モノクロの世界がくれたラストチャンスを

秋田 夜美 (akita yomi)

モノクロの世界がくれたラストチャンスを(脚本)

モノクロの世界がくれたラストチャンスを

秋田 夜美 (akita yomi)

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〇美しい草原
シロ「ねぇ見て! 蝶々がいっぱい!」
クロ「ホントだ!」
クロ「行こう! 捕まえた方が勝ちね!」
シロ「あ、ずるい! 待って!」
まり「二人ともー! あんまり遠くに行かないでねー!」
クロ&シロ「わかったー!」
まり「まったく。あの子たちよく飽きないわね」
クロ「そっちに行ったよ!」
シロ「任せて! んっ!」
まり「ふふっ、楽しそう」
まり「痛ッ!」
まり「うぅ、頭が割れそう・・・」

〇黒背景

〇美しい草原
まり「ぅ、ん ・・・クロ?」
クロ「よかった・・・!」
シロ「心配したよぉー!」
まり「?」
クロ「まり、ここで倒れてたの」
クロ「振り返ったら姿がなくて・・・」
まり「そっか。私、頭が急に痛くなって・・・」
クロ「今日はもう帰ろう?」
まり「うん・・・」

〇貴族の部屋
まり「私、疲れてるのかな」
シロ「まりーっ!」
シロ「シロ、ちゃんとお風呂入ったよ!」
まり「よしよし。えらいぞ!」
シロ「えへへ!」
まり「クロ。ありがとう」
クロ「具合はどう?」
まり「うーん。今はなんともないみたい」
クロ「よかった・・・」
シロ「まり! クロ! 早くおふとんに来て!!」
クロ「今行くー」
まり「まだまだ甘えん坊さんね」

〇貴族の部屋
シロ「まりー、おうたを歌ってー?」
クロ「シロ。今日は早く寝かせてあげよう?」
シロ「うん・・・」
まり「明日、ね?」
シロ「今日はガマンする!」
まり「ふふっ」
まり「じゃあふたりとも、おやすみなさい」
「おやすみなさーい」

〇黒背景

〇おしゃれなリビングダイニング
まり「・・・」
まり「どこかしら、ここ・・・」
まり「なんか、見たことがあるような」
母「真里、テーブル片付けてー」
まり「この人・・・」
父「おっ! 今日は鍋か!」
母「好きでしょ?」
父「あぁ!」
父「真里、先に食べちゃうぞ!」
母「真里、はやく~」
まり「あ、待って!!」
まり「お母さん! お父さん!」
まり「私を──」
まり「置いて行かないで」

〇貴族の部屋
まり「ん・・・」
クロ「大丈夫? 随分うなれてたみたいだけど」
まり「・・・」
まり「家族と暮らす夢を、見たの」
まり「おかしいよね──」
まり「会ったことも、ないのに」
まり「でもね、」
まり「クロとシロが一緒にいてくれて、」
まり「ずっと三人で暮らしてきて、」
まり「全然さみしくなんて・・・」
クロ「どうしたの?」
まり「ずっとって・・・いつから?」
まり「ねぇクロ! 私たち、いつ街に来たか覚えてる!?」
クロ「えぇ? 引っ越してきたんだっけ?」
まり「そうよ! ほら、あの村から来たじゃない!」
まり「・・・なんて村だったかしら?」
クロ「私、街の外のこと知らないよ? ここを出たことないもの・・・」
「・・・」
まり「どういうこと、なの?」
まり「痛ッ! また頭が・・・」
クロ「まり!?」
まり「・・・・・・」
シロ「ぅんん。どうしたの?」
クロ「シロ、どうしよう?! まりの意識がないの!」
シロ「ぇえっ?!」

〇病室
「・・・! ・・・!!」
真里「今度は──なに?」
看護士「覚醒レベルが臨界点を突破!」
医者「早く・・・を用意して!」
看護士「──できました!」
看護士「心拍180、190・・・200!」
看護士「先生ッ!!」
医者「くっ、痙攣が激しい!」
医者「・・・」
医者「よし!」
看護士「脈拍、下がっていきます!」
看護士「覚醒レベルが低下。まもなく再突入!」
真里「あぁ、そっか」
真里「私、病気だったんだっけ」
真里「余命3カ月って言われて・・・」

〇病室
母「真里、行かないで」
まり「──やだ」
母「どうして!?」
まり「手術も薬も、もうたくさん!」
まり「治らないこと、私知ってるの」
「・・・」
母「隠していて、ごめんなさい」
母「でも、私たちは同じ時間を──」
まり「替わってよ」
母「えっ?」
まり「そんなに言うなら、私と替わってよ!!」
父「真里! なんてこと言うんだ!!」
まり「お父さんもお母さんも、」
まり「本気で私のこと考えたことある?!」
まり「痛いのも怖いのも、もう嫌なの!」
まり「最後ぐらい──」
まり「静かに過ごさせて」
「・・・」

