みたまうつしの一族

飯沢 久納

読切:日課(脚本)

みたまうつしの一族

飯沢 久納

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〇明るいリビング
佐藤 勇気「一体なにがおきてるの、、」
下北沢美穂「俺が、目の前に、、、?」
  ──どうやら、入れ替わっているらしい。
  お互いに察しはついていた。
佐藤 勇気「──まずは、病院よね」
下北沢美穂「──そうだな、、、」

〇病院の診察室
下北沢美穂「と、、いうわけなんです」
佐藤 勇気「あのう、すぐに治りますか?」
医者「──はっきしいってムリです」
  確かに医者は はっきし と発音した。
医者「直ぐには治りませんよ。しばらくは 様子見ですねぇ」
下北沢美穂「そんなぁ、、」
佐藤 勇気「困ります、、」
  ──あっけなかった。

〇神社の出店
  ──病院からの帰り道。
  神社では縁日のお祭りがやっていた。
  りんご飴、綿菓子、金魚すくい、、
  古風な出店が軒を連ねていた。
  ──なんだか、自然と懐かしく感じられる
下北沢美穂「わぁ、おいしそうな焼き鳥!!」
佐藤 勇気「太っちゃうから あんまりたべないでよぉ・・・」
  ──ドンッ!!
三途「──わわっつ!! ごめんなさい!!」
下北沢美穂「──だいじょうぶ?」
佐藤 勇気「──危なっかしいわね、気を付けるのよ」
三途「・・・えへへ。気をつけまーす」
三途「──バイバーイ」
佐藤 勇気「──あの子が落としたのかな」
下北沢美穂「俺、届けてくる」
佐藤 勇気「──ちょ!私も行く」

〇祈祷場
三途「・・・」
下北沢美穂「──!!まって」
  ──確かに、ここに入っていったはず。
  ──あの子にあってから、奇妙な感覚にさいなまれている。
下北沢美穂「(なんで、こんなに懐かしいの。)」
佐藤 勇気「(辛くて、苦しい、悲しい)」
  ──ぎぃ
映さん「──ようこそ。お困りでしょう」
下北沢美穂「──!!」
佐藤 勇気「──!?」
  ──話そう。何もかも。この人に話せば
  きっと、解決する。
映さん「・・・なるほど、では祈祷しましょう」
下北沢美穂「・・・お願い、、します」
佐藤 勇気「・・・お願いします」
  ──涙は、留まることを知らないかのようにあふれ続ける。

〇祈祷場
映さん「うんどれうんどれほんわかそわか」
映さん「・・・かぁ!!」
志位さん「あばぁ!!」
宇恵「あびょおっつ!!」
映さん「これで戻るでしょう」
志位さん「はぁ、、どうも」
宇恵「ありがとうございます」
志位さん「ところで、、」
宇恵「何?」
志位さん「、、晴香がいない」
宇恵「そんな、、」
志位さん「──行こう」
宇恵「行きましょ」
映さん「いってらっしゃい」
映さん「お二方」

〇空き地
志位さん「ああ、早良。どこにいったんだい」
宇恵「此処じゃない、ここじゃない」
峰々稔枝「おんやーー誰でしぁう?」
志位さん「ああ、誰でしょう」
宇恵「誰でしょうか」
峰々稔枝「わたちき みねみね みのえ と申すんです」
志位さん「探しているのは、さわら」
宇恵「そこかしこの残るさわら」
峰々稔枝「はいへい。おじゃまになりませんよ。 ごゆっくり」
志位さん「誰彼これから道行く人を見かけても」
宇恵「面影もなき道すがら」
志位さん「さまようたましい──」
宇恵「ここのつはてれば──」
峰々稔枝「跡形もなく。ってね」

〇空き地
三途「でんでんでんぐりがえし ごまみそぽいっ」
  ──ぽーんぽーん
三途「カラスが泣いたら帰れない」
志位さん「早良、、」
宇恵「早良」
三途「夕日が落ちたらまたあそぼ」
三途「早く帰らないと、怒られちゃいますよ」
志位さん「帰ろうか」
宇恵「帰りましょ」
三途「おうちにかーえろ」

〇祈祷場
志位さん「・・・」
宇恵「・・・」
映さん「会えたかい」
志位さん「会えました」
宇恵「やっと会えました」
映さん「それじゃあ、返してあげようね」
映さん「まはらじゃまほらじゃうめいとうそく──」
映さん「──かあああっ!!」
佐藤 勇気「──はっ」
下北沢美穂「──はっ」
佐藤 勇気「ここは、」
下北沢美穂「あれ?」
佐藤 勇気「祈祷してもらってたんだよな」
下北沢美穂「そうそう」
映さん「祈祷はこれにて終わりです」
映さん「おつかれさまでした」
佐藤 勇気「・・・どうも」
下北沢美穂「・・・ありがとうございました」

