亀と現代人と予算など。

孫一

亀と現代人と予算など。(脚本)

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〇海辺
田中「・・・・・・」
ミチル「助けていただきありがとうございました」
ミチル「あのままではどうなっていたかわかりません」
ミチル「ぜひ、お礼に竜宮城へご案内させて下さい!」
田中「・・・・・・」
ミチル「あ、帰って来たら何百年も経っているんじゃないかと心配してます?」
ミチル「それなら大丈夫! 過去の反省から、お客様を長居させないようになりましたから!」
ミチル「お昼ご飯を奢られるくらいの感覚でお越し下さい!」
田中「・・・・・・」
ミチル「あの、ずっと黙ってますがどうしました?」
ミチル「もしや何か失礼がありましたか!?」
田中「いや、びっくりしちゃって」
ミチル「びっくり?」
田中「はい。助けた亀が突然女の子に変身したので」
田中「びっくりしました」
ミチル「あぁ、それで! 驚かせて申し訳ありません」
田中「いや、謝らなくていいです。悪いことをしたわけではないので」
田中「ただですね」
ミチル「はい」
田中「自力で起き上がれましたよね。その姿に変身すれば」
ミチル「・・・・・・」
田中「十分ぐらい見てたんですよ。貴女のこと」
田中「亀がひっくり返ってるなー」
田中「本当に起き上がれないんだなーって」
ミチル「・・・・・・」
田中「必死にもがくのが可哀想で、流石に見ていられなくて」
田中「それで助けました」
ミチル「ありがとうございます!」
田中「大したことじゃないからお礼はいいんですけど」
田中「でも自力で起き上がれましたよね。その姿に変身出来るんだもん」
ミチル「・・・・・・」
田中「で、竜宮城へ連れて行ってくれるって言いましたよね」
ミチル「はい! ぜひお昼奢らせてください!」
田中「遠慮します」
ミチル「えっ?」
田中「申し出はありがたいけど竜宮城には行きません」
ミチル「えっ、竜宮城ですよ? 行かない? 何故?」
田中「時間を計算してみましょう」
田中「浦島さんが一年滞在したとして、地上では七百年経っていたんでしたっけ」
田中「お昼を奢ってもらうのに一時間滞在したら、地上では七百時間が経過する」
田中「七百割る二十四。大体二十九か」
田中「竜宮城で昼飯食って戻って来たら二十九日経ってるんです」
田中「困るでしょ」
田中「だから行きません」
ミチル「いやいや、二十九日すっ飛んじゃうだけで一時間竜宮城の接待が受けられるんですよ!」
ミチル「行かなきゃ損です!」
田中「軽く言うけど二十九日行方不明って結構な事件ですから!」
田中「で、戻って来たら皆に訊かれますよね。 何処行ってたのって」
田中「何て答えればいいんですか」
田中「竜宮城で昼飯奢ってもらってたって言えばいいんですか」
田中「入院させられますよ、頭の病気で」
ミチル「大丈夫! それだけの価値はある一時間です」
田中「ちなみに移動中は地上と竜宮城、どっちの時間が適用されます?」
ミチル「・・・・・・竜宮城です」
田中「じゃあ接待時間は正味三十分くらい?」
ミチル「・・・・・・まあ、その、はい」
田中「行かない」
田中「貴重な体験だとは思う。でも、ねぇ」
ミチル「・・・・・・何でですか」
田中「いや、だから今言った通り」
ミチル「おかしいでしょ!」
ミチル「竜宮城ですよ? 神秘体験ですよ?」
ミチル「断るなよ!」
田中「だってさぁ」
ミチル「これだから嫌なんだよ現代人!」
ミチル「最近じゃどの浜辺に行ってもこんなんだよ!」
ミチル「引っ繰り返ってもがいてみても、動画に撮って笑われるだけ」
ミチル「こっちだって引っ繰り返ると内臓が圧迫されて結構苦しいんだぞ!」
