あのちゃんは、泣かない。

Alma@Wellクリエイター

あなたの涙を浚いたい。(脚本)

あのちゃんは、泣かない。

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〇綺麗なリビング
あの「おねぇちゃんと、ママのご飯、先に並べるね」
おとさん「ありがとう」

〇綺麗なリビング
あの「いただきます」
あの「──」
あの「ねぇ、おとさん」
おとさん「ん?」
あの「この髪、似合ってない?」
おとさん「そんなことないよ」
ティッシュ「まじ、可愛い! アイドル級!」
ティッシュ「似合ってるってもんじゃない! その髪型が、あのちゃんのためにあるみたい!」
あの「・・・・・・」
おとさん「すごく可愛いよ」

〇教室
クラスメート「鏡、見たか?」
クラスメート「変な髪!」

〇綺麗なリビング
おとさん「それは、傷ついたな」
おとさん「酷いこと言うやつは、どこにでもいるもんな」
ティッシュ「気にしちゃダメよ。 気にする価値もないわ、そんな奴!」
おとさん「──」
おとさん「あのは、その子のことが好きか?」
あの「ちっとも! あのに嫌味ばっかり言うの」
あの「好きじゃない」
おとさん「そうか」
おとさん「ならさ、その子の言葉より、「可愛い」って言う父さんの言葉を信じてほしい」
おとさん「似合う似合わないなんて、そもそも他人が決めることじゃないし」
おとさん「自分が似合うと思っていればいいんだよ」
おとさん「あのは、その髪型を気に入ってるんだろう?」

〇美容院
美容師「あのちゃん、どういう髪にするか決まった?」
あの「はい!」
あの「短くします!」
美容師「え、いいの?」
美容師(前は、伸ばすって言ってたのに)
あの「はい!」
あの「今日は、叔母さんが来て、髪をしてくれたんだけど」
あの「おとさんには難しいと思うんです」
あの「この長さになる頃には、自分で好きな髪型にできるから!」
あの「短くします」
美容師「そっか」
美容師「じゃあ、あのちゃんに似合う髪型、一緒に探そう」

〇綺麗なリビング
あの(一緒に考えてくれた髪型なんだから!)
あの「うん!」
おとさん「でも、ごめんな」
おとさん「父さん、器用じゃないから、優乃さんみたいに可愛い髪型にしてやれなくて」
おとさん「あのに気を使わせてしまって」
あの「いいよ!」
あの「おとさん、ご飯つくるの得意だし、」
あの「ママね、」

〇病室
ママ「どう?」
ママ「苦手なところを理解し合えて補えるって、とても素敵でしょ」
あの「すぐ、いい感じに言うよね、ママ」
あの「りんごのウサギさん、ボッコボコ」
ママ「ママには、無理って言ったのに!」
ママ「もー、ママをからかわない!」

〇綺麗なリビング
あの「おとさんのこと大好きだったと思う」
おとさん「大好きだよ、今でも」
あの「──」
おとさん「?」
あの「あののことも、ママはちゃんと好きだよね?」
おとさん「!?」
ティッシュ「当たり前のこと言われて、お父さんびっくりしてるわよ」
おとさん「もちろんだよ!!」

〇病院の入口
ママ「私たちのところに来てくれて、ありがとうね」
ママ「さ、おうちに帰ろう」

〇綺麗なリビング
おとさん「優乃さんは、そういう気持ちを表現するのが苦手だったもんな」
おとさん(好きって言われたのも1回だし)
あの「おとさんは、すぐ「好き好き」言うけどね」
おとさん「え、うん」
おとさん「父さんは、伝えることが大事だって思ってるから」
ティッシュ「時々、ウザイよね」
あの「もー、 うるさいよ」
おとさん「え、ごめん」
あの「あ」
あの「おとさんじゃないの」
おとさん「ぅん?」
おとさん(どういう意味だ?)
おとさん(気にするな!)
おとさん(優乃さんが亡くなってまだ1ヶ月なんだ)
おとさん(気持ちが不安定なのかもしれない)
おとさん「その、さっきの話なんだけど」
あの「それでね」

〇教室
クラスメート「あのちゃんは、ママに好かれてなかったんだね」

〇空

〇通学路

〇教室
クラスメート「わー、可愛い!」
あの「ママが編んでくれたの!」

〇住宅街

〇教室
クラスメート「愛されてなかったんだよ」
クラスメート「だから、ママは、あのちゃんをおいて死んじゃったんだ」
クラスメート「あのちゃんのことが大事なら、頑張って長生きしてくれるはずだもん」

