ハロー・サンサーラ

江畑終太郎

母と娘(脚本)

ハロー・サンサーラ

江畑終太郎

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〇おしゃれな受付
  公共輪廻安定所
  通称”ハローサンサーラ”
  転生を望んだ魂たちが最後に行き着く場所
金子「番号札155099番でお待ちの方 窓口までどうぞー」
不死原 凛花「──どうも・・・よろしくお願いします」
金子「挨拶はいらないですよ。こっちも接客業やってるつもりないんでね」
不死原 凛花「はぁ・・・」
金子「私、ハローサンサーラの金子と申します。どうぞよろしく」
不死原 凛花「いや、挨拶してますよね・・・?」
金子「死亡診断書って持ってきました?」
不死原 凛花「え? あ、はい。これですよね・・・?」
金子「よかったよかった。これ見るとね、とっても興奮するんですよ」
不死原 凛花「きもいっすね・・・」
金子「よく知ってます」
金子「えっと・・・フジワラリンカさん? 死因は電車の脱線事故、と」
金子「というか・・・不死原なのに死んでるじゃないですか!」
不死原 凛花「もうそれ、飲み会で100万回言われてます!」
金子「失礼失礼。ところで、本日はどこへの転生を希望されますか?」
不死原 凛花「人間に転生したいんですけど・・・なかなか見つからなくて・・・」
金子「人間ですか・・・やめたほうがいいですよ」
金子「プラナリアって生き物とかどうです? 切っても切っても再生するですよ」
金子「不死原さんにピッタリ!」
不死原 凛花「いやですよ! 人間がいいって言ってますよね!」
金子「どうしてそこまで?」
不死原 凛花「だってそれは・・・人間の方がいいからです」
金子「あーはいはい。あんたも相当なおバカちゃんだ」
不死原 凛花「あ、あなたには関係ないでしょ!?」
不死原 凛花「どうして人間がダメなのよ?」
金子「いいですか? 人間が苦痛を感じるのはどんな瞬間です?」
不死原 凛花「痛い時とか、辛い時ですよ。あたりまえのことです」
金子「なぜ痛いと感じるんでしょうか? 通り魔に刺されたから?」
金子「なぜ辛いと感じるんでしょうか? 愛する人と別れてしまったから?」
金子「どれも違います。苦痛を感じるのは、人間として生まれてきたからです」
金子「生まれてこなければ、刺されることもなかった」
金子「生まれてこなければ、別れることもなかった」
金子「人間が生まれる。それは苦痛です」
不死原 凛花「・・・・・・」
不死原 凛花「私、前世ではアイドルをやってたんです」
金子「はい?」
不死原 凛花「地下アイドルだったけど、それなりに人気もあって」
不死原 凛花「今まで認められたことなんて、ほとんどなかったから・・・すごいうれしくて」
不死原 凛花「だけど、母さんだけは反対していました」
不死原 凛花「母さんは私のことをずっと嫌ってて、褒められたことなんて一度もなかったんです」
金子「毒親ですね。転生しても親は選べませんから」
不死原 凛花「それでも私は、どうしても母さんに認めてもらいたくて、褒めて欲しかった」
金子「どうして・・・そんな親、見捨ててしまえばいいのに」
不死原 凛花「自分の母親に褒められたいなんて、普通のことでしょ?」
金子「・・・・・・」
不死原 凛花「そしたらね。ある日、私たちのグループが大きな会場でライブできることになったの!」
不死原 凛花「みんな知ってるような大きな会場だから、きっと母さんも認めてくれる。早く伝えにに行こうって」
金子「それで乗ったんですか。あの電車に」
不死原 凛花「うん。乗り込んだらすぐ電車が大きく揺れて脱線した。そしたら死んでた」
不死原 凛花「だから私、まだ母さんに褒められていないの。もう一度生まれ変わって褒められにいくのよ・・・!」
金子「なるほど。それなら苦痛もいとわないと。変わった方ですね」
不死原 凛花「苦痛じゃないですよ。希望です・・・きっと」
金子「・・・わかりました」

〇謎の施設の中枢
  人間用両親抽選装置
  通称”親ガチャ”
不死原 凛花「これが・・・親ガチャ」
金子「はい。これから出産を迎える全人類のデータが記録されています」
金子「ランクは上から」
金子「SSR」
金子「SR」
金子「HR」
金子「R」
不死原 凛花「あああーもう大丈夫です! 親のレア度とか生々しくて聞きたくないですよ・・・」
金子「そうですか? では早速ですか、抽選を開始しますよ。機械と接続してください」
不死原 凛花「あ、はい。あの・・・このまま生まれ変わるってことですよね?」
金子「怖気付きましたか? 今ならプラナリアでも間に合いますよ?」
不死原 凛花「いや、遠慮しておきます・・・」
金子「まあ、あなたは相当なおバカちゃんですから。人間でもなんとかやっていけますよ」
金子「・・・・・・褒めてもらえるといいですね」
不死原 凛花「!?」
不死原 凛花「ふふ・・・ありがとう──」
  システムオールグリーン
  抽選完了
  転生開始

〇病院の廊下
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」
「おお! 本当か!」
「わーい! 妹ができたよ!」
「わしの初孫じゃ・・・!」
「今日はお祝いだーっ!」
  生まれてきてくれてありがとう
  よく・・・頑張ったね──
  『ハロー・サンサーラ』終わり

コメント

  • 「親に褒められる」ということが子供にとっていかに切実な問題で大事なことか、死んでもなおそれが心残りとは、胸が痛くなります。それにしても金子はどこからやってきてどういう理由で働いているのか。そちらの方にも興味が湧きました。

  • 死後、そして転生するまでの世界って色々と想像したくなりますよね。親ガチャが生前の功徳とか関係なしで完全抽選システムだったらイヤだなーって思っちゃいましたw

  • 親ガチャという表現は昨今たまに耳にすることはありますが…。
    私は恵まれているからなのか、自分の両親はどんなでも一番大切に感じます。
    自分の両親は幼少の頃は厳しかったですが…。

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