背負ったアルトリウスはその過酷とも言える宿命を果たし、今日故郷へ帰ってきたのだ。
カーニャ「『・・・』」

〇暖炉のある小屋
  その夜、勇者の凱旋を祝って村はお祭り騒ぎになっていた。
村人「『おい、アルトリウス! 俺と勝負しろ!』」
アルトリウス「『えぇ!?』」
村人「『腕相撲だよ腕相撲!』」
アルトリウス「『腕相撲?』」
村人「『勇者だか何だか知らんがコテンパンにしてやる! 本気で来いよ!』」
アルトリウス「『なるほど。だが、骨が折れても文句言うなよ』」
村人「『言ったな!』」
村人「『おっ、やれやれーっ!』」
村人「『負けるなよー勇者!』」
  騒がしい声がやけに耳障りに感じる。
カーニャ「『・・・』」
  たまらず私はその場からそっと立ち去った。

〇西洋の街並み
  冷たい空気に触れると、ようやくまともに呼吸が出来た。
  どうも騒がしいのは苦手だ。
  笑い声と酒の匂いで息が詰まりそうになる。
カーニャ「『アーサーはよく平気よね』」
アルトリウス「『俺がなんだって?』」
カーニャ「『アーサー!』」
  独り言に返事が返ってきて、心臓がびくりと跳ねた。
  いつの間に居たのだろう。
カーニャ「『あ、いえ。アルトリウス様』」
アルトリウス「『アーサーでいいって』」
カーニャ「『じゃ、じゃあ・・・アーサー』」
アルトリウス「『あぁ。やはりそっちの呼び方の方がしっくりくる』」
  アーサーが安心したように笑う。
  どうやら彼自身も勇者という肩書に違和感があるらしい。
アルトリウス「『昔はみんなアーサー呼びだったのにさ。なんでみんな勇者って呼ぶんだよ・・・』」
カーニャ「『そりゃあ、あなたは世界を救った勇者だし』」
アルトリウス「『勇者、ね・・・』」
  含みのある言い方に、何か違和感を感じた。
カーニャ「『・・・なにかあった?』」
アルトリウス「『何かって言うほどじゃないさ。ただ・・・』」
カーニャ「『ただ?』」
アルトリウス「『実は結婚することになってさ』」
  まるで他人事のような口ぶりだった。
カーニャ「『え!? だ、誰と!?』」
アルトリウス「『グィネヴィアと』」
カーニャ「『グィネヴィアって・・・』」
  田舎者の私でも聞いた覚えのある名前だ。
カーニャ「『国王様の娘の!?』」
カーニャ「『魔王に誘拐されてたっていうお姫様でしょう? アーサーが救出した・・・』」
アルトリウス「『そう。国王からの縁談でさ』」
カーニャ「『勇者とお姫様が結婚! まるで絵本みたいね!』」
アルトリウス「『そんな綺麗な話じゃないさ』」
カーニャ「『・・・何か不満でもあるの?』」
アルトリウス「『いや、俺はないよ』」
アルトリウス「『俺にとってはありがたい話さ。多分不満があるのは彼女の方だ』」
カーニャ「『どういうこと?』」
アルトリウス「『カーニャは魔王の名前を知ってるか?』」
カーニャ「『魔王の名前?』」
  そんなこと考えたこともなかった。
カーニャ「『知らない』」
アルトリウス「『だよな。魔族と戦ってた俺たちでさえ、知らない。でも、グィネヴィアは知ってたんだ』」
カーニャ「『・・・どういうこと?』」
アルトリウス「『俺が魔王を倒したあのとき』」
  心なしかアーサーの声が震えている。
アルトリウス「『俺はようやく戦いが終わったと思った。これで世界は救われて、グィネヴィアを救えたって』」
アルトリウス「『でも、そう思ってたのは俺だけだった・・・』」
アルトリウス「『俺が助けたはずのグィネヴィアは歓喜の声をあげるんじゃなくて悲鳴のような叫び声を上げた』」
アルトリウス「『“ジャック”って』」
カーニャ「『ジャック・・・?』」
アルトリウス「『茫然とする俺に目もくれず。彼女が一目散に駆け寄った先は魔王の元だった』」
アルトリウス「『その巨体に縋り付いて、何度も言うんだ。ジャック、って。何度も何度も』」
  そう言ってアーサーが寂しそうに笑う。
アルトリウス「『さすがの俺でもわかったよ』」
アルトリウス「『グィネヴィアは攫われていたわけじゃなかったんだって』」
アルトリウス「『多分、魔王のことを──』」
カーニャ「『でも! 魔王は私たちの敵よ!?』」
アルトリウス「『その通り。多分、彼女だって分かってる』」
カーニャ「『魔族に人々を襲わせ、田畑を焼き払った。あいつは人間を虫けら以下としか思っていない!』」
カーニャ「『それを理解していて彼女は魔王に心を許したって言うの!?』」
アルトリウス「『分かっていながら、それでも抑えきれないものなんだろ』」
カーニャ「『アーサーはそれで婚約に納得したの!?』」
  思わず声を荒げてしまう。
  そんな私に対し、至って冷静な様子でアーサーは言った。
アルトリウス「『さっきも言ったけど俺に不満はない。これは国のためだ』」
カーニャ「『私はそんなことを言ってるんじゃなくて・・・』」
アルトリウス「『わかってる・・・。でも、いいんだ』」
カーニャ「『え?』」
アルトリウス「『こうやって気心知れない幼馴染と最後に会えただけで十分さ』」
カーニャ「『なによ、それ・・・』」
アルトリウス「『悪いけどこのことは秘密にしてくれないか』」
カーニャ「『ばか。こんなこと誰にも言えるわけないじゃない』」
アルトリウス「『・・・ごめん』」
アルトリウス「『でも、最後に話を聞いてくれてありがとうな。カーニャ』」
  そう言ってアーサーはまた寂しそうに笑った。
  その日を境に私がアーサーと再び会うことはなかった。

〇黒
  その半年後。
  勇者アルトリウスは魔王軍の残党兵によって暗殺された。
  当時、勇者は宮殿で公務をしており、その警備は厳重だったという。
  そんな宮殿に魔族たちがどうやって忍び込んだのか確かな情報ではないが、
  勇者の妻であるグィネヴィアが、手招きをしたという噂だ。
  完

コメント

  • 恋心はどうにもなりませんからね。
    もしアーサーが縁談を断っていたら、何かが違っていたのかもしれませんが、もしかしたら村が襲われていたかもしれませんし。
    難しいところです。

  • 本当に愛がなければ結婚はするべきではないですね。
    数々の試練を乗り越えた勇者でさえ王女の心を変えることはできなかったのですね。王女も葛藤があったとは思いますがそれでも許せなかったのだろうな。

  • 勇者は悲しい生き物ですね。愛する者と結ばれることなく死んでしまうなんて。ところで、今度は、魔王と国王の娘を主題としたストーリーが読みたいです。

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