とある家族とその祈り(脚本)
〇洋館の玄関ホール
シャノン・フォルテ「ようこそ、おいでくださいました、皆さん。 私がこのフォルテ家の妻、シャノン・フォルテです」
ロッズ・フォルテ「僕がフォルテ家の夫、ロッズ・フォルテだ。 僕達の申し出を快く受けてくれて、感謝する」
ロッズ・フォルテ「孤児院とは全く環境が違って戸惑うことも多いだろう。困ったことがあったら何でも言ってほしい」
シャノン・フォルテ「ええ、私達は今日から家族なのですから」
カイン「・・・・・・」
シャノン・フォルテ「今日はお疲れでしょうから、ゆっくりお休みになってください。 明日は八時に朝食にお呼びします。 食堂にいらして下さいね」
カイン「は、はい・・・わかりました」
〇入り組んだ路地裏
アナウンサー「次のニュースです」
アナウンサー「政府はゴザシティに、大規模なガサ入れをすると発表しました」
アナウンサー「テロ組織“平等の薔薇”がこの町に潜伏している可能性が高いからとのことです」
アナウンサー「“平等の薔薇”は、この国で違法とされている同性カップルを多数匿っている疑惑が高いということで」
アナウンサー「先日もテロリストの一人が逮捕され、テロ対策特例法の適用により即時処刑されたと政府から発表があり・・・」
〇貴族の部屋
リリー「す、すっごい。このお部屋、テレビもあるよ!ていうか、リリーのお部屋にもあったよ!」
カイン「テレビのニュースなんて、初めて見たな。孤児院には新聞しかなかったし」
ミエル「ゴザの町って、此処から近いよね? テロリストなんて怖いな・・・」
カイン「というか、テレビ見てる場合じゃねえよ。きちんとこれからの対策考えようぜ」
リリー「対策って・・・」
カイン「決まってる。俺達みたいなアンダークラスのガキを三人も引き取るなんて、何かあるとしか思えねえよ!」
ミエル「確かに。侯爵っていったら、貴族の中でも公爵に次ぐ地位だしね。 あたしでも知ってるよ」
カイン「あの孤児院が、俺らの過去を引き取り先の貴族に黙ってるとは思えねえ。 つか、調べればすぐわかることだしな」
カイン「それでも引き取るなら、絶対何か企んでるはずだ。ヤバい組織に売る予定、とかな」
リリー「そ、そんなのやだよお」
ミエル「せっかく、ボロボロの孤児院からこんな綺麗なお屋敷に来て、綺麗な服も貰ったのに・・・」
カイン「とにかく、二人とも油断するな」
カイン「大丈夫、お前らのことは俺が絶対守ってやる。 あいつらの企みなんか、看破してやるよ!」
ミエル「カイン・・・」
〇荒廃した市街地
「いいかい、カイン!」
カインの母「何が何でも、今日中に1200G稼いでくるんだよ、いいね!?ただでさえあんた、稼ぎが悪いんだから!」
カイン「で、でも母さん。俺みたいな子供を雇ってくれる仕事なんて・・・」
カインの母「わかってるくせに何言ってんだい。あんたにはその、父さん譲りの綺麗な顔があるじゃないか」
カインの母「子供なら男でもいいっていう変態はいくらでもいるんだよ。 そいつらのところで金貰ってきな」
カインの母「いいかい、手段を選ぶんじゃないよ。強盗だろうが売春だろうが何でもやりな。あんたはアタシに逆らえる立場じゃないんだからね!」
カイン「は、はい・・・」
〇黒背景
母さんが死んで、俺は孤児院に引き取られて。地獄のような生活からは解放された。
孤児院の生活も酷いものだったけど、それでも仲間がいて、犯罪をしなくていいだけマシだった。
大人なんか、信じるものか。特に貴族なんか絶対に。
俺は散々、奴らの汚いところを見たんだ。
フォルテ家の夫婦も絶対何か企んでいるに決まってる。
兄弟のような二人を守るために、絶対企みを暴いてやる。そう思っていた。
〇城の会議室
シャノン・フォルテ「朝ごはんですので、軽いものをご用意しました。 皆さんのお口に合うといいのですが」
カイン「す、すげ・・・」
ミエル「こんな豪華な朝ごはん、食べたことないよ!」
リリー「パンも目玉焼きもベーコンも、全員一つずつ食べていいの!?」
シャノン・フォルテ「勿論です。皆さんはもう、私達の子供なのですから」
ロッズ・フォルテ「僕達のことを、最初から父や母と呼ぶのは抵抗があると思う。好きに呼んでくれていい」
ロッズ・フォルテ「ただ、僕とシャノンは君達のことを本当の子供と思って、命がけて守っていくし、学校にも通って貰うつもりだ」
ロッズ・フォルテ「できれば、その気持ちだけは信じて欲しいな」
ミエル「あ、ありがとう・・・」
カイン「・・・・・・」
カイン(信じるものか。大人なんて貴族なんてみんな嘘つきで、汚いんだ)
カイン(下層階級の人間や弱い子供を、食いものにすることしか考えてないに決まってる!)