〇住宅街

〇教室
クラスメート「捨てられちゃったね」

〇住宅街

〇教室

〇アパートのダイニング

〇教室
クラスメート「かわいそうだね、あのちゃん♪」

〇綺麗なリビング
おとさん「はぁぁあああ!?」
おとさん「言っていいことと悪いことがあるだろう!」
ティッシュ「そうだそうだ!」
おとさん「あの、その子の名前教えて」
おとさん「親御さんに抗議する!」
おとさん「抗議しなきゃ!」
あの「あ・・・・・・。 えっとね、」
あの「──その子、親いないんだ」
あの「お母さんが家を出て、お父さんもいなくなったって」
あの「今は、おばあちゃんと一緒に暮らしてるって」
おとさん(その子の境遇も恵まれてるとは言えないけど)
おとさん(でも)
おとさん「あのを傷つけるような言葉を使っていい理由にはならないよ」
あの「そうだね、 そうだよね」
あの「ショックで、その後の授業のこととか、」
あの「家に帰ってくるまでのこと覚えてないの」
あの「おとさんが帰ってくるまで、そうかな? そうかも?」
あの「って、ぐるぐる考えちゃって」
あの「苦しくなっちゃった」
ティッシュ「最低!」
ティッシュ「まじ、ありえん!」
ティッシュ「泣こう、あのちゃん!」
ティッシュ「そういうときこそ、思いっきり泣いて、悲しみを涙で流してしまうの!」
ティッシュ「泣いていいのよ」
あの(無視しよ)
おとさん「そうだ、ちょっと待ってて」

〇綺麗な一人部屋
おとさん(確か)
おとさん「アルバムの中に」
おとさん「あった!」

〇綺麗なリビング
おとさん「はい」
あの「手紙?」
おとさん「うん」

〇綺麗な一人部屋
ママ(あのへ)
ママ(1歳の誕生日、おめでとう)
ママ(ミルクをごくごく飲んでくれることが嬉しいです)
ママ(もっちりした肌をいつもムニムニしてしまって、ごめんね)
ママ(あまりの触り心地のよさに、衝撃を受けて以来、)
ママ(私は、すっかり夢中です)
ママ(半年経つと、赤ちゃんという顔から、子供の顔つきになるのは驚きました)

〇綺麗なリビング
おとさん「優乃さんは、小学校の卒業式とか、そういうタイミングで渡したかったみたいだから、」
おとさん「あのには見せてない」
おとさん「でも、もう10通になるかなぁ」
おとさん「毎年毎年、手紙を書いてたよ」
おとさん「優乃さんは、あののこと、大好きだってわかる?」
あの「うん!」
ティッシュ「う、ぅぅぅ・・・・・・」
ティッシュ「良かったねぇ」
ティッシュ「ちゃんと好きがわかるものがあって、良かったわぁぁぁあ!」
あの「うるさい。 あなたが泣くな」
おとさん「え?」
あの「あ、ちょっと泣きそうになっちゃって」
おとさん(いま・・・・・・)
おとさん(いや、ダメだ! 追求するな!)
おとさん「ああ、うん」
あの「ありがとう。手紙」
あの「返すね」
あの「ママの気持ちはわかった。 伝わったよ」
あの「ごちそうさま」
あの「今日も美味しかった」
あの「ありがとう」
あの「じゃあ、歯を磨いて宿題してから寝るね」
おとさん「うん」
おとさん「おやすみ」
あの「おやすみなさい」

〇女の子の部屋
ティッシュ「手紙っていいわよねぇ」
あの「いい加減、話しかけるの止めてください!」
ティッシュ「えー、あのちゃんが「いいよ」って言うまで話しかけるよ」
あの「言うわけないでしょ!」

〇女の子の部屋
ティッシュ「私と家族になってください」

〇女の子の部屋
あの「あなた、ティッシュじゃん!」
ティッシュ「ええ、そうよ!」
ティッシュ「私は、ティッシュ」
ティッシュ「だけど、どうして人間と家族になりたいって思ったらダメなの?」

〇綺麗なリビング
時計「お前、すぐ捨てられる存在のくせに、なに言ってんの?」
テレビ「あんまりそういうことペラペラ言わない方が言いわよ」
テレビ「まぁ、ペラペラな存在だから、そんなこと思いつくのかもしれないけど!」
ティッシュ「思いつきなんかじゃない!」

〇女の子の部屋
あの「大体、どうしてティッシュが話せるの?」
ティッシュ(まぁ、物同士はそれぞれ話したりもできるけど)
ティッシュ「あのちゃんが、作ってくれたからだよ」

〇お花屋さん
あの(え、)
あの(花束って、こんなにするの?)
あの(お小遣いじゃ、全然足りないよ)

〇綺麗なリビング
あの(ママに、お花をあげたかったのに)
あの「どうしよう・・・・・・」
あの(そうだ!)