〇墓石
三途「こつこつすずむしなみだをながし」
宇恵「ゆくあてもなくさまよえば」
志位さん「やみをみちびくすじいっぽん」
三途「ばいばい」
宇恵「さようなら」
志位さん「さようなら」
三途「おやすみなさい」

〇祈祷場
映さん「おかえりなさい」
三途「ただいま」
峰々稔枝「うっす」
映さん「さて、今日も詠唱しよう」
三途「わたしは、どこにもいないもの」
峰々稔枝「わっちはどこにもいるものさ」
映さん「みえてかくれてさまざまに」
三途「あちらからはみえぬ」
峰々稔枝「こちらからはかすみのように」
映さん「うつろうものをつなぎとめて」
三途「みちびくがわれらいちぞく」
峰々稔枝「みまもるがわれらのしめい」
映さん「みたまうつしてまことうつさず」
  家族であることに意味を持つもの

〇田園風景
志位さん「会いたいな、会いたいな」
宇恵「あの子にもっと会いたいな」
ハザマ「ようよう」
ハザマ「迷い子のお二人さん」
ハザマ「これからどちらへ向かうんだい」
志位さん「あっちのほう」
宇恵「そっちのほう」
ハザマ「ようやくお別れみたいだね」
ハザマ「自分の道を見つけたようだね」
志位さん「さよなら」
宇恵「さよなら」
ハザマ「さようならお二人さん」

〇渋谷駅前
キャスターA「3年前から突如としてお互いが入れ替わる」
キャスターA「俗にいう(私は貴方)現象」
キャスターA「これまでは家族間でのみ発症するといわれてきました」
キャスターA「しかし、近年”貴方は誰”というケースが少数ながら発見されています」
キャスターA「そのような場合は速やかにお近くの 医療機関にご連絡ください」

〇実家の居間
映さん「さて、それでは」
三途「いただきます」
峰々稔枝「いたっきまーす」
峰々稔枝「そういえば、映。 おまえ、冷蔵庫にあったプリン食ったろ」
映さん「ええ食べました」
三途「あれ、賞味期限1年切れてたんだよね どうでもいいけど」
映さん「わたしは霊体なので関係ありません」
映さん「滑らかな舌触りで。 とってもおいしかったですよ」
峰々稔枝「──成仏させてやろうか」
映さん「そういって、できないくせに 強がるんじゃありませんよ」
三途「あーご飯がおいしい」
峰々稔枝「──だし巻き卵、旨いな」
映さん「あ、それ私が作ったんですよ」
映さん「上手くできてるでしょう?」
峰々稔枝「旨いが、焦げ焦げじゃねーか。 上手くはない」
三途「アサリの味噌汁食べる人ー」
映さん「はい」
峰々稔枝「ん」
三途「自分でよそいなねー ごちそうさまでした」
映さん「・・・」
峰々稔枝「・・・俺のも残しとけよ」
映さん「ええ、もちろんですよ」
峰々稔枝「そう言って、残してくれた覚えがないんだが? ん──?」
映さん「──はいどうぞ」
映さん「貴方の分、ちゃんと残しましたよ」
峰々稔枝「、、いただきます」
映さん「いただきます」
峰々稔枝「旨いな」
映さん「どうも」

〇実家の居間
  ──ピッ
  ──ニュースの特番をやっていた。
  ──この互いの精神が入れ替わるという奇妙な症状について専門家は
  ──進行が進めば、自己をなくす可能性がある。と危険を指摘しており──
峰々稔枝「・・・ケっ。なおりゃしねぇよ」
  ──ずずぅと 
  シジミのみそしるをすする
映さん「ホント。そうなんですよねぇ」
  ──スッ
  と静かにシジミのみそしるを飲む。
  入れ替わっている者同士は波長が不安定である。
  そこに、この世に未練のある魂を入れる
  意思がはっきりしている魂で
  不安定な魂に蓋をする
  ──元々の魂は眠る。
  器の体を繰り、魂は動き始める。
  死人の見る世界は朧(おぼろ)
  にしか見ることはかなわない
  目の錯覚を利用して願いを叶える。
  ──叶ったように見せているだけだ。
映さん「魂の波長が似ている人同士の なせる業(わざ)ですからねぇ」
峰々稔枝「まあ、俺らは、御霊にとっての詐欺師にてぇなもんだかんな」

コメント

  • 物語全体が、二度寝した時に見る妙にふわふわした捉えどころのない悪夢みたいな独特の雰囲気で好みでした。人間の体が魂を入れる器だと思って見れば、浮遊霊はヤドカリみたいなもんですね。「はっきし」ってはっきし発音する医者にはかかりたくないなあ。

  • 彼岸と此岸のあたりの光景を断片的に描いたという感じでしょうか。取り合わせの妙を感じます。そして日常の食事風景、それ以前の様子と合わせると何とも面白いですね!

  • 霊であったり、魂であったり、自分が見ていないものはにわかに信じることは出来ませんが、もし自分の命が尽きた時に後悔があったとしたら、私はちゃんと道がわかるのなって、そんな事を考えてしまいました。

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