Imperial Dawn

石坂 莱季

Ep.7『Mask』(脚本)

Imperial Dawn

石坂 莱季

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〇黒
  ★1
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〇黒
  私の記憶の奥深くに刻まれた、二人の大切な仲間がいる。
  壊れたのが私の心でなく、ただの殻だったんだって思わせてくれた大切な仲間。

〇荒廃した市街地
  シスタニア侵攻作戦。
  SHADEとして初めての制圧任務だった。
  突然、会った事もない人間が世界に宣戦布告をし、会った事もない人間が私に人を殺せと命じる。
  私は、軍務総省の密命を受け動いていた。
  一振りのナイフだけを握らされて。

〇荒廃した街
  SHADEの他の隊員たちから私だけが一人離され、誰かが捕らえてきた捕虜をナイフで、出来るだけ残虐に。
  見せ付けるように。
  来る日も来る日も、泣き叫ぶ声や悲鳴、怒号、怨み、返り血を浴びる日々。
  皮を剥ぎ、肉を裂き、自分の臓物の色が何色なのかを見せつける。
  それが、私の任務だった。
  気づいた時、私は既におかしくなっていた。

〇山奥の研究所
  物心ついた時には既に、特殊兵士養成所『Area51』での訓練を受けていたのだけれど、
  きっとこれは、あの時同じ部屋の女の子が他の子達に嬲り殺しにされてるのを助けられなかった自分への罰なのだと思った。
  次は自分かもしれないと恐れ、一人過酷な訓練に明け暮れたあの日の光景ばかりが蘇る。
  私は負けない。
  誰にも負けない。
  必ず負けない。
  そんな事だけを思って過ごしていたあの日々。
  終わったと思っていた。
  大好きな仲間達に出会って、私は変われたと思っていた・・・──

〇黒
  ──・・・二年前

〇怪しい部屋
エリーナ・マクスウェル「・・・」
  その日もどうしようもなく真っ赤に染まった私は、疲れ果て、自分にあてがわれた戦地兵舎の狭い部屋で無造作に横たわっていた。
  天井の薄暗い明かりの周りを一匹の蛾が飛び回っている。
  今日はもう何人切り刻んだのかわからない。

〇怪しい部屋
  帝国の言う世界平和。
  そして、私のしていること。
  もう、何も考えたく無い。
  ふと誰かが私の部屋の扉を開けて入ってくる。
  しかし、そんな事にも興味が湧かず、私はただ呆然としている。
  やがてその誰かの顔が覗き込むようにして私の視界に入ってきた。
  レン・マッケンジー。
  同じSHADEの隊員で、私のバディ。
  今は離れた場所で作戦行動を取っている筈だった。
  どうしてここに?と、彼の顔を見てから時間差でそんな疑問が浮かんでくる。
レン・マッケンジー「・・・よう。生きてるか?」
エリーナ・マクスウェル「・・・」
  彼にそう問われたが、私は何も答えないままゆっくり体を起き上がらせた。
  ずっと会えなかった仲間にあえて嬉しい筈なのに、私の口から言葉が発せられることはなかった。
  まるで、違う誰かの体の中に入り込んでしまったみたい。
レン・マッケンジー「なぁ。どうなんだよ。様子を見にきてみりゃ血だらけじゃねぇか。シャワーぐらい浴びろよ。一応女の子だろ?」
エリーナ・マクスウェル「・・・」
  いつもの様な軽口に、こちらも何か軽口を叩こうとするけど、
  脳と体の動きが一致せず、私はただ口をモゴモゴさせるしかなかった。
  彼は私の頭を優しく撫でると、ちょっと待ってろ。と言い残し、再び部屋の扉を開けて何処かへ去っていく。
  余程酷い姿なんだろうな。
  しばらくして彼が戻った時横目に見ると、手にはお湯の張られたバケツと大量の白いウエスが握られていた。
レン・マッケンジー「悪りぃ。これしか見当たんなかったんだ。新しいやつだから文句は言うなよ?」
  レンは苦笑いを浮かべながら私の傍にしゃがみ込むと、
  お湯につけたウエスを絞り、私の頬や額にこびりついた血を優しく拭い始めた。
  暖かいお湯と彼の手の感触が伝わってくる。
  錆びた機械のようになってしまった私は、何も言えず、何もできず、ただされるがままになっている。
レン・マッケンジー「上着ぐらい脱げるだろ?無理に動かなくていい。拭いてやるから」
  その問いにも返事ができないでいる私に向け、レンはいつもの困った様な苦笑を浮かべると、
  血で汚れたウエスを一度お湯バケツの中に入れ、そっと手を伸ばして私のハーネスを外し始めた。
エリーナ・マクスウェル「・・・ご・・・めん」
  私はなす術のない自分を恥じ、それだけを蚊の鳴くような声で溢した。
  自然と涙が溢れ出てくる。
  誰の前でも、決して流すことのなかった涙が。
  しかしレンは特に驚いた様子もなく、いつもの調子で微笑んでくれた。
レン・マッケンジー「何で謝るんだよ。涙が出るのはまだ心が壊れてない証拠なんだってイルーザ隊長が前に言ってただろ?」
  つっけんどんだがどこか優しくそう言いながら、私の体に着いた装備品のハーネスを外し、
  それを傍に置くと、レンは次に私の戦闘服の上着のファスナーを首のところから下ろし始めた。
レン・マッケンジー「悪いな。別にお前の裸なんか見ても欲情しねぇから安心しろ」
  バカ。
  いつもならそんな言葉の一つや二つ飛び出すところではあったが、
  今の私は頭で思う余裕もないほど疲弊していて、たとえいきなり襲われたとしても抵抗などできないだろう。
  戦闘服を脱がしてもらうと、その下はもう下着だ。
  彼は私の肩の辺りを、再び新しいウエスで優しく拭きながら、珍しく難しい表情を浮かべていた。
レン・マッケンジー「・・・エリーナ。お前ボロボロじゃないか」
  レンはそう言うと、私の顔を心配そうに覗き込んだ。
  彼がこんなに悲しそうな表情を浮かべているのを私は見たことが無い。
  いつもお互い溌剌としていて、喧嘩も多い私たちだった。
  そんな日々が、今は遠い昔の様に思えてならない。
レン・マッケンジー「確かに俺たちは帝国の兵士だ。だけどな、俺たちは皇帝の道具じゃねぇ。そうだろ?」
レン・マッケンジー「気がついた時にはもう銃を握らされてたってだけで、いつだって他の生き方が出来る」
レン・マッケンジー「みんな同じちっぽけな人間なんだ。こんな事やめて、なんも知らねぇ普通の女にだってなれるんだぜ」
  その言葉に、私は拳を握りしめる。
  怒り?なのだろうか?
  どこにぶつけたらいいのかもわからない感情が沸々と私を包み込んでゆく。
  ダメだ。
  感情が暴走して、歯止めが効かない。
エリーナ・マクスウェル「・・・なら、どうすればいいっていうの!?命令に背くことは許されない!!」
エリーナ・マクスウェル「この生き方を選んでしまった時点で、選択肢なんてないないのよ!!」
エリーナ・マクスウェル「やらなければ誰かが殺される!逃げれば私が殺される!私に行き場所なんてない!」
  眼に涙を浮かべて捲し立てる私の言葉に、レンは寂しそうに俯いて、すまん。と一言私に謝った。
  彼が彼なりに私を元気付けてくれようとしているのはわかってる。
  でも、冷静になれない今の私は、ただ駄々をこねる子供の様に溢れ出してくる感情を吐露するしかないのだ。
  ナノマシンの感情制御すら、限界を迎えているのかもしれない。
レン・マッケンジー「・・・だがエリーナ。忘れたか?」
  レンは私の肩に手を置いてそう言うと、彼の胸に駄々っ子のように拳を打ち付ける私の身体をそのまま強く抱き寄せた。
レン・マッケンジー「・・・俺たちが本当に信じられるのは仲間だけだ。確かに、兵士である以上任務を疑ってはいけないのかもしれない」
レン・マッケンジー「だが、どんなに辛い任務も仲間が居るから乗り越えられるんだろ?お前は一人じゃない。思い出せ」
エリーナ・マクスウェル「・・・今は・・・今は一人よ。・・・ただ一人、来る日もくる日も人の命を残虐に奪い続けるだけ」
  言葉に出しながら、止めどなく涙が溢れてくる。
  そんな私を、レンはさらに強く抱きしめた。
レン・マッケンジー「・・・いや、お前は一人じゃない。それに、俺たちが今まで奪って来た命はどうなる?彼らを犬死にするな」
レン・マッケンジー「それは、俺たちに掛かってるんだよ。・・・でも」
  何かを考える様にレンが言葉を切り、私の両肩に手を置いて自分の体から離すと、私の顔を真っ直ぐ覗き込む。
レン・マッケンジー「もし、そんなこの世の理(ことわり)全てがお前の心を押し潰そうとしているのなら、もう辞めちまおう」
レン・マッケンジー「お前が壊れるのを、俺は見ていられない。だから、その時は俺も一緒だ。一緒に、こんな事辞めちまおうぜ」
  その瞬間、私を包み込んでいた重力の様なものが無惨していくのを感じた。