カイン(絶対その化けの皮を剥して・・・)
リリー「あ、あの、一つ訊いていいですか?」
リリー「どうして、リリーたちを引き取ったんですか?リリーたちより綺麗な子はたくさんいたのに」
ミエル「ちょ、リリー!そんなストレートに・・・」
リリー「ミエルちゃんは公爵様の隠し子で、親に捨てられて。リリーは、親が犯罪者として捕まって。カインも色々・・・親にさせられてたし」
リリー「そんなリリーたちを養子にしたのはどうして?字が読めたから?」
シャノン・フォルテ「・・・そうですね」
シャノン・フォルテ「元々、私達は家族が欲しかったんです。でも、私達の間には子供が望めません」
ロッズ・フォルテ「そう、だから・・・孤児院で見た子供達の中で、生きる力が強そうな子を選ぶことにしたんだ」
ロッズ・フォルテ「そして、友達や家族を大切にしているんだな、という子を」
ロッズ・フォルテ「君達三人は本物の兄弟のように仲良しで、お互いを想いあっていると思ったからね。引き取るなら三人一緒にと思ったんだ」
リリー「シャノンさん、ロッズさん・・・」
ミエル「なんだ、良い人達じゃない」
カイン「・・・・・・」
〇黒背景
・・・騙されるものか、そんな言葉で。
俺は知ってるんだ。嫌と言うほど、大人の汚さを。だから・・・
〇古い倉庫の中
カイン「絶対に秘密を暴いてやる」
カイン「お屋敷の・・・こういう倉庫なんか怪しい。何か秘密があるはずだ!」
カイン「よし、この箱を開けて・・・」
カイン「あ、しまった!変なの倒しちゃっ・・・」
カイン「うわああああああああああああ!?」
カイン「あ、ぐううっ」
カイン(お、落ちてきた箱に、足が挟まって・・・っ!)
カイン(こ、これじゃあ身動きが、できなっ)
「何をしてるんですかっ!?」
シャノン・フォルテ「なんてことっ!」
シャノン・フォルテ「今助けます!そっちから箱を押して!」
カイン「で、でも」
シャノン・フォルテ「いいから!早くっ!」
カイン「は、はい・・・」
シャノン・フォルテ「カイン君、怪我は!?・・・ああ、足から血が! 早く手当しましょう!歩けますか!?」
カイン「お、俺は擦り傷だけど、むしろ・・・シャノンさんの手が血だらけに・・・」
シャノン・フォルテ「こんな怪我は大したことありません。貴方が無事で本当に良かった」
シャノン・フォルテ「ですがもう、危ないと言った部屋に無理に入ったりしないでくださいね。貴方達に何かあったら、私は・・・」
カイン「どうして・・・」
シャノン・フォルテ「はい?」
カイン「今、わかった。あんな重たい箱、女性が動かすのは無理だ。・・・あんた、本当は男の人なんだろう?」
カイン「つまり・・・ニュースになってるのと同じテロリストだ。そんな人がどうして、俺達みたいな子供を?」
シャノン・フォルテ「・・・・・・」
シャノン・フォルテ「貴方が言う通り。私は本当は男です。「普通の」夫婦をロッズと演じるため、女装しています」
シャノン・フォルテ「私達はテロなど起こすつもりはありませんでした。ただ、同性だろうと本物の愛とは変わらないことを、みんなにわかってほしかった」
シャノン・フォルテ「誰もが当たり前に家族で、夫婦でいられる世界を作りたかった。それだけでした」
シャノン・フォルテ「ですが、政府は我々をテロリストに仕立て上げ、捕まえて処刑するようになった」
シャノン・フォルテ「私達はまだ捕まるわけにはいかない。だから、隠れることにしたのです」
シャノン・フォルテ「普通の夫婦を演じて、子供を作ったふりをして。・・・そのために皆さんを引き取りました、でも」
シャノン・フォルテ「今日の食事の時に私と夫が言った台詞は、全て真実なのです。私達はただ本当に、子供が欲しかった」
シャノン・フォルテ「私達と本物の家族になってくれる、思いやりのある子供達を・・・。 軽蔑、しますか?」
カイン「・・・・・・」
カイン「いいや」
カイン「あんたはたった今、証明してくれた。俺達を守るって言葉が嘘じゃないってことを」
カイン「俺達にも、手伝わせてくれないか。本当に誰もが愛を追及できる、平等で、平和な世界を作ることを」
シャノン・フォルテ「カイン君・・・!」
〇幻想空間
その日、俺達は本当の家族になった。
きっと、〝ふつう”の家族ではないんだろうけど。たくさん困難があるだろうけど
いいよな?
こういう家族が、この世界にあっても。
おわり。
カインの大人を疑う気持ちの根深さを表す描写が何度も繰り返されただけに、夫婦の秘密が全てがわかった後に訪れたカタルシスが凄かった。この家族の絆はこれからどんどん強くなるでしょうね。ボイスも、セリフ全部ではなく一部のみだったり、文章とは違うセリフがあったりと、いろんな工夫があって感心しながらも楽しめました。
家族とは、という問いに対する1つの答えのような、ヒューマニティ溢れる素晴らしい物語ですね!
カインくんの過去の家族が、この物語の後に築かれるであろう”家族”と対照的で、幸せな未来もより色鮮やかに想像できますね。
そして、シャノンさんの熱演ボイスもステキです!
生き方は人それぞれありますよね。
人それぞれある分、家族も家族それぞれで生き方、暮らし方は変わってきます。多様性ですよね!