読切(脚本)
〇一人部屋(車いす無し)
矢井田 藍子「ふー。なんとか2章、書き終わったぁ・・・」
矢井田 藍子「はい」
海藤 拓也「どうも、海藤です」
矢井田 藍子「あ、ちょうど今、こちらから電話しよう かと思ってたんです」
海藤 拓也「ということは・・・進んだってことですか?」
矢井田 藍子「ええ。2章が終わりました」
海藤 拓也「よかったぁ!このペースならなんとか間に合いそうですね」
矢井田 藍子「頑張ります」
海藤 拓也「もし、行き詰ったらいつでも連絡くださいね。本当にいつでも大丈夫ですから」
矢井田 藍子「いえ、そんな、悪いですよ。週に一回、ミーティングの時間を取ってもらえるだけで十分ですから」
海藤 拓也「・・・ そうですか。また、先生とは朝まで話し合いしたいですよ」
矢井田 藍子「はは・・・ 。でも、こんな時期ですから」
海藤 拓也「そ、そうですよね・・・」
矢井田 藍子「それじゃ、この後、すぐにメールで送りますね」
海藤 拓也「わかりました。よろしくお願いします」
矢井田 藍子「それじゃ、失礼します」
海藤 拓也「あ、あの、矢井田さん!僕、あの話、諦めてませんから」
矢井田 藍子「ごめんなさい。今は執筆に集中したいんです・・・」
海藤 拓也「す、すいません。そうですよね」
矢井田 藍子「あの・・・私、海藤さんには感謝してますから」
海藤 拓也「・・・ 仕事ですから。あと、今回、デビューが決まったのは、矢井田さんの頑張りがあったからです」
海藤 拓也「僕は関係ありませんから、自信もってください」
矢井田 藍子「ありがとうございます」
海藤 拓也「では、原稿、待ってます」
矢井田 藍子「はい。すぐに送ります。それじゃ」
電話を切る藍子。
矢井田 藍子「・・・ そろそろ、限界かなぁ」
矢井田 藍子「ううん、ここで諦めちゃダメだよね。せっかく掴んだチャンスだもん。・・・私、頑張るからね、お姉ちゃん」
〇一人部屋(車いす無し)
矢井田 藍子「ダメだ、上手く繋がらない・・・。もう少し細かいメモ、残ってないかな?もう一回、フォルダ内を探して・・・」
矢井田 藍子「はい、矢井田です」
海藤 拓也「海藤です」
矢井田 藍子「すいません!あと、もう少し待っていただけませんか?もう少しで、いい案が浮かびそうなんです」
海藤 拓也「その件なのですが、トリックの部分の、康太が電車に乗るところを、車に変えませんか?そうすれば、4章の祥子の移動が・・・」
矢井田 藍子「ごめんなさい!最初に作ったプロットの内容で行きたいんです」
海藤 拓也「で、でも、それだと」
矢井田 藍子「お願いします!極力、変えたくないんです」
海藤 拓也「・・・ わかりました。でも、矢井田さん、変わりましたね」
海藤 拓也「前なら、僕の意見も聞いてくれて・・・ 二人三脚で作っていってる感じがしましたけど・・・」
矢井田 藍子「・・・ ・・・」
海藤 拓也「あの、矢井田さん・・・いや、響子さん、僕は」
矢井田 藍子「海藤さん!ごめんなさい。終わったら全部、話します・・・」
海藤 拓也「え?」
矢井田 藍子「だから、今は作品に集中させてもらえませんか?」
海藤 拓也「・・・ わかりました。でも、一人で抱え込まないでくださいね」
海藤 拓也「何か困ったことがあれば何でも相談してください」
矢井田 藍子「ありがとうございます」
電話を切る藍子。
矢井田 藍子「・・・ 海藤さん、良い人だね。お姉ちゃんが好きになるのもわかるよ。だからこそ、絶対に完成させるからね」
〇一人部屋(車いす無し)
矢井田 藍子「やったぁ!完成したぁ!さっそく、連絡しなくっちゃ」
海藤 拓也「はい、海藤です」
矢井田 藍子「完成しました!」
海藤 拓也「本当ですか!おめでとうございます」
〇本屋
矢井田 藍子(こうして、小説が完成し、発売された)
〇一人部屋(車いす無し)
海藤 拓也「矢井田さん、好評で、増版が決まりまし た!」
矢井田 藍子「本当ですか!」
海藤 拓也「それで、次回作の件ですが・・・」
矢井田 藍子「あの、海藤さん、お話があるんです」
海藤 拓也「はい・・・ 。なんですか?」
矢井田 藍子「私、藍子です」
海藤 拓也「・・・ え?」
矢井田 藍子「黙っていてごめんなさい」
海藤 拓也「どういう・・・ ことですか?」
矢井田 藍子「姉の響子は、3ヶ月前に事故で・・・」
海藤 拓也「そんな!」
矢井田 藍子「・・・ 海藤さんには話そうか迷ったんですけど・・・」
矢井田 藍子「どうしても、姉の小説を出したかったから・・・」
海藤 拓也「・・・ ・・・」
矢井田 藍子「デビューは姉の夢でしたから」
海藤 拓也「・・・ うう、響子さんは、ずっと嬉しそうに語ってました。いつか、絶対にデビューするんだって」
矢井田 藍子「姉の名前で、姉が作ったプロットで完成させたかったんです」
海藤 拓也「・・・ ・・・」
矢井田 藍子「人と会わないようにする、この時期なら、 姉の名前で小説を完成できるんじゃないか って。・・・姉と声も似てるし」
海藤 拓也「・・・ そうだったんですか」
矢井田 藍子「最後に、姉からの伝言です。もし、デビューできたら、海藤さんのプロポーズを受けます」
海藤 拓也「う、うう・・・」
矢井田 藍子「今まで、本当にありがとうございました。海藤さんのおかげで、完成させることができました。それじゃ、さよなら」
電話を切る藍子。
矢井田 藍子(こうして、私のテレワークと、芽生えた淡い恋は終わりを遂げたのだった)
終わり。
読み進むうちに段々と切なくなって来ました。だけどもっと辛かったのは姉と偽り続けた藍子さん。お姉さんの夢をかなえた後は自分の幸せ考えてくださいね。海道さんにも良いご縁が、ありますように
本当に切ないお話ですね。
事実は小説よりも奇なり、という言葉が思い浮かびましたが、実際に小説よりももっと大切な想いや物語があったと…。