〇黒
  人を殺すことが当たり前の世界でただ一人、はっきりと『辞めてもいい』と言ってくれたレン。
  格好いい。
  単純バカみたいだけど、私は全てのしがらみを越えて、ただ純粋に目の前の男の事をそう思った。

〇怪しい部屋
エリーナ・マクスウェル「・・・レ・・・ン?」
  渇いた喉を鳴らし、彼の名を呼ぶ。
  そのあとも、レンは私に優しい言葉を紡いでくれた。
レン・マッケンジー「辞めちまおう。こんな事。二人でよ。帝国に帰ったら、どっか誰にも見つからない様な場所に行って二人で死ぬまで笑って暮らそう」
  彼の言うそれが、本当に出来るとは思わなかった。
  でも、そんな夢を語る様な彼の言葉が、確かに私の希望になったのだ。
  二人で生き残って、いつか、そんな未来が来たらいいと思った。

〇黒
  私たちは生の実感を確かめ合った。
  優しいレンの言葉一つ一つが、私にその実感をくれた。
  彼が居てくれるなら、いつか世界が平和になるその日まで、戦い続けられる。
  そんな気がした。
  私を励ましてくれる仲間たち。
  そして、私が奪った命。
  その分、私は立ち止まってはいけない。
  任務がどんなに過酷で理不尽でも、誰かに恨まれたとしても、仲間たちが居てくれる限り私は大丈夫。
  レンが、それを気づかせてくれた。

〇怪しい部屋
  全てが終わった後、レンは私の隣に横になりながら静かに言った。
レン・マッケンジー「俺は許せねぇ。お前をオモチャにしたこの国が。俺たち兵士だって人間なんだ。だから、絶対いつか辞めてやろう」
  彼は屈託なく微笑んで、またそう私に言ってくれた。
  優しく。

〇黒
  レンとのその夜から数日後。
  私は特務執行員としての『血塗られた任務』を辞し、SHADEの仲間達が戦う戦場へ戻った。
  レンの報告を受け、ずっと心配していてくれたイルーザ隊長がタイミングを見計らって上層部に直談判したらしい。

〇近未来の会議室
イルーザ・ロドリゲス「・・・確かに、敵国シスタニアに対し特務執行員の任務は一定の効果を見せました」
イルーザ・ロドリゲス「しかし、それは最初だけ。戦が長引けば、執行員達も同じように疲弊し、すり減っていく」
イルーザ・ロドリゲス「PTSDやシェルショックは、時に兵士に重篤な精神疾患をもたらします。既にそれが理由で戦線を離脱した兵士も多数」
イルーザ・ロドリゲス「このままこれを続ければ数は増える一方でしょう。そうなってしまっては本末転倒」
イルーザ・ロドリゲス「結果こちらの戦力も減るのですから、あまり効率的とは言えないでしょう」
イルーザ・ロドリゲス「よって、わたくしは此処に、特務執行員任務の取り下げをご提案いたします」
イルーザ・ロドリゲス「もちろん、今回の実戦データは上層部に詳細にまとめた上で提出させていただきます。つきましては・・・──」

〇黒
  いつもはほんわかしているイルーザ隊長が、堂々と軍務総省の幹部達にそう演説してみせた時の事を後にレンから聞いた。
  そして命令違反であるにも関わらず、レンを密かに私の元に送り込んでくれたのもイルーザ隊長だった。

〇荒廃した市街地
  それを受け、私以外に同じ特務執行員の任についていた他の兵士達もその地獄から解放される事となる。
  シスタニアはもう既に帝国の手に落ちていたが、各地に残る政府軍の残党やレジスタンス達との戦いはまだ続いていた。
  久々に闊歩するレンとバディを組んでの戦場。
  ナノマシンのリンクなんかじゃ無い。
  本当に心と心が通じ合っているかのように私達は強くしなやかだった。
  知らない誰かのためじゃ無い。
  自分が信じる仲間のため、そして彼との細やかな夢を胸に戦えるという事が、私の心の傷を少しづつ埋めていった。
  しかし・・・──

〇黒
  ──・・・私たちが二年ぶりに帝国本土へ帰国する前々夜に、レンは死んだ。

〇崩壊した道
イルーザ・ロドリゲス「・・・レン!行ってはダメっ!」
  侵攻作戦が終わり、帝国へ『あの橋』を渡って帰還していく兵士達。
  新たな職や住まいを求めて帝国へ渡ろうとするシスタニアの難民や移民。
  私達は、シスタニアのレジスタンスの抵抗を防ぐ為、そんな人々で溢れるシルヴァー・サンライズ・ブリッジの警備に当たっていた。
  その時に、アドルフ・ストラドスによる爆破テロが起きたのだ。

〇崩壊した道
  立て続けに大規模な爆発が起こり、橋は中央部分から陸に向かって崩落を始めている。
  しかし、私達はその規模に慄くしかなかった。
  橋を通行中の車両は下を流れる運河へと堕ち、人々もまた、その崩落に巻き込まれていく。
  悲惨な光景。
  
