読切(脚本)
〇居酒屋の座敷席
俺は同窓会に参加していた
俺「10年振りかぁ 懐かしいな」
俺「あれは・・・新山さんか? 向こうにいるのは田辺先生だ」
その時、ふと視線を感じた。
隅っこに佇んでいる女性が・・・?
クラスメイト「ふふっ、久しぶりね」
俺(えっ、誰だ?)
クラスメイト「ふふっ、分からない?」
俺は彼女の口元に釘づけになった
俺(ま、まさか──?)
彼女が薄っすらと微笑む
その唇を吊り上げて
俺「も、もしかして・・・?」
クラスメイト「そのもしかしてよ」
すぐに俺の脳裏に蘇る
2人だけの『秘密』のキスが──
〇教室
飯島健太「俺、1組の桜井とキスしたんだ」
勝俣直輝「ま、マジで!?」
名倉里志「す、すげー!! どんな味だった?」
飯島健太「甘酸っぱい感じだったな」
勝俣直輝「甘酸っぱい・・・」
名倉里志「羨ましいー!」
飯島健太「俺たちもう小6なんだからさ キスくらいどうってことないし」
名倉里志「健太は大人だな!」
飯島健太「直輝もキスしたことあんだろ?」
勝俣直輝「当たり前じゃねーかよ! 胸もいってるしな!」
名倉里志「おおーっ!」
勝俣直輝(胸どころかキスもしたことねーよ くそっ・・・)
田辺先生「席につけー! 今日は転校生を紹介するぞー!」
勝俣直輝「て、転校生!?」
勝俣直輝(だ、どうか女でありますように!)
勝俣直輝(そして席が隣で、教科書を忘れたので見せてやる流れでキスができますよーに!)
相田ひろし「相田ひろしです よろしくお願いします」
勝俣直輝(男かよ!)
田辺先生「席は・・・勝俣の隣だな」
勝俣直輝「えっ?」
田辺先生「教科書がないから勝俣、見せてやれ」
相田ひろし「よろしくね」
勝俣直輝「お、おう」
転校生と頬を寄せることに──
勝俣直輝(こ、こいつ良い匂いがする・・・ なんだ?トリートメントというやつか?)
俺が鼻をひくつかせていると──
相田ひろし「勝俣くん、くすぐったい☆」
勝俣直輝(な、なんだこいつ? よく見ると『女』みたいじゃないか?)
〇学校の廊下
それからというもの・・・
相田ひろし「勝俣くーん!これ食べる?」
勝俣直輝「いらねーし!」
相田ひろし「あぁーん! 勝俣くぅーん!」
〇体育館の中
相田ひろし「勝俣くーん!一緒に走ろっ?」
勝俣直輝「向こう行けよ!」
相田ひろし「勝俣くんたらぁー!」
〇学校の校舎
相田ひろし「勝俣くーん!一緒に帰ろっ!」
勝俣直輝「俺につきまとうな!」
相田ひろし「もうー! 待ってよー!」
俺は全速力でひろしを振り切る
勝俣直輝(なんか懐いてくるけど・・・)
勝俣直輝(俺、あいつが怖ぇーんだよ)
勝俣直輝(あまりに── 可愛すぎて・・・)
〇教室
飯島健太「ひろしって、女みたいじゃね?」
勝俣直輝「えっ?」
名倉里志「あぁ、僕もそう思った!」
飯島健太「色も白いし顔も可愛いし」
名倉里志「うん、女でもいけるかも」
飯島健太「俺、あいつとだったらキスできるかも」
勝俣直輝「な、なんだよそれ」
勝俣直輝「あいつ男だぞ?」
名倉里志「この際、男でもいいかも!」
飯島健太「将来、いい女になったりして」
その時だった
相田ひろし「勝俣くーん!」
飯島健太「ほら、将来性あるって」
勝俣直輝「や、やめろよ!」
勝俣直輝「こいつはそんなじゃねーし!」
相田ひろし「勝俣くん?」
勝俣直輝「こいつをそんな目で見るんじゃねーよ!」
俺はひろしの手を引いて教室を飛び出した
〇学校の屋上
相田ひろし「い、痛いよ、勝俣くん」
勝俣直輝「お前もお前だし! もっとちゃんとしろよ!」
相田ひろし「そんなこと言われても・・・」
勝俣直輝「もっとこう、シャキッとしろよ!」
相田ひろし「・・・できないんだ」
相田ひろし「もっと勝俣くんみたいに男っぽくしたいけど・・・」
勝俣直輝「できるだろ!?」
相田ひろし「できないんだ・・・」
相田ひろし「だから勝俣くんのことが・・・好きなんだ」
勝俣直輝「な、なんだよそれ!?」
勝俣直輝(こっちを見るなよ! そんな目で俺を見るな!)