ミチル「それでやっと助けてくれる奴がいたと思ったら「竜宮城には行きません」」
ミチル「おかしいだろ! 天下の竜宮城だぞ!」
ミチル「行けよ! 憧れろよ!」
ミチル「タイやヒラメの舞い踊りをその目に焼き付けろよぉ!」
ミチル「可愛いだろ。可愛いだろ、私」
ミチル「こんな可愛い子がゴロゴロいるんだぞ」
ミチル「目の前で舞い踊っちゃうんだぞ!」
ミチル「見に来いよ!!」
田中「三十分だけじゃん」
ミチル「貴重な三十分でしょぉ!?」
ミチル「来いよ!!」
田中「でも絶対気になっちゃうもん」
ミチル「何が」
田中「折角ご馳走や踊りでもてなされてもさ」
田中「地上では何日経ったんだろう」
田中「皆、俺のこと探してるのかな。 警察にも連絡されてんだろうな」
田中「戻ったらどうすればいいんだろう」
田中「そういう事考えて上の空になっちゃう」
ミチル「集中しろよ!」
田中「無理だよ。気になる」
ミチル「えぇ~・・・・・・」
田中「しかも、自力で起き上がれるのにわざわざ引っくり返ってのたうち回ってたんでしょ」
田中「それもあちこちの浜辺でやってるって」
田中「何で?」
ミチル「あ~・・・・・・」
田中「何でそんなことしてんの?」
ミチル「~~~~~~~~!!!!!!!!」
ミチル「予算のためだよ!!」
田中「予算?」
ミチル「竜宮城は隠り世の公的機関なの」
ミチル「収支の実績に基づいて予算が配分され運用する」
ミチル「でも近頃は隠り世の羽振りも悪いの」
ミチル「実績が無いと予算がばんばんカットされるの」
ミチル「だから定期的に現世人類の接待の実績を作らないとその分の予算が削られちゃうの!」
ミチル「一度削られてみろ」
ミチル「次の実績を上げようとしても「お金が無いから出来ないよ」ってなるんだ」
ミチル「貧乏は加速するんだ。坂を転がるように」
田中「余った別の予算を回せば?」
ミチル「手続きが面倒臭いんだよお役所仕事は!」
ミチル「実績をつくるのが一番手っ取り早いの!」
ミチル「そのために全国津々浦々の浜辺でのたうち回っているのにさぁ!」
ミチル「我慢しろよ二十九日の失踪くらい!」
ミチル「亀の身にもなれよ現代人!」
田中「・・・・・・」
ミチル「ぜぃぜぃ」
田中「そんなに仕事が大変なら、辞めて俺ん家に住む?」
ミチル「・・・・・・え?」
田中「俺、色々あって寂しかったんだ」
田中「だからここでぼーっとしてた」
田中「新しい友達が欲しいな。ペットも癒されるって言うよな。そんなことを考えてた」
田中「うち来ない? 亀としてでもその姿でもいいから」
田中「まあ、やましい意味にしか捉えられないと思うけど、これも何かの縁だと思って」
田中「あと、あまりに君が見ていられなくて」
ミチル「・・・・・・」
田中「・・・・・・」
ミチル「よろしくお願いします・・・・・・」

コメント

  • ファンタジーも仔細までまじまじ見れば世知辛い……二人の身も蓋もないやり取りに笑いました 笑
    時間のコストとか予算カットとか、生々しいですねぇ😂
    どんどん口が悪くなっていくミチルさん、疲れてるんだろうなぁ……と思っていたので、最後は別の形のファンタジーな感じに落ち着いて良かったです😌

  • 現代の亀は大変ですね笑
    リスクを考えて冒険しない現代人との会話が軽妙で面白かったです

  • 途中から強気な美少女に笑いました。竜宮城も予算削られて大変なんですね🤣🤣🤣
    そうか、現代ではあの話がもう広がりすぎて誰も行きたがらないんだ。亀を助ける正義感も薄れてそうですもんね。
    オチも良かったです。竜宮城の今後が心配ではありますが……笑

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