  今でも頭から離れない。
  阿鼻叫喚の地獄だった。
  そんな地獄へ向け、迷いなく走り出すレン。
  その先には、シスタニア人の一人の少女がいた。
  混乱の中、両親とはぐれてしまったのかもしれない。
  彼を静止するイルーザ隊長の手が空を切る。
イルーザ・ロドリゲス「レン!ダメっ!」
ラクア・トライハーン「・・・馬鹿野郎!戻れ!」
エリーナ・マクスウェル「レンッ!」
  私とラクアが叫ぶ。
  しかしそんな私達を、レンは振り返って険しい表情で見つめた。
  見たこともない様な、まるで軽蔑する様な冷たい目で。
レン・マッケンジー「・・・目の前の人間が救えなくて、何が世界平和だ」
「・・・・・・」
  その気迫の籠った声に、私達は言葉を失った。
  あの、イルーザ隊長でさえ。
レン・マッケンジー「・・・人を殺すだけが、兵士じゃ無いだろ」
  レンはそう言い残し、再び走り出した。
  依然として爆破は続いている。
  橋の崩落は、徐々にこちらにまで迫ってきている。
  一体、どれ程の量の爆薬が有ればこんなに爆発が続くのだろう?
エリーナ・マクスウェル「レンッ!!」
  私の叫びは、度重なる爆音でかき消される。
  レンは泣いている少女に駆け寄ると、頭を撫でながら何事かを優しく語りかけ、その小さな体を抱きかかえた。
  すぐに方向転換してこちらに走り出しながら、何かを叫んでいる。
  あのバカ。
  レンがこっちに戻ったら、一発殴ってやるつもりだった。
  しかし次の瞬間。
  走るレンのすぐ後ろで爆発が起き、彼は爆煙の中に姿を消した。

〇黒
  そうしていとも簡単に、最愛のバディは私の隣から居なくなってしまったのだ。

〇黒
  私は再び塞ぎ込み、閉じこもった。
  まるで全ての希望を失ったかの様に。
  もう一人じゃない。
  側には他の仲間達がいてくれる。
  みんなが私を心配してくれた。
  だけどその時の私は、それすらも重圧に感じていた。
  レンが死んだ次の日の夜。

〇怪しい部屋
  爆破テロの一件でまだ混沌としている状況の中、イルーザ隊長が私の元に現れ、そっと寄り添い私を抱きしめてくれた。
イルーザ・ロドリゲス「・・・エリーナ」
  彼女はそう言いながら私の頭を優しく撫でる。
  ほのかないい香りが私を包む。
イルーザ・ロドリゲス「・・・あなたには、本当にかわいそうな事をしてしまったわ」
  隊長の私を抱きしめる手が震えている。
エリーナ・マクスウェル「・・・いえ。みんな同じですから」
  私は気丈に振る舞った。
  しかし、その声が震えていたのを隊長が聞き逃すはずがない。
イルーザ・ロドリゲス「全ての責任は私にある。あなたが特務執行員になったのも、レンが死んだのも。もし感情に逃げ場が無いなら、私を責めなさい」
  隊長の言葉に、私は首を横に振る。
エリーナ・マクスウェル「・・・私、レンが何のために戦っていたのか、少しだけ分かった気がするんです」
エリーナ・マクスウェル「それは、きっとイルーザ隊長と同じものだった・・・のだと思う」
エリーナ・マクスウェル「・・・ハッキリとはわからないけど・・・。だから・・・私は隊長について行きます」

〇崩壊した道
  『人を殺すだけが兵士じゃないだろ。』
  彼の最期の言葉。
  それは、普段からイルーザ隊長が言っていた事だ。
  レンは隊長を心から敬愛し、信じていた。
  だからこそ、爆破テロによって崩落する橋に単身乗り込み、敵国の少女を自らの命と引き換えにして救い出したのだ。

〇黒
  命令や任務じゃ無い。
  知らない誰かの都合で、関係の無い誰かの命が奪われてはいけない。
  そんな隊長の生き方を見て、レンは行動した。
  結果命を失う事になったとしても、彼にとって後悔などない筈だった。
  その事実だけが、私を強くしてくれた。
  でも・・・。
  でも、残された私達は後悔せずにはいられない。
  何故止められなかったのか。
  きっとこの先、ずっと悩み続けるのだろう。

〇怪しい部屋
  イルーザ隊長は、悲しさと悔しさで震える私の手を握りしめると顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
  こんな事、私が言ってはいけないのかもしれないけど。と前置きすると、
  彼女は私の両肩を掴んで、みた事もないような真剣な表情で真っ直ぐに私を見据える。
  あの夜、レンに諭された時のように。
イルーザ・ロドリゲス「・・・あなたは死んではいけないわ。・・・みんなの為に生きてね」
  私はそれが、彼女からの最大級の命令であると信じることにした。
  『私が言ってはいけないのかもしれないけれど。』
  その時の隊長の澄んだエメラルドの様な目を私は一生忘れる事ができない。
  そう。
  それが、私が見た初代SHADE隊長イルーザ・ロドリゲスの最後の姿だったのだから。

〇ボロい倉庫の中
  記憶の再生が止まり、私はゆっくり目を開けた。
  酷く眠い。
  恐らく、先ほど私が暴れた為に注射された薬が原因だろう。
  ただの鎮静剤などでない事はわかる。
  薬物。の様なものだろうか。
  ナノマシンが視界上でエラーメッセージを吐き出している。
  これは一体?
  私は回らない頭で必死に今の状況を確認しようとする。
  両腕が後ろ手に手錠で拘束され、コンクリートの冷たい床に寝かされてるようだ。
  やっぱり。
  あの男、ベルトリッチはただの事情聴取だと仕切りに言っていたけど、どう考えたって普通じゃない。
  この場所に近づくにつれ、それを悟った私が暴れるのも当然だろう。
  体の自由が効かない。
  動かせるのは、目だけだった。
  ダメ、さっきからチカチカ視界で表示されるエラーメッセージが邪魔だ。
  私は左目だけを数秒閉じて、役に立たない状態のナノマシンを黙らせた。
  ナノマシンをスリープ状態にするためのアクションだ。

〇ボロい倉庫の中
  視界に投影されていたエラーメッセージが消え、目の前が少しだけクリアになる。
  少し離れた場所から、二人の男の声が聞こえる。
  私はそのまま気を失っているフリをする事を決め、その会話に耳を傾けた。
  今の私に出来ることは、飛び込んでくる情報をただ収集する事だけだ。
???「・・・ベルトリッチ。ご苦労だったな」
ベルトリッチ・トートマン「いえ。このくらいは。しかし、些か強引過ぎたのでは?」
???「構わん。目的は達成できた。計画に狂いはない」
ベルトリッチ・トートマン「・・・これから一体、どのようになるのです?」
???「・・・なるようになる」
  目的を達成した?
  一体、何が目的だったのだろう?
  私を、ここに連れて来ること?
ベルトリッチ・トートマン「では、長官。我々はこれで失礼いたします」
???「あぁ。ハザウェイには俺が直々に話を通しておく。お前はよくやっている。次の七貴人に選出される可能性も十分あるだろう」
  長官。ハザウェイ。
  
