30分だけの逢瀬(脚本)
〇田舎の公園
暗闇、静寂、孤独──
公園でブランコに揺られながら、
ふとそんな言葉が思い浮かんだ。
携帯端末に映し出された時計は
夜中の2時半を示している。
建物の灯りはすっかり消え、
街灯の少ない公園を照らすものは
月明かりだけだ。
今日は風も吹いておらず、
周りから聞こえる音は一切ない。
辺りには人や動物の気配もない。
草木も眠る丑三つ時とはよく言ったもので、今起きているのは自分だけなのではないかと錯覚してしまう。
三峰壮太「・・・あいつ、まだかな」
ここで会う約束をしていたのだが、
辺りを見渡してみても誰もいなさそうだった。
暇を持て余し、地面を強く蹴って、
大きく前に出ようとする。
???「ばあっ!!」
三峰壮太「うわっ!!」
突然、誰かに後ろから叫び声を上げられた。
驚きのあまり必要以上に力強く地面を蹴ってしまい、ブランコは思っていたよりも高く上がってしまう。
一番前に出たところで僕はブランコから飛び降り、膝を曲げて衝撃を抑え、着地したた。
三峰壮太「びっくりしたなあ! いきなり驚かさないでくれよ!」
???「いやあ、ごめんごめん あまりにもぼーっとしていたものだったから、つい」
???「それにしてもあんなに驚くなんて」
屈んだまま振り返るとそこには、俺と同じ高校生くらいの年の、まるで鏡映しかのように自分によく似た少年が立っていた。
彼はしてやったりという表情で、腹を抱えて笑っている。
三峰壮太「そりゃあ驚くだろ。 こんな遅い時間に、突然後ろから叫ばれるなんて不審者かもしくは・・・」
???「妖怪か幽霊くらい、だよね──」
驚かした張本人は、俺の前に回り込むと挑発的な笑みを浮かべながら、手を差し伸べてきた。
三峰壮太「そうだな・・・おまえしかいないよな・・・」
差し伸べられた手を取り、立ち上がる。
二人は示し合わせたように、再びブランコの場所まで戻ると、隣り合わせになってブランコに腰を下ろした。
〇田舎の公園
彼とは一週間前にこの公園で初めて出会った。
今日と同じ時間、なかなか寝付けなかった俺は、暇つぶしにあることをやろうとした。
有名な怪談話の一つに、丑三つ時に合わせ鏡で自分の姿を映してはいけないというものがある。
本来、合わせ鏡で自分の姿を映すと、未来の自分が浮かび上がると言われている。
しかし、丑三つ時に覗いてしまうと、鏡と異界が繋がってしまい、この世のものではない何かがやってきてしまうという。
俺はその話が本当なのか気になって、誰もいない公園で、一人で試してみた。
ブランコに腰かけて、合わせ鏡で自分の姿を映す。
そのまましばらく待ってみたが、特に何かが起こるわけでもなく、辺りは静かなままだった。
三峰壮太「・・・まあ、所詮は人が作った怪談話だよな。何も起こるわけないか」
そろそろ帰ろうかと、立ち上がり公園から去ろうとする。
???「こんばんは」
三峰壮太「・・・え?」
突然、背後から声をかけられる。
振り返ってみると、そこには見知らぬ・・・いや、自分と瓜二つの少年が立っていた。
それが俺と彼の最初の出会いだった。
〇田舎の公園
三峰壮太「それにしても、初めてお前を見たときはドッペルゲンガーなんじゃないかと思って驚いたよ」
鏡写しの三峰壮太「まあ本来、僕は姿を持たない存在だからね。今はこうして君の見た目を借りているだけで」
鏡写しの三峰壮太「でもこの姿、結構気に入っているよ」
三峰壮太「・・・そりゃどうも」
恥ずかしくなって、つい目を逸らしてしまった。
自分と同じ見た目の者から自分の容姿を褒められるというのは、なんとも複雑な気分にさせられる。
鏡写しの三峰壮太「でも僕も最初は驚いたよ! 呼ばれたから出てきてみれば、呼んだ理由は特にないなんて!」
三峰壮太「ただの噂話だと思っていたんだよ 俺だって本当に妖怪が出てくるなんて思っていなかった」
さらに、元の世界に帰らず、この公園に留まり続けるときた。たいへん困った話である。
三峰壮太「毎日こうしておしゃべりしてるだけでいいなんてのもおかしな話だしな」
鏡写しの三峰壮太「これでいいんだよ 誰かに恨みがある怨霊とか、この公園の守り神っていうわけでもない、なんの目的もない妖怪だからね」
鏡写しの三峰壮太「今はこうして君と話しているだけで楽しいのさ」
俺と話すのに飽きたらどうするつもりなのかと思ったが、それを聞くのはまだ先のことだろうと思い、言いとどまった。
〇田舎の公園
三峰壮太「・・・そろそろ時間か」
時間を確認すると、あと1分ほどで3時を回ろうとしていた。
ブランコから立ち上がり、自分と同じ姿の妖怪を見やる。
鏡写しの三峰壮太「そうだね それじゃあ、また明日、ここで」
三峰壮太「ああ、また明日」
お互いに手を上げて、別れの挨拶を済ませると、僕は公園を去った。
〇川に架かる橋
三峰壮太「・・・少し寒いな」
深夜は冷える。早く帰って暖かい布団に身を包んでもう一度寝よう。
夜中の2時半から3時。
丑三つ時、妖怪や魔物と出会う逢魔が時とも呼ばれる時間。
毎日、この30分の間だけ、鏡の向こう側からやってきた彼は姿を現すことができるという。
その時間、俺は彼と二人きりで、公園で、なんでもない会話をする。
彼のことは他の誰も知らない、俺だけが知っている、不思議だらけの友達だ。
傍から見たら恐ろしい光景ですが、当の2人(?)は自然体のまま!
妖怪に恐れをなして祓おうとすることもせず、妖怪側も危害を加えようともせず、この不思議な関係が織りなす世界観が癖になりそうですw
妖怪ってきくと怖いイメージがあるけれど、自分なんだったら怖くないかな。むしろ、何話そうとワクワクがわいてきました。不思議な友達、自分の分身?!真夜中の2時半でも会いたくなりますね。
ホラーですが、穏やかさを感じてなんだか癒やされます。このまま何もしないままなら、こういう幽霊?とお話するのも楽しそうだなと思いました。雑談の相手と時間によって、作品の雰囲気作りってこんなにうまくいくんですね。