相田ひろし「勝俣くん、僕のこと嫌い?」
勝俣直輝「き、き、嫌い!」
相田ひろし「うふふ、嘘ばっかり」
勝俣直輝(な、なんだよこいつ? 急に人が変わったみたいに・・・?)
相田ひろし「ねぇ、勝俣くん」
勝俣直輝「なんだよ!?」
相田ひろし「勝俣くん、キスしたことある?」
勝俣直輝「あ、当たり前じゃねーかよ!」
相田ひろし「あっ、ないんだー?」
勝俣直輝「なっ!?」
相田ひろし「じゃ、僕としない?」
勝俣直輝「なに馬鹿なこと言ってんだよ! 俺たち男同士だろ!?」
相田ひろし「だから?」
勝俣直輝「だ、だからって・・・?」
相田ひろし「僕と勝俣くんの秘密だから」
そう言って、ひろしが目を閉じた
勝俣直輝(ど、どどど、どーすんだよ!? は、初めてのキスが男なのか? いや、こいつはそこらの女より可愛い。 クラスの奴らが狙ってる)
勝俣直輝(そ、それなら俺がキスしても? いや、男とやるのか? 俺と2人だけの秘密ならいいんじゃ? 誰にも知られない秘密なら──?)
相田ひろし「はーやーくぅー!」
勝俣直輝「ええーい! 初キスだ!」
俺はひろしにキスをした・・・
勝俣直輝(こ、これがキスの味?)
相田ひろし「うゔっ・・・!」
勝俣直輝(し、舌が入ってきた!?)
俺はひろしを突き飛ばして、その場から逃げ出した。
〇教室
それからすぐ、ひろしは転校していった
両親が離婚するとかで複雑だったらしい
別れの挨拶すらなく消えてしまった
俺の唇に忘れられない感触だけを残し・・・
それから俺も人並みにキスを重ねたが、ひろしとの初キッスを越えるような口づけには未だ出会っていない
そう、今日この時までは・・・
〇居酒屋の座敷席
俺(クラスメイトは誰も気づいていない)
俺(あいつの正体に──)
俺(♂から♀になったんだ)
俺(でもあいつは胸を張って生きている)
俺(それがとても眩しくて・・・)
クラスメイト「どうしたの?」
俺「ちょっと後で抜け出さないか?」
〇飲み屋街
俺「本当に変わったなぁ」
クラスメイト「あなたのお陰よ」
俺「俺の?」
クラスメイト「そう、10年前のあのキスで気づいたの」
クラスメイト「私が本当になりたいものに」
クラスメイト「だからあなたのお陰よ、ありがとう」
俺「礼なんて・・・」
クラスメイト「ううん、ありがとう」
俺たちは静かにキスを交わした
静かで柔らかい接吻は、離れていた10年を一瞬で埋めた
言葉なんてなくても、唇を合わせれば歩んできた道が分かる
俺「ふっ・・・」
クラスメイト「ふふっ」
どちらともなく笑い合う
次第に大きくなる笑い声が夜の帳にこだまする
だって
だって・・・
俺「本当に綺麗になったね」
俺「勝俣くん」
最後の最後に大どんでん返し!勝俣くんが女になってる。流石!上手く読者を騙しましたね。流れから行くと、てっきりヒロシと思いました。
まさかの展開でした!でも、こんなふうにさくっと受け入れてくれる人に出会えるって、すごく恵まれてますよね。面白かったです。
最後の最後で、えっ!?っと思わず声を出してしまいました。1回のキスでここまで物語が広がるのがすごくおもしろかったです。
今の時代に寄り添ってる作品でした!