  次々に重要なワードが飛び出してくる。
  ハザウェイというのは、軍務総省長官であり、七貴人のトップ。
  私たちSHADEのオーナーでもあるハザウェイ・ラングフォードの事で間違い無いだろう。
  では、ベルトリッチが今話している男は?
  あの陰険メガネは長官と呼んでいたけど、一体どの機関の長官なのだろう?
  やっぱりだめだ。
  頭が回らない。
  コツコツと足音が私の方へ近づいてくる。
  目だけを動かして、その足音のする方に視線を動かす。
  霞む視界のその先には、私をここまで連れてきたベルトリッチと、もう一人。
  どこかで見たことのある、純白のスーツに身を包んだ長い金髪の男がいた。
  一体どこで?
  ぼやける頭を必死に回転させ、私は思い出した。

〇研究施設の玄関前
  そう。
  委員会庁舎での事件の時だ。
  爆弾の解体を終え、私たちが地下から一階のロビーに上がったエレベーターの脇にあるベンチに座っていた男。
白いスーツの男「生還おめでとう。・・・なかなか面白いものを見せてもらった」
  あの時に掛けられた意味深な言葉が脳裏を過ぎる。

〇ボロい倉庫の中
  やがて、ベルトリッチが去ると、残された金髪の男は更にゆっくりと私に近づいてきた。
  私は意識が戻り始めているのを悟られないよう、ゆっくり目を閉じて、浅く呼吸をする。
白いスーツの男「それにしても、よく効くな。この薬は」
  金髪の男の言葉に反応したのか、少し離れた場所にいたらしい何者かがこちらに歩み寄ってくる。
  恐らく先程から聞こえている話し声から、そのほかにも数人の人物が此処にはいるのだろう。
  意識が朦朧としている上、首が動かせないから視界の届かないところに立たれるとわからない。
???「・・・実証実験も成功し、同時に計画も順調に推移しているという訳か。やはりあんたは抜かりない」
白いスーツの男「あぁ。『西側』が開発した対ナノマシン用薬物兵器『V-75』」
白いスーツの男「試作段階ではあったが、ナノマシンを持つものに対し強力な抑制剤として作用する。見ての通り成功だ」
  何者かの問いかけに答える金髪の男の声。
  間違いない。
  
  あの時聞いた声だ。
  そして、やっぱり私に注射されたのは薬物だった。
  それにこの男、今ハッキリと『西側』と言った?
  まさか・・・少なくとも長官と呼ばれ、ハザウェイ長官とも繋がっている帝国政府幹部であろう人間が、
  冷戦中の西側からそんなモノを持ち込んでいるなんて・・・。
???「V-75。実験データでは強い副作用が出る可能性が有ると報告があったが・・・」
白いスーツの男「・・・そうだな。彼女にはなかなか厳しい戦いになるかもしれない」
  副作用・・・。
  
  ちょっと怖い。
  どうなっちゃうんだろう、私は。
白いスーツの男「・・・現在、A1、B1両名がアシュレイでの作戦を開始した。そちらでも成果が期待できるだろう」
???「了解した。我々は、何かあった時の為、直ぐに動けるよう準備をしておこう」
  その会話を最後に、二人は再び奥の方の部屋へと去っていった様だ。

〇綺麗な港町
  アシュレイ?
  アシュレイって確か、今ラクアが行っている新しい基地の近く?
  一体、そこで何が起こるのだろう?

〇ボロい倉庫の中
  様々な不安が侵食するように私を飲み込んでいく。
  相変わらず体は動かない。
  そして、再び私の意識は闇に微睡もうとしていた。
  ・・・お願い。
  誰か助けて・・・。
  ・・・レン・・・・・・ロック・・・。

〇黒
  ★2
  アシュレイ郊外新基地 三階管制室
  PM 13:56

〇高層ビルのエントランス
  激しい銃声が辺りで鳴り響き始めている。

〇基地の広場
  しかし、この広い荒野ではこの基地の周辺以外どこにも聞こえていないだろう。
  敵さんも良いところを狙ってきたな。
  俺たち以上に情報収集が上手いらしい。

〇高層ビルのエントランス
ラクア・トライハーン「少佐。ここから見える範囲だけでも、ざっと四十人以上居る」
ラクア・トライハーン「上がってきてる奴らは一階を固めてるルノア達と既にドンパチ始めてるぜ」
  俺はライフルから取り外したスコープで、管制室の窓から外の様子を伺い、少佐に状況を伝えた。
  少佐は窓から離れた位置で、ライフルを担ぎながら腕を組んでいる。
  この管制室はほぼ360度が窓になっており、基地の全貌をくまなく見渡せる。
  状況を把握するにはうってつけだった。
  しかし、逆を言えば彼方さんからも丸見えってこと。
  無線、レーダー、その他の索敵機器、F.A.S。
  全てがプロトン・ディスターバーなる兵器によって無力化されている状況では、
  違うフロアに居るルノアやフリードリヒと連携を取ることも満足に叶わない。
ルカ・ブランク「ルノア達なら後退しながらでも敵の数をそれなりに減らしてくれるだろう」
ルカ・ブランク「問題は、彼らが交戦中に、違う出入り口から侵入され、裏を取られることだ」
ルカ・ブランク「基地は広い。この人数で全てを固める事は出来ないだろう」
  確かにそうだな。
  交戦して負ける様な奴らじゃねぇのは俺でもわかる。
  しかし、背後をとられたらさすがの奴らでも厳しいだろう。
  この広大な基地をカバーする為に与えられた武器も人数も少ないのだから。
ルカ・ブランク「・・・我々は二手に分かれ、上から敵の動きを確認しつつ、ルノア達の背後に回りそうな奴らを狙撃する」
ルカ・ブランク「視界を遮るものが何も無い。一度撃ったら位置を悟られるだろう」
ルカ・ブランク「1発1発、移動しながらだ。私は南西からの敵を。ラクア。お前は南東だ」
ルカ・ブランク「正面入口である北はルノア達が固めている。それで大まかにはカバーできるはずだ」
  少佐は淡々と作戦を展開すると、管制室を後にするべく歩き出した。
  やはり、迷いのない足取りだ。
  それに倣い、俺も続く。
  こんな事になるってわかってりゃ、自前のライフルを持ってきてたんだけどな。
  一応腰にはいつも携帯している拳銃があるが、こいつはあまり使いたくない。
  レオン、ましてやイルーザの様な芸当は俺にはできない。
ルカ・ブランク「それにしても、プロトン・ディスターバーとは厄介だな。ナノマシンもオフラインになっている」
  歩きながら、少佐がそう溢す。
  普段、俺たちは互いのナノマシンをリンクさせることにより、相互に健康状態や行動を知ることができている。
  体内無線もその恩恵だ。
  それが無くなるということは、目に見たものから全てを判断しなくてはならなくなる。と言うわけだ。
ラクア・トライハーン「プロトン・ディスターバーって一体何なんだ?そんなケッタイなもん聞いた事ねぇぞ」

〇水の中
ルカ・ブランク「帝国空軍が開発していたとされる電子妨害兵器だ」
ルカ・ブランク「太陽フレアによって起きるプロトン現象が原理になっているそうだが、詳しいことは私も知らん」
ルカ・ブランク「特殊な磁場を起こす電子片を対象地域に散布する事で、その地域のあらゆる通信を遮断」
ルカ・ブランク「電子機器も異常をきたす。完成していたとはな」

