彼女か、私か(脚本)
〇教室
由美「ねえ。──」
由美「ねえってば! 綾香、聞いてるの?」
綾香「・・・・・・え?」
由美「もう、また聞いてないんだから。明日のテストのためにノート見せてって言ってるんだけど!」
綾香「ああ、ごめん。いいよ」
私、久保田綾香には秘密がある。
誰にも言えない秘密が。
綾香「もう、授業中に寝てるからこういうことになるのよ」
由美「あはは。ごめんごめん」
そう言って笑いながらノートを受け取ったのは私の親友、佐藤由美。
私とは不釣り合いなほどに明るくて、可愛い、クラスの人気者だ。
由美「やっぱ、由美のノートわかりやすいな〜。これで明日のテストも、赤点逃れられるね!」
そう言って、ペラペラとノートをめくる彼女。
明日のテスト。そうだね。明日のテストは赤点じゃなくなると思うよ。
綾香「赤点ギリギリで満足すんな」
由美「あははは」
由美は初め、私が周囲から孤立しているのを知ってて話しかけてくれた。
周りから「なんで仲良くしてんの」と揶揄されても、変わらず接してくれた。
そんな由美が、私は大好きだ。
由美「じゃあ、そろそろ帰ろっか?」
綾香「・・・・・・」
由美「綾香?」
綾香「ごめん。もうちょっと話そ」
由美「お!綾香が帰りたがらないなんて珍しいねぇ!」
言わないと。あのことを・・・・・・。
由美「ねえ、綾香って好きな人いるの?」
綾香「え」
由美「そういう話したことないなって思って」
私からもう少しと言った手前、答えないのも悪いと思い、正直に話すことにした。いや、話しておこうと思った。
綾香「いるよ」
由美「え!? うそ! 誰!?」
綾香「2組の土田くん」
由美「そうなんだ! いいね! すごくお似合いだと思う!!」
由美がパチパチと手を打つと同時に、鈴のような声で喜んだ。
綾香「由美は? 私だけに言わせるのって卑怯じゃない?」
由美「え〜。私はね、隼人!」
綾香「あ、幼馴染だっけ?」
由美「うん! 向こうは私のことただの幼馴染だと思ってるかもしれないけど・・・・・・」
綾香「そんなことないとおもうよ。高野くん、由美のこと好きだと思う」
由美「まじ!?」
綾香「まじ」
そんなの見ていればわかる。
高野くんは由美のことを目で追っているし、なにかと由美にちょっかいを出している。
あんなにわかりやすいのに気づかないなんて、本当に鈍感だなぁ、とつくづくため息をついてしまった。
由美「付き合えるかな?」
綾香「告白してみれば?」
由美「告白か〜。してみようかな〜」
告白すれば確実に付き合えるだろう。
でも・・・・・・。
綾香「由美・・・・・・。あのさ__」
先生「おーい! まだいたのか。もう下校時間過ぎてるぞ。早く帰れー」
私の声をかき消すようにガラガラと、勢いよくドアが鳴った。すると、先生の気怠げな声が私たち目がけて飛んでくる。
由美「はーい」
由美「あれ? さっき何か言おうとした?」
綾香「え・・・・・・ううん。なんでもない」
由美「そう。じゃあ、帰ろっか」
綾香「うん」
由美が座っていた机の上からひょいっと降りる。私もその後に椅子から立ち上がった。その腰はとても重かった。
〇大きい交差点
学校を出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。まるで、私の心の中を映し出すかのように。
由美「は〜。告白しようかな〜」
綾香「まだその話?」
由美「だってさ〜」
由美は駄々をこねる子供のような声をあげた。
続けて由美が「んー」と喉を鳴らすと、信号が青になる。
由美「告白もそうだけどさ、それより、明日のテストどうにかしないとなー」
綾香「そう、だね・・・・・・」
明日のテスト・・・・・・。
明日・・・・・・。
そう言って歩道を歩いていると、昨日みた夢と現実の光景が重なった。
くる。
プーーーーーー!!!!
大きなクラクションがけたたましく鳴り響く。
瞬きすると同時に、一歩前を歩いていた由美の姿を大きなトラックが奪い去った。
ドンッ
鈍い音が目の前でした。
キャーーーー!!!!
はくりと息を呑んだときには、アスファルトに赤い血が流れ、辺りは騒然としていた。
救急車を呼ぶおばさん、倒れている由美に必死に話しかけるおじさん、泣き出す子ども、スマホを向ける高校生。
全て、昨日の夢でみた景色だった。
綾香「・・・由美・・・ごめんね・・・ごめんなさい・・・・・・」
私は流れてくる涙の感覚もわからないまま、その場に座り込んだ。
私の大切な人はいつもいなくなってしまう。
お母さんも、お父さんも、お兄ちゃんも、そして、由美も。
昨日夢でみたトラックに轢かれた自分の姿が脳裏に浮かぶ。
死にたくない。
選ぶしかなかった。自分か、はたまた大切な誰かか。
言えない。絶対に言えない。
「私の代わりに死んで」なんて。
最後のセリフにびっくりしました。でも誰にでも闇の部分はあって、ただ口にしないだけで。。。人の闇は普段の生活では見ることが出来ないですが何かふとしたタイミングで垣間見ることはありますよね。
自分の代わりに大切な人を奪われるって…なんだか辛い選択ですよね。
でも、綾香さんは自分が生きることを選択してるわけで、その分強い女性だなと思いました。
怖ろしいことなんですが、それは綾香さんが選んだことなんですよね。
ゾクッとしました。
綾香が秘密にしていることは何なのか、由美に明日何が起きるのか、もどかしい思いで読み進めていたらまさかの展開。綾香の心の奥底の黒いものにゾクリとしました。