〇綺麗なリビング
あの「ママ、お誕生日おめでとう!」
ママ「ありがとう!」
あの「これ、私から・・・・・・」
ママ「すごい!」
ママ「あのが作ってくれたの!」
ママ「浩一さん、見て! 可愛い!」
おとさん「すごいな! とても綺麗にできてる!」
ママ「飾っておくね!」

〇綺麗なリビング

〇綺麗なリビング

〇綺麗なリビング

〇綺麗なリビング

〇綺麗なリビング

〇綺麗なリビング
ティッシュ「家族みんなで大事にしてくれたから」

〇女の子の部屋
ティッシュ「私も、あのちゃんと、」
ティッシュ「あのちゃんの家族になりたいって思ったの」

〇女の子の部屋
ティッシュ「変かな? おかしい?」
ティッシュ「見守りたいの、あなたのこと」
あの(見守る・・・・・・)
ティッシュ「ティッシュの本望としては、」
ティッシュ「あのちゃんの涙を浚うことだから」
ティッシュ「いつか、使ってね」
ティッシュ「私のこと」
あの「もう寝ます」
あの「その件は一旦保留で」

〇教室
あの(ケースがない?)
クラスメート「探しもの?」
クラスメート「ケースなら、捨てておいたよ」
クラスメート「ゴミが入ってたからね!」
あの「大事なものなの!」
あの「どこに捨てたの?」
クラスメート「忘れちゃったよ!」
クラスメート「ゴミ捨てるとき、気にする?」
あの「──」
クラスメート「なんか言えよ!」
クラスメート「いい子ぶりやがって!」
クラスメート「イライラすんだよ!」
クラスメート「そういうとこ、鼻につく!」

〇体育館の中

〇図書館

〇学校の屋上

〇保健室

〇教室の外

〇教室の外
あの「あった!」
クラスメート「もーらい!」
あの「やめて」
あの「返して!」
クラスメート「パース!」
クラスメート「ナーイス!」
  足を振り上げ、ケースを潰そうとする。
あの「ダメ!!」
  ケースに覆いかぶさる。

〇教室の外
保健医「授業始まっていますよ!」
クラスメート「やべ!」
クラスメート「戻るぞ!」
ティッシュ「あのちゃん!」
ティッシュ「大丈夫!?」
保健医「橘さん、あなた手から血が出てるわ!」
保健医「保健室に行きましょう!」

〇保健室
ティッシュ「ごめんね、ごめんね」
ティッシュ「私のせいで」

〇女の子の部屋
ティッシュ「明日、一緒に学校行きたいな」
ティッシュ「1日、一緒にいて、また考えて」

〇保健室
ティッシュ「私がワガママ言ったから」
あの「決めたのは私だもん」
保健医「血は止まったわね」
保健医「その中に入ってるもの、大切なんでしょう?」
あの「ぐしゃぐしゃになっちゃった」
保健医「一緒に来て!」

〇家庭科室
保健医「丁寧にひろげて」
保健医「水洗いして」

〇保健室
保健医「アイロンをかけて」

〇保健室
保健医「また、つくりなおすの」

〇保健室
保健医「橘さんのクラスに行ってくるから、」
保健医「つくってて」
保健医「怪我してるし、ゆっくりでいいからね」

〇保健室
ティッシュ「ごめんね」
ティッシュ「痛いよね」
ティッシュ「泣いてもいいよ」
あの「泣かないよ!」
あの「あなたは、使わない!」
ティッシュ「あのちゃん?」
あの「こんなことで、いなくならないで!」
あの「これから一緒に家族になっていこう!」
あの「時々、お出かけもしよう」
あの「けど、おかえりも言ってほしい」

〇保健室
あの「もし、」

〇海辺
  「結婚式で、ベールに飾るよ」

〇クリスマス仕様のリビング
  「子供の髪に飾ってあげる」

〇保健室
あの「見守ってくれるんでしょ?」
ティッシュ「うん!」
ティッシュ「うん!」

〇綺麗なリビング
あの「ただいま」
ティッシュ「おかえり、あのちゃん!」

コメント

  • ティッシュだけに不思議な優しさにふんわり包まれたストーリーですね。人間と関わった物は全てに魂が宿ると考えると、日常使う物も大切にしたくなります。あのちゃんがお母さんのために心を込めて作ったティッシュのお花ならなおのこと、純粋で健気な魂が宿ったんだろうなあ。

  • わああ。
    なんて素敵なお話し。
    ティッシュが話しかけるというシュールな設定は、どんな展開になるのかなとワクワクしましたが、思いがけず泣かせて頂きました。
    あのちゃんはいつまでも大切にしてくれそうですね。
    私も涙を拭くティッシュが欲しい。

  • 強い子だなぁ。
    読んでる私が一番ティッシュを使いたくなりました。
    親の身になって考えると、本当に何より子供が大切で。
    デリカシーの無い子供たちに少し苛立ちを感じてしまいましたが!

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