〇高層ビルのエントランス
  改めて厄介な代物だなそりゃ。
  それにしても、その口ぶりじゃまだ実戦に投入されたことのない兵器ってことだ。
  また、帝国の新兵器を使う敵が現れるとはねぇ。
  一体テロリスト共に兵器を横流ししてるのは誰なんだ?
  まぁ、俺からすりゃ張り合いがあって良いとは思うがな。
ルカ・ブランク「・・・恐らく、電子片を散布しているドローンと、それを操る操縦者が居るはずだ」
ルカ・ブランク「どちらかを倒せば通信妨害は止まるが、完全に止まるまでには時間差があるだろう。いずれにせよ、今は耐え凌がなくてはなるまい」

〇近未来施設の廊下
  少佐はそう言うと、通路の突き当たりで立ち止まり俺を振り返る。
ラクア・トライハーン「ドローンを見つけたら破壊、だな。了解だ」
  俺の返事に、彼女は小さく頷いた。
  管制室を降りた通路で俺たちは別々の方向に分かれ、作戦を開始する。
  敵は常に十人単位で行動しているだろう事から、狙撃ポイントの選定が難しい。
  多人数で行動しているということは、その分の目がこちらを見ているということだ。
  狙撃前にその内一人にでも位置を悟られる様なことがあれば、十数人から総攻撃を受けるだろう。
  そうなってしまうと身動きすら取れなくなっちまう。

〇屋上のヘリポート
  俺は、三階の南東にあるヘリポートに体勢を低くして出ると、壁の切り欠き部分から外を狙うことにした。
  狙撃用の小窓の様な場所だ。
  帝国の軍基地にはこういうギミックが結構ある。

〇荒地
  銃身を建屋の端から出さないように体勢を整え、狙う。
  迷彩柄のパーカーにブルーのジーンズ。
  その上に直接ハーネスを装備している。
  管制室から見た時にはあまり気にして無かったが、戦場に出るにしては随分とラフな格好だ。
  確認のために近くに居た別の兵士に照準を変える。
  半袖のポロシャツにキャップとジーンズ。
  装備は腰回りのみ。
  持っている銃も、皆バラバラときた。
  まるで近所の河原にサバイバルゲームにでも行くような服装だ。
  こいつら、もしかしてただの傭兵か?

〇綺麗な港町
  ここから目と鼻の先にあるアシュレイは、E.I.Aのトラブルリストに記載されている犯罪者を独自に狩る、
  傭兵や賞金稼ぎ共が集まる街だ。
  それに、最近はその活動が活発化してきているとの噂もあった。
  言わばその動きを牽制する為に、この新基地は建てられた訳だからな。

〇荒地
  そんなことを考えつつ、俺はこちらに近づきつつあったパーカー野郎を迷わず狙撃した。
  俺の放った弾丸は男の肩を貫き、奴は地面に倒れてその痛みに動きを止める。
  すぐ様、狙撃に気づいた奴がこちらに牽制射をしてくるのを、体を引っ込めてかわす。
  身を低くしたまま場所を変え、再びスコープを覗き込む。
  先ほど撃った男はまだ地面をのたうち回っている。
  しかし、その男を誰かが助けに来る様子はない。
  やはり、こいつらは金で雇われただけの傭兵だ。
  仲間意識で統率された様な戦い方じゃない。
  そう確信し、続けて俺はこちらに向かって無作為に銃を乱射している男の腹の辺りを撃ってやった。
  男が倒れ、乱射が止む。
  それを側で見ていた連中は、岩陰に隠れて動かなくなった。
  自分たちがスナイパーの狩場にいる事、そして、そのスナイパーの姿が捕捉出来ていないとなると、
  彼らは無闇に顔を出すことすらできない。
  こうなれば、大いに時間が稼げるだろう。
  俺は今のうちに再び場所を変える事にして、体制を低く保ったまま立ち上がった。

〇屋上のヘリポート
  数は多いし、プロトンなんちゃらとかいう訳のわからんものを持っているようだが、所詮は傭兵。
  俺たちからしたら素人だ。
ラクア・トライハーン「いけるな」
  そう確信しながらも、この状況に言い知れぬ不安も感じていた。
  俺たちは、一体何と戦っているというんだ?

〇黒
  ★3
  帝都アルトリア東区
  PM 13:53

〇ビルの裏通り
  人の比較的少ない昼下がりの路地裏。
  バイクを走らせながら俺はナノマシンによる体内無線を開き、仲間に向けて飛ばした。

〇数字
ロック・セブンス「ロックだ。今、奴らの乗っていた車両を追って東区まで来たんだが、」
ロック・セブンス「極端に人通りの少ない道を使うから、もっと距離を取らないと尾行がバレちまいそうだ」
  何かいい案は無いかと呼び掛けた無線に、すぐ返事が返ってくる。
バロン・サイレス「バロンです。隊長に言われた衛星からの追跡情報と、ロックくんが実際に尾行したルートを読み込み、」
バロン・サイレス「彼らがどこに向かっているのかを大体予測してみました」
  バロンの言葉と共に俺のナノマシンに向けて、複数の位置情報が送られて来た。
  どれもここから近い様だ。
バロン・サイレス「彼らの向かっている先にあるのは工業地帯です。明かに取り調べや留置を行う為の移送ではありませんよ、これは」
ロック・セブンス「となると、可能性があるのは?」
  位置情報に指定されている場所をナノマシンを通して脳内で確認しながらバロンに問いかけた。
バロン・サイレス「恐らく廃ビルや廃工場。彼らが何を企んでいるのかはわかりませんが、何をするにしても人目につくような場所は避けるはずです」
バロン・サイレス「今なら彼らとは距離が離れています。このままお互いに目視できる距離を避けながら追尾を続けてください。道案内は僕がします」

〇ビルの裏通り
ロック・セブンス「わかった。よろしく頼むぜ。バロン」
  俺はバイクのギアを変えながら、無線を切った。
  バロンが俺のナノマシンに送ってくるルート情報を元に、ベルトリッチ達の乗る車両と一定の距離を保ったまま走る。
  いつもなら至福に感じるドライブの時間も、今は焦る心がそう感じなくさせている。
ロック・セブンス「・・・あいつらの目的は一体何なんだ?」
  無意識に口から言葉となって溢れ出る疑問。
  それに反応するかの様に再び無線が繋がる。
レオン・ジーク「分からん。だが、ベルトリッチのやり方は一種の妨害工作とも考えられる」
レオン・ジーク「敵は我々が動いていると都合の悪い人間なのかもしれない」
  俺の疑問をレオンがそう推測する。
  彼の考えを聞きながら、俺はバロンの送ってくる情報通りに狭い交差点を左に曲がった。

〇開けた交差点
  東区はオフィスビルや工場の多い地区で、中央区ほどでは無いがこの時間だと場所によってはそれなりに人通りが多い。
  敵の辿っているルートから察するに、やはり、人通りの少ない道を計画的に進んでいる様だ。
  走る車や人に気を配りつつ、俺は考えた。

〇黒
  鉤爪の刺青(クロウ)、

〇タワーマンション
  委員会、

〇大きい研究施設
  E.I.A、

〇屋上のヘリポート
  鳥人間、

〇黒
  そして内部監査室。

〇黒
  全てを一旦捨て、シンプルに考えろ。
  俺たちが動くと都合の悪い人間は誰だ?