〇貴族の部屋
シロ「目を開けて、まり!」
まり「ぅぅん・・・」
クロ「はぁ、よかった。気が付いた!」
シロ「ま˝りぃ˝ぃ˝ー」
まり「・・・」
まり「ごめん、私──」
まり「行かなくちゃ・・・!」
クロ「そんな状態でどこに行くの?!」
クロ「今は休まないと──」
まり「今、行かなくちゃいけないの!!」
シロ「一緒にいく!」
まり「ごめん。連れて行ってあげられないんだ」
シロ「やだ!」
シロ「まり、ずっと一緒だって言ったもん!」
まり「・・・」
クロ「どうしても行くの?」
まり「うん」
クロ「大事なこと、なんだよね?」
まり「うん」
クロ「シロ、行かせてあげよう?」
シロ「やだやだやだ!!!」
クロ「シロ・・・」
まり「少ししたら──」
まり「必ず二人のところへ行くわ」
まり「そしたら今度こそ、ずっと一緒!」
シロ「・・・絶対?」
まり「うん、絶対!」
シロ「わかった・・・!」
クロ「また──会えるんだよね?」
まり「すぐに会えるわ」
まり「必ず!」

〇中世の街並み

〇立派な洋館

〇占いの館
オペレーター「こんばんは。真里さん」
まり「こんばんは。あの──」
まり「ログアウトしたいのですが」
オペレーター「かしこまりました」
オペレーター「こちらの世界はお気に召しませんでしたか?」
まり「いえ。心地よくて、とても幸せでした」
オペレーター「では、なぜ?」
まり「死ぬ前に──」
まり「ちゃんと想いを伝えたいと思ったんです」
オペレーター「そうでしたか」
オペレーター「ご要望いただいた猫のアバターを実装できず、誠に申し訳ありませんでした」
まり「いえ。たぶん、私のためになかったのだと思います」
オペレーター「まもなくログアウトが完了します」
オペレーター「痛みや怠さ等の身体症状が戻りますので、ご注意ください」
まり「──わかりました」
オペレーター「ご家族に連絡しますか?」
まり「お願いします」
オペレーター「承りました」
オペレーター「この度は──」
オペレーター「終末医療サービス”&ロード”のご利用ありがとうございました」

〇白

〇病室
まり「う˝ぅぅ・・・ごほ、ごほっ」
「真里!」
まり「お・・・かあ・・・さん」
まり「おと・・・さん」
父「真里、ありがとう。 戻ってきてくれて、ありがとう!」
まり「ひどい・・・こと・・・言って、」
まり「ごめ・・・んね」
母「母さんこそ、ごめんなさい!」
母「真里の気持ち、わかってなかった」
まり「いい・・・の」
まり「ふた・・・りに・・・つたえ・・・たく・・・て」
父「あぁ。なんでも言ってくれ」
母「なーに?」
まり「・・・」
まり「わた・・・しを、」
まり「産んで・・・くれて、」
まり「育て・・・くれて、」
まり「あり・・・がとう」
母「母さん、真里が私の子供でとっても幸せよ!」
父「父さんも、真里が家族で本当に嬉しいぞ!」
まり「ふふっ、よか・・・た」
まり「ちゃん・・・と、」
まり「言え・・・・・・た・・・」
まり「・・・」
父「おい、真里・・・?」
母「嘘よね、真里・・・」
まり「・・・・・・」
「まりぃぃーーッ!!!」

〇黒背景

〇美しい草原
「・・・」
シロ「みゃー」
まり「お待たせ!」
まり「これからはずっと──」
まり「一緒だよ!」

コメント

  • 終末医療におけるメタバース利用の可能性について、一つの形を見せていただき、考えさせられました。自分自身のしまい方について、自分自身で判断できる方法と選択肢が提供される時代の到来が望まれますね。シロとクロと再会できたラストシーンがあってホッとしました。

  • 泣いてしまいました…
    人生の終末期、医療側では辛さや痛みが極力なく最期を迎えられるよう動くことも多いですが、本作のようなサービスもじきに提供されるかもしれないと思ってしまいました。そんな中、まり(真里)さんの強い決意には心を打たれました

  • いつも読ませていただいています。
    今回も独特ないつもの世界観を感じました。
    楽しい日常が本当は違う世界だったら…もしかしたら今の自分は?と考えてしまいました。
    最後にまりが取った行動に思わず泣いてしまいました。そして安心しました。
    次回の作品も楽しみにしています。

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