〇開けた交差点
ロック・セブンス「クソ。今は焦っちまってて考えてもわからねぇ・・・」
  まっすぐで人通りの少ない道に出ると、俺はバイクのスロットルを強く捻る。
  車体がどんどん加速していき、俺の体を打つ風が強くなった。
バロン・サイレス「ロック君!彼らが車両を停止させました。場所は、ポイントC。ルートCを使って向かってください」
  バロンからの入電。
ロック・セブンス「わかった!」
  よし。
  ここから一番近い場所だ。
  さすがバロン。
  この広い工業地帯には廃工場や廃ビルなんて五万とある。
  その中からこの短時間で僅か四つに絞り込み、そのうち一つがビンゴとは。
  衛星からのデータを受信していれば、いずれはたどり着くのだろうが、悠長には待ってられない。
  自分たちの技術を駆使し、戦う。
  これこそが攻勢に出るって事だ。
レオン・ジーク「ロック。気を付けろ。私も向かう。一人で無理はするな」
  レオンの言葉に、俺は少々驚いた。
  あのレオンが自ら出てくるとは。
ロック・セブンス「へえ。珍しいこともあるんだな」
レオン・ジーク「からかうな。お前の大切なバディを泣かせてしまったからな。それに、エリーナの居ないお前は何をするか分からん」
  その言葉に、俺は胸が熱くなった。
  一瞬疑っちまったが、やっぱりレオンはちゃんと俺たちの隊長だ。
  先輩の誤解も解いてやらねぇとな。

〇ビルの裏
  そう考えながら、ベルトリッチ等が潜伏しているとされる廃工場の近くまでたどり着くと、
  俺は路地の隅に隠す様にバイクを停め、銃を抜いて徒歩で奥に進んでいく。
  今日はオフィスで仕事の予定だった。
  急遽飛び出してきたから私服な上、ロクな装備も身につけていない。
  幸い銃は普段から携帯しているが、このハンドガン一丁だけでは少々心許ない。
  俺は身を低くしながら、目的の廃工場を目指して路地を進む。
  なるほど。
  廃工場が立ち並ぶこの区画。
  特に奥まった場所にある此処であれば、まず人目につくことは無いだろう。
  昼間でも薄暗く、ジメジメとした通路。
  そんな道の端。
  何かが光に反射するのが見え、俺はそこに歩み寄った。
ロック・セブンス「これは・・・」
  屈んで拾い上げると、それは光るアクセサリーがついた黒いリボンだった。
ロック・セブンス「・・・先輩の・・・」
  どうやら先輩はここで誰かと争ったようだ。
ロック・セブンス「・・・クソ・・・無事でいてくれ」
  俺は拾い上げた髪留めを握りしめると、それを上着のポケットに入れた。
  改めて銃を構えたまま先に進んでいく。
  そのままその路地を抜けると、メインであると思われる建屋がひっそりと姿を現した。

〇ボロい倉庫
  建屋の脇には、俺が追跡していた黒塗りのセダンが停まっている。
  ベルトリッチ達が乗っていた車だ。
  俺は周辺の人影を警戒しつつ、正面のシャッター横にある錆びた扉まで近づき、そのノブに手をかけた。
  扉をゆっくり少しづつ開き、その隙間から内部の様子を伺う。

〇ボロい倉庫の中
  扉の周りに何かが高く積み上げられているようで、あまり中の様子を確認することができない様だ。
  俺は音を立てないよう慎重に扉を開くと、その隙間に体を滑り込ませた。
  近くに積み上げられた物資運搬用パレットの影に素早く身を潜め、そこから更に工場の奥の方を覗く。
  コンクリート打ちの床。
  その丁度中央辺りに、手足を拘束され床に寝かされた状態の先輩がいた。
  見る限り外傷はなく、何かで眠らされている様子だった。
  そして、その先輩を取り囲むかのように、二人のスーツ男と一人の兵士が立っている。
  スーツ姿の男二人は、先ほどベルトリッチと一緒にオフィスに来た護衛の連中か。
  そして、その奥の部屋。
  そこには更に数人の人物が詰めている様だった。
  先輩のナノマシンはオフラインになっているようで、体内通信でこちらが呼び掛けようにも、入電できない状況のようだ。
  通りで今まで反応が無かったわけだ。
  待っててくれ。今助ける。
  床で横になる先輩を見つめながら、せめてもの思いで俺は心の中で先輩に語りかけた。
  そうして様子を伺っていると、奥の部屋から二人の男が話しながら出てくる。
  一人は内部監査室のベルトリッチ。
  もう一人は、俺と先輩が庁舎のエレベーター前で出会ったあの金髪の男だった。
  以前と同じようにシワひとつない純白のスーツを見に纏っている。
  あいつ、一体何者なんだ・・・?
ベルトリッチ・トートマン「では、長官。我々はこれで失礼致します」
  ベルトリッチが白スーツの男にそう言って頭を下げる。
白いスーツの男「あぁ。ハザウェイには俺が直々に話を通しておく。お前はよくやっている。次の七貴人に選出される可能性も十分あるだろう」
  なるほど・・・。
  奴らの会話からなんとなくだが、彼らの関係性が見えてくる。
  恐らくベルトリッチはただの咬ませ犬だ。
  大方、あの白スーツの男に出世を餌に利用されたのだろう。
  となると、あの男は七貴人の一人なのか?

〇近未来の会議室
  神とも揶揄されるこの国の皇帝の次に権力を持ち、実質この国を動かしているとされる僅か七人のフィクサー達。

〇ボロい倉庫の中
  俺たち軍務総省所属部隊のSHADEですら、その全貌は見えていない。
  俺が知っているのは、軍務総省のトップであるハザウェイ・ラングフォード。
  しかし、会ったことは愚か知っているのはその名前だけで、顔も知らなければ話したことすらない。
  ちゃんとその顔まで把握しているのは、Area51の管理者でありアイヴィーの父親でもあるダグラス・アレクサンドラと、
  皇家と七貴人のホットラインと言われている、ロベルト・クレシェンティア。
  ロベルトは皇家代行者なので、民間人の間でも広く知られている。
  とは言っても、七貴人と言う機関名は伏せられ、滅多に表に姿を表さないが。
  そう考えると、民間人は自分たちの国を実際に動かしているのが誰なのかすらはっきり知らされていないことになる。
  軍務総省に席を置く俺ですら、彼らに関する知識などそれぐらいなのだから。
  あの白スーツの男は先程、長官と呼ばれていた。
  話ぶりからすると、奴自身がハザウェイである可能性は低い。
  自分達の組織のトップの顔を知らないなんて、映画や漫画のような世界観だ。
  おかしな話ではあるが、だとしたら一体何者なんだ?
  それにしても、改めて奴の顔をよく見ると若い。
  見た目だけで推測するなら、レオンと同じくらいか少し上ぐらい?
  帝国の最高権力機関に、あんな若者が居るものだろうか?
  そんな事を考えながら、ベルトリッチが近くの出入り口から外に出ていくのを俺は見つめていた。
  その間も、白スーツの男は自分の部下らしき兵士と何か会話を交わしている。
  聞こえた単語は、アシュレイ、薬物、ナノマシン。
  クソ。
  さっきより距離が遠くなってしまい、会話がちゃんと聞こえない。
  ナノマシンを使って、聴覚を研ぎ澄ましているというのに。
  ベルトリッチとその部下二人が出て行ったので、ここから見える限りは白スーツの男と、彼と話をしている見慣れない装備の男。
  しかし、奥の部屋にはまだ何人かいる様な様子だ。
  どうする?
  隙をつけば、俺なら先輩を回収して逃げる事ぐらいなら出来るかもしれない。
白いスーツの男「そろそろ状況が動き出す。移動の準備をしておけ」
  白スーツの男の声が俺の耳に飛び込んでくる。
  まずい。
  また移動する気か?
  そうなったら、今度こそ手の届かない場所に先輩がうつされてしまうかもしれない。
  させるか!
  覚悟を決め、俺は銃を構えたまま、コンテナの外に飛び出した。
ロック・セブンス「動くな!」
  声を張り上げ、銃を白スーツではなく見慣れない装備を身につけた兵士の方に向ける。
  無論銃を構えさせないためだ。
白いスーツの男「・・・ほう。ベルトリッチめ。抜かったか」
  金髪の男はそう溢し、満足そうに俺を珍しい金色の瞳で見据えている。
  奥の方で待機していた他の兵士達が、俺の声に反応して飛び出してくる。
  彼らは俺に向け銃を構えようとするが、金髪の男が何故かそれを手で制した。
  まるでこの状況を楽しんでいるようだ。
  しかし俺は、そんな奴の挑発がましい表情は気にせずに、床に倒れている先輩を見た。
ロック・セブンス「お前等、先輩に一体何をした?!」
白いスーツの男「薬で眠ってもらっただけだ。この女が凶暴なのはお前も知っているだろう?」
  涼しい顔で、金髪の男は俺にそう言った。
ロック・セブンス「お前が、一連の事件の黒幕か?」
白いスーツの男「・・・」
  俺は確信に迫る質問を投げかけたが、男の表情は何も変わらない。
  思考が読めない。
白いスーツの男「一体なんの話だ?軍務総省の兵士は教育がなっていないようだな」
  余裕の表情で、彼は俺に微笑みかけた。
ロック・セブンス「・・・てめぇ。シラを切るつもりか?もうすぐうちの隊長が来る。俺一人でも余裕だが、そうなったらもう終わりだぜ。一切合切な」
  そう出来る自信はあった。
  しかし、俺の吐き捨てた言葉に男は呆れたように肩を竦めて見せる。
白いスーツの男「お前は短絡的だな」
  男はそう言うと、まるで野心がそこから滲み出てくるかの様な凶悪な視線を俺に向ける。
  殺気や狂気ではない。
  そこから感じられたのは、溢れるばかりの自信と、勝者のオーラだ。
白いスーツの男「ギャンブルは好きか?小僧。俺は今まで一度たりとも負けたことがない」
白いスーツの男「それは、負けると分かっている勝負にベッドしないからだ。その意味がわかるか?」
  勝つことが確実に分かっているからこそ、この男は動いている。
  そして、勝敗が確率の世界に存在しているギャンブルにおいて、勝ち負けがわかると言うことは、
  誰よりも勝負を見通す目があると言うことでもある。
  そういうことなのだろうか?
  男は、その長い金髪を揺らしながら、隣の兵士を見た。
白いスーツの男「・・・長居は無用だ。少し遠回りにはなるが、この場を片付けたらアシュレイでA1と合流しろ」
  そう言い残し立ち去ろうとする男に俺は追いすがりながら銃を向けた。
  深追いはやめるべきか?しかし、此処で逃すわけには・・・。
ロック・セブンス「待て!」
  目的は先輩を助けることであり、奴を捕まえることではない。
  そう逡巡しながらも俺は、奴の足のあたりに銃の照準を合わせていた。
ロック・セブンス「逃すか!!」
  そう叫び、引き金を引こうとしたその瞬間、男の隣にいた兵士が目にも止まらぬ速さで銃を抜き、
  俺に目掛けて躊躇いなく引き金を引いてきた。
  俺が照準をそらす、この瞬間を待っていたのか?
  俺は入ってきた場所付近にあるパレットの裏に素早くその身を隠しその銃撃をかわすと、兵士達の様子を伺った。
  最初の発砲が合図となり、金髪の男に止められていた他の兵士達も、俺に向けて一斉に発砲を始める。
  こんなに寄ってたかって弾幕を張られていては身動きが取れない。
  そうこうしているうちに、既に金髪の男の姿はその場から消えていた。
ロック・セブンス「クソっ!」
  俺の情けない吠え声に、兵士らしき男は声を上げて笑っている。
???「手も足も出ないようだな。女を連れていけ」
  まずい。
  身を隠している間に先輩を連れて行かれては元も子もない。
  俺は、コンテナの影から飛び出すと、先輩に近づいていく奴めがけて銃を放った。
  弾はその兵士に命中するが、急所をちゃんと狙えていない分致命傷には至らない。
  俺は飛び出した勢いで床に転がり、その先にあった柱の影に身を潜める。
  これでは拮抗状態だ。
  常に弾幕を張られていては先輩を助けるどころか、ここから動くことすら出来ない。
  レオンが来るまで、持ち堪えられるのか?
  奴らは、スペースを利用して広く展開しながらこちらに弾丸の嵐を浴びせてくる。
  どうする?
  ハンドガンでは出来ることも限られている。
  ここからさらに奥に見える柱。
  あそこまで撃ちながら走れば、何人か数を減らせるだろうか?
  いろいろ考えてはみるが、どれも現実的ではない気がする。
  俺は、コンテナの脇から手だけを出し、闇雲に敵のいるだろう方向へ銃撃を加える。
  単なる弾の無駄だ。
  
  これじゃあ拉致が明かない。
  ちゃんと狙わないと、いくらナノマシンによる照準アシストがあっても確実には当たらない。
ロック・セブンス「クソ!」
  気合をいれる意味で叫びながら、一か八かコンテナの影から飛び出したたその時だった。
  薄暗い廃工場内に一筋の光を降らせていた天井の天窓を突き破り、そのガラスと共に何かが床に落ちてくる。
ロック・セブンス「なんだ!?」
  そこにいた誰もが、上から下へと視線を落とす。
  突き破られた天窓から射す太陽光が、突然降ってきた『それ』を神々しく照らしている。
  全身を鋼の装甲で覆われた人物がそこには立っていた。
  顔全体を覆い尽くす鉄のマスク。
???「まさか、監視者か!?」
  突然現れた鉄仮面の人物を挟んで、俺と対峙していた兵士達が叫ぶ。
  監視者?
  突然の状況に惚けている俺を置き去りにして先ほどまで俺に銃を向けていた兵士達は驚愕した様子でたじろいでいた。
???「クッ!まずい!『S.W』だ!・・・撤退するぞ!」
  その声が合図になり、俺を包囲していた兵士達が一目散に近くの出入り口から退散し始める。
  何がどうなっているんだ?
  仮面の男は、去っていく奴らに目もくれず、着地した体勢からゆっくり立ち上がると、まっすぐ俺の方に顔を向けた。
  その瞬間、俺の全身に得体の知れない、何処か懐かしい様な感覚が走る。
  ・・・なんだ?
  
  ・・・この寒気のするような感覚は?
ロック・セブンス「・・・お前は・・・『何』だ?」
  俺は目の前に突如現れた仮面の人物に銃を向けながら、自然とそう問いかけていた。
  誰だ?ではなく、何だ?と。
  それぐらいに俺の感覚器が目の前の人物のヤバさを告げている。
  まるで警報を鳴らすかの様に。
  こいつには、勝てない。
  
  それが体でわかる。
Code name:『S.W』「・・・久しぶりだね」
  仮面を通してくぐもった声が、俺の敏感になった耳に聞こえてくる。
  久しぶり?
  
  俺の事を知っている人物なのか?
  あのフロレイシアや白いスーツの男同様、自分の知らない人間が自分の事をよく知っていると言う不快感。
  最近こんなのばっかりだ。
Code name:『S.W』「・・・少しだけ時間がある。遊んでやろう」
  その言葉とほぼ同時だった。
  奴は目にも留まらぬ速さで俺の間合いに入り、低い体制から勝ち上げるように俺の腹に強烈な拳を叩き込んできた。
ロック・セブンス「グッ!」
  突然の攻撃に、胃の中のものが込み上げてくる。
  全くと言っていい程攻撃してくるような気配を感じなかった。
  それどころか、動き出す様な気配さえ。
  俺は倒れるギリギリのところで後ろに飛び退き、手にした銃を男に向かって放つ。
  当たった。
  そう思った。
  しかし、仮面の人物は最小限の動きでそれをかわしたのだ。
ロック・セブンス「?!馬鹿な!」
  驚いている余裕など、俺にはなかった。
  男は、纏った戦闘服の至る所に納められた細いナイフを、抜くと同時に俺に向かって投げつける。
  飛んでくる。と思った時にはもう遅かった。
  ナイフが俺の銃を持つ方の腕に深く突き刺さる。
  激痛と熱が右腕を駆け巡る。
  その痛みに俺は手にしていた銃を落とし、その腕を反対の手で抑える。
  腕を流れ出る血が、廃工場の床に滴り落ちる。
  強い。
  俺が今まで出会ったどんなやつよりも、こいつは強い。
  まるで隙がないのだ。
  
  コイツ、本当に人間なのか?
Code name:『S.W』「・・・普通の戦闘であれば、此処までで三回は死んでいるな。どうした、もう終わりか?」
  その抑揚のない喋りにあまりにも似つかわしく、仮面の顔はずっとこちらを睨みつけている。
ロック・セブンス「舐めんなァァァッ!」
  俺は叫ぶと同時に、奴めがけて走り出した。
  両腕を構え、その仮面目掛けて拳を送り込む。
  銃がダメなら白兵戦だ。
  ナイフさえ抜かせなければッ!
  しかし、その全てが当たるか当たらないかというギリギリのところでかわされてしまう。
  まるでこちらの心が読まれているかのように。
Code name:『S.W』「・・・気づいたのなら上出来だ」
  男はそう言うと、俺が叩き込んだ拳を横に避けつつ手のひらでキャッチし、そのまま捻りながら俺の足を払った。
ロック・セブンス「うおぁっ!」
  バランスを崩し、床に崩れる。
  とっさに床に手を付くが、先程のナイフが刺さったままなので、その衝撃でまた腕に痛みが走る。
  ゆっくり歩み寄ってくる仮面の男。
  俺は無様に尻餅をついた状態で、その仮面を睨みつけた。
ロック・セブンス「・・・気づいただと?俺は・・・何も・・・」
Code name:『S.W』「・・・心を読まれている。そう思わなかったか?」
  俺の言葉にかぶせるようにして、仮面の男は今さっき俺が思った事を言葉として現実にした。
  馬鹿な・・・そんなことが・・・。
Code name:『S.W』「あるはずがない。そう思うのは無理もないだろう」
  まただ・・・。
  こいつ、本当に俺の心を読んでいるのか?
Code name:『S.W』「お前の疑問に答えよう。ロック」
  会った覚えのない男に名前を呼ばれ、ゾクリとする。
  俺は近づいてくる男の足を払おうと、自分の足を奴の足めがけて薙いだ。
  しかし、奴は俺の足が当たる直前で歩くのをやめたのだ。
  足払いが空を切る。
Code name:『S.W』「私には、お前が考えていることがわかる。手に取るようにな」
  馬鹿な。
ロック・セブンス「そんなわけ・・・」
  俺は素早く立ち上がり、とっさの判断で奴の腕を取って背負い投げを試みた。
  しかし、奴は逆に俺の腕を捻り上げ、俺は再び地面に転がされる。
  自分の勢いも相まって、俺は床に背中を強く打ち付けた。
ロック・セブンス「がぁっ!」
???「ロック!!」
  その叫びと共に、数発の銃声が空虚な廃工場内に響き渡った。
ロック・セブンス「レオン・・・」
  レオンが、間一髪のところで駆けつけてくれたらしい。
  迷い無くレオンがMade in Heavenの弾を仮面の男に放つ。
  しかし、男はレオンが引き金を引く直前にナイフを抜き、銃声が鳴ると同時にそれを投げた。
レオン・ジーク「馬鹿なっ!」
  あのレオンですら驚愕している。
  レオンが放った銃弾を、手で投げたナイフで弾いたと言うのか?
Code name:『S.W』「遊びは終わりだ・・・」
  仮面の男はそう言うと、腰のバックパックから取り出した小さな黒い玉のようなものを素早く床に打ち付けた。
  その瞬間、眩い閃光が廃工場内に迸り、俺は目を庇う。
  目眩しか。
  逃げられる。
  そう思い、光の残照が治った直後にゆっくり目を開くと、そこにはもうあの仮面の男の姿は無かった。
レオン・ジーク「奴は一体・・・?」
  レオンは自分の握る銃を見ながら呆然としていた。
  ナイフで弾を弾くような芸当をやってのけるような兵士が居るとは、到底受け入れがたい事実なのだろう。
  それに、あの仮面の男は俺のことを知っている様だった。
ロック・セブンス「・・・先輩っ!」
  俺は、自分の傷に目もくれず、部屋の中央で寝かされたままのエリーナ先輩の元へ駆け寄った。
ロック・セブンス「起きろ!先輩」
エリーナ・マクスウェル「・・・」
  その肩を強く揺さぶるが、彼女は目を開けない。
  浅く息はしているようだが、例の白スーツの男が言っていた薬物というものが何なのか気になる。
  俺は腕に走る痛みを堪えながら、先輩を担ぎ上げた。
レオン・ジーク「帰るぞロック。全てはそれからだ」

〇黒
  レオンに促され俺たちは廃工場を出ると、彼の乗ってきた軍用車で第三軍事基地へ帰投した。
  その間ずっと、俺の頭の中ではあの仮面の不気味な顔が、渦巻いていた。
  そして恐らく、あの純白のスーツの男が鉤爪の刺青(クロウ)を裏で操っている黒幕。
  仮面の男と金髪の男、彼らは対立している別の組織なのかもしれない。
  これだけの傷を負わされ、わかったことはそれだけだった。
  この負けは、万倍にして返してやる。
  俺は、俺の膝で横たわり未だに眠り続ける先輩の髪を撫で、その不安そうな寝顔を見ながら、そう決意するのだった。

〇黒
  To be continued ...

次のエピソード:Ep.8『Notice』

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